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スクリーム・ノート III  作者: 藤沢凪
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百四十五頁    犬 弐拾   『絶望』

 百四十五頁

 

 犬 弐拾

 

『絶望』

 

 あぁ……明日、あたしの家族は崩壊してしまうのかもしれない……

 

 意気消沈したまま部屋に入り項垂れていると、猫宮が話しかけて来た。

 

「ねぇわんちゃん?」

 

「……なに?」

 

 流石に、憐れんでくれるのか?

 

「今日は猫がベッドで寝て良いの?」

 

 あッ⁉︎ そんな事が気になってやがったのか? こっちゃ恐怖で震えてるって時によォォッ⁉︎

 

「勝手にすれば⁉︎ 今そんなんどうだっていいわ」

 

「そんな言い方無いだろ⁉︎ 猫の事汚いとか言った癖に!」

 

 その事は覚えてんだなぁ? なのに、あのボヤ騒ぎの事、自分の責任にした事は覚えて無いんだぁ……アレッ? コイツ馬鹿だからその可能性を度外視してたけど、猫宮お前、本当は承知の上なんじゃないのか? んだよ? さっきもやたらあたしの事ハブってたし、そんなにあたしの事が嫌いか?

 

 二人共シャワーを軽く済ませた後、寝床に着いた。でも、眠れない。

 

 苛々すんだよ。お前マジで、許さねぇかんな? あたしと、あたしの大好きな家族を地獄に堕としたら、お前の家族ガチで皆殺しにしてやる。

 

 ……うぅ、痛い。あぁこれ勘違いじゃないわ……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いよ‼︎ パオン太……やめてよ……?

 

「またイチカに危害を加えようとするのか? なんていうか君は、本当に学習しないね?」

 

 脳に直接語り掛けて来やがる⁉︎

 

「だってアイツ⁉︎ あたしの家族に危害加えようとしてる……」

 

「そんな訳が無いだろ? イチカは優しい子だよ」

 

 心酔してやがる。

 

「糞がッ‼︎ お前さえ居なければ‼︎ あたしは、あたしは……」

 

「はっ? 何が出来たというの? 逆に僕は、君の異常な行動を制御してあげてると思うのだけど?」

 

「そんな訳あるかッ⁉︎ 制御してあげてた? よく言うわそんなセリフ……だって、終わりじゃん? あたしの家族は明日で終わりじゃん⁉︎」

 

 なんだよ。泣くなよあたし。コイツに泣き縋ったって、何もしてくれないじゃん。

 

「まっ、僕には君の家庭がどうなろうと知ったこっちゃ無いよ」

 

「お前があたしの妨害をしなければ、きっと今頃上手くいってた。危機を乗り越えられてた筈なんだ⁉︎ お前のせいで……お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前の……」

 

「はっ? 僕が君にこの力を使い始めたのはこの家に来てからだよ? 分かってる? 君の理論で言うのなら、猫宮家から君の家族へのアプローチは避けられなかった事だよ? どうせ真実は明るみになる運命だった。その時、君の家族が被害者、加害者、どちらの立場のつもりでいるかの違いしか無かったんだ。それで言うのなら、絶対後者の方が良いだろ? 心構えして、誠心誠意謝られる方が許される可能性も上がるってもんだよ。僕の言ってる事分かるかい?」

 

「……ちょっと何言ってるか分かんない」

 

「お前はサンドウィッチマンの富澤か?」

 

 何で知ってんの‼︎ このヌイグルミ、2007年のM1グランプリ見てたって事⁉︎ それともエンタの神様ヘビーリスナー⁉︎

 

「ねぇ? 助けてよ? あんたなら出来るでしょ? 明日総出で来る猫宮家の誰かに取り憑いて、話しを良い方に持っていけたりしないの?」

 

「君、性格糞過ぎないか? 自分のしでかした事だろ? 何故あんな優しいご両親からこんなモンスターが生まれたのか……」

 

 だからそれ流行ってんのかって⁉︎ 猫宮と同じ様な煽りかまして来んじゃねぇよ‼︎ まぁ、猫宮の部屋で育ったんだからそうなるのか。

 

「マジ、悠長な事言ってらんないの‼︎ 藁にも縋る程精神擦り減ってんだってあたし‼︎」

 

 情に訴えてみよう。

 

「君みたいな救いようの無い罪人が地獄に堕ちる物語、僕は好きだよ? あと、君の理論で言うと僕、藁扱いされてるんだけど? 斉木楠雄の災難で同じ手法のネタあったよ? パクって恥ずかしいとは思ったりしないのかな?」

 

 全然効かねぇ‼︎ ってかその元ネタ知らんし⁉︎ 勝手に自分で展開させて勝手にキレるじゃん⁉︎ なんなの? 逆に悪印象与えちゃったし……ってか? あたしがおかしいのかな? もしかしたら、あたしがずっとおかしな事言ってるのかな⁉︎

 

「……ごめん。今更あなたの力を借りようとしたあたしが間違ってた……」

 

「おっ、やっと考え方のベクトルが変わったかい?」

 

「うん。今までありがとう。パオン太のおかげで、やっとあたし改心出来たよ。これからは、猫宮の幸せの為に生きる。だから、もう心配なんてしなくて良いんだよ?」

 

 手も貸してくれねぇ怨霊なんて、祓っておくに越した事はない。もういいだろ? あたしから離れてくれ。

 

「そっか。じゃあ、そうしておくれ」

 

 ………………

 

 出てけよ? もう用無いだろ? あたしの中からさっさと出て行けよ⁉︎

 

「短い間だったけど、ありがとう。さよなら」

 

 どうせお前、宿主が改心したら離れてく系の悪霊なんだろ? ほら? 改心してやったぞ? 早く出て行けよ。ってか、こんなに心のこもって無いありがとう初めて。逆にこんなに心からのさよならを言える相手、きっとこの先現れないよ。

 

 マジ、難癖つけずに去ってね? 心の中がとか言われたら、あたしどうしようも無いからね? 本当にこれで……あたし、疲れたよ。

 

「……何言ってるの? 一度憑いたらもう、僕にも離れる手段分からないよ」

 

 へっ?

 

「い、いや……色んな人に憑いた方が、色んな世界が見えて楽しくない?」

 

 やめて? あたしの想像し得る中で、最悪の回答だけはやめて?

 

「あっ、これは天界で聞いてた事なんだけどさ、鞍替え出来ないみたいなんだよね。憑いたら一生なんだよ。僕は君に決めたから、これから死ぬまでよろしくね!」

 

 あたしの想像し得る中で最も最悪な回答なんだけど‼︎

 

「なにそれ? あたしが死ぬまであたしの中にお前が居んのかよ⁉︎」

 

「そうだよ。長い付き合いになるだろうから警告しておくけど、僕の事を二度とお前などと呼ぶなよ?」

 

「嫌ダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎」

 

 ナンダヨソレッ⁉︎ マジかよ⁉︎ あたし、死ぬまでコイツに……

 

「嫌なんだ? じゃあこれを、おあがりよ!」

 

 ヒィィィィィィッ‼︎ 脳がッ‼︎ 脳が……震える。

 

「ギイィィヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ‼︎」

 

「分かったかい? こうされたくなければ、今後僕の意見をちゃんと聞いてね?」

 

 悪魔か? いや悪霊だったわ。あたしは、これからコイツのご機嫌取りをしながら一生を終えるんだ……

 

「あぁ……」

 

 絶望だよ……未来が、暗い。

 

「えっ? 分かったの? 分かってないの?」

 

「分かりました。もう、分かりましたから……」

 

 あたしの人生は。悪霊に憑かれ、どう足掻いても幸せになるルートなど残されていない事を悟った。

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