百四十頁 象 伍 『肉うどん』
百四十頁
象 伍
『肉うどん』
なんだこの感覚は? ふわふわして、浮いている? 実際、身体が宙に浮かんでいる。
僕は一体何者だったというのか? 全く思い出せずに居た。
空高くこの身体、いや、魂と言った方が合点がいく。この魂は雲を突き抜け、遥か、遥か高く吸い込まれていく。
いや、ちょっと怖いんだけど⁉︎ 下見ると……ヒェェェェッ……高ぇぇ……自由に動く事も出来無いし、目を閉じて流れに身を任せよう……
暫くすると、ここは雲の上なのか? 足を着け歩く事が可能になった。近くに居た人に話し掛けてみた。
「あの……ここは?」
不思議な感覚がした。歩く事も、喋る事も何も特別じゃ無い筈なのに、それだけの事に、僕は感動していたんだ。
「あちらに振り分ける係の方が居るので、列にお並びになって次の転生先をご確認下さい」
次の、転生先? 僕は訳も分からず、その列に並んだ。一人一人に、次の転生先が振り分けられていく。
「あなたは、鹿です。あなたは、カモノハシです。あなたは、シャチです。あなたは、ちゃんこ鍋です。あなたは、ベルトです。あなたは、トナカイです。あなたは、イカです。あなたは、蟹です」
次は僕の番だ。何に転生するのだろう?
「お前は、肉うどんです‼︎」
「えっ? へっ? 肉うどん⁉︎ ……いや、別に良いんですけど、何で僕だけお前って言うんですか?」
あれっ? 何でこのやり取り、聞き覚えがあるんだろう。
「……あなたは、アナコンダです。あなたは、だんご虫です——」
全然話し聞いてくれない。まぁだんご虫よりいっか。次は、転生先で何をするのか聞きに行くみたいだ。……ってか、このシステム、なんかで見た事ある気がするんだけどなぁ。気のせいかな?
列に並び、前の人がどんな人生を辿るのかを盗み聞きした。
「あなたはイカです。天敵に襲われそうになったら墨を吐いて逃げて下さい。あなたは蟹です。その厳つい鋏で、天敵に立ち向かって下さい」
次は僕の番だ。
「あなたは、肉うどんです。大阪で——」
「パオン太ぁ……おやしゅみぃ……また、明日にぇ……」
あ、アレッ⁉︎ なんだこの声⁉︎ 聞き覚えが、ある……
「……イチカ⁉︎ イチカだ今の声は‼︎」
「あっ、記憶呼び戻った系の方ですか?」
転生先の詳細を伝える係の方に言われた。
「記憶が、鮮明に蘇りました」
「めちゃくちゃ稀にですけど、こういう事あるんですよね。あなたは、どうしますか? 記憶が呼び戻った方でも、そのまま決められた転生先に向かう者も居ますけど?」
「向かわない事も、出来るんですか?」
「言っても聞かない人に、強制する事は出来ませんから」
死後の世界って意外と緩いんだな? ってか、抗えるのであれば抗いたいよ! だって、イチカが心配だし。このまま転生しても肉うどんだし。
「僕は、抗います」
「それなら、十三番の窓口に行って下さい。詳細をお伝えしますんで」
「えっ? 詳細とか教えてくれるんですか?」
「はい。ここで揉められると面倒臭いんで。後がつかえてるので、話しはこの辺で」
「あっ、はい。すいません……」
列から抜けて、十三番の窓口へ向かった。ってか、十三ってなんか不吉な数字だな?
十三番の窓口には、並んでる者は一人も居なかった。何かに集中している係の人に、話し掛けた。
「あの……ここに来いって言われたんですけど……」
「んっ? えっ! あーごめんね?」
その人はブルートゥースイヤホンを耳から取り、僕に目を向けた。ってか、手にスマホみたいなの持ってる。動画見てたんだなこの人。
「あの……ここに行けって言われて……」
「あら本当? 本当に? 間違って無い? 十三番って言われた? 本当に?」
めっちゃ疑って来るじゃんこの人⁉︎
「十三番で間違い無いです!」
「へぇー……素直に転生されれば良いのにさ。何? 転生先に不満があった?」
「別に、そういうんじゃ……まぁ、転生先肉うどんでしたけど……」
「アハハ‼︎ 確かにそりゃ嫌だわ!」
「ちょっと、これ何なんですか⁉︎ あなた、一体誰なんですか⁉︎」
「あーごめんごめん。アタイの名前はフレア。現世に戻りたいんなら、アタイが教える注意事項をちゃんと頭に入れてから行きな」
「……なんか、さっきサボって動画観てませんでした? 信用して良いんですかあなた?」
「バレてた? アハハッ! なかなかこの窓口に来る奴居ないんだよ! 暇でさぁ。ってかさ、実はアンタ、こんな窓口通さなくても、元の世に戻れるんだよ。アタイは注意事項を教えとかないとってだけなんだ」
「話しを聞かなくても良いんだ? それなら、僕は少しでも早く、イチカの元へ行きたい」
「色々ルールがあるから、聞いといた方が良いと思うよ? イチカって、女の子かな? その子に未練があってアンタは現世に戻るの? 恋人か女房って感じ?」
「違う。イチカは僕のご主人様だ。彼女が二歳の時から、その側に居て、ヌイグルミの僕を大切にしてくれたんだ」
「あれっ? 君、元はヒトじゃ無いんだ? 珍しい。ってか初めてだよ! ヌイグルミが天寿を全うした後に、記憶が蘇った事は今まで無いよ? 君の、特殊能力がそうさせたのかな? 君に自覚は無いみたいだけど」
「特殊能力? そんなんじゃ無い。イチカの、声が聴こえたんだ。甘えて来る様な、猫撫で声だったよ。イチカの傍に、居てあげたいんだ。彼女を、守りたい……」
「ふーん。でもね? 君達は一歩間違えれば怨霊として世に留まる事になる。そうなってしまえば、アタイらは全力でアンタを滅しに掛かる」
「怨霊? えっ、僕、霊なの?」
「あっ、そうなのアハハッ! 肝心な事言うの忘れてたわ」
「忘れんなし……もう、生身ではイチカの前に立てないんだ? チュン太の前にも……」
「後悔する位なら、転生した方が良いんじゃん? まだ間に合うよ?」
「転生先肉うどんなんだよ⁉︎」
「良い方だよ! 遅くても半年以内にはまた転生ガチャ引けるよ? 実際、家畜が一番悲惨なんだって」
「どっちみち、転生したら記憶は完全に失ってしまうよね?」
「そうだね。そもそも、記憶が残ってるのが珍しいんだよ」
「僕は、イチカとの記憶を失いたく無い! ……もう、行くよ」
「だから待ちなって。色んなルール説明するからさ?」
「いらないよ! 少しでも早くイチカの元へ戻って、見守りたい」
「一定のラインを越えると、アンタお尋ね者になるよ? ライン越えした霊は、組織に消されてしまう。アンタ? 優しい気持ちで世に戻るんでしょ? それなら、注意事項は聞いておいた方が良いと思うよ? 少しでも長く、大切な人の傍に居たいのなら」
「それは……聞いて、おきたいかも……」
「ウフフッ、本当にその子、イチカちゃんが大事なんだね? 今すぐに戻らないと、不安で仕方ないんだね? 分かった! ざっくりとだけ説明するよ! 十分と掛からない。でさぁ? また分からない事があったら聞きに来なよ? どうせ、アタイの十三番窓口はいつも暇だからさ!」
「良いの……?」
「良いよ。話しも聞かない奴が多いんだから。まぁ、怨み持って世に降りる奴が多いって理由もあるんだけどね。アンタみたいなの珍しいよ! アタイアンタの事、ちょっとだけ気に入っちゃったのかも!」
それから、簡単な説明をフレアに受けた。
「わざわざ説明してくれてありがとう。行ってきます」
「あぁ、行っといで!」
フレアに見送ってもらい、僕は地上へ舞い戻った。




