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スクリーム・ノート III  作者: 藤沢凪
40/50

百四十頁    象 伍   『肉うどん』

 百四十頁

 

 象 伍

 

『肉うどん』

 

 なんだこの感覚は? ふわふわして、浮いている? 実際、身体が宙に浮かんでいる。

 

 僕は一体何者だったというのか? 全く思い出せずに居た。

 

 空高くこの身体、いや、魂と言った方が合点がいく。この魂は雲を突き抜け、遥か、遥か高く吸い込まれていく。

 

 いや、ちょっと怖いんだけど⁉︎ 下見ると……ヒェェェェッ……高ぇぇ……自由に動く事も出来無いし、目を閉じて流れに身を任せよう……

 

 暫くすると、ここは雲の上なのか? 足を着け歩く事が可能になった。近くに居た人に話し掛けてみた。

 

「あの……ここは?」

 

 不思議な感覚がした。歩く事も、喋る事も何も特別じゃ無い筈なのに、それだけの事に、僕は感動していたんだ。

 

「あちらに振り分ける係の方が居るので、列にお並びになって次の転生先をご確認下さい」

 

 次の、転生先? 僕は訳も分からず、その列に並んだ。一人一人に、次の転生先が振り分けられていく。

 

「あなたは、鹿です。あなたは、カモノハシです。あなたは、シャチです。あなたは、ちゃんこ鍋です。あなたは、ベルトです。あなたは、トナカイです。あなたは、イカです。あなたは、蟹です」

 

 次は僕の番だ。何に転生するのだろう?

 

「お前は、肉うどんです‼︎」

 

「えっ? へっ? 肉うどん⁉︎ ……いや、別に良いんですけど、何で僕だけお前って言うんですか?」

 

 あれっ? 何でこのやり取り、聞き覚えがあるんだろう。

 

「……あなたは、アナコンダです。あなたは、だんご虫です——」

 

 全然話し聞いてくれない。まぁだんご虫よりいっか。次は、転生先で何をするのか聞きに行くみたいだ。……ってか、このシステム、なんかで見た事ある気がするんだけどなぁ。気のせいかな?

 

 列に並び、前の人がどんな人生を辿るのかを盗み聞きした。

 

「あなたはイカです。天敵に襲われそうになったら墨を吐いて逃げて下さい。あなたは蟹です。その厳つい鋏で、天敵に立ち向かって下さい」

 

 次は僕の番だ。

 

「あなたは、肉うどんです。大阪で——」

 

「パオン太ぁ……おやしゅみぃ……また、明日にぇ……」

 

 あ、アレッ⁉︎ なんだこの声⁉︎ 聞き覚えが、ある……

 

「……イチカ⁉︎ イチカだ今の声は‼︎」

 

「あっ、記憶呼び戻った系の方ですか?」

 

 転生先の詳細を伝える係の方に言われた。

 

「記憶が、鮮明に蘇りました」

 

「めちゃくちゃ稀にですけど、こういう事あるんですよね。あなたは、どうしますか? 記憶が呼び戻った方でも、そのまま決められた転生先に向かう者も居ますけど?」

 

「向かわない事も、出来るんですか?」

 

「言っても聞かない人に、強制する事は出来ませんから」

 

 死後の世界って意外と緩いんだな? ってか、抗えるのであれば抗いたいよ! だって、イチカが心配だし。このまま転生しても肉うどんだし。

 

「僕は、抗います」

 

「それなら、十三番の窓口に行って下さい。詳細をお伝えしますんで」

 

「えっ? 詳細とか教えてくれるんですか?」

 

「はい。ここで揉められると面倒臭いんで。後がつかえてるので、話しはこの辺で」

 

「あっ、はい。すいません……」

 

 列から抜けて、十三番の窓口へ向かった。ってか、十三ってなんか不吉な数字だな?

 

 十三番の窓口には、並んでる者は一人も居なかった。何かに集中している係の人に、話し掛けた。

 

「あの……ここに来いって言われたんですけど……」

 

「んっ? えっ! あーごめんね?」

 

 その人はブルートゥースイヤホンを耳から取り、僕に目を向けた。ってか、手にスマホみたいなの持ってる。動画見てたんだなこの人。

 

「あの……ここに行けって言われて……」

 

「あら本当? 本当に? 間違って無い? 十三番って言われた? 本当に?」

 

 めっちゃ疑って来るじゃんこの人⁉︎

 

「十三番で間違い無いです!」

 

「へぇー……素直に転生されれば良いのにさ。何? 転生先に不満があった?」

 

「別に、そういうんじゃ……まぁ、転生先肉うどんでしたけど……」

 

「アハハ‼︎ 確かにそりゃ嫌だわ!」

 

「ちょっと、これ何なんですか⁉︎ あなた、一体誰なんですか⁉︎」

 

「あーごめんごめん。アタイの名前はフレア。現世に戻りたいんなら、アタイが教える注意事項をちゃんと頭に入れてから行きな」

 

「……なんか、さっきサボって動画観てませんでした? 信用して良いんですかあなた?」

 

「バレてた? アハハッ! なかなかこの窓口に来る奴居ないんだよ! 暇でさぁ。ってかさ、実はアンタ、こんな窓口通さなくても、元の世に戻れるんだよ。アタイは注意事項を教えとかないとってだけなんだ」

 

「話しを聞かなくても良いんだ? それなら、僕は少しでも早く、イチカの元へ行きたい」

 

「色々ルールがあるから、聞いといた方が良いと思うよ? イチカって、女の子かな? その子に未練があってアンタは現世に戻るの? 恋人か女房って感じ?」

 

「違う。イチカは僕のご主人様だ。彼女が二歳の時から、その側に居て、ヌイグルミの僕を大切にしてくれたんだ」

 

「あれっ? 君、元はヒトじゃ無いんだ? 珍しい。ってか初めてだよ! ヌイグルミが天寿を全うした後に、記憶が蘇った事は今まで無いよ? 君の、特殊能力がそうさせたのかな? 君に自覚は無いみたいだけど」

 

「特殊能力? そんなんじゃ無い。イチカの、声が聴こえたんだ。甘えて来る様な、猫撫で声だったよ。イチカの傍に、居てあげたいんだ。彼女を、守りたい……」

 

「ふーん。でもね? 君達は一歩間違えれば怨霊として世に留まる事になる。そうなってしまえば、アタイらは全力でアンタを滅しに掛かる」

 

「怨霊? えっ、僕、霊なの?」

 

「あっ、そうなのアハハッ! 肝心な事言うの忘れてたわ」

 

「忘れんなし……もう、生身ではイチカの前に立てないんだ? チュン太の前にも……」

 

「後悔する位なら、転生した方が良いんじゃん? まだ間に合うよ?」

 

「転生先肉うどんなんだよ⁉︎」

 

「良い方だよ! 遅くても半年以内にはまた転生ガチャ引けるよ? 実際、家畜が一番悲惨なんだって」

 

「どっちみち、転生したら記憶は完全に失ってしまうよね?」

 

「そうだね。そもそも、記憶が残ってるのが珍しいんだよ」

 

「僕は、イチカとの記憶を失いたく無い! ……もう、行くよ」

 

「だから待ちなって。色んなルール説明するからさ?」

 

「いらないよ! 少しでも早くイチカの元へ戻って、見守りたい」

 

「一定のラインを越えると、アンタお尋ね者になるよ? ライン越えした霊は、組織に消されてしまう。アンタ? 優しい気持ちで世に戻るんでしょ? それなら、注意事項は聞いておいた方が良いと思うよ? 少しでも長く、大切な人の傍に居たいのなら」

 

「それは……聞いて、おきたいかも……」

 

「ウフフッ、本当にその子、イチカちゃんが大事なんだね? 今すぐに戻らないと、不安で仕方ないんだね? 分かった! ざっくりとだけ説明するよ! 十分と掛からない。でさぁ? また分からない事があったら聞きに来なよ? どうせ、アタイの十三番窓口はいつも暇だからさ!」

 

「良いの……?」

 

「良いよ。話しも聞かない奴が多いんだから。まぁ、怨み持って世に降りる奴が多いって理由もあるんだけどね。アンタみたいなの珍しいよ! アタイアンタの事、ちょっとだけ気に入っちゃったのかも!」

 

 それから、簡単な説明をフレアに受けた。

 

「わざわざ説明してくれてありがとう。行ってきます」

 

「あぁ、行っといで!」

 

 フレアに見送ってもらい、僕は地上へ舞い戻った。

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