百三十六頁 象 弍 『嫌がらせ』
百三十六頁
象 弍
『嫌がらせ』
「黄色い瞳の女の子が、そう願った……」
チュン太の紡ぐ物語が、完結した。
「……うわぁ、良かったよチュン太! 三人は転生して、導かれる事の無い未来を生きていくんだね?」
「う、うん……そういう事……」
僕は、気になる事を聞いてみた。
「なんか、最後はさ? 多分見守って来た精霊の子が妹として転生したんだよね? だとしたら、幼馴染みの筈の二人をお兄ちゃん、お姉ちゃんって呼ぶのおかしくないかな?」
「一応私の設定では、三人とも血は繋がってないよ? ただその子も近くに転生されて、ご近所のその二人をお兄ちゃんお姉ちゃんって言ってるって意味なんだけど?」
「あっ、そうだったのか。失礼しました。じゃあ! 血が繋がって無いなら、妹にもチャンスがあるって事だよね⁉︎」
「うん! ってか、アンタ私の作った物語に、否定的だったよね?」
「始めは、素人の物語なんて聞くに堪えない。なんて思っていた」
「うん……その反応が、怖かった」
「その、なんていうか……まぁ、ちゃんと完結させたのは偉いなと思ったよ」
素直になれない僕からの、最大の賛辞を彼女に贈った。
「そっか、その程度か……」
その程度? 高い評価を貰えるのが当たり前とでも思っていたのか? 随分と思い上がりの激しい女だ。
「面白かったよ‼︎ もう一度始めから聞きたいくらいさ!」
コン太がそう言った。お前? 何でもそうやって面白いって言うタイプなんじゃないのか? まぁ確かに話しが破綻してた訳では無い。ただそんな言う程面白かったか? まぁこういうのは個人差があるし、否定的な目線で聞いていた僕の心の持ちようにも問題があったのかもしれない。ここは素直に、褒めておいてやるか。
「うん。僕も、まぁまた君が話そうとするのなら、聞いてやりたいとは思ったよ」
「聞いて、やりたい……?」
何に引っ掛かっている?
「僕が何か、気に触る事を言ったかな?」
褒めてあげたつもりなんだけど……
「私が、どれだけ必死になってこの物語を作ったのか分かってるの? どれだけ頭フル回転させて、あなた達二人に物語の朗読をしたのか分かって言ってんのかよ⁉︎」
「な、何怒ってるの? 捉え方は、人それぞれだろ? みんながみんな面白かったと言わなければ納得しないだなんて、傲慢にも程があるだろ⁉︎ そんな奴は、物語を作る資格なんか無い。人に何かを発信する権利なんか無いよ‼︎」
「そんな言い方酷い……私はただ、別に賛否があって良いと思う。でも、必死になって朗読をしたのに、またお前が朗読したいのなら聞いてやるよ、みたいな態度が気に入らなかったの!」
そんな事言って無いだろ⁉︎ 僕は褒めてあげたつもりだったのに……女心って面倒臭ぇ。
「まぁまた、新しいのでもさっきのでも聞かせてくれれば良いだろ? ちゃんと最後まで、聞いてあげるからさ」
これでどう? 聞いて、やるって言うと君は気に入らないんだろ? あげるにしたよ。さっさと怒りを鎮めてくれないか?
「聞かせて、くれれば良いだろって、何? 聞いて、あげるって何? 別に私、オリジナルストーリー朗読したがり女じゃ無いんですけど?」
女って面倒臭ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎ そんな事言って無いのに‼︎ なんなら朗読聞きたいのに‼︎
「二人ともやめてよ⁉︎ 喧嘩、しないでよ……」
コン太が仲裁に入った。
「別に僕は、喧嘩なんて……」
「もういい。黙って。イチカが部屋に来るから」
階段を上がる足音で、それがイチカか別の者かの区別が付く様にまでは三人ともなっている。でも、別にイチカに僕らの声は聞こえないのだから、討論を継続しても構わない筈なのに。
なんか、悔しい。僕は、チュン太を否定したかった訳じゃない。褒めたつもりだったんだ! なのに、すれ違ってしまった。誤解を解きたいのに、それが敵わない。他の人と会話をした事なんて無かった。だから、まともな会話の手段を僕は知らなかった。
それから、チュン太の嫌がらせが始まった。
「みんな、起きてる?」
チュン太が真夜中、イチカが眠っている時に話し掛けて来た。
「オイラ、起きてるよ?」
別にイチカには聞こえないのに、二人は小声で喋っていた。
「パオン太は?」
僕は睡魔に襲われていたので、寝ているフリをした。
「寝ているみたいだね? チュン太? どうしたっていうのこんな真夜中に?」
本当、なんの用なんだよ?
「パオン太寝てるんだ? じゃあさ? こっそり新しく創った物語、コン太にだけ朗読するね?」
はっ?
「えっ? 良いの⁉︎ 楽しみだなぁ‼︎」
「しーっ……パオン太が、起きちゃうでしょ?」
「あっ、そうだね!」
「前に設定言ってた、ヌイグルミが人類に復讐するって話し!」
「うわぁ! 楽しみだなぁ!」
「プロローグ。とある世界の片隅に、二歳の誕生日プレゼントに貰った、猫のヌイグルミを大事に、大事にしている男の子が居ました」
「うん!」
「その猫のヌイグルミは、所有者にとても大切に、親友の様に扱われ、三年でその身に魂を宿す事になりました。猫は、所有者の部屋での言動を全て見て来ました。ある日、猫はある動画を見て泣いている所有者を見つめていました」
「えっ? ……どんな動画だったの? ってか! 話し掛けちゃいけないよね? 話しに割り込んでごめんねチュン太……」
「良いよ? まだちゃんと方向性決まって無いし、その方が朗読しやすいまである!」
「本当に⁉︎ で? 続きを聞かせておくれよ!」
「ウフフッ」
何だよコレ……なんなんだよ? 僕が居ない所で、朗読が始まっているじゃないか? 僕も混ぜてよ。何で僕抜きで朗読を始めたんだよ⁉︎ 僕だって……僕だってその物語を知りたいのに‼︎
「所有者が見ている動画は、ティックトックや、ユーチューブにアップされている、ヌイグルミを燃やす動画でした。ヌイグルミが意志を持って、話し掛けて来る事に恐怖を抱いた配信者は、言葉を喋るヌイグルミを燃やしたのです」
マジかよ⁉︎ 僕達の言葉が所有者に伝わる様な制度だったら、そんな事が起こりえたって事なのか⁉︎
「そんな……オイラ達の言葉が所有者に伝わる様な制度だったら、そんな事が起こりえたって事なのか⁉︎」
あっ、それ……僕も同じ事思ったんだけど?
「鋭いね! 心を揺さぶるだろ?」
揺さぶって来やがる‼︎ そっからどうなるんだよ⁉︎
「ヤバいよ! 続きを、教えてよ?」
「泣いている所有者に、猫はそっと語り掛けました」
語り掛けた? 大丈夫なのかよ⁉︎ 燃やされたり、しないよね?
「語り掛けたんだ⁉︎」
コン太がチュン太に疑問をぶつけた。その問いには応えず、彼女は物語の中に姿を眩ませた。
「ボクも、ニャいているよ。ユウキ? 君は、どうしたい? ボクを、燃やしたい? 殺したいと、思う……?」
所有者の名前は、ユウキなんだね? 猫のヌイグルミは、一世一代の賭けをしたんだろう。所有者に語り掛けた。って解釈で合ってるよね? もしかすると猫のヌイグルミは、ユウキに燃やされてしまうのかもしれない……そんなの、嫌だよ⁉︎
「ニャン太郎⁉︎ 君も、話す事が出来るのか⁉︎ ——そうニャンだよ。そして困った事に、同胞の死を黙って見過ごす事が、出来ニャいんだよ⁉︎ ——僕だって、同じさ‼︎ 意志を持ったヌイグルミを燃やすだなんて、この世界は狂っているよ⁉︎」
一人二役を演じ分けている! そして、ヌイグルミの名前がニャン太郎というのは、イチカへのリスペクトを僕は感じる! 最高だ‼︎
「猫はただ、これ以上……猫と同じ、ヌイグルミが燃やされる世界を見ていたくニャい。だから……この猫に、力を貸してくれニャいか?」
ニャン太郎が、ユウキに言った。一人称が猫なのが、更なるイチカへのリスペクトを感じさせた。
「勿論だ! 僕も、もうこれ以上耐えられない‼︎ 君達のルールを教えてくれ! 僕が必ず、君達全員救ってみせる!」
…………
「あっ、ここでプロローグは終わりだよ?」
完全に感情移入してたよ⁉︎ 急に現実に戻される訳ね! 前作でもそうだったわ……あれ? 僕、彼女の作品割と好きなんじゃない?
「引き込まれたよ。無理しない程度で良いから、また続きを聞かせておくれ?」
「うん……パオン太が寝ている時に、こっそりとね?」
ハブられたし……なんて性格の悪い女なんだよ。まぁ良い。そんな嫌がらせにも、僕は怒ったりしない。冷静沈着。これが僕の長所なんだよ。
それから、夜中絶対に寝ない様に努めた。イチカが部屋に居る間はみんな喋らないのだけど、明かりを消して、微かなイビキが聞こえ始めると僕も寝る様にしていた。他の二人もそうだろう。でも、僕への嫌がらせで、僕が寝た後にあの物語の続きを朗読するのだろう? それなら僕は、寝たふりをしてその物語の続きを聞くしか無いではないか‼︎
「……あの……起きてる?」
ほぅら⁉︎ チュン太が話し掛けて来た! 勿論僕は居眠りをかます。
「起きてるよ、チュン太?」
「あの……パオン太は……?」
返事などしないよ。……どうせ、僕が起きていたら不都合なんだろ?
「寝ているみたいだね?」
「それじゃあ、続きを話すね?」
コレって、僕が悪いのか? でも僕は、最大限の賛辞を送ったのに。なのに……こんな嫌がらせまでされて。わざわざ僕が寝ている時を見計らって物語を朗読するなんて⁉︎ 三人しか意思疎通し合える人が居ないのに、一人だけハブるなんて、良心が痛んだりなんかしないのかなコイツらは……何だよ⁉︎ 僕にも‼︎ 物語の続きを教えてよ。




