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スクリーム・ノート III  作者: 藤沢凪
33/50

百三十三頁    犬 拾漆   『パオン太』

 百三十三頁

 

 犬 拾漆

 

『パオン太』

 

 アイツ、あんまり下手で居ると調子乗りやがるな。

 

 別に布団の方で寝ても良かったけど、そこまで流されるとずっと上から来られる未来が想像出来た。ここ、あたしの家なのよ。心落ち着ける場所だった訳。それが急にお前の様な変な女と生活する事になったあたしの気持ちも考えてみろ。めちゃくちゃ不愉快だよ。まぁ、あたしが悪いんだけど。

 

 にしても見合って無い。部屋ちょっと焦げ付かせたくらいで、何ヶ月もコイツがウチに居座るっての? 罰重すぎない? ……ヤバッ、苛々して来た。猫母は家リフォームするつもりだったって言ってたけど、それいつになんだよ⁉︎ いつまでこんな変な奴家に住まわせないといけない⁉︎

 

 ……どうにかして追い出そう。方法はまだ未定。ただ、制約がある。猫宮に、あたしが火を付けた事を誰にも喋らせ無い事。下手したら、未曾有の借金が我が家に降り掛かる可能性がある。それだけは断固阻止しなければ。

 

 猫宮があたしを尻に敷こうとしているのが見て取れる。あたしは、さっきみたいに天然の振りをして、所々それを回避していかなければならない。だってさっきアイツ、めちゃくちゃな事言ってたぞ? マリオパーティーで、猫宮に気付かれない様にあたしが負ける様促して来やがった。なんだそれ⁉︎ まぁ、その位は折れてやった。要求の程度によって反抗するか、容認するか決めよう。あんな訳の分からない女だ。常に警戒して過ごさないと、あたしの精神が危ぶまれるってもんだよ。

 

 ってか‼︎ 常に警戒してる時点で精神危ぶまれる事態なんだよ⁉︎ 糞がッ‼︎ なんなんだよ‼︎ 二度と煙草なんて吸わねぇかんな⁉︎

 

 歯を磨いて部屋に戻ると、猫宮が床に敷いた布団で寝ていた。

 

 ……まぁ、お前の部屋燃やしといて、そんな扱い酷いよな? しかも不潔だから、とかいう理由にしちゃった。不潔っちゃ不潔だけど、今回は湯も溜めなかったし。ごめんな猫宮? あれっ? あたし頭グッチャグチャなんだけど⁉︎ ベッドで寝てる事への罪悪感で、全く寝付け無いんだけど⁉︎ 寝ろ、寝ろよ‼︎ もう何も考えるな! 寝る事に集中するんだよ‼︎ あ、あぁ……瞼を閉じると、その暗闇の中に、パオン太の残像が姿を現して来やがる⁉︎ 燃えて消えようとする度に強制的に目が開いてしまう……目を閉じるとまた、パオン太がそこに……

 

「パオン太ぁ……おやしゅみぃ……また、明日にぇ……」

 

「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ‼︎」

 

 はっ⁉︎ 寝言か? 猫宮の寝言だったみたいだ。で、でも、あたしがパオン太の亡霊を見ている時に、こんなタイムリーにそんな寝言言う事あるのか⁉︎

 

 こ、怖ぇ……怖ぇぇぇよ……もう、眠りたい。

 

「寝かせないよ」

 

 ハァァァァァァァァァァァァァァァァッ⁉︎ だ、誰⁉︎ 猫宮の寝言じゃない‼︎ ショタっぽい声で、何者かがあたしに語り掛けて来やがる‼︎

 

「…………」

 

 気付いて無い振りしよう。このまま、知らぬ存ぜぬで乗り切ろう‼︎

 

「イチカは、僕が守るから」

 

「…………」

 

 む、無視、無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視‼︎ 言葉を返したら駄目だ‼︎ 取り込まれる……

 

「僕の名前はパオン太、君がイチカに酷い事をしたら、必ず同等の苦しみを与えてやる」

 

「嫌ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎」

 

 応えちゃいけないのに‼︎ 抑え切れなかった……

 

「五月蝿いなぁ。イチカが起きてしまうだろ? まぁ、いま君の声は誰にも聞こえていないけどね」

 

「へっ? なんで?」

 

「その位は出来るよ。僕はね? イチカに魂を貰ったヌイグルミなんだ」

 

 多分、こんなのはあたしの弱い心が産み出した幻なんだ。悪い夢なんだ。でも、あまりにタイムリー過ぎてさ……

 

「魂を貰った? なに、言ってるの?」

 

 何度目を開こうとしても叶わなかった。あたしは今、この悪夢に囚われている。

 

「イチカが子供の頃、二歳の誕生日にプレゼントされたのが僕なんだ。イチカは、象の姿をしたヌイグルミの僕に、パオン太っていう名前を付けてくれた。それから十四年間、僕をずっと大切にしてくれた。イチカは僕に、毎日話し掛けてくれたよ? おはよう、おやすみは欠かさなかったね。さっき、イチカが言った寝言によって、僕の魂が呼び起こされたんだ」

 

「パオン太、おやしゅみ、また明日、ってやつ?」

 

「そう。本当は選べた。イチカに長年愛して貰った僕は、魂を手に入れて、君に燃やされ、天界へ召されていた。その時は記憶も、殆ど残っていなかった。役員の前で、輪廻転生の手続きをしている時に、イチカの声がした。僕は目の前に居る役員にその事を伝えた。でもその人は、そんな事はあり得ない事だと言った。気のせいでは無いのかと僕を諭した。でも、僕は、思い出していた。イチカに大切にして貰った日々の事。その全てを、鮮明に思い出す事が出来たんだ。僕は手続きを放棄し、地上へ戻ると告げた。その役員さんは、例えば、あなたの記憶が呼び起こされたとしても、その相手に、あなたの想いを伝える事は出来ないんですよ? と言った。僕は、それでも、彼女の傍に居たいんです。と言った。あなたは怨霊として世に留まる事になります。お尋ね者になるって事です。悪さをしなければ罪に問われませんが、もしも、悪事を働くと……役員さんは、言葉を濁らせたよ。僕は、大丈夫。後悔したくないから。と言った。そうですか……役員さんは、溜息を漏らしながらそう呟いた」

 

「へぇー………………」

 

 めっちゃ喋るじゃんパオン太⁉︎ えっ? 何この夢? 怖っ。大丈夫だよね? 起きたら全部忘れてるよね? だって、夢ってそういうもんじゃん?

 

「役員さんに、僕が出来る事を一通り聞いた。その一つが、こうやって人に取り憑いて、会話をする事だったんだ。これで僕はお尋ね者になる。人に危害を与えた事になるからね。でも、それでも良いんだ。君がイチカに悪い事をしようとしたら、僕が絶対に許さない。その時は君を、呪い殺してあげるよ」

 

 なんじゃこの夢わァァァァァァァァァァァァァァァッ⁉︎ 怖すぎだから……ってか役員もこんな犯罪予備軍に出来る事教えてんじゃねぇよ⁉︎

 

「気を付けます……」

 

「本当に、気を付けてね? 僕は、イチカの様に甘く無いよ?」

 

「はい……」

 

「それじゃあ、縛りを解くよ」

 

 チュン、チュンチュンチュン。

 

 窓の外から、鳥の囀りが聞こえて来る。そっと、瞼を開いた。

 

 あっ、朝だ。やっと目が開いた‼︎ マジ怖かったわ! マジ悪夢。ってか、一睡もしてない様な気怠さなんだけど? ってか、あれっ? ……パオン太の言った事、めっちゃ覚えてるんだけど? 夢ってさ? 普通起きたら忘れてるよね?

 

「はぁぁぁぁぁ……あれっ? あっ、そうか。わんちゃん家に居るんだった。おはようわんちゃん」

 

 猫宮も目が覚めた様だ。

 

「おはよう。……なぁ猫宮? 一つ、質問して良いか?」

 

 聞くの、怖いんだけど……

 

「はっ? 朝っぱらからなんなんだよ?」

 

「あの……あたしが燃やしちゃったパオン太ってさ、まさか、まさかだよ? お前が二歳の時にプレゼントされたヌイグルミじゃないよな?」

 

 ただの悪夢に、ビビり過ぎだからあたし。

 

「へっ? 何でわんちゃんがその事知ってるの? パオン太は、猫が二歳児になったプレゼントにお母さんから貰ったヌイグルミだったんだよ」

 

「ハャッ? ヘャッ? へっ、へっ……ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ‼︎」

 

「朝からなんなんだよ。気味が悪いんだよ」

 

「き、今日は……猫宮、ベッドで寝ろよ……」

 

「へっ? 良いの? 猫は不潔なんじゃ無かったの?」

 

「めっ! 滅相もない‼︎ ま、マジ‼︎ そんなん思って無いから‼︎」

 

「どうしたんだよ? 逆に気色悪い程なんだよ。じゃあさ? 一日交代にしようよ? 毎日床で寝たら身体痛くなるんだよ」

 

「もう! 何でも良いから‼︎ 仰せの通りに……」

 

 六月だぞ? 本来寝起きなんて暑苦しい位の筈なのに、あたしの身体は、寒くて寒くてガタガタガタガタ震えていた。

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