百三十二頁 猫 弐拾 『分からず屋』
百三十二頁
猫 弐拾
『分からず屋』
「何だこれは⁉︎」
「へぁッ⁉︎」
…………
何だ今の叫び声は? ってかここ何処なんだよ? 真っ暗で何も見えないけれど、いつも寝ている猫のベッドじゃ無いんだよ。
さっきの、何だこれは⁉︎ って、わんちゃんの声? ……何か、徐々に記憶が戻りつつあるんだよ。確か、天羽にドタキャンされて、わんちゃんが家に来て、マリオパーティーして……あっ、猫、わんちゃんに部屋燃やされたんだった。で、今わんちゃんの家だ。
寝て起きて考えてみると、ふざけんな‼︎ って話しなんだよ! 普段温厚な猫が、ここまで苛立ちを覚えるのは珍しい事なんだよ! 部屋を粉まみれにされ、居心地の良いとは言え無い知らない部屋で過ごす事になり、夜中に奇声で起こされる。ちょっと一声、わんちゃんに言ってやらないと気が済まないんだよ。
リビングまでヨタヨタ歩いて行き、そっと右の耳をドアに近付けた。
……はっ! 猫は何をしているか⁉︎ わんちゃんに物申すのであれば、このドアを開けて堂々と中に入れば良いでは無いか‼︎ 何故中の様子を窺う必要があるか⁉︎ ……癖になっている。このドアの前に立つと猫は、右耳をそっとドアに近付ける仕様となってしまっているんだよ⁉︎
中から、声が聞こえて来る。なんか、お母さんありがとうみたいな事言ってる? ちょっと聞こえ辛いな。も、もうちょっと、大きな声で喋ってくれないかな? ってあっ‼︎ あ、あ、あァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎
ガチャッ。
「はっ! ね、猫は! 何をしているか! 必死になって聞き耳を立てていたら、ドアノブを回して中に入ってしまったんだよ⁉︎」
わんちゃんとわん母は、キョトンとしていた。
「猫宮? テメェまた盗み聞きしてやがったのか⁉︎ 本当懲りねぇ野郎だな⁉︎」
そういやわんちゃんには以前、こうやって盗み聞きしてた所見られてたんだった。別荘の時もだったかな。
「ち、違うんだよ‼︎ 猫はただ、寝惚けてて……そ、それだけなんだよ」
「寝惚けてフラッとしてリビングのドア開けて、必死になって聞き耳を立てていたら、ドアノブを回して中に入ってしまったんだよ⁉︎ って言うの、どう考えても辻褄合わねぇだろ⁉︎」
わんちゃん圧凄いんだよ⁉︎ 半日位前に、猫の部屋燃やした癖に。
「まぁ良いではないか! それで二人になにか不都合などあったか?」
「まぁ、別に無いけど。ってかもう二時じゃん⁉︎ 寝なきゃ! お母さん、ご馳走様!」
「へっ? 何か食べてたの? 猫の母は深夜に何か食べてると叱ってくるんだよ! 猫もお腹空いたんだよ! 余り物で良いから食べたいんだよ!」
「アァァァァッ⁉︎ テメェがカレー全部食ったせいでこつちゃ試行錯誤してやっと飯にありつけたんだよ‼︎ ルーばっか食い過ぎなんだよ猫宮テメェ‼︎」
「そうだったの⁉︎ だって、猫はわん父におかわりおかわり言ってただけだから、鍋に残ってるカレーの量など把握して無かったんだよ。わん母のカレーが美味しいもんだから、歯止めが効かなくなってたんだよ。だから……戦犯はわん父なんだよ! いや、黒幕はこんな美味しいカレーを作ったわん母なんだよ‼︎」
「あらっ? 嬉しい事言ってくれるじゃない! あと、その話しは、お父さんからラインで聞いていたわよ?」
「わん母? そうなの? それでも、わんちゃんは猫の事許せないの?」
「別に許せないとかじゃ無くてさ。お前がカレー食い尽くした癖に調子乗った事言い出すもんだから、イラっとしちゃって……」
「その程度の事でよく猫にイラッと出来るものだよ。わんちゃんは半日前の事をもう忘れてしまったか?」
「半日前? 何かあったの琴子?」
「あ、あぁぁぁぁ何でも無い何でも無い‼︎ 猫宮⁉︎ 今日はもう部屋に戻って寝よう?」
「……分かった」
まさかコイツ……
わんちゃんの部屋まで二人で移動し、ドアを閉めてわんちゃんに問うた。
「わんちゃん? 猫が暫くこの家で暮らす事は言ったの? わん父はずっと一緒に居たから知らないの確定なのだけど」
「……言ってない」
本当、わんちゃんには困ったものなんだよ。
「何故か? 何故言わぬか⁉︎ こんな時間まで母と二人きりでリビングに居て、何故その事を言わぬか⁉︎ 大事な事だろ⁉︎」
「ごめん……マリオパーティーに夢中で……」
「猫のゲームだぞ⁉︎ 猫のゲームなのに……あんな……猫はパーティーに居ないみたいな扱いしやがって……猫のゲームだぞ‼︎」
ヤバッ、涙出てきたんだよ。論点そこじゃないのに。
「ごめん……お前弱過ぎてさ……」
はっ? はぁっ⁉︎
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん……ね、猫のマリオパーティーなのに……ヒッ、ヒック……ね、猫、いっぱい練習して来たのにぃ……」
「……泣くなよ。そんな事で」
「ヘァッ? なんでそんな事が言えるの⁉︎ 人の部屋燃やした癖にぁぁぁぁ……うわぁぁぁぁぁ……パオン太ぁぁ……」
「マリオパーティーと火事は別の話しだろ⁉︎ 部屋燃やした事はマジでごめん。ってかやっぱりパオン太って名前付けてたんだな? マジごめん。今度一緒に墓立てよう? でも、マリオパーティーの事まで持ち出される筋合いねぇんだよ‼︎ あれは! ただ、お前が弱いだけだから。混同すんな」
「なんでぞんなごど言うのぉぉぉぉ……バオンだのごど悪いど思っでるんなら……なんでねごに酷いごどするのぉぉ……」
「酷い事⁉︎ お前に何かしたかあたしが⁉︎」
「マリオパーティーで、ボゴボゴにざれだもん……」
「だから‼︎ それはテメェが弱いだけだろぉが⁉︎」
「また言っだァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎ 猫のごと弱いっでまだ言っだぁ‼︎ ねご弱ぐ無いもん。猫が、ずっとやっでぎたゲームなのに……」
「それさっきも聞いたわ‼︎ お前あれか? あたしに手を抜けって言いたいのか? わざと負けろって言いたいんだろ?」
まぁ、そうだけど、そうじゃ無いじゃん?
「そんな八百長で勝っても、嬉しく無いんだよ」
「どうしたいんだよお前⁉︎」
「だ、だからぁ、わんちゃんはさぁ、猫の部屋燃やしたでしょ? なのに、その後のマリオパーティーで猫をボゴボゴにするのおかしくない? って事……」
「だから、わざと負けりゃ良いんだろ⁉︎」
「……違うもん。何で怒ってるのわんちゃん?」
眉間に皺寄ってるんだよ。
「怒ってねぇよ‼︎ じゃあどうすりゃ良いんだよ⁉︎」
わんちゃんの分からず屋ぁ……
「だから……だからね? もっと、猫の事気持ち良くさせられないのかな? って思うんだよ。今わんちゃんは、猫を立てなければならない状況だと思うんだよ。猫の部屋燃やして粉まみれにしたのだから。なのに、マリオパーティーで無双して、ガチ勢のわん母とバチって、猫の事……雑魚扱い、ってか見向きもされなかったんだよ。そんなの、おかしな事なんだよ」
「だから、わざと負けろって事だろ?」
「そうだけどそうでは無いんだよ⁉︎ それを、猫に気付かせてどうする⁉︎ 猫は、そんなの全く気持ち良くなんか無いんだよ‼︎」
「お前‼︎ いくらなんでも無理あんだろ⁉︎ こうやって面と向かって言われたのに、八百長をそのお前にバレ無い様にしろって言ってんだろ⁉︎ おかしいだろ⁉︎」
「大丈夫。猫は、思い出などすぐに忘れてしまうのだから」
「お前マジで言ってんのか?」
「はい。もう忘れた。明日、もしまたマリオパーティーやるのであれば忘れるなよ? わんちゃんは今、猫の作った籠の中に居るという事を」
「忘れてねぇじゃん?」
「もぉぉぉぉぉ‼︎ だ! か! ら‼︎ 猫はこれからこれまでの事は、忘れたってていで過ごすの‼︎」
「忘れてねぇじゃん⁉︎」
「分からず屋がァァァァァァッ‼︎ 猫もう知らんもん。本当、なんも知らん!」
「猫宮? お前本当にそれで良いのか?」
諭すなよ。
「ってかわんちゃん‼︎ 何故猫が暫くここで過ごす事を母に言わぬか⁉︎」
「あっ、そうだ、ごめん……」
わんちゃんがこんなにごめんごめん言うのも珍しいんだよ。
「まぁ、火事がわんちゃんのせいだという事は言わない方が良いだろうな。そのベクトルで話しを進める事を許可するんだよ」
「へっ? あぁ、そうだね」
「……何そのリアクション? まさか、元からそのていで話すつもりだった?」
まぁ、わんちゃんだったらそうするだろうな。
「うん……」
素直でよろしい。
「まぁそうだね。わんちゃん家と猫家の意見が食い違ったらそれはそれでややこしいから。わんちゃんは、事の重大さに気付いている?」
揺さぶりを掛けてやった。
「はい。すいませんでした」
なかなか気持ちが良いんだよ。
「ってか、わん母とわん父は、猫がこの家で何ヶ月も暮らす事、許してくれるかな? わんちゃんの過失がある事を伝えないと、そんな事許可しないんじゃないかな?」
わんちゃんから、本気度が伝わらなかったので、脅してみた。
「大丈夫だから‼︎ 説得するから! だから、ねっ? 猫宮ぁ?」
ふんっ。他愛も無い。何故マリオパーティーであんなに上手に戦略が練れる癖に、現実になると、こんなにも頭の悪い猫の言葉にまんまと騙されるか? ……本当、心配になってくるレベルなんだよ。
「もう三時なんだよ。寝よう」
「マジかよ⁉︎ 風呂入るの面倒くせぇ。今日はもういいや」
「入らないの?」
「うん……ってかお前‼︎ 勝手に浴槽に湯、溜めてねぇだろぉな? あっ、歯、磨いて無かったわ。ってか、お前あたしの歯ブラシ使ってねぇだろぉな⁉︎」
沸点低いんだよこの女‼︎ 本当に悪いと思っているのか? それは、過去の出来事でしょ?
「わん父に新しい歯ブラシ貰ったんだよ! 黄色の歯ブラシ! 帰る時に買って来たらしいよ? お風呂だって、前に怒られたから湯は溜めなかったよ?」
まぁ、これからこの家にお世話になるのだから、最低限の事はしないといけないと思った。
「えっ? 前に怒った事、ちゃんと覚えてたんだ?」
「猫をなんだと思っている? 学習能力くらいはあるんだよ」
ケツを思いっきり蹴られた事も、鮮明に覚えているんだよ。
「なかなかやるじゃん? 歯磨かなきゃ。布団敷いてやるから先寝てなよ」
この女は、本当は悪いとなど思っていないよな?
「何故猫が床に敷いた布団で寝る? 猫はベッドで寝るんだよ」
「はっ?」
この女、急に記憶失ったのか?
「こないだは床に敷いた布団で寝たけど、あれでも肩とか腰とか痛くなったんだよ。ああいうのは畳の部屋じゃないと快適な睡眠を約束してくれないんだよ」
「だから何? あたしのベッドなんだけど?」
……ちょっと怖くなってくるレベルなんだよ。
「猫は被害者なのだからベッドで寝るんだよ! 何を猫よりも高い位置で睡眠を取ろうとするか⁉︎ 図が高いんだよ‼︎」
「……あっ、マジかよ。こんな不潔な女にベッド使われるのかよ……ウチに泊めるなんて言わなきゃ良かったわ……」
コイツ⁉︎ もう自分の犯した罪忘れているの⁉︎
「なんなんだよ⁉︎ 猫はちゃんとシャワーも浴びたし、とても清潔で、綺麗な身体なんだよ! 不潔な女とか、失礼にも程があるんだよ‼︎」
「あーそうねぇ、ごめんねぇ。使えば? だってあたしが悪いんだもんね? これが罰って事ね。亀水みたいにバイト始めようかな。バイトしてお金貯めて、新しいベッド買わなきゃ」
買い替えるの⁉︎ 猫がこのベッド使ったら、買い替えるの? 酷いんだよ。本当コイツのこういう所大嫌いなんだよ‼︎
「……もう良いんだよ。猫、床に敷いた布団で寝るから」
「あっ、そうなの? 別に良いのに。まぁ、それで良いんなら、そうしてもろて」
そうしてもろてじゃ無いんだよ‼︎ わんちゃんの分からず屋ぁ……




