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スクリーム・ノート III  作者: 藤沢凪
31/50

百三十一頁    犬 拾陸   『夜食』

 百三十一頁

 

 犬 拾陸

 

『夜食』

 

 母との死闘は、深夜一時まで続いた。

 

「はぁ……流石に疲れたね」

 

 母に問い掛けた。

 

「私はまだいける」

 

 イッちゃってるのよもう目が! あたしは今日人ん家で火事まで起こして疲れてんのよ。……あっ、そういやあたし、猫宮の家に火つけたんだった……アイツ、今頃どうしてんだろ……あっ、あたしの家に泊まるんだった。そういやお父さんがカレー温めて準備してくれてたな。リビングにはもう、あたしと母の二人しか居ない。

 

「お腹空いたよ。明日は学校だし、そろそろ寝ないと」

 

 母を嗜めた。

 

「……そうね。今日はご飯食べて寝ましょう」

 

 分かってくれた。母が食事の準備をしに台所へ立つと、驚きの声を上げた。

 

「へっ⁉︎」

 

「どうしたの? お母さん」

 

 母はカレーの鍋の蓋を右手に持ち硬直していた。

 

「か、カレーが……」

 

「カレーがどうしたの? って、えっ……」

 

 近付いて見てみると、鍋の中には一人前にも満たないカレーしか残されて無かった。

 

「あの二人、全部食いやがった……」

 

 残せや⁉︎ 元忍空組一番隊隊長の空助ばりに人の事考えず食いやがったのか⁉︎

 

「今日、少なめに作ったの? だっていつもは、食べきれない位作るのに」

 

「少なめなんかとんでも無い。元は三人のつもりで作ってたけど、猫ちゃんが来たから、具はストック無かったから足せなかったけど、水とルー足してかさ増ししてたんだよ」

 

「それなのに、この有り様って訳?」

 

「あっ、お父さんからライン届いてたわ。なになに? 二人ともゲームに夢中で聞こえて無い様なのでラインで失礼します。猫ちゃんがウチのカレーをめちゃくちゃ気に入ってくれたみたいで、おかわり、おかわりと求めるものだから、俺もなんか、お母さんの料理が褒められたのが嬉しくて、はいよ、はいよとおかわりを注いでいたら、無くなってしまいました。ごめんなさい……」

 

「無くなってしまいましたごめんなさいじゃねぇだろ⁉︎ あたしもう……お母さんのカレーの口になってたのに……」

 

 お母さん震えてる。明日、あの二人にマジギレしてやろうね?

 

「……嬉しいし」

 

 喜んでたァァァァァァッ‼︎ まぁそうか。なんならあたしもお母さんの料理を美味しいって食べてくれたの、嬉しかったりもした。ってかアイツ! 手羽元カレーなんか認めないみたいな事言ってた癖に、なんなんだよ‼︎

 

「どうするの? お腹空いたよ……」

 

 母に問い掛けた。

 

「琴子さっき、お母さんのカレーの口になってるって言ってたわよね?」

 

「うん。でも、お母さんのカレーはもう……」

 

 無いじゃん? 良いんだよお母さん。今日は二人でストックしてあるカップラーメン食べようよ?

 

「あなたは優しいから、カップラーメンで良いって、思っているのでしょう?」

 

 エスパーか? やっぱ、母は凄え。

 

「無理しなくて良いよ? 今からカレー作る時間なんて、無いじゃん」

 

 逆に迷惑だわ。今から作り出したら飯にありつけるの午前三時くらいでしょ?

 

「大丈夫! 任せなさい!」

 

 えっ? マジで? やめて! 明日朝から学校なんだよ‼︎

 

「あたし、別にもうカレーじゃ無くて良いから……」

 

 その時、母がカレーの入っていた鍋を火にかけた。えっ? なんで……?

 

「勿論、一から作り直す事なんてしない。そして、カレーの口になっちゃってる琴子を満足させる一品を完成させてあげる!」

 

「強がらないでよ! 魔法使いじゃあるまいし、そんな事出来る訳無いじゃない‼︎」

 

「見てなさい!」

 

 そう言うと母は、コップに水を入れ、鍋肌にこびり付いているカレーだったものに満遍なく回し掛け始めた。その姿を見てあたしは、母が狂ってしまったのだと思った。

 

「……お母さん……もうやめて? これ以上、見てられないよ……」

 

 そんな薄めに薄めたカレーを、ご飯にかけて食べろと言うのか? 嫌だ、嫌だよ。母は、壊れてしまった。マリオパーティー……あれは本当に麻薬の一種だったんだ。明日の朝あたしは、任天堂にクレームを入れてやる‼︎ ……あたしの、あたしのお母さんを返してって‼︎ 泣きながら訴えてやるんだ‼︎

 

「へへっ、待ってなさい琴子? もうすぐ、出来上がるからね?」

 

 ヒィィィィィィィィィィィィィィッ‼︎ もうすぐ出来る訳無いじゃん⁉︎ ちょっとは残ってたからカレーっぽい色にはなってるけど、ほぼお湯なんだよそれは‼︎ しかも鍋から離れて何かを取りに行った!

 

 ヤバい。絶対ヤバいよこれ‼︎ ペイン戦でナルトが九尾化してる時、カブトの捜索に向かっていたヤマトの掌に八! って出た時くらいヤバいよ‼︎ 木の葉の里が危ない‼︎

 

「あっ! ちょっと待ってお母さん!」

 

「なんだい?」

 

 振り向いてさえくれない⁉︎ でも、お母さんの正気を取り戻す術を見つけたんだ!

 

 あたしは、炊飯器を開けて、母に叫んだ。

 

「お母さん‼︎ ご飯がもう無い‼︎ あの二人が、食べ尽くしたんだよ! もう、カレーは諦めよう?」

 

 本当は、炊飯器にはまぁまぁ米が残っていた。猫宮アイツ、ルーばっか食いやがったな⁉︎

 

 でもここは、ブラフかまして母を落ち着かせるしか手が無い‼︎

 

「米? ルーが無い時点で、米が無い事に私が気付かないとでも思っていたの?」

 

「へっ?」

 

 気付いていたの? ってかブラフだったんだけど。米に頼らない? それじゃあお母さんは、一体何を作ろうとしているの?

 

「すぐ出来るから、琴子は椅子に座っていなさい」

 

「……はい」

 

 あたしに出来る事は、もう無い。椅子に座り、涙を堪えながら、壊れた母の作る料理を待った。

 

「さぁ、召し上がれ」

 

 あたしの目の前に、湯気の立つ丼を置いて母は囁いた。その丼の中を覗くとそれは、うどん。カレーうどんだった。

 

「えっ?」

 

「カレーライスにしてあげられなくて、ごめんね? これが私の今出来る、最大限のカレー料理だったの」

 

 カレーうどん、だと?

 

 でも、あんなに薄めたスープでうどんを作ったって、美味しい筈が無い。やっぱり母は、壊れているんだ。

 

「……いただきます」

 

 取り敢えず、出された料理は、文句など言わず食べよう。

 

「いただきます」

 

 母の分もあったのか? 気が動転していて気付かなかった。あの鍋の残飯みたいなカレーの量から二人分作っただと? でも母も食べる事によって、その間違いに気付く筈。だって辛いよ……美味しく無かったって、伝えるのは辛い。だからせめて、自分で気付いて欲しい。己の過ちに。

 

 箸でうどんを掴み、恐る恐る口に運んだ。

 

「んっ……? 何だこれは⁉︎」

 

 あたしは、思わず声に出して叫んだ。

 

「フフッ」

 

「立派なカレーじゃないか⁉︎ 水で薄めたとは到底思えない! しかし、ただカレーのルーを、茹でたうどんに絡めただけでは無い‼︎ うどんのスープとしても完成されている……これは、一体……?」

 

「面白いでしょ? 少しは料理に興味持ってくれた? これはね、リメイクレシピなの」

 

「リメイクレシピ?」

 

「余ったカレーを変身させたの。水で薄めて、今回は元が少なかったからカレールーを足したけど、めんつゆとか創味シャンタンとかあれこれ入れて味を整えて、冷凍うどんを入れたのよ? それだけで、立派な料理になるものでしょ?」

 

「うん!」

 

 美味しい。あたしの口が欲しがっていたカレーの味だし、更にワンランク上の料理に昇華している様に感じた。母は、壊れてなどいなかった。あたしは、母の作ってくれたカレーうどんを黙って貪った。

 

「ウフッ。そうやって美味しそうに食べてくれちゃったら、お母さんそれだけでお腹いっぱいになっちゃうよ」

 

 美味しくて、あっという間に食べ終えてしまった。

 

「じゃあ、お母さんのもちょうだいよ!」

 

 冗談を言ってみた。

 

「駄目! やっぱり私も、お腹空いてるかも?」

 

 その時丁度、母のお腹の虫が鳴った。

 

 グゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

 

「アハハハハハハハハハハハハハッ」

 

 二人で高らかに笑った。

 

「これ、あたしめっちゃ好きだよ! また作ってね? お母さん」

 

 そう言うとあたしは、スープを全て飲み干そうとした。

 

「ちょっと待って‼︎」

 

 スープを完飲する事を、何故か母に止められた。

 

「どうしたの?」

 

 母に尋ねてみた。

 

「元がカレーなんだから、そこにご飯入れたらもっと美味しいよ?」

 

「あっ」

 

 確かに‼︎ ……でも、さっき……あたし、ご飯もう無いって嘘吐いた。

 

「琴子? お母さんに、私に嘘吐いてもバレ無いと思った? 分かるんだよ? 炊飯器にご飯、まだ、残ってるんでしょ?」

 

 嘘でしょ⁉︎ ……あたしの嘘、全部見透かされてたんだ。気付いてたんだ。炊飯器にはまだ、ご飯が残っている事。でも多分、あたしの方が壊れてたんだよ。こんなお母さんを疑ってしまった、あたしの方がおかしくなってしまってたんだ。

 

「ごめんなさい。お母さん」

 

「良いのよ琴子? たくさん食べな?」

 

「うん‼︎」

 

 お母さんはきっと、あたし自身が、嘘を吐いた事に対して深く落ち込んでいる事に気付いた。だから、嘘を咎めなかったんだ。ごめんなさいお母さん。そして、ありがとう。

 

 炊飯器の中の米を残ったスープの中に投入し、口の中へかき込んだ。めちゃくちゃ美味しかった。深夜二時のテンションが、母との忘れられない想い出の一つとなった。

 

「私の分のご飯も、残しておいてね?」

 

 はっ! そうだった。あたし、炊飯器のご飯空にしちゃう所だったよ! ってかあたしの思考読み過ぎなんだけど⁉︎ マジ、予言者かなんかな訳⁉︎

 

「釘刺されないと、全部いっちゃう所だったよ……」

 

「フフッ、そうだと思った」

 

「なんで、あたしの気持ちが分かるの? 行動が読めるの?」

 

 母は少し眠そうに、頬杖をついて応えた。

 

「琴子の、お母さんだからだよ」

 

 そっか、そうだよね。エスパーでも、魔法使いでも、予言者でも無い。あたしの大好きなお母さんだから! あたしの事を、一番分かってくれるんだね?

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