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スクリーム・ノート III  作者: 藤沢凪
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百二十九頁    犬 拾伍   『ヌイグルミ』

 百二十九頁

 

 犬 拾伍

 

『ヌイグルミ』

 

 あたし、何て事してしまったんだ。マジ今、思考停止状態だよ。

 

「ちょっとわんちゃん? 手伝ってくれるとさっき言ってたではないか⁉︎」

 

 ヌイグルミを手に持ち、粉を払う猫宮に煽られた。猫母が離れて、あたしはずっと棒立ちしていた。

 

「ね、猫宮ぁ? なんで、あたしを庇ってくれたの?」

 

「はっ? まぁ、己の犯した罪に震えるわんちゃんを、見てられ無かったんだよ」

 

 うっ、うっ……

 

「ご、ごべん猫宮ァァァ? 部屋、無茶苦茶にして……お母さんにも、なんも悪く無いのにぶたれてたし……」

 

 涙を流しそうな表情で、猫宮に謝った。

 

「確かに。ぶたれるとまでは思って無かったんだよ。まぁ、過ぎてしまった事をとやかく言うのは良く無いんだよ。ただ、猫は母に、放火殺人未遂のレッテルを貼られてはいるのだが?」

 

 それをあたしに、どうしろと?

 

「いつか、そのレッテルを払拭する位の好印象をあたしから与えてやるから⁉︎ それで、勘弁して……」

 

「ククッ、わんちゃんがこんな必死に許しを乞う姿、なかなか見れないんだよ!」

 

 あっ、コイツ⁉︎

 

「試してやがったのか? あたしが慌てふためく姿を見て、心の中で笑ってたのかテメェェェッ⁉︎」

 

 あっ、でも、心の中で笑ってくれてるくらいの方が助かる。

 

「あっ、ごめんわんちゃん。お別れ会をやらなくちゃいけないんだよ? ちょっと待っててもらって。うん、そうなんだよ……コン太? チュン太? ……ごめんね、こんな粉塗れにして。……ごめん。パオン太はもう居ないんだよ。きっと今は天国で、みんなの幸せを願っているんだよ」

 

 ひっ、ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ‼︎ コイツ、ヌイグルミに話し掛けるタイプの奴なのか⁉︎ ここは、ガチで謝っておいた方が良いよね?

 

「えっ、あの……ぱ、パオン太の事、ごめん……コン太と、チュン太郎だっけ?」

 

 猫宮が粉塗れの雀のヌイグルミを持って、声色を変えて喋った。

 

「ぼくの名前はチュン太です。チュン太郎ではありません」

 

「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ‼︎」


 ヌイグルミをパペットマペットさせやがったァ‼︎ へっ? 嫌だよ? あたしこんな奴と数ヶ月一緒の部屋で過ごすの⁉︎ あ、あの……今更断れ無いよね?

 

「奇声など発するなよ! 母に聞こえていたら、また猫が何かしたかと疑われるではないか⁉︎ 冗談なんだよ。元からこのヌイグルミ達に名前など付けていないんだよ」

 

 その割にパオン太ァァァッ! つって叫んでたけど? お母さんにパオン太に引火してとか言ってたけど?

 

「ごめんなさい……」

 

 きっと猫宮は、あたしがこれ以上負担を感じ無い様にそう言ってくれてるんだ。何で分かってあげられないんだあたしの馬鹿野郎! って事は、猫宮が本当はヌイグルミに名前付けて愛でてたって事になるな。ごめん猫宮……パオン太黒炭にしちゃって……

 

「何か暗いんだよ! これから暫くお前の家に猫は住むのだけれど、そんな落ち込んだ感じで迎え入れられても楽しく無いんだよ‼︎」

 

 あっ? 今お前あたしの事、お前って言ったな? ……苛つくけど、意見を言えた立場じゃねぇ。

 

「だよね……」

 

 そんなに気に入らねぇなら、この家のリビングで寝ろよ。

 

「だよねだと⁉︎ はぁ……何故、あんな優しい両親から、こんなモンスターが産まれてしまったのか……」

 

「んだよ⁉︎ じゃあどうしろってんだよ⁉︎」

 

「猫を明るく迎え入れるんだよ‼︎ わんちゃんは今まで通りで良いんだよ。無神経なわんちゃんの方が落ち着くんだよ」

 

「お前なりに、考えてくれてたんだな。……んっ、で‼︎ 無神経って何? あたしそんなつもり一度も無かったんだけど⁉︎」

 

「へっ? だから、今までの過ちに気付いて無いから無神経だと言っているんだよ」

 

「猫宮、テメェェェッ⁉︎」

 

「そうそう! それが、いつものわんちゃんなんだよ!」

 

「はっ? これが、いつものあたし⁉︎」

 

「うん。今日は整理するのとか面倒臭いから、最低限要るものだけ持って行くんだよ。ってか、これから数ヶ月、宜しく頼むんだよ」

 

 そういえば、そんな話しだった。

 

「まだ親に許可も取って無いけどね」

 

 取り敢えず、荷物を抱えた猫宮と、我が家に帰ってみた。

 

 ヤベッ、ちょっと緊張してる。何て言おう? 猫宮を家に泊める事、しかも数ヶ月……まずは、二、三日泊まるって事にしておこう。

 

 ドアの鍵を開け、猫宮と共にリビングに向かった。ドアを開けると、母がソファーに座って録画していたダウンタウンの番組を見ていた。その母を呼んでみた。

 

「あっ、あの、お母さん?」

 

 母はゆっくりと、視線をこちらに寄越しながら言った。

 

「あっ、お帰り琴子……って、ハァッ⁉︎ アンタ‼︎ 友達連れて来るんなら言っときなさいよ! めっちゃ寛いでたじゃん⁉︎」

 

「へっ? 別に良くない? いつも通りで良いよ?」

 

「良く無いのよ⁉︎ いや、良いのかもしんないけど、琴子アンタ、全然友達家に連れて来ないから私その免疫無いのよ‼︎ 他人の子が家に遊びに来るのに慣れて無いんだよ‼︎」

 

「それ、ちょっと傷付くんだけど?」

 

 それは、あたしが今まで友達少なかった事を責められてる様に感じるのよ。

 

「それはごめん‼︎ でも今は、猫ちゃん? で合ってるよね? 友達をおもてなしする事が最優先でしょうが⁉︎」

 

「わん母、猫の事覚えててくれたんだ? 嬉しいんだよ」

 

「当たり前だよ! それより! 今日は、晩御飯カレーだけど大丈夫かな⁉︎」

 

 お母さん? 掛かり過ぎだよ。

 

「カレー大好きなんだよ! 前にいただいたわん母の料理どれも美味しかったから、とても楽しみなんだよ!」

 

 そうなのか? 母の手料理が褒められるのは、嬉しいものだな。

 

「チキンカレーなんだけど、大丈夫かな? しかも、手羽元で作ったカレーなの……結構イレギュラーだと思うんだけど?」

 

「へっ? チキンカレーも手羽元も大好きなんだよ! どんなカレーか楽しみなんだよ!」

 

「ありがとう! お腹空いてる? ごめんね? まだ出来て無いから、もうちょっと待っててね?」

 

「はい!」

 

 随分と気味の良い返事だな? コイツまさか……そういうの慣れてんのか? お前が何かしらでもあたしよりスペック良いとか、マジ許せねぇんだけど⁉︎

 

 カレーが出来上がるまで、取り敢えずあたしの部屋で待つ事にした。荷物も置かなきゃだしって事で部屋まで向かう途中、猫宮に聞いてみた。

 

「お前さ、なんか、人の親の転がし方上手くない?」

 

「へっ? なんで?」

 

「いや、お前の言葉でお母さんめっちゃ嬉しそうだったよ? こういうの、慣れてんの?」

 

「慣れている訳無いだろ? 猫は今までほぼほぼわんちゃん以外友達居なかったのだから、他人の家に行った事なども無いんだよ」

 

 そっか……ってか、あたし、いつからコイツに友達認定されてたの? 中学からの知り合いではあるけど、友達では無かっただろ⁉︎

 

 疑問を残しつつ、あたしの部屋へ辿り着き、猫宮が部屋の隅に荷物を置いた。

 

「お前、本当にカレー好きなの?」

 

 なんか、コイツの全てが信じられなくなって来てしまった。

 

「へっ? カレーは好きなんだよ。でも手羽元カレーってなんなんだよ? 猫の家では豚カレーが主流なんだよ。鳥などカレー粉の味に負けてしまうのではないか? わん母も、安いからといって鳥に頼るんじゃ無いんだよ」

 

 クソがよォォォォォォォォォォォォォォォォッ‼︎ ウチは手羽元カレーで生きて来たんだよ‼︎ 豚に負けてたまるかクソ野郎‼︎

 

 大した会話も無く、三十分くらい部屋で居心地の悪い静寂を過ごして居ると、ドアをノックされ、母からの報告を受けた。

 

「ご飯出来たよ! リビングにいらっしゃい」

 

 マジでやる事も喋る事も無いので、すぐさま二人でリビングに向かった。

 

「お父さんは?」

 

 リビングに着いて、母に問い掛けた。

 

「まだ帰って無いけど、あんまり猫ちゃんを待たせる訳にはいかないからさ。先に食べよう?」

 

 いつもは、父と母が揃ってから、三人で食事をするのが我が家のルーティーンだった。

 

「ね、猫……待ちます。お父さんの帰りを、待つんだよ……」

 

「良いのよ? お腹空いてるでしょ?」

 

「でも、いつもはみんなでご飯食べるのだよね? 猫、みんなで食べたいんだよ。その方が美味しいんだよ?」

 

「猫ちゃん……分かった。お父さん帰って来るまで、待っててくれるかな?」

 

「勿論なんだよ!」

 

 コイツ、マジで人の親の懐入るの上手くないか?

 

「ってか、それならお父さん帰って来るまでどうする?」

 

 母と猫宮に聞いてみた。だって、飯食うくらいしか時間潰せねぇだろ?

 

「お父さん、今日は遅くなるって言ってたのよね……」

 

 じゃあもう飯食おうよ? お腹空いたんだけど?

 

「マリオパーティーやるんだよ!」

 

 はっ?

 

「なんでそうなんの? ってかウチにマリオパーティーなんてねぇよ!」

 

「猫持って来たよ? ニンテンドースウィッチとソフトも! お母さん暫くこの類の物見たく無いって言ってたから、全部持って来たんだよ! コントローラーも四つあるから、みんなで遊べるんだよ!」

 

 コイツ……とんでもねぇもん我が家に密輸して来やがった。猫宮? お前と猫母の会話、ちょっと聞こえてたかんな? マリオパーティーって、麻薬みたいなもんなんだろ⁉︎ そんなもんを我が家に流通させるんじゃねぇよ‼︎

 

 ……でも、正直あたしも、もう一回やってみたい気持ちがある。

 

「猫、持って来るから待ってて!」

 

「あっ………」

 

 止められなかった。だって……あたし、マリオパーティーやりたかったんだもん‼︎

 

 猫宮がニンテンドースウィッチを我が家のテレビに繋いでいく。あたしと母は、それを呆然と眺める事しか出来なかった。

 

「さぁ! 楽しいパーティーの始まりなんだよ!」

 

 猫宮があたしと母にコントローラーを手渡した。三人でマリオパーティーという、今の時点では合法の麻薬に手を出してしまった。

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