百二十八頁 猫 拾捌 『良心の呵責』
百二十八頁
猫 拾捌
『良心の呵責』
わんちゃんには困ったものなんだよ。まさか猫の部屋で火事を起こすとは。でも、火が上がった時、猫を抱いて火から守ってくれたものだから、情状酌量の余地くらいはあるんだよ。
「この部屋、自業自得だとは思うけど、流石に消化器の粉まみれでどうしようもないねぇ」
「そうなんだよ。お母さんの部屋で寝て良い?」
「はっ? リビングで寝なさいアンタ」
えっ? 何故一緒に寝るのを嫌がるか⁉︎ 小さい頃はよく同じ布団で寝ていたではないか⁉︎
「リビングなど嫌なんだよ‼︎ お兄ちゃん達が夜遅くに帰って来て飯食うから、心が安まらないんだよ⁉︎」
「自業自得でしょうがアンタ⁉︎」
「だって、いつまでその生活続くの? もう猫の部屋は終わってるんだよ⁉︎」
「わんわんの前でよくそんな事言えたねぇ⁉︎ もう一回引っ叩いてやろうか⁉︎」
だって……だって⁉︎ 猫は悪く無いのに………リビングで寝て起きるのなど、猫は嫌なんだよ……
「ひっ……ひっぱたかれるの、嫌ぁ、嫌ぁ……で、でも、リビングで寝泊まりするのも嫌ぁぁ……」
「甘えてんじゃ無いよ‼︎ この世界には家無い人だって居るんだよ⁉︎ リビングで寝泊まり出来るだけ有難いと思いなさい‼︎ 罪を犯した癖に当たり前の様に暮らしていけるなんて思うなよ? 恵まれてるんだよアンタは今! ってかアンタ? 成人して一人で生きて行けるの? 言っとくけど、実家は二十歳になったら出てってもらうからね⁉︎」
でェェェェェェェェェッ⁉︎ そうなの⁉︎ 猫、二十歳になったらこの家出て行かないといけないの⁉︎
「新事実なんだよ……あと三年半しか無いではないか⁉︎ そんな……三年半でイチカがまともにひとり立ち出来るとでも母は思うか⁉︎」
「思わないわよ‼︎」
「思わないのになの⁉︎ 猫……イチカは、お母さんと離れたく無いんだよ……」
「そんな、情に訴えかけて来るんじゃ無いよ⁉︎ 取り敢えず、この世界は冷たいの。アンタは暫くリビング行きよ」
そんな……リビング行きは、カイジで言う地下労働施設送りと同義なんだよ! 猫嫌なんだよ? 猫……チンチロで班長のイカサマ暴く事なんて出来ないんだよ⁉︎
「あ、あたしの家とか、どうですか?」
あれっ? わんちゃん?
「そんな⁉︎ こんな迷惑まで掛けて、こんな放火殺人未遂の我が子を預かってもらうなんて出来無いわよ‼︎」
母は叫んだ。猫はわんちゃんを庇ったのだけれども、ちょっと待って? 猫は母に、放火殺人未遂というレッテルを貼られてしまっていたのか⁉︎ いやこれ、どう考えても庇い損なんだよ⁉︎
「だ、大丈夫です。友達、だから……何かあった時に、助け合うのが、友達、だから……」
自分で火をつけておいて、良く言えたものだよ。
「イチカ⁉︎ こんな事言ってくれる子居ないよ⁉︎ 友達を、大事にしなさいね?」
その言葉は、是非ともわんちゃんに刺さって欲しいものなんだよ。あっ、刺さってるっぽい。涙ぐんでるんだよ。
「じゃあ、わんちゃんの家に泊まるんだよ。着替えとか持ってかないと……白いなぁ……」
消化器の粉で猫の部屋は真っ白なんだよ。
「じゃあわんちゃんの家に泊まるんだよ、白いなぁ、じゃ無いんだよ‼︎ ここは泣きながら感謝を伝えるべき所でしょうが⁉︎ やり直しなさい‼︎」
えぇぇ……猫悪く無いのに。わんちゃんなんか、庇わなければ良かった。
「あ、あの……わんちゃん?」
「イヤッ‼︎ マジもう嫌‼︎ 謝られるのとかマジもう勘弁なんで‼︎ マジで、マジで、良心が、良心がさァァァァァァァァッ⁉︎」
流石に良心に響くのか? 急にわんちゃんがヒステリックになった。これで何とか収まる? 猫? もう謝らなくて良い?
「両親⁉︎ やっぱり両親は許してくれないよねぇ⁉︎」
んっ? 何故母はわんちゃんの良心にそこまで拘るか?
「良心は、やっぱり許せないみたいです。あたし、あたし……」
「やっぱり、許してくれる筈無いわよね? イチカ? あたしも一緒に行くから、わんわんの両親に一緒に謝りに行こう」
わんちゃんの良心に一緒に謝りに行く? 母は何を言っているのか? 精神世界の話しをしているのか?
「えっ⁉︎ もうこれ以上謝られると良心がしんどいんで、そういうの本当にやめて下さい」
「これ以上ってまだ一回も謝っていないのだけれども⁉︎ ……それでもわたしはあなたの両親に、ちゃんと面と向かって謝らなければならない義務があるんだよ‼︎」
お母さん譲らんし……どうしよう?
「あたしの良心は、これからちゃんと罪を償って行くので、出来れば、ここで見送って欲しいです」
「わんわんのご両親が罪を償っていく⁉︎ どういう事⁉︎」
「あたしは、この良心の呵責と向き合って生きていきます」
「かしゃく⁉︎ 何なのさそれ⁉︎ ちょっとサファるわ……なになに? 責め苦しむ事……えっ? 調べてもよく分からんし! 両親と何があったのさあなた⁉︎」
母は、ググると同じ意味でサファると使っている。
「自問自答を繰り返して、自分に出来る事を探しました。猫宮イチカちゃんを、あたしの家で預からせて下さい」
異次元過ぎて、二人が何を喋っているのか良く分からないんだよ。
「ちょっと良く分かんないし、わんわんが良いなら……イチカを宜しくね?」
「はい。猫宮に悪い思いはさせません!」
「そこまで……ウチの馬鹿娘が悪いのに。ごめんね……」
「いや本当、すいませんでした」
「えっ? なんなの? ……本当、ごめんなさいね?」
「すいませんでした……」
「はぁ? 本当になんなの? あの……ウチの馬鹿娘がごめんなさいね?」
「本当、すいませんでした……」
「えっ? なんなの⁉︎ こっちが悪いのにすいませんすいませんってさ? マジウザいんだけど⁉︎ ウザいとか言っちゃった⁉︎ ってかイチカ? 死んだおじいちゃんとおばあちゃんが遺してくれたこの家も、築百年越えてるのよ。近々リノベーションするつもりだったから、その時についでにアンタの部屋も綺麗にしてもらうから」
「へっ? そうなの?」
「まだもうちょっと先の話しだったんだけど、アンタの今の粉まみれの部屋片付けるの面倒臭いから、リノベーションの時まとめてやってもらうわ。要る荷物だけは取っておきなさい」
「え、うん……それっていつ頃の話しなの?」
「まぁ数ヶ月後の話しよ。また連絡するから。……わんわん? アンタはなんて優しい子なんだろうね? イチカを、宜しくね?」
「は、はい……」
「何か不備があったらすぐに言ってね⁉︎ 速攻連れ戻して、リビング行きにするから」
「ヒィィィッ‼︎ リビングは、嫌ぁ……」
「ね、猫宮? 荷物まとめるの手伝うよ。そうだよな……リビングは、嫌だよな?」
って事で、何故か猫は、わんちゃんの家に居候する事になった。




