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スクリーム・ノート III  作者: 藤沢凪
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百二十七頁    犬 拾肆   『火、火、火』

 百二十七頁

 

 犬 拾肆

 

『火、火、火』

 

 あれ? 気が付いたら誰かの部屋のドアの前なんだけど?

 

「はぁ……ここが猫の部屋なんだよ」

 

「へっ? 猫宮の部屋⁉︎ あたし何でこんな所まで……」

 

 訳分かんねぇ⁉︎ あれか? マリオパーティーか⁉︎ アレであたしを気持ち良くさせて、部屋に誘き寄せる作戦だったのか⁉︎ まんまとやられたわ! だって今の今まで気持ち良くて声出せなかったもん!

 

 何のつもりだよ? こんな所まで連れて来やがってよぉ⁉︎ クソがっ……ってかコイツが自分の部屋にあたしを招き入れたい理由って何? ちょっと分かん無いけど。でも、これ以上舐められ無い為に、アレを出すしか無い様だな?

 

「やっと正気に戻ったか? それなら、我が家に帰るんだよ」

 

 部屋の前で我が家に帰れと言われた。ハァッ⁉︎ お前がここまで連れて来たんだろ⁉︎ ちょっと待て。猫宮お前、ちょっと前から苛ついてんだよ‼︎

 

「なんで? お前の部屋、紹介しろや」

 

「えぇっ? なんなんだよコイツ⁉︎ 猫に用など無い筈だろ? 何故猫の部屋に入りたいか⁉︎ 意味が不明なんだよ⁉︎」

 

 お前あたしの事コイツって言ったなァ⁉︎ 完全になめてんだよなァァァ⁉︎

 

「取り敢えず部屋入れろや‼︎ 嫌がんなよ‼︎」

 

「まぁ別に……良いけど……」

 

 嫌そぉ……いや、マジ、意味不明。お前何がしてぇんだよ⁉︎

 

「お邪魔しまーす」

 

 ってか汚ねぇ部屋だな? 床に服とか本とかぬいぐるみ落ちてんだけど? 床に物置く奴許せねぇんだけど? 掃除し辛いじゃん? 毎回それ退けて掃除する訳? ってか掃除なんて絶対して無いわコイツ。

 

「お前さぁ? そんな埃は無いっぽいけど、部屋散らかし過ぎだろ‼︎ お母さんが掃除してくれてんだろ? あんま散らかすなよ?」

 

「はっ? そういうの、面倒臭いんだよ。わんちゃんにとやかく言われる筋合い無いんだよ!」

 

 コイツ、最近何かと反抗して来やがる。苛々すんなぁ? あたしの方が上だって、分からせてやんよ‼︎

 

「はぁ……まぁ良いわ。ちょっと一服させてもらうから?」

 

「んっ? 一服? どゆこと?」

 

 あたしは、ポケットに忍ばせていたセブンスターという煙草とライターを取り出し、箱から一本取り出して口に咥えた。

 

「煙草吸わせてもらうわ? 親には言うなよ?」

 

「煙草……? わんちゃん?」

 

 ケッ、ヒヒッ⁉︎ ビビってやがる‼︎ コンビニで買う時めちゃくちゃドキドキしたけど、その壁を乗り越えられて良かった。

 

「あぁー、あたし、煙草吸うんだよね? ヤニ切れてんだよ。吸わせてもらうから!」

 

「またそうやって強がって……普通に迷惑だから止めて欲しいんだよ」

 

 はっ⁉︎ あたし、別に強がってなんか無いし‼︎

 

「強がりだと⁉︎ いつも吸ってっからァァアッ‼︎ ほら? 見とけよ? こーやって火をつければ良いんだろ? んっ? うぅぅん……ホラッ! 出来た‼︎ ハハッ、アハハハハハハハッ‼︎ オラッ‼︎ あたし煙草吸うんだよ‼︎」

 

「ってか、了解も得ず火をつけて吸い始めるとか人としてどうかと思うんだよ。わんちゃんの事、猫は結構好きな方だったのに、マジで嫌いになるレベルの事してるんだよ」

 

 へっ? ビビら無いの? マジで嫌いになるとかちょっと傷付くんだけど⁉︎ ってか結構好きな方だったの⁉︎ このままじゃやり損じゃん⁉︎ 猫宮がビビらなきゃ意味ねぇんだよ‼︎

 

「や、ヤニ切れてっからさぁ‼︎ もう一本吸うわ‼︎」

 

 もう一本煙草を取り出し、口に咥えて火をつけた。二本の煙草を同時に吸い、格の違いを見せつけてやった。

 

「またそうやって意地張って……灰皿は? 猫の部屋にそんなもの無いんだよ!」

 

「灰皿? これだから一般ピーポーは! そんなもん要らね、ティッシュで包んで火消すんだよ」

 

 クククッ、ビビってるビビってる‼︎ 効果絶大だわ! 煙草という文化にマジ感謝!

 

「へっ? 熱くない? ティッシュで包む? 燃え移らないかな?」

 

「これだから素人は! 猫宮? よく見とけよ?」

 

 近くのティッシュ箱から三枚程抜き取り、口に咥えている煙草を一本指で摘み、火が付いてる部分を包んで握り潰した。

 

「あっツァッ⁉︎」

 

 熱ッ‼︎ なんじゃコレ⁉︎ 火ってこんなに凶暴な存在だったのかよ⁉︎

 

「あっツって言ったよね? わんちゃん……」

 

 ヤベッ、床に落としてしまった……まだ燃えてる。や、ヤベッ! ヤベッ! ヤベェェェェェェェェェエッ‼︎

 

「あっ、あ、あ、ハァァァァァァァァァァッ‼︎ ハァハァ……良かった……」

 

 床に落ち、包んだティッシュと共に燃え盛り始めた煙草を掌で何べんも叩いて鎮火させた。あたしのお気に入りのクマさんトレーナーは、冷や汗でビショビショになった。

 

「わんちゃん右‼︎」

 

 右⁉︎ 右から何来んの⁉︎ フックでも飛んで来んのかよ⁉︎

 

 咄嗟に右を振り向いたのだが、特に何も無かった。

 

「んだよ右って⁉︎ 猫宮テメェェッ‼︎ 人がバグってる時に茶々入れんじゃねぇ‼︎」

 

 あっ、焦ってた事バラしちゃった。ってかマジで、マジ焦ったわ……火って、怖ぇ……あんな消えないもんなんだな?

 

 …………あれ? 何か、焦げ臭くない? ……あれ? あたし、もう一本の火つけた煙草、何処にやったっけ?

 

「いや右下‼︎ めちゃ燃えてるんだよ‼︎」

 

「えっ? イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎」

 

「イヤ⁉︎ それはこっちのセリフなんだよ‼︎」

 

 いつの間にか唇から離してしまった煙草が、右下に置かれていた汚れたピンク色の象のヌイグルミに引火して燃え盛っていた。

 

「ぬ、ヌイグルミに、ヌイグルミがァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎」

 

「あっ、あっ、パオン太ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ⁉︎」

 

 名前付けてやがった⁉︎ ぱ、パオン太? ……あの、パオン太? 燃やしちゃってごめんなさい。

 

「あっ、あっ、ヤベッ、ヤベェェェェェェェェェェェェッ‼︎」

 

 や、ヤベェェェエッ‼︎ あ、あたし、どうすれば? どうすれば⁉︎

 

「何してくれてるんだよわんちゃん⁉︎ 猫の部屋が‼︎ ね、猫の部屋が……」

 

 ごべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん‼︎ い、いや……え、え、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん……火、怖ぇ……

 

 パオン太は黒炭になり、火はゴールデンレトリバー程の塊になった。

 

「火、火、ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ‼︎」

 

 火はあっという間に横に広がり始め、炎のゴールデンレトリバーが二匹に増えた。

 

「あっ、あっ、お母さァァァァァァァァァァァァァァァァァァん‼︎」

 

 猫宮が母を呼んだ。ヒーローじゃあるまいし、もうどうにも出来ないよ……でも、せめて、コイツが、猫宮が少しでも綺麗な姿で葬式を迎えられる様にしたい。

 

「猫宮ァッ‼︎」

 

 あたしは猫宮の身体を抱き締め、炎の燃え盛る方角に背を向けた。その時、ドアが開く音がした。

 

「呼んだ? ってかなんなのコレ⁉︎ ほんのちょっとだけ待ってなさいアンタ達‼︎」

 

 ヒーローきちゃぁァァァッ! ってほんのちょっと待ってってどんくら——

 

「おんどりゃぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ‼︎」

 

 すぐ来たァァァァァァァァァァァァァッ‼︎ 猫宮母が消化器持って来たァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎

 

 猫母が消化器で火を消してくれてる。

 

「ね、猫宮⁉︎ 大丈夫か⁉︎」

 

「あぁ……く、苦しいんだよ。わんちゃんもっと優しくして……」

 

「へっ⁉︎」

 

 全力で猫宮を抱き締めてた。苦しかったかごめん……でも、そのまま猫宮を抱いて、部屋から避難した。

 

「あぁ……わんちゃんは本当、滅茶苦茶やってくれるんだよ……」

 

 部屋の外まで避難した後に、当たり前の罵倒を受けた。

 

「ごめん……猫宮、ごめんなさい」

 

 他人の家に、火をつけてしまった。これって、放火って罪に分類されるんだよね? 分かん無いけど、放火って殺人よりも罪が重いんだよね?

 

 ……お父さん、お母さん、ごめんなさい。あ、あたしのせいで……鬼の様な借金を背負わされるのかもしれない……あたしの、あたしのせいだ……

 

「何してんのアンタ達⁉︎ 何があったのさ⁉︎」

 

 ヒーローが、詳細を訪ねて来た。

 

「火、消えた?」

 

 猫宮が我が母に問うた。

 

「消えたよ。消化器置いとくもんだね!」

 

「お母さん、ありがとう」

 

「何で、火がついたのさ?」

 

 それは……

 

「ご、ご、ご、ごめ——」

 

 謝ろうとした瞬間、猫宮があたしの髪の毛を掴んで引き寄せた。そのせいで、猫宮の母に、ちゃんと謝れ無かった。

 

「イチカがね? 道でマッチを拾って、これ面白いんだよぉ? っとか言って遊んでたら、パオン太に引火してしまって、それからは見ての通りなんだよ」

 

 …………

 

 ヴェチィィィィィン‼︎

 

 猫母が、猫宮の頬を思い切りぶった。

 

「アンタ⁉︎ それでわんわんに怪我させてしまったとしたら、責任取れんの? もしも、それでわんわんが死んでしまったら、わたし達家族が全員首吊ったとしても、許してもらえないよ。分かってんのかい⁉︎」

 

「う、うぇぇぇぇぇん……お母さん、ごめんなさい」

 

 猫宮が泣き出した。あたしも涙が溢れて来た。

 

「あっ、わんわんごめんね? ウチの馬鹿娘が怖い思いさせちゃって……いや……こんなの、謝っても謝りきれない……」

 

 え、え、だって⁉︎ あたしが、あたしが‼︎

 

「ち、違うんです‼︎ あ、あたしが——」

 

「猫のせいだからァァァ‼︎ 猫がわんちゃんの家に行って土下座して謝るから……」

 

 何だよコイツ⁉︎ 庇って、くれてんのか⁉︎ くれてんねぇ⁉︎ あたし、あ、あたしどうすれば……

 

「それで許してくれる筈無いでしょ⁉︎ ちゃんとわたしも行って、二人で土下座して許して貰えるかどうか……」

 

 猫宮が、ツンツンと指であたしの太ももに合図した。庇って、くれるんなら。

 

「そんなの大丈夫です! 別に、今回の事言うつもり無いので……」

 

 こう立ち回った方が、良いんだよね?

 

「本当に良いの……? わんわん? ……イチカ? 頭下げなさい! 土下座してわんわんに謝りなさい‼︎」

 

 あ、あのっ……良心が痛くなるんでそういうの止めて下さい!

 

「わんちゃん……ごめんなさい……」

 

 い、痛い、痛いよ‼︎ 良心が痛い‼︎ 何一つ悪く無いのに、猫宮が土下座して謝って来た。

 

「本当に、すいませんでした‼︎」

 

 猫母まで土下座して謝って来たァァァァァァァァァァァァァッ‼︎ あ、あ、あたし、あたし……ごめんなさい……ごめんなさい‼︎

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