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スクリーム・ノート III  作者: 藤沢凪
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百二十五頁    犬 拾参   『ファッションセンス』

 百二十五頁

 

 犬 拾参

 

『ファッションセンス』

 

 あたし、カースト低いんじゃね?

 

 何かさ、猫宮にすら舐められてる気がするんだけど? 気のせいかな? 気のせいだよね⁉︎ ってかこないだ後輩の猿の二人にまで煽られたんだけど⁉︎

 

 なんだかんだ、二年生になって二ヶ月経ちましたと。ちょこちょこクラス内でもグループが出来ていき、あたしは、女神の居るグループに属している。それは良い! 上出来だよ! 多分、このグループ。女神、天使、十六文字、あたし、兎咲、猫宮が所属するこのグループがクラス内で最上位の筈だ! なんせ女神が居る‼︎

 

 まぁ……性格はアレだけど……別荘に行った奴ら以外は女神の異常性を知らない。女神は、カリスマ性を持っている。完全にクラスの花形なんだ! そんな女神の率いるグループにあたしは属している。それは誇り高き事だった。

 

 ただ……そのグループ内にもカーストあんじゃん? あたし知らなかった。上位グループに属せれば、高校生活を豊かに過ごせると思ってたんだよ。

 

 猫宮って、このグループの中で兎咲と最下位争いしてる感じだよね? そんな猫宮に舐められたら、あたし、ゴミ漁りと最下位争いする立場になるって事?

 

 ナニソレ? 許せねぇ。猫宮アイツ、どっかの場面で思い知らせてやんないといけない。あたしが、お前よりカーストの上位に居る事を。

 

 六月二回目の日曜日、天使と猫宮の三人で会う予定だったのだが、天使が急にドタキャンして来た。もう、集合場所に着いてるのに……

 

 あたしはしょうが無く、待ち合わせ場所の喫茶店デリシャス美味で、アイスコーヒーを飲み終わっていたので、セルフの水を汲んで来てチビチビ飲んでいた。

 

 カランコロン

 

 入口のドアの開閉音だ。振り返って見てみると、猫宮があたしを見て、不服そうな顔をして近寄って来た。

 

 はっ? 何でお前にそんな顔されないといけないんだ?

 

「はぁ……わんちゃん? 天羽から連絡来ただろ? あいつは今日来ないんだよ。何故来たか? わんちゃんは天羽目当てなのだろう? 猫はこんな集いどうでも良いのだから、天羽が来ない時点で今日はお開きなんだよ。何故愚直にアイスコーヒー代まで払ってこの場に訪れるか?」

 

 これって、煽られてる? ちょっと分かんない! 有識者の意見聞きたいし! まだ良く分かんないよね? 様子見てみよう。

 

「いや、だって! ここ着いてから天使のメール来たし!」

 

「はっ? 天羽のメールが来たの三十分以上前なんだよ⁉︎ それより前からここに来てたか⁉︎ わんちゃんいつからここに来てたか⁉︎」

 

「天使からメール来る十分以上は前だったし‼︎ うん、絶対そうだったし!」

 

「へっ? 猫の予想を上回る答えが返って来たんだよ……わんちゃん? まさか長い方が良いと思って無いよね?」

 

「なに? どういう事?」

 

「いや、わんちゃん家反対なのにどんだけ早くから家出てこっちまで来たんだよ? そういうの、気持ち悪いんだよ⁉︎」

 

 き、き、気持ち悪いだと⁉︎ コイツ、マジ最近言葉の使い方がなってねぇな?

 

「あたしが気持ち悪いだと……? お前さぁ? よく人にそんな事が言えたもんだな?」

 

「へっ? どういう事?」

 

「まぁ座れよ。お前自分の事客観視出来てる? どう考えたってお前の方が気持ち悪ぃだろ? あたしの気持ちも考えろよ? 自分よりも気持ちの悪い人間に気持ち悪いと言われたあたしの気持ちも考えてみろよ?」

 

「はぁ……」

 

「分っかんねぇかぁ? だってお前、自分の事客観視出来て無ぇもんなぁ? そりゃあたしの言ってる事が理解出来ないのも仕方ないわ!」

 

「えっ? わんちゃんって自分の事客観視出来てるの? 人からの目とか、そういうの考え無い人間なのだと思っていたんだよ」

 

 はっ? コイツ何言ってんの? ってか座れって言ってんだから座れよ‼︎ 何でずっと立ってんだよ⁉︎ 帰りたがんなよ‼︎

 

「あの? ご注文は……?」

 

 あっ、店員がオーダー催促しに来た。ってかコイツは……

 

「あっ、亀ちゃんではないか! 天羽の友達なんだっけ?」

 

「へっ、えぇ、まぁ……」

 

 ってか、確か二組の子なんだよね?

 

「あっ、悪いのだけど、猫はすぐ店出るから、注文したく無いんだよ」

 

 だからコイツ座らなかったのか。

 

「へっ? まぁそれでしたら……」

 

「ちょっと待てよ猫宮?」

 

 会話に横槍を入れてやった。

 

「へっ? 何? わんちゃん」

 

「あたし、待ってたんだけど? ってかお前に話しあるから、一杯くらいコーヒー飲んでけや」

 

「話し? 猫には無いのに。それでコーヒー代取られるのなど嫌なんだよ。それともわんちゃんが払ってくれるか?」

 

「何でそうなるんだよ⁉︎ あたしはお前を待っててこのコーヒー代取られんだぞ⁉︎ お前もその位身銭切れや‼︎」

 

「空のコップを指さされても信憑性に欠けるんだよ! わんちゃんはずっとその横の水をさっきから飲んでいたでは無いか‼︎」

 

「ちゃんとコーヒー頼みましたぁ‼︎ ねぇ? 亀水さん? そうだよねぇ⁉︎」

 

「あっ、はい。まぁ……」

 

「コーヒー一杯で四十分も粘られたら、商売あがったりなんだよ」

 

 テメェ……確かに一杯しか頼んでないから言い返せねぇけど。

 

「一杯も頼んでねぇ奴に言われたく無ぇんだよ‼︎」

 

 これならどうだ? 一応言い返してみた。

 

「はぁ……わんちゃんには困ったものなんだよ。亀ちゃん? 猫は苦い物など飲めないのだから、苦みゼロの甘いやつを注文したいんだよ」

 

 猫宮が椅子に座った。よっしゃ勝った! 言い負かしてやった‼︎

 

「苦みゼロ……オレンジジュースで良いかな? じゃなくて、良いですか?」

 

「同級生ではないか。タメ語で良いんだよ。あと、オレンジジュースで良いんだよ」

 

 確か亀水? が厨房に去って行った。

 

「で、話しってのはなんなんだよ?」

 

 な、何コイツ……? 何か堂々としてない? ちょっと前まではあたししか話し相手居なかった癖に。いつからそんなに肝が据わったんだよ……

 

「お前さぁ……なんか、あたしよりさぁ、なんか……良い女? 良い女気取ってない⁉︎」

 

 へっ? 何? あたし、今声震えそうになったんだけど⁉︎ なに? マジで、今のなんなんだよ⁉︎

 

「良い女を気取っている? わんちゃん何言ってるんだよ? 意味が不明なんだよ。猫の頭でも理解出来る位分かりやすく言って欲しいんだよ」

 

 良い女気取ってるって何⁉︎ あたしも全然意味分かんない‼︎ あたしそんな事言ったっけ? 言って無い言って無い‼︎ いや、言ったか……? あっ、言ってたわ! ナニソレ。分かりやすくとか言われても、あたし自身が意味不明なのに説明しようが無いのよ!

 

「あっ、あっ、そうかぁ! 猫宮? お前馬鹿だから理解出来ねぇよなぁ? すまんかったすまんかった! お、お、お前! 馬鹿だからさぁ⁉︎ なっ? なぁ⁉︎」

 

 猫宮が、「はぁぁぁ……」と小さく溜息をついて言った。

 

「ねぇわんちゃん? 猫だから良いけど、他の人にはそんな言い方するもんじゃ無いんだよ? 当たり前の様に人を馬鹿と罵るけれど、受けた本人は傷付くだろうし、周りで聞いている人間だって不愉快になるんだよ」

 

 めっちゃまともな事言われた……ごめん! 自分の訳分からん言葉に振り回されて馬鹿連呼しちゃったのよ‼︎ ……じゃなくて‼︎ 押されてる……あたし、まともな筈なのに。何でこんな変な奴に諭されなきゃいけないんだよ⁉︎

 

「猫宮? お、お前はさぁ? あたしの下だよな? あたしの下で居てくれるよな?」

 

 はっきり言ったぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎ だって不安で、切なくて苦しくて心許なくて……何が何やら訳分からんくてはっきり言ってしまったわ‼︎

 

「本当この女は……まだ猫を煽るか? 何故あんな優しいご両親からこんなモンスターが産まれたか……救いようが無いんだよ」

 

 見限られたァァァァァァァァァッ‼︎ あ、あたし……何を間違っていたのかとか分かんないから‼︎

 

「あっ、オレンジジュースだよ……」

 

 亀水が先ほど猫宮が注文したドリンクを持って来た。

 

「あっ、亀ちゃん?」

 

 猫宮が、ドリンクを置いて席から離れようとする亀水を呼び止めた。

 

「……なに?」

 

 亀水? 眉間に皺寄ってんぞ? そんなにあたし達と絡むのが嫌か?

 

「亀ちゃんに聞きたい事があるんだよ」

 

 何だ急に? 亀水が渋々近寄って来た。

 

「何だろう?」

 

 亀水が恐る恐る猫宮に問い掛けた。

 

「猫とわんちゃん。どっちがオシャレだと思う?」

 

「えっ?」

 

 はっ? ナニソレ? 猫宮? 何故急にそんな事が聞きたくなった?

 

「猫宮、お前何がしたいんだよ?」

 

「亀ちゃん? お客さんなどという気を遣わなくて良いのだよ?」

 

「えっ……まぁそれで良いんなら、猫宮ちゃんで」

 

 即答⁉︎

 

「はっ? えっ、亀水さん? 今、ダサい方を選んだんだよね?」

 

「正気かわんちゃん? そんなクソダサトレーナーを着て来ておいて、自分がオシャレだとでも思っていたのか?」

 

「アァッ⁉︎ このトレーナーのどこがクソダサなんだよ⁉︎ 言ってみろやテメェ‼︎」

 

「ちょっとわんちゃん⁉︎ あんまり大声出すもんじゃ無いんだよみっともない。何処がダサいかって、まずはそのトレーナーの中央に堂々と君臨しているクマさんがダサ過ぎなんだよ」

 

「はっ⁉︎ 可愛いだろぉが⁉︎ この愛くるしいクマさんがダサいだと……あとお前、どさくに紛れてみっともないとか言いやがったな?」

 

「別にどさくさに紛れさせようとなどしていないんだよ。わんちゃん? 大声を出すなよみっともない」

 

「随分煽ってくれるじゃんテメェェェッ⁉︎ なぁ亀水? このトレーナー、ダサく無いよなァッ⁉︎」

 

「えっ……僕は、そのトレーナーに関しては、別に可愛いとは思う……えっ、これってなんて言ったら正解なの?」

 

 困惑すんなよ。

 

「オラ猫宮ァッ‼︎ このトレーナー、可愛いんだってよォッ!」

 

「うーん……猫的には、何故そんな色褪せた水色のトレーナーに、ダメージジーンズを合わせるのかが謎で仕方無いんだよ。靴はクロックスだし……」

 

「トレーナーの色と合わせたんだけど? ってかクロックス楽じゃん⁉︎ 靴履くと蒸れるんだよ‼︎」

 

 ってか、ダメージジーンズって何? そんなカテゴリあんの? これはただ長年履いてて、膝小僧の所が破れちゃっただけなんだけど?

 

「ってかわんちゃん? そのクマさんも洗濯し過ぎで本来の色を失ってるし、所々糸がほつれてるし。服にも寿命というものがあると思うんだよ。その子はもう、安らかに眠らせてあげた方が良いと思うんだよ……」

 

「テメェのモノサシで言いたい事言うんじゃねぇよ? お母さんが買って来てくれた服悪く言うんじゃねぇ‼︎」

 

「ヒィィィィィィィィィィィッ‼︎ 高校二年にもなってお母さんの選んだ服着てるのわんちゃん⁉︎」

 

「めっちゃ驚くじゃん⁉︎ だって、嬉しかったんだもん‼︎ お母さんが、中一の時に、クリスマスプレゼントで買ってくれた服なんだもん‼︎」

 

「なっ⁉︎ そんなエピソード出されたら悪く言い辛いでは無いか‼︎ そういうの狡いんだよ‼︎ ってか中一? なんていうか……お母さんの事を悪く言うつもりは無いんだよ? それだけは分かって欲しいんだよ。ただ、そのトレーナー洗濯し過ぎなんだよ。皺寄ってるし、色も褪せてるし、クマさんそれ茶色でも無いよ? いつまでも一軍でいさせるのは逆に気の毒だと思うんだよ」

 

「この子はまだ戦える‼︎ 古着とかあんじゃん⁉︎ そういう着こなしなんだよあたしは‼︎」

 

「古着とかああいうのは、オシャレ上級者がやるもんなんだよ。ってかわんちゃんのそれは、ただ着古しただけなんだよ。そういうものを古着とは呼ばない。猫もその違いなどよく分からないが、お店で買った古着と、自分が長年使い込んで劣化したモノを一緒にするんじゃ無いんだよ⁉︎ 聞いてて恥ずかしくなるんだよ……」

 

「あ、あたしのこの服が……ダサい……」

 

「あ、僕は仕事に戻るから……」

 

 亀水が離れて行った。

 

「あと、余程お気に入りなのかもしれないのだけれど、毎回その服装だよね? わんちゃん他に服持って無いの?」

 

「ってか何で急に服の話しなんかし出したんだテメェ⁉︎」

 

「わんちゃんが猫の事客観視出来て無いとか言うから! それなら、あなたのファッションセンスどうなの? という問題を提起したかっただけなんだよ……だってわんちゃんの服装は——」

 

「もういい……それ以上言うなよ……」

 

「あっ……何か……ごめんね。わんちゃん……」

 

 コイツに気を遣われる日が来るなんて、思ってもみなかったよ。

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