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スクリーム・ノート III  作者: 藤沢凪
22/50

百二十二頁    鳥 拾捌   『家族』

 百二十二頁

 

 鳥 拾捌

 

『家族』

 

 私は、考え過ぎていたみたいだ。真央が母親と会ったら、心が壊れてしまうと思っていた。違った。真央は、私が思う何倍も強かった。っていうより、私が思う何倍も被害妄想が強かった。

 

 普通、真央母の話しを聞いたら、自分を見捨てたんだって、他人に責任を投げたんだって思う筈なんだ。なのに、真央は、自分の事を想ってくれたって、ありがとうって言って泣いていた。マジ、ありがとうのハードル低すぎだろ? 正直、話しを聞いていて、真央母から、子供の為を思ってって気持ちは伺え無かった。ただ単に、ここまでやったんだから責められる筋合い無いでしょ? っていう気持ちが垣間見えた。私はただただ、軽蔑した。

 

 でも、真央は、涙を流しながら、感謝を伝えた。真央母は、震えていた様に感じる。私、あの時号泣してたからよく分からないけど、きっと真央の気持ちは伝わった筈だよ。それで、真央母が改心して、真央にも、優しくしてくれれば良いのに。

 

「鈴香お姉さん。ありがとう。お母さんの、愛を知る事が出来ました」

 

 そもそも、愛のハードル低すぎたんじゃないの? でも、本人が嬉しそうだからいっか。

 

「真央ちゃん? いや、真央。あなたの事は、私が一生面倒見て行くからね?」

 

 お母さん。頼もしいよ。

 

「優子も、ありがとう。隣に居てくれなかったら、私、きっとオカシクなっちゃってた」

 

「良かった。オカシクならなくて。これから、ずっとウチで暮らして行くって事で良いんだよね?」

 

 母に聞いてみた。

 

「うん! 真央ちゃん? あなたは、私達の家族よ!」

 

 ただの高校生じゃ、こんな結末にはならなかった。血が繋がっていたから、真央を地獄から救う事が出来た。嬉しかった。急に出来た妹の事を、幸せにしたいって思った。違う。私が妹か? たまにどっちだったっけってなるわ。

 

「……ありがとう、ございます」

 

 んっ? どうした? 何か、含んだ様な喋り方するんだな?

 

「真央ちゃん? なにか、不安な事があるの?」

 

 母も何かを感じ取り、真央に聞いた。

 

「……お父さん。お父さんも、助けてはもらえないですか?」

 

「お父さんって……英治の事じゃ無くて、って事だよね?」

 

「はい」

 

 なんで? お前を自殺させようとした父親なんだぞ?

 

「放っとけよ! 真央? 今まで何されて来たか分かってんのか?」

 

「でも、ここまで私を育ててくれたの」

 

「育ててねぇじゃん? 放ったらかしにされてたんだろ⁉︎」

 

「……あんな人だけど、私は、あの人以外、家族を知らないから」

 

「真央? 私達があなたの家族。それじゃあ、納得は出来ないのかな?」

 

 母が問い掛けた。

 

「鈴香お姉さんも言ってましたよね? 愛って、日々のコツコツとした積み重ねだって。私には、無いんです。お父さんとの思い出しか、無いんです。それに、悪い事だけじゃ無かったんです。良い事だって、あったから」

 

「……分かった。でも、あなたのお父さんももう大人なんだから、私達が面倒を見るっていうのは違うと思う。でも、もしかしたら、英治の所で何かしら仕事があるかもしれない。その前に、お酒に依存している今の状況を改善しないと」

 

「はい!」

 

「その人も、私達の罪の被害者なんだと思う。でも、だからってやって良い事と悪い事があると思う。私も、優子の意見と同じ、自業自得だから、放って置けば良いって思った。でも、あなたは助けたいのね? 酷い仕打ちを受けて来た筈なのに、お父さんを助けたいと思うのね?」

 

「私……やっぱり、お父さんの事見限るなんて、出来ないから」

 

「お父さんに、何か意見を言った事ってある? 怒った事って、ある?」

 

「怒った事……無いです。意見は、この前優子と一緒だった時、初めて言いました」

 

 目を見て話してよ、って言った事か。真央の中には、多分……

 

「きっと、あなたの心の中には、恐怖が植え付けられているんだと思う。お父さんに逆らう事への、恐怖が植え付けられている。きっと、私達の言葉は、あなたのお父さんには通じないよ? 真央が、向き合って話しをしないと、変えられないんだよ?」

 

「はい。私、お父さんと、ちゃんと向き合います」

 

「そこまで……分かった! 真央のお父さんが、お酒を断って、頑張ろうってなるんだったら、働く場所も、住む所だって私達がなんとかする!」

 

「お母さん⁉︎ そんな約束、守れるの?」

 

 勢いで言ってるんじゃ無いんだよね? 一応母に探りを入れてみた。

 

「仕事は英治が何とかする。優子? あなたがいつも言う様に、確かにあの人はクソ親父だよ。でも、仕事にだけは本気で向き合ってる。それは、あなたも良く分かってる事でしょ?」

 

「え、まぁ……」

 

 蛇喰商店街でクソ親父の商店街復興プロジェクトとかいう謎の仕事の手伝いしてるけど、最近、あの商店街、子供連れ増えたなって思うよ。通りに人が、笑顔が増えて、少しずつ活気が出て来た様に感じていた。

 

「家は、いざとなれば、英治の不倫部屋でなんとかなる。なんなら、この家の英治の部屋を真央に使ってもらって、不倫部屋で真央のお父さんと二人暮らししてもらうのも良さそうだな」

 

「ちょっ! お母さん⁉︎ 不倫部屋あったのも初耳だし、今までそんな話しして来なかったじゃん⁉︎ 急にどうしたの?」

 

 母の情緒が心配になった。

 

「だって、涼子との話し全部聞かれてたのに、今更無かった事みたいに話すのおかしいじゃない? もう良いでしょ? 優子も大人になったんだし、私も、家族に嘘吐いてるみたいで苦しかった」

 

「え、そっか。お母さんの、一番生きやすい様にするのが、私は良いと思う!」

 

 お母さん、やっぱり辛かったんだ。

 

「ふふっ、優子、本当にお母さんが好きなんだね?」

 

 真央? 何からかって来てんだよ?

 

「悪い?」

 

「羨ましかっただけだよ。怒った?」

 

 あっ、そんな言い方されたら何も言えないよ。

 

「別に。ってか、本当に大丈夫か? アル中の父親と向き合えんのかよ?」

 

「うん。もう少しオブラートに包んでくれると嬉しいな。きっと、分かってくれると思うんだ。私しか、お父さんを救える人は居ないから」

 

「私も、協力するよ」

 

「心強いな」

 

 それから、母はクソ親父と、私は真央と晶とさやかの四人で話し合いを進めていった。

 

 事の発端はクソ親父なので、そこの話し合いは割とスムーズに進んでいた。問題はアル中の真央の父親だ。真央が私と最後にあのアパートに行った日から、三週間程経過していた。

 

「明日、お父さんと話すよ」

 

 家で母の手料理を食べながら、牛の二人も交えた五人で話しをしている時に、真央が切り出した。

 

「大丈夫? ウチらも、ついて行って良いかな?」

 

 晶の後に、さやかが続いた。

 

「心配だよ……」

 

「二人ともありがとう。でも、あまり大人数で行くと、お父さん、怖がると思うから」

 

「晶? さやか? 大丈夫。私が傍で見守るから」

 

「うん、任せたよ!」

 

「優子ちゃんが傍に居るなら、安心だね!」

 

 あれ? 今気付いたけど、私、友達増えてない?

 

「父には、お酒を断って、ちゃんと仕事が出来る様になれば、安定した生活が出来るって、そう話しをして良いんですよね?」

 

 真央が母に聞いた。

 

「うん。私に出来るのはここまで。ごめんね……私達の罪なのに、あなたにばかり辛い役目をさせて」

 

「何故ですか? こんなわがままばかり言って、私は、感謝の気持ちしか無いんです」

 

「真央の役に立つのが、嬉しいの。ただの自己満足だよ。今までいっぱい辛い想いをして来た筈でしょ? その分、いっぱい甘えて良いんだからね?」

 

「ありがとう。……お母さん」

 

「うん! さっ、食べよ?」

 

 友達と、家族と食べる晩御飯は、今まで経験した中で、一番美味しくて、楽しかった。

 

 次の日、かつて真央の住んでいたアパートの前に着いた。

 

「晶? さやか? ここまで来てくれてありがとう」

 

「うん。それじゃあ……頑張ってね?」

 

「何かあったら、すぐ連絡してね?」

 

 晶とさやかに別れを告げて、アパートの階段を上って行く。キシッキシッと音が鳴る。その度に、真央の心は揺さぶられているのだと思うと、どうしても、心が暗くなっていく。

 

 駄目だ。一番辛いのは、怖いのは真央なんだ。私が、しっかりしなきゃ。

 

 三階の部屋の前まで辿り着いた。真央が深呼吸をして、ゆっくりと扉を開き、靴を脱いで中へ入って行った。私も後に続き、真央が部屋の中を見た。その瞬間、立ち止まり声を漏らした。

 

「えっ……?」

 

「……どうした?」

 

 …………

 

 返事が無い。近寄り、部屋を覗くと、延長コードで作られた首吊り縄が天井から垂れ下がっていた。

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