百十五頁 鷹 弐 『仕返し』
百十五頁
鷹 弐
『仕返し』
誰の愛の言葉も、誰との夜の営みも、心から楽しめていない。
違う……私はもうそろそろ、認めないといけない。小鳥英治にしか、この心は揺さぶられない。
なんで? なんでなんでなんでなんで⁉︎ ……私、彼に、恋をしているんだ。
いつも、鈴香の事を気に掛けてしまう。
「鈴香は、その時なんて言ったの⁉︎」
「涼子らしいねって、笑ってたよ」
鈴香? あなたの存在が、ここまで私の心の中心に位置するなんて思ってもみなかった。私きっと、英治と二人じゃなく、鈴香? あなたも含めた三人で恋をしていたんだ。鈴香が居なければ、この男と一年以上も付き合う事なんて無かったと思う。鈴香に負けたくなくて。自分に振り向かせたくって、お互い意地を張り合ったからこそ、このクズの良い所に出逢えたんだ。
「マジかよ。鈴香らしいな……」
「会えば良いのに? 嫌なの?」
「そりゃ嫌だろ⁉︎ 何でお前が提案して来んだよ? 普通お前が一番嫌がんだよ⁉︎」
心の中で笑ってしまった。お前が二股掛けてる女同士だぞ⁉︎ マジ、何でそんな提案すんだよ? 笑わせんなよ。
「そっか、ごめん。ってか、この前言ってたストライプのアウター着て来る子、言い寄ったけど駄目だったわ。あの拒否られ方、どう考えても発展しないわ」
「マジで言い寄ったの? ウケる。もっと行け! 嫌われたって失うもん無いだろ? もう一回言い寄れ!」
「簡単に言うね⁉︎ まぁ、会社は辞めて別の事やりたいとは思ってるけど、居心地悪くなるだろ?」
「どうせ辞めるんだろ? しちゃかちゃ掻き乱してやれよ! フフッ、また、何かあったら教えてね?」
「楽しんでない?」
「楽しんじゃいけない?」
「……ご自由にどうぞ」
コイツの人生、ただただ、面白いんだよ。今は、鈴香と二人で分け合っているんだけど、いつまでも、このままじゃいられない。どちらかのモノに、いつかはならないといけない。
私ね? せっかちなの。早めに、結論を出して欲しい。……正直、今の関係、居心地悪くないよ。でも、一生このままの関係なんて、無理な事じゃん? だから、単純で馬鹿なあなたを、脅したんだ。
「ねぇ私、言っとくけど、あなただけのモノじゃ無いよ?」
私、あなたがあんなに取り乱すなんて、思ってもみなかった。
「はっ? どういう事?」
そういうのには、全く気付かないんだね?
「居るよ? 他の男と、○○クスしてるよ? 気付いて、無かった?」
彼の顔色が、途端に青褪めていった。
「冗談やめろよ。何だよそれ?」
何だよそれ? って、何だよ?
「本当だよ。自分だって常に浮気してる癖に、私を咎めるのおかしくない? 私、他の男とも寝てる。英治とは、遊びだよ」
「俺は、こんなにお前を愛しているのに」
その愛が、私一人に向けられた物だったのなら、心から喜べたのに。
「そっか。ありがとう……でもね? 私、どっちでも良いの。あなたでも、もう一人の方でも、どっちでも良いの。気に入らないなら、さよならだね?」
「……嫌だよ。涼子? 君と離れるなんて俺、考えられ無い」
その言葉、本当は嬉しかった。あの喫茶店で言っていた言葉とは真逆の言葉が帰って来た。それだけで、この心は満たされていたんだ。
「別に、英治がそれで良いなら関係を続けても構わな……って、ンッ……」
ただ私は、仕返ししてやりたかっただけだったんだ。それなのに、あんな必死に……抗え無かった。ただ、ただただ乱暴に、彼に抱かれた。
…………
「……赤ちゃん出来たらどうするの? 責任、取ってよね?」
事が終わった後に、彼に呟いた。
「ごめん……なんか、悔しくて……」
お前の悔しさなんか、私達に比べればちっぽけなもんだろ?
「そろそろ、英治の答えが聞きたい。私と鈴香、どっちを選ぶの?」
「選ばないと、いけないのか?」
「日本の常識だと、そうなってるから。アフリカ辺りで一夫多妻制のある国あるみたいだよ? 行ってみれば? 私は絶対行かないけど」
「涼子の居ない、鈴香も来るか分からない、見知らぬアフリカの国になんて行きたく無いよ! 俺は、日本で! 涼子と、鈴香と、幸せに過ごしたい……」
マジで馬鹿だなコイツ……本当、笑っちゃうよ。
それから、鈴香のターンを終えて、彼が私の家に来た。その日はゴムを着け、いつものピロートークに移った。
「ねぇ? この間のさ? もしも赤ちゃん出来てたら、流石に鈴香とはさよならしてくれるよね?」
甘えた声で問い掛けた。
「……その事なんだけどさ?」
んっ? それでも関係を続けさせてくれとか、あり得ないよ?
「なに?」
「この間の事、話したんだ鈴香に。そしたら、着けないでくれって言われて……」
「はっ? 何を?」
「……ゴムを」
「それで、どうしたの?」
「……着けなかった」
……ナニコレ? アイツマジで、マジ……苛つく……
「どうすんの? 二人共孕んだら、どう責任取ってくれんの?」
「分からない」
「へっ? ハハッ……」
思わず笑ってしまった。私も、鈴香も、英治も悪い。考えが、まるで足りていなかった。まさか、有り得ないとは思うけど、二人共に妊娠してしまったら、どうすれば良いんだろう?
私達は、まだ若かったから、認識が甘かったんだ。だから、その答えを出す事なんて、出来なかった。




