百十頁 悪魔 漆 『姉妹』
百十頁
悪魔 漆
『姉妹』
ちょっと待って? 動悸が治らないんだよ。食事終わったって? へ、部屋に移動する感じ⁉︎ へ、部屋って、ゆ、ゆ、ゆ、優子の部屋だよね⁉︎ えっ? はぁッ⁉︎ む、無理無理無理無理無理無理無理無理無理‼︎ ふ、二人きりになんてなれる訳無いじゃん⁉︎
「んっ? どうした? 思い詰めた顔するなよ? ショートメール、ちゃんと送れたみたいだからさ、返信来るまで待つしか無いじゃん?」
優子、めっちゃ涼しい顔で言って来る……いや、だってさ……私達、血が繋がってるんだよ⁉︎ 何でそんな今まで通りのリアクションで居れる訳? 腹違いだけど、姉妹なんだよ⁉︎ な、なんか‼︎ ドキドキしちゃうもんなんじゃ無いのこういうの⁉︎ 知らんけど。
優子の部屋に入り、扉が閉まった。
………………
何か喋れし⁉︎ あっ、でも今までも私が話題振ってた気がしないでもない。優子は、基本無口だ。
「あのさ……真央、誕生日いつ?」
まさかの優子から喋り掛けて来たし⁉︎ 誕生日? いつだっけ? 祝われた事無いから思い出に残って無いんだよ。
「岡村隆史と同じ誕生日! たしか、三日だったかな?」
「何月のだよ⁉︎」
「七月のだよ?」
「当たり前みたいに言うなよ! 岡村隆史の誕生日知らんし‼︎ 七月ってのは分かってるけど何日だったっけ? ってならんし‼︎ ってか来月じゃん?」
「なんで、優子はそんな事聞いたの?」
「いや、だって! ……どっちがお姉さんになるのか、気になるだろ?」
あっ……
「確かにぃィィィィィイッ‼︎ だ、だって、姉妹だもんね?」
「う、うん……」
は、恥ずかしそうに顔を背けやがった! 何だコイツ、可愛いトコあるじゃん?
「優子は? 誕生日いつなの?」
「七月七日……」
「七夕⁉︎ お祭りガールじゃん⁉︎」
「はっ⁉︎ 恥ずかしい呼び名付けないでよ!」
「研ナオコと同じ誕生日じゃん⁉︎」
「林家ペーかよ⁉︎ 何でそんなに芸能人の誕生日に詳しいんだよ⁉︎ あとそんなに嬉しくねぇし!」
「他にもミーシャとか明石家さんま、のモノマネしてるほいけんたとか、ビートルズのドラムのリンゴスターも七夕産まれだよ‼︎」
「マジ詳しいな⁉︎ ミーシャとリンゴスターはちょっと嬉しいけど、ほいけんたはそんなに嬉しくねぇよ! 明石家さんまさんだったら嬉しいけど、ほいけんたはそんなに嬉しくねぇんだよ!」
「優子アニメ見たりする? アニメキャラだと七夕産まれめちゃくちゃ居るよ⁉︎ 化物語の戦場ヶ原さんとか、ハンターハンターのキルア君とか、ピューと吹く!ジャガーのジャガーさんとか、はじめの一歩の鷹村守さんとか、こち亀の麗子さんとか、スケットダンスの鬼塚一愛ちゃんとか! 羨ましいなぁ。同じ誕生日ってだけで愛着湧いたりするよね⁉︎」
私は、頬を赤らめ、ハァハァ言いながら畳み掛けてやった。
「興奮すんなよ⁉︎ ってか林家ペー超えるんじゃ無いよ! あの人、流石にアニメキャラの誕生日までは分かん無いでしょ?」
「誰に気使ってるの? ってか羨ましいなぁ。私なんか知ってる同じ誕生日のキャラ、呪術廻戦の乙骨憂太くんくらいだもん!」
「そうなの⁉︎ やっぱ、七夕って誕生日にしやすいんだな。ってか、アニメキャラにそこまで細かく誕生日の設定までされてるなんて知らなかったよ」
「えっ? 自分の誕生日で調べたりした事無いの……? マジで……?」
「何で引いてんだよ⁉︎ 他の奴の誕生日なんてどうだっていいだろ⁉︎」
「普通気になると思うけど……まぁ私も、まだ七月までしか網羅して無いけどね!」
「そんな無駄知識に頭使ってんじゃねぇよ!」
「ってか、私の方がお姉さんなんだー? フフッ、何か、ちょっとだけだけど嬉しいな!」
おどけてみたけど、大丈夫かな? そんな事言われたら、虫唾が、走るんじゃないのかな?
「……フフッ、ヤッベェ姉さんが家族になっちまったなぁ! 真央? お姉ちゃんならお姉ちゃんらしく、しっかりして貰わなくちゃ困るよ?」
優子? 本当は、頭の中ぐちゃぐちゃな筈だよね? 無理させて、ごめんね?
「私、守るから! 優子に何があっても、私が絶対守ってみせるから‼︎」
「大袈裟だよ真央? 同い年なのに急に姉ちゃん面すんのか?」
「だって……私……お姉ちゃんなんだもん……」
「確かに、そうだけど……」
「二人が言った事、嘘って事は、無いよね?」
「流石に無いだろ? あんな嘘吐いて、誰が喜ぶ? 誰が得をする? でも、まだ実感なんて湧かないよ……」
確かに、そうだろうね。腹も違えば考え方も違う。でも、確かな事が一つだけある。
私と優子は、育って来た環境が違う。
今更急に血が繋がってるって言われても、顔がどれだけ似ていても、当たり前の姉妹になる事なんて出来ない。家族って、なんなんだろう? 私は、血の繋がっていない父の事を、好きになんてなれない。……でも、嫌いにも、なれないの。ずっと、一緒に生きて来たから。どれだけ父親として最低な言動を浴びせられて来たとしても、十七年間、ずっと近くに居たから。どうしても、血の繋がりが無くても、放ってはおけないんだよ。
お父さん、まだ、泣いているんじゃないかな? お酒を飲み過ぎて、具合を悪くしてるんじゃないかな? ごめん、ごめんなさい……辛い思いをさせて、ごめんなさい……
でも、必要な事だと思うの。だって、私達があのまま二人で居ても、未来が無いもの。私……お父さんの事も諦めたく無い。このまま、さよならなんかじゃない。
ただ、助けて欲しいだけなんだ。私は、小鳥英治と血の繋がりがある。すずかお姉さんも、優子も私に協力的だ。だから……それを利用して、お父さんを救ってあげたい。利用してって言葉は良く無いかもしれない。でも、千載一遇のチャンスなんだよ。崩壊が確約されていた未来に、一筋の光が差したんだ。私は、このチャンスを逃す訳にはいかないんだよ。
お父さん、待っていてね? ……血の繋がりは無くても、父親らしい事をしてくれた事は無くても。私のお父さんは、あなたです。ちょっとくらい冷たくした方が、良い薬になると思う。だから、もう少し……待っていてね?
小鳥母は、血の繋がりは無くても、大切だって想われる事の暖かさを知って欲しいと言っていた。私には、その意味がまるで分からなかった。
私は今、頭を切り替え、感情じゃ無く、こうした方が良い、みたいな損得を考えながら言動をしていってる。母と会いたいと言った事も策の一つなんだ。本当は、生き別れた母に会いたいと思った事など、一度も無いんだから




