百一頁 鹿 参 『瓜二つ』
百一頁
鹿 参
『瓜二つ』
六月、俺はお前が大好きだ!
何故なら、雨がよく降るからだ! 家の中から雨の音を聞いていると、心が高鳴って来る。たまに、抑えきれなくなり外へ飛び出してしまう程だ!
勿論、風呂に入る前にだよ? 風呂上がりは流石に我慢する。お母さんの洗濯物を増やす訳にはいかないからな! 降り注ぐ雨を全身に受けながら、高らかに笑うんだよ!
アッハッハ! アッハッハとなぁ‼︎
ところで、先週の金曜日、二年一組の担任の猪本をこの剛腕でのしてやった後から記憶が飛び、戻って来るとパンツ一丁で泣いていたのだがあれは何だったんだ? 「はっ? 俺は何をしていたんだ?」と周りに居る生徒達に聞いても何も教えてくれないし、何かみんな暗いし、ちょっとくらい先生にも教えてくれたっていいのにと思いながら教室を出て行こうとした。
「んっ? ここ何処だ? 何だこの場所は⁉︎」
確かに俺は二年一組の教室の前にいた筈なのに、何だここは⁉︎ オイ! 何処なんだよ此処は⁉︎
「何だ何だ⁉︎ 俺をどうするつもりだ⁉︎ 教えてくれ! 何をお前達揃いも揃って暗い顔をしている? 俺を裸にして何をするつもりだったんだ⁉︎」
「服なら一組の前にあるんで、さっさと帰って貰っていいですかね?」
だから此処は何処なんだ? そしてお前は誰だ? あぁ何か見た事ある気がするな。確かさっき、一組の教室の中で、一人で黙々と本を読んでいた奴じゃないか? お前が近寄って来てからの記憶が曖昧なんだよ! 糞っ、一体何が起きているというのか!
「俺をこんな姿にして何が楽しいんだ! どうせお前達二年一組の生徒だろ? お前達四人の顔は覚えている! さっき通せんぼしたからなぁ! お前達二人は? 鬼釜に擦り寄って来た二人だな? どうした? 首が痛いのか? お前の方は面ボッコボコだな!」
「羊子? コイツ人が感傷に浸ってる時にわぁわぁ五月蝿ぇんだけど? 催眠解かないで放っとけば良かったじゃん?」
コイツは……阿久津じゃないか! 何故こんな所に居る? それに、何故俺は気付かなかった? 阿久津も一応要注意人物と一年の時の担任から助言を受けていた。ただ、大して問題行動など起こす事も無い優等生のイメージだった。だからあまり印象に残っていなかったのか?
もしかして、お前が影のリーダーなのか? 金八先生の第五シリーズの風間君的な立ち位置なのか? 教えてよ? 先生にも、教えてよ?
「オイ阿久津! 説明してくれ! 一体此処で、何があったというんだ?」
…………阿久津は、何も答え無かった。
「何だお前は! ウチのクラスの仲間だろ! 何故俺を、担任の先生をシカトするんだ⁉︎」
「……はっ? 何かやたらと目合ってるけど、それ私に言ってる?」
阿久津が訳の分からん事を言った。
「お前の名前を呼んで、お前に喋っているのだから分かるだろ⁉︎」
「いや、私、阿久津じゃ無いんだけど?」
「はっ?」
「一組の小鳥ですけど?」
何だと⁉︎ 若い奴らの顔は本当に見分けがつかんもんだな!
「髪型で大体見分けつくでしょう? 優子さんはロングで、阿久津さんはセミロングじゃないですか?」
お前は誰だっけ? 駄目だ! 考えれば考える程ドツボにハマって行く。
「髪型などで分かるか⁉︎ お前たちはちょこちょこ髪型を変えるじゃないか!」
「いや……でも今日ホームルームしたんでしょう? 流石に学校抜け出してエクステ付けに行く子なんて居ないでしょ?」
「そんなのを覚えているとでも思っているのか?」
「開き直ってません? この人」
「俺から見れば、阿久津もこの女の顔も同じにしか見えないんだよ‼︎」
「ほらやっぱり開き直ってる! 生徒に対してこの女って……言葉使いとか、改めた方が良いんじゃないですか⁉︎」
「俺が間違ってると言いたいのか⁉︎ どう見ても、この小鳥という女と阿久津は一緒の顔をしているじゃないか⁉︎」
お前達の言う様な微妙な違いなど、俺には分からないんだよ!
「酷い! 女の子は、他の子と一緒にされるのを嫌がるものなんですよ!」
「もう良いよ羊子。私も、もう帰るから」
「優子さん……」
阿久津に似た女が帰ろうとした。確か小鳥と言ったか?
「いや、本気で言っているのか⁉︎ お前は、阿久津だろ⁉︎」
小鳥優子という女は、返事もせずに帰っていった。
「この人なんなんですか? 気持ち悪い」
それは俺が今、パンツ一丁だからか?
「……でも、確かに、似てはいるんだよ」
おぉー! お前はなかなか見込みがある様だな!
「似ているどころか、瓜二つじゃないか!」
まぁ正直、お前達の顔も同じ様には見えているがな。
「取り敢えず、気持ち悪いんで服着てもらって良いですか?」
一組の生徒は、言葉遣いが全くなっていないな? まぁ確かに、いつまでもパンツ一丁で居る訳にもいかない。
「分かった! 服を着て来るから待っていろ! ちゃんと話しを聞いてやりたいからな!」
俺はその教室を出て滅茶苦茶驚いた! 此処、二年五組じゃん⁉︎ 何でこんな所に俺は居たんだ? 一組の前の廊下に俺の着ていた衣服が置かれていた。何だこれは? 何だったんだよこれは⁉︎
……まぁ良い。よく分からない事を考え過ぎてもしょうがない。服を着て、二年五組に戻ると、誰も居なかった。
……そうかそうか、良く分かったよ。お前達は、悪なんだな? 俺達二年二組の青春のストーリーを邪魔する、悪なんだな? 悪い奴にはそれなりの、バッドエンドを用意しておかないといけない。お前達、タダでこの学園生活を終えられると思うなよ? 地獄って言葉を知ってはいても、体験した事などは無いのかな? 取り敢えず、覚えておけ。
先生の言う事はな? 絶対なんだよ。