地上最強のレベル1 経験値上限が♾なので、勇者レベル999より強いです。
「レベル1? じいさん、レベルが1?」
冒険者が〝早見表〟を展開しながら冷笑を浮かべた。
早見表は、冒険者がまず最初に覚える魔法だ。
これを使うと、向かい合った魔物や人物の能力を一目で把握することができる。
習得可能レベルは1。つまり、わしが扱える数少ない魔法の一つでもある。
わしは早見表を展開した。
精霊の加護により、目の前の小柄な少女の基本情報が明らかになる。
名前はガ・ガ・ヒャン。東方エルフ族で、職業は魔法戦士、レベルは59。年齢は11歳。エルフは長命族で若く見えるものだが、彼女はじっさいに若いらしい。
わしの早見表でわかるのはこの程度だ。
だが、ガはレベル59だ。わしより遥かに詳細なデータが表示されているに違いない。
彼女はわしを指差して
「あはは、このじいさん、職業こそ魔法戦士だけど、使える魔法が七つしかないうえに、剣技も四つしかないよ」と笑った。
ガの隣で、彼女のパーティメンバーの一人、二十歳ほどの若い人間の女の魔法使いが微笑んだ。
「そのようなおっしゃりかた、いけませんわ。世の中には努力しても報われない人というものがいるのです」
同じくパーティの一員か、大柄な半裸の女戦士が笑う。
「さあさあ、じじい。さっさとそこをどけ。オレたちは後ろのやつに用があるんだ」
わしの後ろにいるのは、悪魔族の幼子だ。
歳はまだ三つか四つ、黒い髪に、黒い肌、黒い目。
小さなナイフを必死で構えている。
その向こうには事切れた悪魔族の親二人。
わしはいった。
「こんな幼い子どもにどんな用があるというのかね?」
エルフが笑う。
「じいさん、そいつらが何なのか知らないのか? 悪魔族だ」
「よく知っとるよ。彼らはわしの隣人のブーマン夫妻と、その娘のリリじゃ」
魔法使いがため息をついた。
「あー、これだから低レベルの人間は。あなたは幻惑の魔法にかかっていたのですよ。彼らは人間ではなく悪魔族。かつて世界を滅ぼしかけた魔王の末裔です。彼らは一匹残らず殺さねばなりません」
わしは首を横に振った。
「この子らが悪魔族なのは承知しとったよ。だが、彼らは優しく、善良だ。魔王と同じ種族だからといって殺されるいわれなどない」
女戦士が額に手を当てた。
「あー、だめだ。このじじい。洗脳されちまってる。手遅れだな」
エルフがこちらに向かって手のひらを広げる。
「じゃ、二人まとめて魂を救ってやるってことで」
魔法使いが頷く。
「それがよいでしょう。聖なる炎で身と心を焼き尽くせば、魂は天に登れるでしょうから」
わしも手のひらを前に突き出す。
悪魔族の娘、リリが足にしがみついてきた。
涙目で震えている。
わしは彼女の背中をなでた。
「大丈夫じゃ。大丈夫」
エルフがいう。
「んじゃ、ばいばい!」
だが、わしの方が早かった。
わしのレベルは1、使える攻撃魔法は〝種火〟だけだ。
種火は通常、薪に火をつける程度の役にしか立たない。それだけに、術式の組み立てが早い。
わしの指先に、小さな炎が生まれ、空中をふわふわとエルフたち目掛けて進んでいく。
エルフが腹を捩って笑った。
「あはははは!なんだよそれは!」
魔法使いは口元で手を押さえ、女戦士は「哀れな老人だな」とつぶやく。
エルフが「本物の火焔魔法を見せてあげるよ!」といって、東方の言葉で呪文を唱えた。
彼女の手のひらから、炎が湧き出し、火焔魔神の姿を形作った。
「召喚術、炎神リゴダニだよ。冥土の土産に、はいどうぞ」
魔神が巨大な炎の拳を突き出す。
食らえばわしと悪魔族のリリは一撃で消し炭になるだろう。
拳は、宙を漂っていた種火に触れ、瞬間、魔神の拳は四散した。
「え?」と、エルフ。
魔神が吠えた。大地が激しく震え、空気がパン焼きがまのなかのように熱くなる。
魔神の口の中に、小さな太陽が現れた。
魔法使いが叫ぶ。
「止めさせなさい! こんなところでアレを使ったら、わたしたちまで死ぬ!」
エルフが顔を歪めた。
「ダメだよ!操れない!腕を吹っ飛ばされてキレてる!」
女戦士が、ひい、と悲鳴をあげた。
わしは指を動かした。
種火が素早く動き、炎の魔神の腹に触れる。
とたんに、魔神は無数の火の粉となって宙に消えた。
エルフたちは呆然とわしを見つめている。
わしは宙に漂っている種火を手元に戻した。
魔法使いが「ど、どうなっているのですか? な、なぜ〝種火〟ごときが、魔神をかき消せるのです?」と震え声でいう。
わしは頭をかいた。
「同じ魔法でも、使い手の魔力の総量次第で威力は変わるんじゃよ」
「そんなことは知っています! しかし、あなたのレベルは1ではありませんか!」
「レベルというのは、その個人の潜在的資質が全て開花したときを1000として表される。村人のレベル100と、勇者のレベル10では、後者の方が強いわけじゃ。資質の上限が小さいほど、レベルはあがりやすく、大きいほどあがりにくい。そして、わしには上限というものがない。大昔に出会った神官はわしの潜在的資質は無限というとった。無限を1000で分割しても、無限じゃ。じゃから、わしはどれだけ経験値を積んでも、永久にレベル1というわけじゃ」
女戦士が「そ、そんなバカな話があるか!」と大剣で切りかかってきた。
剣はわしの首筋を捉え、折れた。
女戦士がよろめく。
「せ、聖剣ヴァランダルが」
「なんだか、すまんのう」
わしは足にしがみついていた、悪魔族のリリを抱き上げた。
「さて、それじゃあ、ゆこうかの」
「ど、どこにいくんだよ!?」と、エルフ。
「そりゃあ、悪魔族をお前さん方に狙わせた男のところじゃよ。魔王を倒し、いまや全ての国と教会を束ねる勇者のところじゃ。まったく、いつのまにこんな残虐な人間になってしまったのかの。あやつを何とかせん限り、この子が穏やかに暮らせんからのお」
こうして、わしの勇者退治の旅が始まった。
ふだんは、超マニアックなSF人型巨大兵器ものを書いてますが、たまに、なろう王道が書きたくて仕方ないので短編で発散してます。
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