プロローグ
昔からギャルゲーやエロゲーが好きだった。しかし本当に好きなことは出来なかった。
何人ものヒロインを攻略してきた。選択肢を選び、正しい道を選ぶと好感度が上がっていく。俺はそんな好感度の上がったヒロインをつき離す様な選択肢を選びたかった。特に傍から見たらバレバレなのに素直に成れないツンデレをつき離したかった。
「――え?」
受け入れられる――認めてもらえる――当然一緒に居てくれる――デートの約束を結べる――。そんな領域にまで行ったヒロインを、ルート確定間近のヒロインをつき離す。その瞬間の顔が見たかった。
が、そんなあからさまの選択肢を選ぶと、大抵はルートに入ることができずに終わってしまう。
ゲーム内で出来ないなら――現実でやろう。
高校に入学した俺は、主人公になる。最低最悪の、プレイヤーに嫌われるような、そんな主人公に。
「――ちゃん。にーちゃん!! 起きてってばぁ~!!」
ゆさゆさと身体を揺らす。くったくたの着古したセーラー服を着た、セミロングの黒髪に前髪をピンで留めて額を出す少女。化粧をせずとも可愛らしい、大きく二重の眼。身長伸びるからと買うときに大きめのサイズにしたが、三年になっても全く合わない制服。明るく屈託ない笑顔と幼さの滲ませる性格。どう見ても中学三年生には見えないこの子は、ベッドに寝ている男の妹である。
「もう! 入学式の日から遅刻ったら不良認定くらっちゃうぞぉ~!!」
「――んあ”……なんじだ?」
「しちじ~」
「……まだ、大丈夫だろ……まだ、ねかせ――」
「あ! にどねすんな~!!」
今まで寝ていた為にぼさぼさな黒髪。スキンケアを欠かさずに、筋トレを毎日こなし、勉強を一日五時間する努力家。高い身長とスタイル、爽やかに整える髪型による雰囲気イケメン。
西川健介と西川千尋の兄妹のよくある朝の一コマである。
「――リビングで歯磨きすんな」
「シャカシャカ――ふぇふにひいひゃん(別にいいじゃん)」
「にーちゃんになにゆってもむだ~だよおかーさん」
「言っても!」
「ゆっても!」
「はあ……この子本当に今日から三年生なのかしら?」
未だに二十代に見える女性。長い黒髪を一括りにし、肩から前に垂らしている。エプロンを着けたラフな恰好。経産婦とは思えないスタイルで、腰は締まり胸と尻は大きい。
西川兄弟の母――西川瑞輝である。
「ふう、すっきりした――母さん、千尋に何言っても無駄だよ」
歯磨きを終え口を濯ぐ為に洗面所行き、戻ってきた健介が寝ぼけた顔で言う。
「にーちゃん!」
「な、なんだよ怒ったのか? 本当のことだろう……」
「朝から一発ヌいたの!?」
「ブーー!!」
「あ! おかーさんキタナイ!!」
「ゲホゲホ――何言ってんのあんた!?」
「母さん……こいつはこう言うものは三年生だよ」
「――育て方を間違えたかしら?」
瑞輝は額に手をやり、ため息を吐く。健介はその姿に苦笑いをし、椅子に座ってコーヒーを啜った。
「ん? 二人ともどっかしたの~?? まあいっか~――あれ、おとーさんは?」
「父さんは死んだでしょ? それも忘れたの?」
「ああ、惜しい人を亡くしたよな……ずずっ――苦いな」
「勝手に殺すな!!!」
電動髭剃りで髭を剃る冴えないおっさん。スーツにワイシャツにネクタイを着けてる以外言うこともない男が西川家の大黒柱――西川誠である。
仲の良い四人家族。普通の中流家庭である。父はサラリーマン(課長)、母は喫茶店でパート、長男は優秀な学生、長女は可愛い。見る人が見ればとことん羨ましい家族である。
「髪型――よし! 顔――よし! 制服の着こなし――よし! 笑顔――微妙!!」
部屋に飾ってある鏡の前でポーズを取る健介。黒髪をワックスで適度に遊ばせ、きっちりとは言わないがだらしなくもない制服の着こなし。が、どう頑張っても雰囲気イケメンの域を抜けないので笑うと微妙。
「にーちゃん! 一緒に行こ!!!!」
「――俺とお前の学校は反対の方向なんだが?」
「一回ちひろを送ってから高校に行ってよ!!」
「笑顔でとんでもないこと言うやつだな……母さんじゃないが、本当にどう育ったんだ?」
「まさか本当に送らされるとは……」
通いなれた中学校に来てしまった健介は校門前で苦笑い。
「じゃ、にーちゃん! ばいばい!!!」
手をぶんぶん振り、千尋は去っていく。
「はあ、あんなんでイジメられないのだろうか? と、もう行かねーと間に合わねーな」
健介は走った。そんな彼の背中を睨むのは彼の元担任の女教師。
「はあ――はあ――死ぬ――もうあいつは送らん……」
必死に走りどうにか間に合い、校門で息を整える。せっかくセットした髪が若干乱れるが、意外と様になっている。
櫛を片手に、汗を拭いながら彼は校舎に足を踏み入れた。
『藍放学園』――健介が今日から通う私立の高校である。全校生徒は四桁におよび、農業高校並みの敷地を有する学園である。本来は敷地内にある寮に住まないといけないのだが、成績優秀者は自宅通学が許可される。入試の点数が一位だった健介は当然成績優秀者としてカウントされる。
校舎は基本土足であり、体育館など一部の施設のみ専用のシューズに履き替える。
一年生は一階の教室であり、食堂や売店などの施設から最も遠い位置にある。
「――おはよう!」
少し大きめの声で教室全体に挨拶をする。ギリギリだったこともあり、大半の生徒が教室に居た。
「おはよ! また同じクラスだね」
「ギリギリだな、珍しい」
「またお前と一緒かよ~まあよろしく」
健介と同じ中学だった者たちはそれに答える。
(あれと……あれは狙い目だな)
教室の中で一際目立つ二人の女性に狙いを定める。
一人は藍放学園の紺色のブレザーの上からでも分かるほどの巨乳に、黒髪の長い姫カット。切れ目のシュッとした美人である。彼女は誰とも話さずに席で本を読んでいた。
もう一人は明るめの金髪を左側にワンサイドアップにし、ブレザーを腰に巻きワイシャツのボタンを三つも開け胸の谷間を露出させている。前者に負けず劣らずの巨乳である。ギャルと言うには控えめの化粧であったが、地顔が綺麗でモテそうな少女だ。
後のホームルームの自己紹介の時に分かるが、彼女たちは中田翔子と中島卓実である。
(孤高のクール系と明るいが真面目のギャル系か……最初のヒロインは君たちだ)
現実とギャルゲーの区別が付かなくなった哀れな男、西川健介。彼の最初のターゲットはこの二人になった。
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キャラの名前は好きな球団から取ってます。