真実の愛ですか? お好きにどうぞ?
「すまない、ラニ。僕は真実の愛に気付いてしまったんだ」
「はい……?」
ある日、婚約者であるガレウスが突然そんな事を言った。
ラニは意味が分からず、ただ聞き返すだけだった。
驚きはあるが、そこまでだ。
今いる屋敷の居間に、酷く冷たい声が響いたかもしれない。
だがそんな事はお構いなしに、ガレウスは語り出す。
「好きな子に尽くすという事が、ここまで幸せだとは思わなかったよ。どんな苦しみがあっても、越えて行ける。あの子が幸せなら、僕はそれだけで幸福に満たされるんだ」
「はぁ……」
「まさか、僕にこんな感情があるなんて知らなかった。目が覚めたような、生まれ変わった気分だよ。これこそ、真実の愛だ。今までの愛は全て偽物。そう、虚構だったんだ」
どうやらガレウスは、別の女性に現を抜かしたようだ。
婚約関係にありながら、そのような行動に出ること自体が責められる立場にある筈なのだが、彼はそれにも気付かない。
それ程に耄碌してしまっているようだ。
残念ながら、ラニにはその心情が理解できない。
自分に対して高圧的な態度を取って来た彼が、猫なで声を上げている訳にも、理解が及ばなかった。
兎に角、今の言葉から考えられる事実だけを尋ねる。
「つまり、私達の関係は偽物だった。そういう事ですか?」
「あぁ。本当に君には申し訳ない事をしてしまう。しかし、この感情は誰にも止められない。どんなモノが障害になっても、止められる訳がない。いつか君も、真実の愛に気付けることを願っているよ」
真実の愛を知らない可哀想な女。
そんな、まるで哀れむような視線すら向けてくる。
とてもじゃないが、婚約者に対する態度とは思えない。
「何、心配する必要はない。君にも魔法の才能がある。魔法至上主義のこの国であるなら、引く手は数多あるだろう」
勝手なことをのたまいながら、ガレウスは満面の笑みを浮かべる。
まるで不要なものを切り捨てるように。
要らない玩具を捨て去るように。
自分に非があるとは微塵も思っていなかった。
「ラニ! 君との婚約を破棄する!」
言い放たれたラニに悲しみはない。
然程の怒りもない。
あんまりな破棄の理由に、唖然とするしかなかった。
やがてその感情は呆れに変わり、ガレウスを見返す。
「そうですか……分かりました。お好きにどうぞ」
「あぁ! 好きにさせてもらうさ! はははッ!」
響き渡る笑い声を相手にする気にはなれなかった。
ラニは早々にガレウスが住まう屋敷、ボルドウト家から立ち去った。
元々、彼女自身にも深い愛情はなかった。
親の強制に近い婚約だったからだ。
それに加え、彼は家の立場が上である事を利用して、横柄な態度を隠さなかった。
ボルドウト家は極度の魔法至上主義。
魔法を扱う者と扱えない者との待遇は、天と地ほどの差がある。
そういう意味では、ラニは魔法の才覚があったが、如何せん高すぎた。
俺の前で魔法を扱うな。
話をするな。
自分よりも高い技術を持っているために、彼女のパーソナリティの一つでもあるものを、彼は雁字搦めにして縛り上げたのだ。
「結局、縁のない人だったのよ」
相手側から破棄してくれるのなら、それで構わない。
寧ろ解放された気分。
元々乗り気でなかったうえ、プライドが高いだけのガレウスの元に居る意味はなかった。
貰い手がないと嘆いていた両親も多少は納得してくれるだろう。
そういう訳でラニは、本家であるファルシウム家に帰宅。
婚約破棄に関する色々な手続きを進めた。
もう、我慢する必要もない。
ガレウスが好き勝手にやると言うなら、こちらも好き勝手にするだけの事。
屋敷内は割と騒然としていたが、彼女は既に割り切っていたので平静なままだった。
そしてある程度身の回りが整理できた頃、ラニはとある場所を訪れた。
「久しぶりね、エムリス」
「ラニ君!? どうして此処に!?」
「もう、あの家に縛られる必要はなくなったからよ」
王都に聳える研究所。
室内で一人黙々と研究を続けていた青年、エムリスの元をラニは訪ねた。
彼は王国の中でも最も強大な力を持つ、大魔法使いと言われている。
そしてガレウスとの婚約前は、魔法を探究する同期でもあった。
「まさか……ボルドウト家の子息が、そんな暴論を……」
「家同士の婚約だったから、そういう事もあるのでしょう。それに私の両親、ファルシウム家が頼み込む形での婚約だったから、向こう側で何か不満があれば直ぐに切られる。そんな予感はあったのよ」
「とは言え、愛に真実も何もないだろうに……。愛というものは互いに尊重し合い、助け合って、そこから自然と育まれていくものではないのか?」
「……私には、よく分からなかったわ。あの人は、私に魔法の話をしてほしくなかったみたいだし」
「ボルドウト家が魔法至上主義の貴族なのは知っている。それでいて、自分より高い実力を持つ者を嫌う傾向にはあったが、まさか君にまで、それを強制してくるとは」
事の顛末を聞いて、エムリスは呆れかえる。
数ヶ月前に婚約したという話を聞いて、ラニを祝福した彼からすれば、そんな理由で破棄されたことに違和感しかないようだった。
彼女自身、未だに道理があるとは思っていない。
親の都合で勝手に婚約され、勝手に破棄された。
それだけの事だ。
自分の意志はそこに介在しなかった。
ならば今度こそ、全てから解放された今こそ、自分の意志で行動できる。
「だから、私も好き勝手やらせてもらうわ」
「研究の続きをするのかい?」
「えぇ。私の夢の、実現よ」
そうしてラニは研究室に進んでいく。
目の前に映ったのは、周囲の設備に保護されながら浮かんでいる水晶。
婚約前、彼女が研究を続けていた魔法具だった。
「この国は、魔法が使えるかどうかで全て決まる。魔法が使えない人は、貧しい生活から一生抜け出せない。恩恵も与えられない。でも、そんなのは間違っているわ」
「魔法の力で一代貴族になった私としては、耳の痛い話だな」
「ごめんなさい、貴方を責めているんじゃないの。この国の在り方、考え方が間違っていると言いたいのよ。それにボルドウト家に婚約者として出入りしてから、余計にその思いは強まったわ」
それはかねてより、ラニが抱いていた一つの考えだった。
この国は、魔法によってあらゆる分野が形成され、生活の基盤になっている。
故に生まれ持った才能、魔法の才能によって一生が全て決まり、縛り付けられる。
魔法を扱えない者は、過酷な労働を強いられ、国から追放される事すらある。
貴族令嬢であるラニはその惨状を、無辜の民が踏み躙られて命尽きる様を、幾度となく目にしてきた。
ガレウスとの婚約が、全て悪かったとは言わない。
何故ならあの家と交流を持つことで、魔法至上主義がいかに歪んでいるかを改めて知る事ができたからだ。
やはりこの国はおかしい。
人ではなく、魔法だけで全ての価値を決めるなど間違っている。
故に彼女は一つの望みを抱いた。
「私が望むのは、皆が平等に、同じだけの魔法を扱える国。そのための魔法具。一度は捨てた夢だけど、自由になった今なら、また目指せる」
「それが完成すれば、確かに魔法至上主義のこの国は、ひっくり返るだろうな」
「……私を、止める?」
「まさか。そのために今まで共同で、研究を重ねてきたんじゃないか」
かつてラニは自分一人ではそれを叶えられないと気付き、エムリスに接触した。
大魔法使いと言われる彼に助力を願ったのだ。
本来ならば失笑されても不思議ではない、荒唐無稽な話。
それでも彼は国の内情と併せ考え、真剣にその話を聞いた。
魔法至上主義で殆ど理解者がいない中、力を貸してくれたのだ。
「婚約者として研究所を去った時は、仕方がないと割り切っていたけれど、やはり君がいないと中々捗らなくてね。手詰まりになりつつあったんだ」
「そうだったの? 引き継ぐ内容が、足りなかったかしら?」
「単純に人手の問題だよ。大っぴらにできる代物でもないからな」
エムリスは浮かび上がる水晶、魔法具を見つめる。
これが完成すればどうなるか、先程彼が仄めかした通りだ。
恐らく国中が震撼する。
魔法が使えない民が、魔法を使えるようになれば、それまでの体制が全て崩れる。
場合によっては封殺したいと思う者も出てくるだろう。
だからこそ真に信用できる者以外に、この魔法具の正体を明かす訳にはいかなかった。
やはり大魔法使いであるエムリスでも、一人では酷な話だったのだろう。
彼は苦笑しつつも、一転して真摯な表情になり、ラニに向き直る。
「私からも、改めて言いたい。どうか、力を貸してはくれないだろうか?」
「えぇ、勿論よ」
寧ろ歓迎する立場。
エムリスの申し出にラニは快く頷くのだった。
しかし好き勝手すると言っても、そこからは大変だった。
ラニと同じ、魔法至上主義を否定する者を探し出し。
国の未来を憂いていた第一王子・リチャードと接触し、信用をどうにか得て。
突如、国家転覆罪を擦り付けられて、処断されそうになり。
エムリスやリチャードの力で、どうにか窮地を脱し。
ホッとしたのも束の間、完成間近の魔法具が隣国のスパイに強奪されそうになり。
取り返したと思ったら、国王が崩御して後継者争いが勃発し。
一人いるだけで戦況が変わるエムリスを、暗殺しようとする者が現れたり。
それでもギリギリで完成させた魔法具で、内部分裂しつつあった王国を治めるなど。
目まぐるしく状況は変わっていった。
それでもラニ達は決して諦めることなく、己が夢の実現のために奔走した。
その結果、魔法具は王国で周知のものとなった。
魔法が使えない者でも、持つだけで使えるようになるそれは、今まででは考えられない革新的なものだった。
貴族と平民の間にあった、魔法という差別意識も魔法具の登場によって崩れていく。
魔法が使えるという点だけで、高圧的な態度を取っていた貴族が、軒並み力を弱める結果となる。
そして第一王子であるリチャードを新しい国王として、魔法至上主義だった王国は、少しずつ変わっていく事になる。
ラニ達は王国分裂を救った英雄として、知れ渡る事になった。
かねてよりの願いは、此処に果たされたのだ。
すると王国分裂の危機から暫くして、とある男がラニの屋敷を訪ねてくる。
警備兵を連れて玄関先に向かうと、その男は引き攣った笑みを浮かべていた。
「良かった! やっぱり僕の事を待っていてくれたんだね!」
「は……?」
前後の脈略もない言葉に、ラニは思わず素っ頓狂な声を上げた。
誰かと思って目を凝らすと、それはガレウスだった。
真実の愛などとのたまって婚約破棄をした、かつての婚約者。
しかし酷く落ちぶれた格好で、自信たっぷりだった表情は無くなっている。
心なしか頬も痩せこけているように見えた。
「僕は騙されていたんだ! あの娘との愛は偽物だった! やっぱり真実の愛は、君以外の人では成し得ないものだったんだ!」
聞いてもいないのに、勝手に話し始める。
どうやら彼は婚約を結んだ相手から、婚約破棄されたらしい。
理由については要領を得なかったが、相手をなじる言葉ばかりだった。
やれ、気遣いができていないだの。
やれ、女のクセに生意気だの。
やれ、立場を分かっていないだの。
所詮は真実の愛ではなかった、君こそが僕の愛を貫ける本当の相手なのだと、大声で叫び始める。
完全に、余韻に浸っていた。
傍で聞いていた警備兵は平静を装っていたが、鬱陶しそうな表情を隠し切れていない。
勿論それはラニも同じだった。
なので、答える。
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「えっ」
「貴方の事なんて知りませんよ。偽物だと言って、私を切り捨てた貴方の事なんて」
ラニは婚約破棄をされて以降、苦難の連続だった。
場合によっては、命の危機に陥る場面すらあった。
だと言うのに、今まで姿を見せなかったくせに、やり直せると思っているその考えが理解できない。
立場が逆転した瞬間に手のひらを返すのは、傍から見て滑稽に過ぎる有様だ。
だから知らない振りをする。
正直な所、本当に名前すら忘れていたくらいだ。
この位の応対でも何の問題もない。
すると、拒絶されるとは思っていなかったのか。
ガレウスは途端に慌て始める。
「ま、待ってくれ! あれは違う! 誤解なんだ!」
「誤解も何もないでしょう。貴方には真実の愛を通す方がいる筈。その方と、よろしくすれば良いではないですか」
「す、すまない……本当に悪かったと思っている……! だ、だから……!」
「謝る位なら、初めからあんな事、言わなければ良かったでしょう」
誤解も何もない。
ラニは婚約破棄された、それ以外の事実はない。
淡々とガレウスの言葉を正面から切り捨てていく。
しかしやっぱり、彼は頭を下げない。
どれだけ取り繕っても、そこだけは変わっていないようだ。
「もう二度としない! だから、どうかッ!」
「無理です。二度目なんてありません。以前に婚約を破棄したあの時、全て終わったんです」
「頼む! 別れたくないんだ……!」
「別れるも何も、付き合っていないでしょう?」
寧ろ、どこから付き合っていたのか。
破棄されて以降、一度も顔を合わせていないというのに。
キチンと初めから説明してほしい位だ。
最早、自分が何を言っているのかも分かっていないのだろう。
するとガレウスは声を震わせる。
「……お、俺を一人にする気か?」
「一人? 貴方には、真実の愛を誓ったお相手がいるではありませんか?」
ラニはにっこりと微笑む。
以前どんな障害があっても、乗り越えられると口走っていた。
その通りだ。
ラニ自身もあらゆる障害を跳ね除け、今この場にいる。
ならば今こそ、相手から婚約破棄された事実を乗り越えて、同じように貫き通せば良い。
それが真実の愛らしいのだから。
直後、騒ぎを聞きつけてきたようで、屋敷の奥からエムリスが現れる。
呆然とするガレウスに、彼は憮然とした態度を崩さない。
「ガレウス。男として、それ以上の発言は見苦しいぞ」
「エムリスッ!? そ、そうか! お前がラニを誑かしたんだな! そうに決まっている!」
「違う。これは彼女の意志だ。腐敗したこの国を変えるために行った事。私はただ、力を貸しただけだ」
「ふ、ふざけるなッ!!」
被害妄想の果てにガレウスは、片手を持ち上げる。
手中に宿るのは魔力の塊。
エムリス相手に、魔法を行使しようと力を漲らせたのだ。
しかしそれも無駄な抵抗だった。
一瞬の内にガレウスは、別の魔法陣に拘束される。
「うッ……!?」
「今のお前には、この魔法具で十分だ」
おもむろにエムリスが取り出したのは、例の魔法具。
ラニ達が守り通し、造り上げた努力の結晶だった。
大魔法使いである彼がわざわざ使う意味はない。
しかしあえて、その魔法具を使ってみせた。
まるで自分の魔法を使うまでもないと言うように。
「彼を追い出してくれ」
「畏まりました!」
傍にいた警備兵に、屋敷から追い出すように告げる。
指示された兵は、大きく頷いて他の兵を複数人呼び出す。
呼び出された兵たちは、一斉に懐からある物を取り出した。
それは魔法具。
エムリスが使っていたそれと、全く同じ代物だった。
最早、魔法は選ばれた者が扱う高貴な力ではない。
拘束されていたガレウスは、それらを見て顔を青ざめ、身体を震わせる。
「よ、よせ……! それを近づけるなッ……! そんな偽物を、俺の前に晒すんじゃないッッ! 俺が! 俺が本物、真実なんだッッ!!」
「魔法に本物も偽物もないでしょう。さぁ、行きましょうか。貴族の屋敷に許可なく立ち入った罪、そしてラニ様達に魔法を行使しようとした罪、平民である貴方は、監督者に裁かれなくてはなりません」
「うるさい! 俺は貴族だ! 平民じゃないッ!」
ちなみに彼の家は没落したらしい。
魔法至上主義が崩壊した影響だ。
魔法の利権に胡坐を掻き、自ら成長も省みもしなかった貴族は、基本的にこのような末路を辿った。
改革した王国の制度に納得できず、無暗に盾を突いて捕らえられる。
まさに今の状況こそ、その通りの顛末であり、彼は警備兵達に連行されていく。
「俺は貴族なんだあああぁぁぁッッッ!!!」
見下すばかりで鍛錬一つしなかったガレウスの魔法では、魔法具には及ばない。
何一つ抵抗できないまま、彼は屋敷から追放される。
呆気ない幕引きだった。
かつて容赦なく自分を追い出した人物とは思えない。
ラニが以前の光景を思い出していると、エムリスは溜め息をついた。
「魔法至上主義に拘った結果が、あんな有様だとは」
「……久々過ぎて、誰だったのか、一瞬分からなかったわ」
「彼に気を配る余裕はなかったからな。それも仕方ない事だ」
結局の所、ガレウスは過去の栄光に囚われたままだったのだろう。
あるべき貴族の責務に目を向けず、そこから這い上がろうとしなかった。
故に婚約相手からも見限られた。
或いは真実の愛という名の、自分に都合の良い愛を求めていたのかもしれない。
そう思っていると、エムリスがバツの悪い顔をする。
「それにしても、誑かしたなんて酷い言い草だ。何処からそんな訳の分からない話を……」
「そうかしら」
「え?」
「割と噂されている話よ。私とエムリスが、婚約関係にあるって」
サラッとラニが言うと、彼はかなり動揺する。
まさか隠しているつもりだったのか。
割と周囲にはバレバレであった。
魔法具を完成させるまで、長い付き合いがあったのだ。
窮地に陥った所を救われた事もあれば、救った事もある。
互いが互いに支えとなり、知恵を振り絞って乗り切り、成し遂げてきた。
そもそもの話として、屋敷に出入りしている時点で薄々気付かれるものなのだが。
言葉を選んでいるエムリスに、ラニは続ける。
「そこまで驚くことかしら」
「!」
「今更、改めて婚約を言い合う関係でもないでしょう?」
一瞬だけ、沈黙が訪れる。
すると彼は恥ずかしそうに視線を逸らした。
「参ったな……時と場所の機会を窺っていたんだが、酷い前倒しだ」
「確かに、ちょっと水を差されたかもしれないわね……。でも、一度は聞いてみたいわ。貴方が、何を言おうとしていたのか」
「……分かった。なら、一度だけ言わせてほしい」
ガレウスの来訪で台無しになった話ではあるが、思いの丈が変わることなど有り得ない。
そして彼からハッキリと言葉にしてほしいという気持ちもあった。
その思いが通じたのだろう。
改めて、というようにエムリスはその場で片膝をつく。
「ラニ、私と結婚してくれないか? 必ず君を幸せにする。だから命尽きるその時まで、私の傍にいてほしい」
何も騎士のように礼を尽くす必要などないのに、とラニは苦笑する。
互いに助け合ってきた仲なのだ。
これからも今まで通りに支え合っていけばいい。
でもその気持ちは、本当に嬉しかった。
彼女も彼と同じように片膝をつき、その手を取る。
「エムリス。貴方が私を幸せにしてくれるなら、私も貴方を幸せにしてみせるわ」
真実の愛については、未だに良く分かっていない。
しかし分からなくても良い。
愛とは、共に育んでいく筈のものなのだから。
ハッとして驚くエムリスに向け、彼女は優しく微笑んだ。