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休息を取った後は帰るだけだ。
そのはずだったのだが、オーレリアから提案があった。
「ねえせっかくだから、宝箱を回収していかない? イクトくんのギフトで場所は分かっているし、トラップがあって開けられなかった宝箱も、アル兄がいるから解除できるし」
「へえ、本当に便利なギフトなんだな。俺は構わないけど、ノーラちゃんやイクトくんは大丈夫か? 初めてのダンジョンで第十四階層まで降りてきていて、疲れていないか?」
「私のことはは心配されないんですか、アルフォンス兄さん……」
「ウルは大丈夫だろう」
「ウル姉は大丈夫だよねえ」
アルフォンスさんとオーレリアさんがニヤニヤしながらウルさんをからかっている。
俺は一人っ子だから、兄妹というのはこういうものかと羨ましく思えた。
ノーラがこっちを伺うように見た。
「私は大丈夫。イクトは?」
「あ、俺も大丈夫です。ダンジョンの宝箱の中身、結構いろいろで面白いんで、是非」
そう、宝箱の中身は色々だ。
金貨や銀貨など現金が入っていることもあれば、魔法の道具が入っていたり、武器や防具が入っていたりと様々だ。
特に魔法の道具は面白い。
役に立つもの立たないもの、時折ヘンテコなものが入っているのが楽しいのだ。
「よおし、それじゃ宝箱を回収しながら帰りましょう。宝箱の位置は地図に書き込んで、トラップの位置はイクトくんが把握してね。アル兄は魔物の気配察知に集中してて」
「オーレリアが仕切ってるのか? まあいいけど。しかし本当に便利なギフトだな。宝箱やトラップの位置確認ができるなんて」
「それでもやっぱり本職の斥候には敵いませんよ。しかもアルフォンスさんは『斥候の才能』を持ってるんでしょう?」
アルフォンスさんが「まあな」と頷く。
確かに宝箱やトラップを探せるが、俺は本職の斥候ではない。
気配の察知や鍵やトラップの解除などはまったくできないのだ。
だから道中もトラップのある宝箱は泣く泣くスルーしてきた。
「イクト少年は剣も魔法も才能持ちに匹敵するくらい強いから、無理に斥候職として扱う必要はないと思いますよ。しいて言うならオールラウンダーでしょうか」
「うん。イクトはいろいろできるのが凄い」
ウルとノーラが言った。
オールラウンダー、か。
格好良いけど、それってつまり器用貧乏というやつでは?
それはそれとして、本職の斥候が加わったことで急に魔物と鉢合わせるという事態がなくなった。
これまでは唐突に魔物と遭遇して慌てて対応していたが、今はアルフォンスさんが「前方に魔物がいるぞ」と予め教えてくれる。
俺も魔物の位置を探すことはできるが、それをするとトラップの位置が分からなくなってしまうのだ。
「おいおい、ノーラちゃんはマジで強えな……」
「お嬢様は『剣聖』ですからね」
「予め聞いてたけど、次元が違う強さだわ。これが剣の才能系の最高峰か……」
アルフォンスさんが感心したように頷く。
ウルさんも自分の主がお兄さんに褒められて嬉しいようだ。
相変わらずノーラは無敵だった。
近づく魔物はバラバラにされ、慄いた魔物も一歩で距離を詰めてバラバラにする。
背中を見せて逃げようとした魔物はさすがに追わないが……。
「いやあ、リザードフライの薄羽は高く売れるんだよお」
「ヘルハウンドの体内の魔石も高く売れるぞ」
オーレリアさんとアルフォンスさんがほくほくしながらノーラが倒した獲物から換金部位を拾っていく。
俺たちも勉強がてらそれを眺めていたが、オーレリアさんの背嚢は行きの素材回収などでパンパンになっている。
後で山分けしよう、と言われているけど、一体どれだけの額になるのか楽しみだ。




