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「なにやら騒々しいと思ったら、お前さんを助けに来た者たちか。よかったのう、アルフォンス。仲間が薄情でなくて」
「いや本当に。オーレリアが巻き込まれていなかったのが最高にツイてました。なぜかもう一人の妹や子供たちも一緒でよくわからないことになってますけど」
「うわあ……本当に精霊だ……」
オーレリアが感嘆したように呟いた。
「精霊って珍しいの?」
「うん。伝説に上げられるくらいには」
「へえ。じゃあ俺たちも凄いの見ているんだな、ノーラ」
「うん。綺麗……だけどあんまりイクトはジロジロ見ちゃ駄目」
「ええ……殺生な」
確かに精霊さんは水に濡れた薄絹一枚でかなり色っぽい。
ノーラが見るなというなら、俺は言われたとおりに視線を逸らした。
「ノーラ? ふむ、『剣聖』ではないか。まさかこのような場所で出会えるとは行幸。剣聖よ、頼みがあるがいいか?」
「え? 私ですか?」
「うむ。まあ近う寄れ。昔々、この私に剣を託した剣聖がいたのだ。精霊の泉に沈めておくと、素晴らしい霊剣になるとか言いながらな。しかし当の本人はそれ以来、やってこずに百年以上が経過してしまった。ヒトだったからもう生きておるまい。だからこの邪魔な荷物、引き取っていってもらえないかのう」
「精霊の泉に沈められた霊剣……! ぜ、是非とも私に!」
「うんうん。剣聖ならそう言うと思った。ほれ、これがそれじゃ」
池の中から青みを帯びた銀色に輝く一振りの刀が浮かび上がってきた。
「銘はないが、私が名付けてやろう。イケノカリバーだ」
「池の、カリバー?」
唖然とした顔で精霊を見上げるノーラ。
あまりにも酷い命名に、俺たちも固まってしまった。
「うむ。よい名じゃ。大切に扱うのじゃぞ?」
精霊は刀を手にして固まったノーラを放って、池の中に消えた。
「…………」
「…………ノーラ」
「…………なに?」
「…………名前は忘れて、精霊の池にあった霊刀だと思って、ありがたく頂戴しよう」
「…………ううん。ちゃんと銘も含めて付き合うよ。……よろしく、イケノカリバー」
青白い銀光を放つ刀身は、応えるように瞬いた。




