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「早いもんだ、もう日が暮れるよ。今日はこのくらいにしようか」
「……はい」
「明日もおいで。相手をしてやるよ」
「……はい」
余裕綽々のナターシャさんに対して、汗だくのノーラ。
未だに差は大きいけど、果たしてこの差は縮まるのだろうか?
「では私達は宿に戻ります。お嬢様のご指導、ありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
俺たちはお礼を言って、ナターシャの家を後にした。
その夜、ノーラは宿の裏庭で木剣を振るっていた。
じっくりと新しい型を身体になじませるように。
新しい型の意味を考えながら、剣を振っていた。
「お嬢様……あんなにも一生懸命に素振りをするだなんて久しぶりですね」
「え? 毎日、剣を振っていたんじゃないのか?」
「ええ。ですがあんなに汗だくになって全身全霊で振るのは、なかなかないことです。それこそ、剣を覚え始めたばかりの頃くらいで」
「それであんなに強いんだから、ギフトの『剣聖』ってのは凄いもんだな」
「イクト少年もすごかったですよ。ノーラお嬢様に足りない部分を、的確に指摘できるのですから」
「いや、そういうギフトだし」
「そんなにも強力なギフトなのに、聖書での扱いが悪いのは何故でしょう? ギフトを授かった時に、何も言われなかったのですか?」
「うん。失くなったものとかを探せて便利、くらいのことしか聞いていかなかったよ」
「ですがやろうと思えば、お金も稼げるのでは?」
「失せ物探しとかで? どうかなあ……」
「いいえ。金鉱山を探したりとかで」
「…………できるのかな、それ」
「やってみたらいくらでもできそうですけどね。まあ迂闊にそんなことをしたら、イクト少年が攫われてしまいそうですけど」
「怖っ」
「そんなわけでギフトの使い方についてはあまり知られないようにした方がいいですよ。ナターシャさんだってこのくらいは想像できていると思いますし」
「そ、そうか……俺の考えが至らないだけで、もっと使い道があるんだな、俺のギフトには」
パッシヴ型のギフト、つまり多くの才能系に対してアクティブ型のギフトはなんとなく下に見られてきた。
しかし俺のギフトはちょっとばかり使い勝手がいいようだ。
「さて……そろそろお嬢様を休ませましょうかね。イクト少年は先に部屋で寝ていてください」
「え? 俺も行くけど……」
「まあ。汗だくのお嬢様の着替えがそんなに気になりますか?」
「…………ごめんなさい。部屋で寝てます」
「よろしい」
そんなわけで、俺は一足先に部屋に戻って休むのだった。




