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潜むモノ達  作者: たっしょ
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第一章〔4〕 /…目撃

目覚めると、私は遺跡の、自分のベッドの上にいた。周りには誰もいない。

軽い目眩がして、私は深呼吸をした。

立ち上がって、右足を見ると包帯が巻いてある。が、痛みは無い。

「とんだ目に遭ったな」

声がした方を振り返ると、ユトラが布を手に立っていた。

「俺、どうなったんです?」

「お前は三日、眠ってたんだ」

そこでレイネの事を思い出した。

「レイネは!?」

ユトラさんが微笑みながら言う。

「心配要らない」

私はほっとした。

「彼女によく礼を言う事だ、お前をここまで運んだのも、手当したのも彼女だからな。それからラエにも。お前につきっきりだったんだ」

私は頷いた。

「これで顔を拭け」

バサッと布が顔に張り付いて来た。お湯で湿らせてあるのか、温かい。

「歩けるなら食堂へ来い、ムルザさん以外はいる」

私は頷く。

「ありがとう」

食堂へ行くと皆がいて、ラエが抱きついて来た。

「バレン!ごめんね、ごめんね、私が先に帰らなければ…」

「大丈夫だよ、ラエ、もう平気だから」

ラエはやっと安心したようだった。

「よかった」

今度はレイネだった。

「レイネ、大丈夫?」

見る限り、彼女は傷一つ無いようだった。

「えぇ」

「レイネ、ありがとう」

彼女が頷いた。それから疑問を口にした。

「あいつら誰だったんだろ?」

「知る必要なんかねぇ、どうせ盗っ人だろ」

吐き捨てるように言ったのはギゼだった。それで私もそれ以上は聞かなかった。

「ねぇ、ユトラさん」

明るい声が割って入った。ラエだ。

「今夜、何があるの?前に、集まりがあると言ってたでしょう?」

「そうだったな」

「…無邪気なもんだ」

「ギゼ」

彼を抑えるように言ったのはレイネだった。

「集まり?」

「お前にはまだ、関係無いさ」

ユトラさんが腕組みをしながら答えた。私は少し不満だった。

どうして自分だけ仲間外れなのか。ラエよりも自分の方がずっと長くいるのに。

それで夜、こっそりと彼等の後をつける事に決めた。

寝たふりをして、彼らが動き出すのを待った。

するとかすかに足音がして、皆が外へ出て行った。

こっそりと、彼らから離れて暗い道を急いで歩いて、

普段私達が使っている広場のもっと奥の林まで行った。

林の中には、私は今まで知らなかったけれど小さい塔のような建物があった。

木々の間から漏れる数条の光が建物全体を浮かび上がらせていた。

先頭に立つユトラさんが、その建物の扉の前に立つと

「連れて参りました」

と言った。

扉が開いて、中からムルザさんが出てきた。奥にちらりとワウリンの姿が見えた。

「用意は出来ている、入れ」

ムルザさんがそう言って皆を中に入れて、扉を閉めた。

今自分がいる位置からは、何も見えない。

どこか、中がよく見える所は無いか、こっそりと建物の周囲を回った。

すると建物の高い位置に、窓があるのを見つけた。

私は木を伝って窓から中を覗き、驚いた。

何と、ラエが祭壇のようなものに、

死んだように目を閉じたまま大の字に縛り付けられているではないか!

そしてワウリンや後の四人が彼女を取り囲んでいた。

おどろおどろしい雰囲気の中、

ワウリンが口を動かして手にした杖を彼女に向けて振った。

すると杖から黒い大きな影が伸びて、ラエの体に吸い込まれて行く。

とたんに目を閉じていたラエがカッと目を見開き、もがき、暴れるのが見えた。

その目は血走り、狂気を宿している。

やがて彼女は目を閉じて、静かになった。瞬間、私はラエが死んだと思った。

恐ろしさのあまり、私はその場から逃げ出した。

木から飛び降り、ひたすら走った。どこをどう走ったか覚えていない。

盛大な物音を立てている事にすら気付かなかった。

立ち止まると、恐怖が唐突に甦って来た。

ラエの体に入った黒い影、変化した…あれは…

そこで口を押さえた。私は身震いした。逃げ出す事しか頭に無かった。

「バレン」

背後からレイネの声がした。私は飛び上がりそうになった。振り向けなかった。

「レ、レイネ…」

声を絞り出す。

「ラ、エの中に入った…あれ、何?」

「いずれ、分かるわ」

いつもと変わらない、静かな声だった。

思わず振り返ると、レイネがゆっくりと歩いて来る。彼女が不気味に見えた。

「寄るな!」

私は少しずつ後ろへ下がった。

「逃げるのは無理よ、バレン…」

私の中で何かが弾け、次の瞬間彼女に掴みかかっていた。

「どけよ!俺を家へ帰せ!」

「それは、出来ないの」

彼女は私が突き出した腕をあっさりと押さえ、悲しそうに首を横に振った。

「人殺し!ラエを殺したんだ!俺も…俺も殺す気なんだ!!」

レイネが目を見開いた。

「ラエは、死んでなどいない」

私は耳を疑った。彼女は続ける。

「そんな事はしない。ラエもあなたも、ワウリン様に選ばれたんですもの…私も、ムルザさんも、ギゼもユトラさんも、ラエやあなたが好きよ、 最初にここに来た時の事、覚えてる?もう少しで十年になるわ、そうしたら、あなたは私達の大事な仲間になるの」

私は力が抜けた。頭がこんがらがって、もう、どうでもよくなっていた。

「帰りましょう」

私は大人しくそれに従った。彼女に連れ帰られたのは、いつもの遺跡の部屋だった。

余りに多くの事が起きて、私はしばらくぼんやりとしていた。

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