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6.プラネタリウムを作ろう!

 流星観察会がなんとか成功して、アタシの頭の中は文化部発表会のことで埋まっていた。いったい何すればいいんだろう。なんだか常に活動内容を考えてる気がするよ。

 無難なところだと、模造紙に太陽系の天体のことをまとめて貼り出すとか? いわゆるポスターセッションってやつだ。これはこれで大変だと思うんだよね、一枚じゃ寂しいし、それなりの枚数作るとなると、内容を考えるのも大変だし。そして苦労のわりにあんまり見栄えしないかもしれない。

 先生のいう事によれば、美術部の作品展示や、茶道部のお茶会に書道部のパフォーマンス書道なんかと比べられるわけで、なかなか大変そうだよね。

 なんてことを考えながら、ノートにアイディアをああでもないこうでもないと書いてみてたんだけど……

「こっちは61・8、54・6、54・6だな」

「618、546、546と。オッケーだよ」

ヒロツグ君とシン君が部室内で何やらやっている。しばらく見ていると、どうやらあの謎の段ボールをいじってる。

ヒロツグ君はメジャーで三角形の辺の長さを測ってシン君に伝え、シン君はその長さを書き留めている。

「ねえ、ふたりで何やってるの?」

「ん、まあ、調査かな」

「ヒロツグ君とシン君のコンビは珍しいかも」

「そうかもな、こないだ部室に来たらシンが一人でやっててさ、一人で測って一人でメモして、何枚もあって大変そうだから手伝ってるってわけさ」

「うん、ヒロツグ君のおかげですっごい助かってるよ~」

「まあ、僕も気になるしね。これだけの枚数があるってことは何か組み合わせて使ってたんじゃないかと思うんだが。こういうパズルみたいのは、嫌いじゃない」

「分かる~、ボクも数字とか図形とか好きだよ」

「へ~、意外な共通点だね。あ、でもシン君は時々ノートに数字いっぱい書いてるもんね」

「ふうん、そうなのか。なんか天才数学者のエピソードみたいだな」

「あたしは、そんなに得意じゃないなあ、数学」

「そうなのか? だけどユーミ、天文学には数学は不可欠だろう? 天体の軌道とか、ロケットの打ち上げとか、全部数学がないとできない」

「う~、それを言われると、すごくつらい」

「天文好きのユーミと、数学好きのシン、いいコンビだと僕は思ってるよ」

「ユーミちゃん、数学嫌い?」

「今のところはまだ何とかなってるけどね、この先ちょっと心配かな」

「僕で役に立てれば、なんでも教えるよ~」

「ありがとシン君、心強いよ。ところでその段ボールだけど、なんか分かった?」

「まあ、ある程度、ね。なあシン?」

「うん。今わかってることを言うと、まずこの段ボールは2種類の形に分けられるみたい」

「同じ三角形じゃないんだ」

「そう。正三角形と二等辺三角形の2種類があるんだ。3辺とも61・8cmの正方形と、2辺が54・6cmで残り1辺が61・8cmの二等辺三角形」

「つまり、辺の長さも2種類しかないってことさ」

「なるほど……つまり……どういうこと?」

「ユーミ、本当に分かってる?」

「あははー。た、たぶんね、言ってることはわかってるよ、たぶん」

「ならいいけど。同じ長さの辺を持つ三角形がこれだけたくさんあるということは……」

「三角形をつなげて何かの形ができるんじゃないか、ってことだよね~」

「ああ、そうだな」

「ふむふむ、で、どんな形になるの?」

「それは……」

「それは?」

「分からない」

「分からないんかーい!」

ヒロツグ君がまじめな顔で言うもんだから、思わず謎関西弁でツッコんじゃった。

「まだ研究は途中だよ、ユーミちゃん。何かわかったら絶対教えるからね」

 シン君はそういうとニカッと笑って歯を見せた。まあシン君が楽しそうだしいいか。段ボールの謎は二人に任せておけばよさそうだ。


数日後。部室では机で顔を突き合わせて何やらしてるシン君とヒロツグ君の姿が。

机の上には、厚紙を切って作ったぽい三角形が何枚も。ふたりでそれを並べてああでもないこうでもないと話している。

「おや、研究中かな、お二人さん」

「ああ、ユーミか。まあそうだな」

「もしかしてこの厚紙ってあの段ボールと同じ形なの?」

「その通り。まずはミニチュアでいろいろ試してみようと思ってね。十分の一のサイズで作ってみたんだ」

「へえ~、マメだねえ」

「こういう細かい作業は嫌いじゃない」

 ヒロツグ君が時々いう「嫌いじゃない」ってたぶん「大好き」って意味なんじゃないかなと思う。

「それで、研究に進行はありましたかな」

「残念ながら、ちょっと行き詰ってる感じだね。この二等辺三角形を5つ並べて五角形になるかと思ったんだが、すこし隙間ができるんだ」

 ヒロツグ君が見せてくれたそれは、確かに出来損ないの五角形だった。二等辺三角形が五個、切り分けられたピザのようにぐるりと並んでいるけど、大きく切れ込みができている。ピザが一部だけつまみ食いされた感じ。

「そうなんだ、でもそれくらいの隙間なら無理やりつなげちゃいたくなるね」

 ヒロツグ君から出来損ないの五角形を受け取ったアタシは隙間をググっと閉じようとする。

「あ、おいそんな無理矢理なことするなよ。こういうのは綺麗なやり方じゃないとだめなんだ」

「あはは、ごめんごめん。ちょっと思っただけだよ」

「……ユーミちゃん、ちょっと今のもっかいやって」

 ずっと下を向いて集中してたシン君が、突然そう言う。

「え? えっと、ここの隙間をグググって……」

 力づくで隙間を閉じようとすると、厚紙がゆがんで、つなげた三角形が外れそうになる。

「それだ~!」

「どういうことだ、シン?」

 シン君は手元にある二等辺三角形を五枚ぐるりと並べてつなぐ。そしてそれを持ち上げて、五角形の中央部をへこませるようにして、隙間を閉じた。

「立体だよ。ずっと平面で考えてたから駄目だったんだ~」

 机の上には、五角形の傘みたいな、もしくはお皿みたいな、真ん中がへこんだ形の五角形ができている。えーとこれは五角錐っていうのかな。

「ああ、何で気づかなかったんだ、分かってみれば当たり前じゃないか」

頭を抱えて悔しそうな声を出すのはヒロツグ君。

「ユーミちゃんありがとう~! すごいヒントだったよ」

「あ、あはは~。全然そんなつもりなかったんだけど……」

「いや、僕とシンのふたりだけでもそのうち気づけたと思うけど、ユーミがいたからより早く気づけたんだ」

「うん、思い込みって良くないね~」

「よし、二等辺三角形は全部五角形にしてしまおう」

 アタシたち三人で手分けして、傘型の五角形が6つできた。これで二等辺三角形は全部使ったことになる。

「あとは、残ってるのは正三角形だけど、この正三角形の辺と、傘型五角形の辺の長さが一緒なんだよな」

「うんうん、そうだね。だかっら五角形を正三角形でつないでいく感じかな~」

「とにかくやってみようよ」

 五角形と正三角形の組み合わせをいくつか試してるうちに、帯状につなげていくとカーブを描いていくことが分かった。

「ねえ、これこのまま一周できるんじゃない?」

「僕もそう思ったところだ」

「試してみよう~」

 五角形と五角形の間の隙間を正三角形で埋める、これを繰り返すと円形にカーブして、最終的に輪っかができた。その形は、玉ねぎを輪切りにしたオニオンリングみたいだ。

 そして、そのオニオンリングの穴は、五角形になっていた。残った部品は、あと一つ。

「この五角形をここに乗せれるよね!」

「うん、これで残らず使い切れたね~!」

「この形は、ドームじゃないか!」

 ヒロツグ君の言う通り、できた形は、お椀をさかさまにしたようなドーム型の形だった。

「この部室にある謎の段ボールをつなげると、こんなドームができるってこと?」

「そういうことだな。大きさはこの10倍になるが」

 謎の段ボールは、先代天文部が残したものだと考えると、天文部の活動でこんなドームを作ってたってことだ。そして天文部でドームといえば……

「ねえ、プラネタリウムじゃないかなこれ」

「プラネタリウム~?」

「うん、そうだよ、きっとそうだ。このドームの内側に星空を映し出してたんだよきっと」

「プラネタリウムなんてそう簡単にできるものなのか?」

「うん、ピンホールプラネタリウムってのがあって、昔パパに買ってもらった雑誌の付録についてたんだけど、原理自体は簡単なんだ。このドームの真ん中に、星の位置に穴をあけた箱を置いて、その箱の中から電球を点けると、穴から出た光が外のドームに映って星空みたいに見えるってわけ」

「なるほど、原理はわかりやすいが、やってみるのは楽じゃなさそうだな」

「うん、でもやりたいな。……今度の文化部発表会、プラネタリウムやりたいよアタシ!」

「うん、やろうよユーミちゃん!」

即座にそう言ってくれるシン君。シン君にそう言われると、できるような気になってくるから不思議だよね。


「というわけで、天文部は文化部発表会でプラネタリウムをやりたいと思ってます」

 部員を全員集めたミーティングで、アタシはそう宣言した。

「プラネタリウムって作れるんだぁ、すてき!」

 真っ先にノッて来てくれたのはシオリン。

「うん、スクリーンになるドームは、シン君とヒロツグ君があの段ボールの謎を解明してくれたから何とかなると思う。問題は内側の、星を映し出すもとになる部分かな。恒星原盤っていうんだけど、星の位置に穴をあけた箱を作るのが一番大変そう。これはちょっとアタシがやってみます」

「部長が決めたことなら、特に反対意見はないわよ。でも私とシオリは美術部の方の作品も作っちゃわないといけないから、あまり手伝えないかも」

「うん、わかってるよそっちも大事なことだし」

「ワタシもプラネタリウム触ってみたいしぃ、できるだけ早く参加できるようにがんばるね」

「ありがとう、シオリン」

「俺も野球部あるけど、まあ手伝えることがあったら言ってくれよ。たとえば、力仕事とかな」

 力こぶを作りながら言うのはリョウ君。

「設営の時とかはぜひお願い! それ以外はあんまり力仕事はないかもだけど、手伝いはいつでも歓迎だよ。じゃあ、まとてみると、ドームスクリーンはシン君とヒロツグ君が担当。内側の恒星原盤はアタシが担当。他部と掛け持ちのウララ、シオリン、リョウ君は手手が空いたら手伝い、って感じかな」

 アタシの問いかけに、「おっけー」「異議なしだ」「いいんじゃない」「わかったぜ」なんてそれぞれに同意の答えが返ってくる。

「決まったみたいだね。天堂さん、だいぶ部長らしくなったじゃないか」

 アタシたちのミーティングを黙って聞いていた伊野谷先生がそういう。アタシはちょっと照れくさくなった。

「さて、文化部発表会の目標も決まったし、皆さんがんばりなさいな。あと発表会の前に期末テストもあるから、忘れないようにね」

「うわあ、それ考えないようにしてたのによ、先生」

「落第して参加できないとかわ勘弁してくれよ、リョウ」

「そんなことにならないように、助けてくれよヒロツグ~」

「まあ、それはいいけど、最後は自分の力だからな、がんばれ」

「うう、きびしいぜ、相棒」

 まあそんなやり取りもありつつ、正式にプラネタリウムづくりが決定したのだった。


7.製作スタート!


 アタシはさっそく次の日から取り掛かった。

 アタシが作るのは恒星原図っていう部品。実はインターネットで調べれば、いろんな作り方が出てくる。その中には、もう星の位置が書いてあって、印刷して組み立てるだけで使えるものもあるんだけど、今回は自分で作ってみることにしたんだ。

 でも作り方はかなり参考にさせてもらった。だいたいの方法はこんな感じだ。

 さっき、星の位置に穴をあけた箱って言ったけど、その箱っていうのは、普通の四角い箱じゃなくて、「正十二面体」ってやつだ。

 正十二面体は、正五角形を12枚張り合わせてできる形で、四角い箱、つまり立方体や直方体よりは球に近い。

 立方体はちょうどサイコロの形で面が6個だ。ほら、サイコロの目って1から6まででしょ? それに比べて十二面体は面が12個。この面の数が多いほど、角が目立たなくなって球に近づいていくってわけ。面の数で言ったら、正十二面体は、サイコロの倍だけ球に近い。

 じゃあ面の数をもっと増やせば、もっと球に近づくんじゃないかって? そうなると今度は作るのが大変になってくる。ほどほどに球っぽくて、ほどほどに作りやすいのが正十二面体ってこと。五角形12枚なら何とかなりそうって気がしてこない?

 まあそんな感じで正十二面体ができたら、今度はそこに星の位置を書き込んでいく。どうやって? 夜の星を見上げながら地道に書き込む、なーんてのはどう考えても大変すぎるよね。もうちょっと簡単な方法がある。

 ここで登場するのが、天球儀だ。地球儀じゃなくて天球儀ね。地球儀は地球を小さくしたような姿で、大陸とか国の形や位置が分かる道具だ。それに対して天球儀は星空に見える星の位置を球の上に書いてある道具。この天球儀は、わが天文部の部室である天文観察室の片隅に忘れられていたように置いてあったんだ。

 アタシはこの天球儀とにらめっこしながら、星をひとつづつ写し取っていく。まあ球から十二面体だからちょっと形が違うんだけど、星の高さとか方位とかを確認しながらやっていくしかない。あんまり正確さを求めずに、できる範囲でやろうと思ったんだ。アタシが何度となく見てきた星空、そこにある星座を思い出しながら、一つ一つ、両手で持てるぐらいの恒星原図に書き込んでいく。

 こうしてると、なんだかちょっと宇宙全体を司る神様みたいな気分になってくる。実際は地味な作業をひたすら繰り返してる中学生ですけどね。

 ところで、星座っていくつあるか知ってる? 正解は88個。まあ日本から見えない星座もあるから、それは書かないとしてだいたい80個ぐらいとしよう。そして、一つの星座で10個の恒星を書き込むとしたら……全部で800個! う~ん気が遠くなるね。でもこればっかりは地道にやるしかない。自分で作るって決めたんだから。

 アタシが天球儀を見ては星の位置を確認して原図に写し取っていく作業を繰り返しているとき、後ろではシン君とリョウ君がドームの組み立てをやっていた。

「まずは、この段ボールを2種類のパーツに分けよう」

「うん、こないだサイズ測ったときに、番号付けておいたよね~」

「ああ、シンがメモしてくれたこの表と合わせればすぐに分けられそうだな」

 う~ん、なんだか順調そう。まあトラブルが起きるよりはずっといいよね。

 アタシの方は、まず原図に北極星を書き込むところからスタートする。北極星はいつだって同じ場所にいて、夜空の目印だ。そしてその周りの星座を書き込んでいくことにした。

 まずはこぐま座。北極星は子熊のしっぽの先っぽにあるんだ。そしてりゅう座、きりん座。この辺は明るい星が少なくて分かりにくい。あとは北の空といえば忘れちゃいけないカシオペア座におおぐま座。おおぐま座のお尻からしっぽのところが、北斗七星だ。つづけてケフェウス座、ペルセウス座にアンドロメダ座。

「ユーミちゃん、頑張りすぎると疲れちゃうよ~」

「わ! なんだシン君か。急に話しかけられてびっくりしたよ」

「え~、何回か話しかけたんだよ~? 聞こえてなかったみたいだね~」

 え、ほんとに? アタシそんなに集中してたのかなあ。

 そんなことを思いながら窓の外を見ると、もう夕焼けも暗くなり始めてる。

「ええ? もうこんな時間?」

「そうだよ~。ユーミちゃんすごいね、ほんとに集中してたんだね~」

 シン君はそう言ってくれるけど、アタシはほんとは飽きっぽい性格なんだ。少なくとも自分ではそう思ってた。

 アタシは手の中の恒星原図を見た。進み具合はまだ十分の一ぐらいってところかな。それでも書けたところはそれなりに星空っぽく見えるんじゃないかな。まだまだだけどちょっと充実感もある。

 よーし明日も頑張ろう!


 そんな感じで何日かすぎたころだった。

「できた~!」

 その声の主はシン君だ。

「うん、かなりいい線いってるんじゃないか?」

 そしてこちらはリョウ君。

 どうやらドームの組み立てが完了したみたい。

「ねえ、できたの? わあ、すごいねけっこう大きいね!」

 確かにドームが出来上がっていて、そのサイズは直径2mぐらい。三角形をつなぎ合わせてできているそのドームは、段ボールとは思えないほどしっかりしてた。

「中で寝れちゃいそうだね~」

シン君はそう言ってドームの端を持ち上げて中に入ってしまう。完全に隠れちゃってちょっと笑っちゃった。

「わー真っ暗だ~。ここでプラネタリウムやったらきれいだろうな~」

 ドームの中からそんなこもった声が聞こえる。

 そうだ。ドームはしっかり作ってくれたんだから、アタシも頑張らないと。

「なあユーミ。展示は体育館でやるんだったよな」

「うんそうだよ」

「じゃあ、このまま運ぶのはちょっと大きいな、ある程度分割して向こうで組み立てるか」

 さすがは分析好きのリョウ君。もうそんなところまで考えてるなんてね。


そしてさらに数日が経ち……

「おわったー!」

 アタシがそんな声をあげたのは、ついに、星の書き写し作業が終わったからだった。始めてから、二週間ぐらいかな。

北の空から始めた作業も天頂や南の空に差し掛かると、季節によって移り替わる星座が増えてくる。そういう星座を改めて並べていくことで、星空の見え方が納得できるようになってきた。

うん、アタシこの作業やってよかったよ。前よりももっと星が好きになったもん。

「ユーミちゃん、おつかれさま!」

「ありがとうシン君。シン君もドームの方おつかれさまでした」

「まあボクの方は組み立てるだけだったからね~」

「でも、あの段ボールの謎を調べてくれなかったら、このプラネタリウム企画もなかったたもん。それも含めてほんとにうれしいよ」

「えへへ~、ユーミちゃんにそう言ってもらえて、よかったな~」

 照れくさそうに頭をかくシン君。

 その姿をみると、シン君が異星人エンリンだなんて、思えない。アタシたちと何も変わらないように思える。というか実際そんなことほとんど忘れてる時の方が多い。

 最初は変なヤツだと思っていたけど、いやまあ変わったヤツなのは、間違いないけど、でも話してみれば悪い子じゃないし、数学が好きな、おっとりした話し方の、背の低いクラスメイトでしかない。

 あ、もちろんわが天文部の副部長だし、そして大切な友達だ。今なら間違いなくそう思える。

 だから別に、エンリンとか、地球人とか、関係ないんじゃない? って思うんだ。

 そう、エンリンだってことを、隠す必要なんてないんじゃないの?

「ねえ、シン君」

「なあに、ユーミちゃん」

「シン君とか、ウララやリョウ君はさ、自分のことを、みんなに教えたいっておもうことはないの?」

「え……?」

「自分たちがエンリンだって言いたくならないの? 隠さないでいたいとか思わない?」

「……」

 シン君は黙ってしまった。

 アタシは失敗したと思った。聞いちゃいけないことだったんだ。あ~アタシのバカ! なんでこんなこと聞いちゃったかな!

「あ、あはは~。ごめん! 忘れて! 聞かれたくないことなんだよね。ほんとごめん。ちょっと思いついただけで」

「……だいじょうぶ」

「ほんとごめんね。あーアタシ、デリカシーなさすぎだよね。反省、反省」

「だいじょうぶだから!」

 ちょっと強い口調でいうシン君の姿は、シン君じゃないみたいだった。

「あ、あ~。ごめん大きな声だして。だいじょうぶだよ~」

 そしていつもの顔に戻るシン君。アタシは少しほっとした。

「あのね、たぶん、今はまだ無理なんだと思う。でもいつか、ボクたちの子供とかそのまた子供とかの時には、言えるようになってるといいな~って思うんだ~」

「そう、なんだ……うん、ありがとう答えてくれて」

「僕は、コーパーのみんなと仲良くできてる今も、すごく楽しいよ~」

 そう言って笑うシン君の顔は、なぜかちょっとだけ悲しそうに見えた。


次の日、教室に入って自分の席に向かう。

シン君はまた、ノートに何やら書いていて、こちらに気づかない。

ここで怖がっちゃだめだぞユーミ。いつも通りシン君におはようって言うんだ。

「おはよ! シン君!」

 シン君の手が止まって、こちらを向いた。

「あ~、おはよう~、ユーミちゃん」

 それはいつも通りの笑顔で、アタシは本当に安心したんだ。


 さて、そんなプチ事件もありつつ、プラネタリウムの製作は続く。恒星原図に星の位置を書き終わったら、次はその位置に穴をあける作業だ。

 組み立てた正十二面体をいったん開いて平らに展開する。

そして千枚通しを星の位置にブスッと刺して穴をあける。明るい星は大きな穴で。暗い星は小さな穴で。

いちおう天球儀上でも明るい星ほど大きく書かれてるから、それに合わせて星の大きさを書き込んであるんだ。

あ、そうだ、穴をあける作業の時は机に傷がつかないように、下に何か敷いてやらないと。コルク板なんかがいいらしいよ。

これまた地道な作業だよね。それでも、いちいち星の場所を確認しては書き写すのに比べたら、まだ楽な方かな。

サクサクやっていかないとね。でもこの穴を通った光がドームに当たって、それが星に見えるんだから大事な作業だ。できるだけ丸い穴の方がきれいに見えるよね、たぶん。

プチプチと穴を開けていく。大事な作業だけど、やっぱ地味!

「ねえユーミちゃん、それボクがやってもいいの?」

シン君が言う。たしかに、星を書き写す作業はアタシがやらなきゃと思ってたけど、書いた星に穴を開けるのは、アタシじゃなくてもいいかも。

「うん、じゃあ手伝って~」

シン君に千枚通しを渡す。丸い穴とか明るさに合わせて大きさを変えるとか、注意するところを教えると「わかった~」って言って、作業を始めた。

 うん、大丈夫だ。まあ作業そのものは簡単だもんね。

アタシたちの作業を見てたヒロツグ君が近づいてきて、

「なあ、僕にもやらせてくれないか」

というので、これまた代わってもらう。

 無言でプスプスと刺していくヒロツグ君。その目は真剣だ。でもなんだか楽しそう。

 アタシは、少し前から気になってることを聞いてみる。

「ねえヒロツグ君」

「なんだい」

作業を止めずに返事する。

「ヒロツグ君ってさ、もしかして、『プチプチ』つぶすの好き?」

 プチプチっていうのは、よく電気製品の箱に入ってる、ビニールでできたあれだ。空気が入った小さいボタンみたいなのがいっぱいついてるやつ。

 アタシの質問を聞いたヒロツグ君は、作業を止めて驚いた顔でアタシをみた。そして中指でメガネをクイっと持ち上げながら言った。

「どうして分かったんだい?」

 その顔があまりにも真剣で、アタシは笑ってしまった。

「なぜ笑う」

「あ、ごめん……ふふっ、なんかまじめな顔で言うからさ。でも当たってたんだね」

「ああ、そうだね。あれは好きだな。なんか心が落ち着くんだ」

「なんか、そういう無心でできる地味な作業が好きそうだな~って」

「ふん、けっこう分かってしまうものだね。確かにすきだよ。あれはずっとやってられるよ。1個づつ確実につぶしていくのが最高さ。で、最後までつぶし終わったシートを見ると本当に気持ちいいんだ。よくあれを雑巾みたいにしぼって、一気につぶそうとするやつがいるだろう? あれは最悪だ。まさに最悪。あれをやっても、つぶれずに残るところが多いんだよ。まだらにつぶれたやつを見ると悲しくなるな。まあ実はリョウがこのタイプなんだが……」

 あ、これは、なんか語りだしたぞ。

 宇宙のことになると早口になるアタシが言えることじゃないけど、これは長くなりそうだね……

 でも、こんな感じでこの穴開け作業は分担して進められそう。

「あ、そういえばさ、ドームを分割する話ってどうなったの?」

 ヒロツグ君の語りが続いているけど、ちょっと話題を変えることにした。

「プチプチにもつぶれやすいヤツと……ん、なんだって? ドームの分割の話かい? それなら、なあ、シン」

「うん、バッチリだよ」

シン君はそういうと、ミニチュア版のドームを持ってきた。

「ここを、こう分けるでしょ、そしたらこうなるんだ~」

 そう言いながらあっという間にドームが解体されていく。しかも三角形をいくつつなげたままで、全部で6個の部品になった。

「すごい! これなら持ち運べるし、組み立ても楽そうだね」

「シンと二人でミニチュアで考えたんだ」

「えへへ~、パズルみたいで楽しかったな~」

「う~ん、我が部の部員、もしかして優秀?」

「それは、客観的に見てそうだろう。シンも、ユーミもそれぞれに長けている分野があるし、そして何より僕がいる」

「自信にあふれてるね。でも実際その通りだと思うよ。他のみんなも、最初はどうなるかと思ったけど、まあ実はいい人ばかりだもん」

「ボクは、最初からうまくいくって思ってたよ~」

「うん」

ためらいなく言い切るシン君。たまに不思議と悟ってるようなことを言うよね。



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