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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
97/106

最悪な邂逅

ようやく闘技大会が終わり、何とか酒臭い空間を逃げ出したというのに今度は血生臭くなりそうな敵襲とは運がない。しばらくグチグチ愚痴を言っていたいところだがそんな能天気なことをしている場合ではない。そしてさらに残念なことに敵はモンスターではないだろう。集落に火は十分に焚かれている。それに宴のせいで集落周辺は騒がしいので獣が寄り付くようなことはないはずだ。


そんなところに寄りつくのは夜盗くらいのものだ。しかしここが戦闘民族テルシャ族の集落だと知っていれば近づかないはず。それに鐘を鳴らしてまで敵襲を知らせるということは敵の規模は小さくなく、敵はチンピラレベルの相手ではないということ。計画的な襲撃と考えるのが妥当か。


俺は冷静に考えていたがとりあえず敵のいる門のところまで行ってみることにした。


「いいか、他の奴らと一緒に逃げるんだぞ!」

ゼオにそう言って地面まで10メートル以上ある通路から飛び降りた。地面に着地すると同時に逃げ惑う人々の中をかき分けて敵の方へと走った。敵は少しずつ内側に侵入してきているようで戦闘も始まっているようだ。集落を守るはずの門は破壊されていてテルシャ族の戦士たちが集まっていた。すでに負傷した戦士たちもいるようで敵の数と強さに手を焼いているようだ。


門の付近にはテルシャ族の戦士たちと相対するように何人もの屈強な男たちが戦っていた。ただの夜盗には見えない。テルシャ族の戦士たちと同じように鍛え抜かれているのを感じる。門の奥、暗闇から何か大きく重たい振動と足音を立てて近づいてくる。森の暗闇を引き裂いて現れたのは3メートル近くある巨大なゴブリンのようなモンスターだった。とんでもない増援だ。


モンスターが一歩前に出る。


モンスターが言葉にもならない咆哮を上げる。耳をつんざくような爆発音にも似た大声だった。

モンスターが一歩前に進むとテルシャ族の戦士たちが一歩退いて、たじろぐ。しかしそんなしり込みしている屈強な戦士たちの間を風のように素早く通り抜けた他の戦士よりも小柄な戦士がいた。


「!?」


そいつは目の前にいた夜盗たちを目にもとまらぬ速さで倒すと、足の力だけで3メートルはある巨大モンスターの頭の上を飛び越えて後ろに着地する。それと同時にモンスターの首が落ちる。モンスターが倒れる。倒れたモンスターの奥にいたのはすでに戦っていたのか体のあちこちに血が付いたの女戦士のゾイだった。息が上がっている様子も負傷している様子もない。おそらく全て返り血だろう。その手には同じく血まみれの1本の短剣が握られている。


「怯むな‼我々は誇り高きテルシャ族の戦士‼そして相手はその誇りを持たぬ臆病者だ‼我々の逆鱗に触れたことを後悔させてやれ‼」


戦士たちが雄叫びを上げる。これこそまさに叱咤激励。さきほどまで怯んでいた戦士たちから先ほどまでは感じなかった熱気が感じられる。戦士たちは雄叫びとともに敵へと向かっていく。


「レイジ、悪いが力を借りるぞ」


「ああ!まかせとけ!」


そうして俺もゾイも敵へと向かっていく。俺は剣を握りしめていつものように駆け出す。なんやかんやで本格的に人間を相手に命を懸けて戦うのは久しぶりだ。と言ってもそんなに難しいことはない。何度も言うが普通の人と俺では話にならない。敵を峰打ちにするくらいどうということもないし流れ作業のようなものだ。面倒なのはモンスターだ。


敵はどうやらモンスターを使役しているようでモンスターは夜盗とテルシャ族の戦士を正確に見分けて戦っている。やはりただの夜盗ではないようだ。モンスターを使役するのは犬や猫を飼いならすのとはわけが違う。モンスターが簡単に人間に従うはずはない。一体どうやって・・・。そんなことを考えながら向かってくる大量のモンスターを倒す。それにしてもモンスターの数が多い。いや、俺のところに積極的に向かってきているのか。


どうにも妙だ。今気が付いたことだがさっきからかなりの数を倒しているにもかかわらず俺が知っているモンスターが1体もいない。この地域とハイデン王都の近くではこんなにも生態系が違うのか?いや、そんなはずはない。モンスターは広く分布している。ここだけこんなに違うはずはない。何かおかしい。そしてこの疑問の残る感覚は前にも体験したことがある。俺はその時のことを明確に覚えている。


キメラでの騒動だ。俺が異世界にきて最初に巻き込まれたあの事件の時の感覚にとても似ている。見たことも聞いたこともない凶暴なモンスター、数の多さ、しつこく俺につきまとう感じといいあの時に酷似し過ぎている。


「そろそろ気が付いたか?この現状に」


声の方を見る。そこには何かの鉱石でできているゴーレムのようなモンスターがいた。ゴーレムの見た目はイメージしやすい普通のゴーレムとは違い不格好でもなければ、土くれの塊という感じでもない。全身が鏡のように磨かれており、ゴ-レムの体に俺の顔が映り込む。まるでSF映画に出てくるロボットのようだ。そしてゴーレムから低い笑い声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。


「まさかっ!」


「久しぶりじゃないか。最後に会ったのは尋問の時だったかな?」


「何でお前が」


その声の主の名は加賀マチヒト。前に起きたキメラ騒動の黒幕であり生き物を支配する猛獣使い(ビーストテイマー)の能力を持つ俺やユウナと同じこの世界に転生してきた転生者。キメラ騒動が終息したときに捕まって王都の地下牢獄に入れられていたがしばらくして脱獄、行方不明になっていた。

今はこのハイデンで指名手配になっている。


「こればっかりは偶然だ。困っていた低俗な輩がいてな。そいつらに救いの手を差し伸べてやって、その成果を見ていたのさ」


奴が関わっているということはやはりこのモンスターたちはキメラか。キメラを夜盗どもに売ってその様子を高みの見物とは相変わらず癪に障る男だ。だがよく考えれば俺が集落に到着するまでの出来事にも納得がいく。下顎を失った状態で死んだ荷馬車の男、クロスボウを持ったガスマスクの男。すべて裏にはキメラと加賀がいたということになる。


「しかしお前がいるとなれば大した成果は得られないな。とても残念だ」


「迎えに行ってぶん殴ってやるから今どこにいるか教えろ」


「相変わらず凶暴なやつだ。悪いが俺は忙しい。これで失礼させてもらう」


「待て‼」

そう言ったところで加賀はその場にはいない。これはあくまでも遠距離通信のようなものだ。いなくなろうが俺に止める術はない。


「ああ、そうだ。近々面白いことが起きる。楽しみにしているといい」


加賀は不穏な言葉を残した。何かは知らないが絶対にろくでもないことに決まっている。またあの時のように多くの死傷者を出すつもりだろうか。厄介ごとばかり増やしやがって。俺が舌打ちをしたと同時に鏡のようなゴーレムが鋭い爪の付いた腕を振り上げた。


俺は怒りに任せて剣でその腕を斬り落す。いや、正確には斬れてはいない。砕いたといった方がいいだろう。力技の無理やりの攻撃だった。そしてその無茶な使い方によって剣が折れた。所詮はそこらへんの武器屋に売っているような普通の剣だ。硬いゴーレムを無理やり砕いたのだから剣が折れるのは当たり前だった。


武器を赤と黒の剣の神器に持ち替えてゴーレムを完全に粉砕する。周りにいた何体ものキメラを倒した。現れた3メートルを超える腕の生えたドラゴンのようなキメラを10秒も経たないうちにバラバラに切り刻んだ。俺は怒っていた。再び現れた加賀とキメラに。なぜそこまで無神経に誰かを傷つけることができる。平然としていられる。元の世界だろうが異世界だろうが命は軽くない。それなのに。


どうしてそこまで残酷になれる。


そんな加賀への怒りを剣に乗せ、キメラたちに振り下ろした。

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