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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
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宴潰し

「優勝者はまさかの旅人‼レイジ!」

司会が大声で優勝者の名前を呼ぶ。個人的にはなんだかズルをして勝ったような感覚があって素直には喜べない。肩身が狭い。


「審議の結果、掟に従い次の族長はこの男だぁぁ!」


「・・・ん?」

ちょっと待て。今なんて言った?危うくそのままスルーするところだったが俺の聞き間違いだろうか。


「今なんて言ったの?」

隣に立っていた準優勝者のゾイに耳打ちする。ゾイはあざ笑うように言う。


「次の族長だ。そもそも、この闘技大会は次の族長を決めるためのものだからな」


「はあッ!?そんなこと一言も」


「聞かれてないからな。それに私は部族の繁栄を願っている。一応言っておくが騙された、などとぬかすなよ」


してやったりと言わんばかりの悪魔のような笑みだ。こ、こいつ‼やりやがった!そして完全にやられた。俺はまんまとゾイの策にハマってしまったようだ。


つまりどういうことかというと、ゾイの目的は元より俺をこの部族に引き込むことだった。そうすれば部族がまた一段と強くなる、より反映するからだ。俺が優勝すれば族長に、ゾイが優勝したならばそれは俺よりゾイの方が強いということ、力づくで俺を抑え込めばいい。要するにどう転んでもゾイの望んだ方向に物事が運ぶようになっていたのだ。


そう思えば多少強引だったこの闘技大会への参加も納得がいく。なんだか胃が痛くなってきた。まるで美人局(つつもたせ)に会ったかのような気分だ。相手の策にまんまとハマってしまったことは悔しいがそれ以上にテンションが信じられないくらいに下がる。やはり女には気を付けないと駄目なようだ。


俺の周りにはぜるを含めた集落のいろんな人、特に女の人がたくさん集まってくる。


「ねえアンタこれからうちに来なよ!」


「私と遊ぼうよぉ」


「ウチと楽しいことしない?」


腕を引かれたり、しがみつかれたりと甘い誘惑に群がられてしまっている。


というかちょっと待て。あれ?これがハーレムってやつなのでは?これ、俺が目指していた状況なのでは?


俺の目指していた楽園はここにあったのか。女の人に囲まれているからだろうか少しだけ気分が良くなった。ちょっとちやほやされただけで気分が良くなるというのだから男というものは単純だ。自分でも呆れてしまうがこればっかりはどうやっても治らないものなので仕方ない。


「族長というのもお前にとっては悪い話ではあるまい」


「ま、まあそうかもだけど」


「この後は宴がある。お前もせいぜい楽しめ」


ゾイはそう言ってどこかへ行ってしまった。一方の俺は女集団に引き連れられて宴の席に座らされた。



それからしばらく時間が経ったがはっきり言ってもう帰りたい。最初のうちは良かった。宴というだけあって豪華な料理や、酒を飲んで騒いでいる奴らがいてにぎやかだった。しかしもう限界だった。女に囲まれるのは、少なからずうれしいがそれ以上にソワソワする。その理由はこの集落の女の大胆さにある。まず、格好が肌を晒しすぎなのだ。腕や脚はもちろん、胸元も大胆に大きく開いている。戦闘民族だからこそ動きやすい服装をしているのだろうけど戦闘面以外においては童貞殺しの格好でしかない。


さらには女集団がすり寄ってくるのだから体と心に毒だ。


「もう本当に、勘弁してください」


「あら、恥ずかしがり屋なのね。本当に可愛い」


違うの‼俺はもうずっと恥ずかしくて死にそうなの‼女集団は酒が回り始めて大胆さが増してきている。

大人が羨ましい。こういう時に酒があれば酒の力でどうにか乗り越えられるのだろう。俺はまだ未成年なので酒は飲めない。異世界に来ても律義に日本の法律を守っているのだ。おかげさまで至って冷静だよ。


やばい。このままここにいると絶対に頭がおかしくなる。とりあえず理性のタガが外れる前にここを脱出せねば。ハーレム空間を望んでいるくせにいざ実際にそうなってみると恥ずかしさが勝る。自分の意志の弱さが情けない。




俺は賑やかなその会場からこっそり逃げ出した。酒だらけの空間で素面でいるのがこんなに辛いとは思ってもみなかった。これが社会人が悩まされるという酒の付き合いというやつか。親父の帰りがたまに遅かったとき、こんな地獄みたいな空気を味わっていたのか。ようやくわかったよ。俺はどうやら一足先にやばい世界を見てしまったようだ。


俺は木の上の自分の家に戻ることにした。巨木の中の螺旋階段を上って上に着いたとき、地面に座って下の祭りの様子を見降ろしていた小さな背中があった。


「行かないのか?」


「うん。ここから見る景色が好きなんだ」


「そうか」


俺はゼルの隣に座った。


「優勝おめでとう」


「そんな褒められたものじゃないさ」

何せ身体能力的にズルしてたからな。あまり褒められても困る。


「すごいな。お姉ちゃんにまで勝っちゃうなんて」


「ゾイは強かったよ。下手したら死んでたかも」


半分は本当の感想だが半分は嘘だ。ゾイは間違いなく強い。しかし人間の域は出ない。そしてここだけの話だが例え俺の力が人間の域にとどまっていたとしても俺が負けることはなかったと断言できる。今回は身体能力の差がすべてを分けた。人と人の域から出た転生者。その差は比べるまでもない。だがもし同じ人間同士の戦いだったなら勝負を分けていたのは体格だっただろう。


小柄なゾイとそれより体格の大きい俺。体重も俺の方が重く、元より俺の方が力が強い。ゾイはいわゆるゾイという人間の限界点そのもの。自分の体の力を極限まで引き出した相手だったと俺は思っている。だから強かった。


まあ、俺はそれ以上に()()()()()()()()1()()()()()()()()。アレは本当に人間なのか怪しいのでいったん無視しよう。


「僕もそれくらいの勇気が欲しいよ」


「そんなに悲観する必要ないさ。勇気なんて常にあるものじゃない。本物の勇気ってのは本当の窮地に立った時に出てくるものだからな」


「そうなの?」


「少なくとも俺はそうかな。普段から何でもできるわけじゃない。でも生きていると嫌でもやらなくちゃならない時が必ず来る。その時に逃げずに立ち向かう強さが試される。だから常に勇敢な奴は常に追い詰められてる奴か、自分を強く見せたい奴か、あるいはただバカのどれかだ」


誰にだっていやなものや怖いものはある。そしていつだってそれに立ち向かえるわけじゃない。みんな勇敢だしみんな弱い。常に勇敢を気取っている奴はそうしなければならない理由があるか、あるいは自分を勇敢だと思っている考えなしのただの無鉄砲。勇敢さと愚かさは紙一重。生きていくには勇気と弱気の使い分けが重要なのだ。


「みんな常に強いわけじゃないんだ」


「みんなほどよく力を抜いて生きてる。そうじゃないと疲れるからな。でもいざとなったら勇気を振り絞る。そんな感じでいいんだよ」


「僕にできるかな・・・」


「誰にだって勇気はある。気が付いてないだけだ」


異世界に来て何度も窮地に追い込まれた今だからわかる。酷い状況に陥ったときこそ「絶対に打開してやる」と強く思う。怖くてもつらくても一歩前に進もうと思える。


俺たちの周りはとても静かだが下の祭りは人々の笑いや話し声、楽器の音などで騒がしい。どこからか鐘もなり始めてより騒がしく盛り上がっているようだ。


ゼオは突然顔をしかめる。


「この鐘・・・敵襲だ‼」


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