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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
94/106

闘技大会

さて、いろいろあってようやく闘技大会が始まるわけだが先に結果を言わせてもらおう。


勝った。


鍛えられているとはいえ普通の人間と転生者では普通の人間に勝ち目などあるはずはない。特に俺みたいなゴリゴリのパワータイプならなおさらだ。それは当然なことで俺のことを知っているなら予測はついていただろう。しかしここまで無駄に話を引っ張っておいて結果だけ言うというのはあまりにも味気ないだろう。だからところどころ端折って話そう。




第1回戦。相手は何という名前だったか。現れたのは男だった。その体はボディビルの大会出場できそうなほどに大きく、筋肉1つ1つが岩のように大きく力強かった。上半身裸だからか余計に強そうに見える。俺もあらかじめ上半身と靴を脱ぐように言われていたので上は何も着ていなかったのだがその体は相手の男とは違いマッチョとは程遠い細く弱々しい腕だった。試合の結果はその体格の違いを見た時点できっと誰の目から見ても明らかだっただろう。


会場がざわつく。当然だ。体格が違いすぎる。岩のように屈強な腕と枝のような細い腕それだけ見れば何も知らない素人からしても力の差は歴然。ボクシングならば相手は90キログラム以下のクルーザー級、もしくは最も重たい階級である90キログラム以上のヘビー級だろう。あのマイクタイソンと同じ階級だ。実際にマイクタイソンに会ったことはないが目の前の相手はおそらくそれと同じくらいデカい。間違いなく178センチはある。一方俺はうろ覚えの体重にいくつか上乗せしたとしても69キログラム以下のスーパーウエルター級というところだろう。


身長も体重も差は大きい。そして体重の差はパンチ力の差だ。もちろん体重ですべてが決まるわけではないが筋肉量、地面との摩擦力などの関係から体重が重たい方がパンチ力は上がる。しかも相手は喧嘩の素人ではない。しっかり体重を乗せたパンチを繰り出してくるだろう。


それに対して俺は喧嘩慣れはしているが鍛えているわけじゃない。今のところ俺に対していいニュースが1つもない。


「棄権するなら今のうちだぞ」

相手の男が言う。


「ご心配どうも。でも大勢が見てる中で恥をかきたくはないんでね」


普通の人間なら拳法の達人でもない限り棄権した方がいいだろう。しかしこの一見負け要素しかない状況でも俺には勝ち目がある。もちろん転生者だから負けるわけはないし、例えそうでなくとも負ける気はしない。それは転生者だからじゃない。()()()()だ。


試合開始の鐘が鳴った。男はそれと同時に距離を詰めてくる。すぐに1発目の右ストレートが放たれた。俺はそれを難なく避ける。そこからさらに何発者パンチが飛んでくるが俺は変わらぬ調子で避け続ける。男のパンチが大きくそして重たいというのは風を切る音と男の体から出る闘気というかオーラのようなものでわかった。この男の一撃は喰らえば間違いなく痛い。痛さとしてはプロ野球選手の投げた剛速球が顔面に直撃するのをイメージしてもらえれば痛さが伝わるのではないだろうか。当然、普通の人間にそんなものが当たったら間違いなく病院送りになる。


しかしこの男には足りないものがある。パワーはある。しかしそれ以外が足りない。スピードはまあまあだとは思うが転生前の俺でも余裕で見えるレベルだし、何よりパンチばかりで攻め方に工夫がない。ボクシングならこの男はベルトを取れるだろう。しかしこれはボクシングではない。戦いにルールはあるが()()()()()()()()()()()


殴ろうが蹴ろうが技を仕掛けようが何でもアリなのだ。


特にひどいのは足元。完全にお留守だ。この男は全身を使って戦っていない。俺は少しばかりため息をつく。こんな戦いを長引かせても仕方ない。


パンチの猛攻を躱して男の足に1発、蹴りを入れる。もちろん全力ではない。そんなことをしたら男の足が砕けてしまう。

「くっ!」


男がバランスを崩す。足への警戒が少ないから簡単に体勢を崩してしまう。そしてその一瞬の崩れと隙が敗因を生む。


俺は男の胴体に4発、ツッパリのような攻撃を入れる。中国拳法の発勁(はっけい)、と呼べれば格好良かったのだが残念なことにそんなすごい技は使えない。ただのツッパリ攻撃だ。パンチほどに威力はないがそこそこ痛いはずだ。そして何よりバランスを大きく崩す。


男がしりもちをつく。


「勝負ありだな」

俺は男の右足に軽く足を乗せる。


「まだだ‼」


「いや終わりだ。降参しないならこの足を踏み潰す」

俺が足に力を入れると男は苦しそうに呻き声をあげる。まあそりゃあ痛いだろう。転生者の力は強い。俺なんかは人間の足くらい難なく粉々に踏み砕ける。もし踏み砕かれたら骨折、ではないだろうな。少なくとも普通の骨折にはならないはずだ。どう足掻いても粉砕骨折?というやつは免れないのではないだろうか。そしてこの世界に粉砕骨折を直せる手段があるとは思えない。運が良ければそういう魔法もあるかもしれないが。


「諦めな。足を失いたくはないだろ」


「・・・俺の負けだ」

相手の男が敗北を認めたことで試合は終わった。試合終了の鐘が鳴り、男が立ち上がる。そして俺に向かって手を伸ばした。一瞬何を意味している手なのかわからなかったがすぐに試合終了の握手だと気が付いた。見た目は怖いけど意外と礼儀正しいなこの人。俺はそう思いながら相手の男と握手を交わした。




こうして第1試合が終わった。と、まあこんな感じで決勝まで試合が進んでいくわけだ。試合時間は意外と短い。ごめんね。名前忘れちゃって。礼儀正しかったことしか覚えてないわ。


この次の2回戦目、3回戦目、準決勝はこんな感じが続くので試合に関してはすべてカットということにさせてもらう。大事なのは決勝だ。流石に決勝ということもあってこの試合はとても白熱した良い試合だった。久しぶりに心が昂ったいい試合だったと心から思う。ただ残念なことがあるとするならやはりフェアな戦いではなかったということだろう。この日ほど転生者の能力を恨んだことは今までなかった。


元の身体能力で戦っていたならきっともっと心躍る戦いになっていたはずだ。


・・・そうか‼決勝相手を殺して転生させればいいんだ!(サイコパス的思考)

しかしすべては過ぎてしまったことだ。残念だが涙を呑んで受け止めるしかない。


試合を終えて控えに戻った時、その場にいた奴らが俺を見てざわついた。試合があまりにも早い決着だったのでその反応も無理はないだろう。しかしそんな中でただ1人だけ何も言わずにこちらをにらむような視線で見ている選手がいた。数少ない女選手の1人。その中でもひときわ洗練された風格を持つ戦士、ゾイだ。


突き刺すような鋭い視線に気が付かないほど俺は能天気ではない。あれは獲物を見つけた時の目だ。一方的に狩る加虐心からくるものではない。あの目は『張り合いのある相手』を見つけた時の目、わかりやすく言うなら釣れるかもわからない釣り場の主を見つけた時のような挑戦の目だ。 頬に焼けるようなピリピリとした感覚が走る。戦うまでもなく凄まじい闘気を感じる。


そのまま言葉を交わすこともなく俺はその場を後にした。


俺は待機場のすみっこに座ってぼんやりしていた。ゾイ以外の他の選手の試合には興味がなかった。他の選手の試合は正直つまらない。会場も戦っている本人たちも白熱しているがゾイのあの肌を焼くような闘気を感じた後ではなおさら他の試合がとてもショボく感じてしまっていた。


「そんなすみっこで何してんだい?」


すぐ目の前から声が聞こえたので視線を上に向けると女が立っていた。といっても華奢な少女のような感じの女ではなく筋肉質で背が高い。見るからに女戦士って感じの見た目だ。全体的に肌の露出が多くて脚やら腹やらいろいろまる見え。あと胸がデカい。何となく目のやり場に困って思わず視線を逸らした。


「ちょっと考え事してただけだ」


「ふーん。他の試合には興味ないのかい?」


「ま、まあそうだな」

女が隣に座ってきてこちらに顔を近づけてくる。距離が近い。俺はやはり目を逸らす


「可愛い顔じゃないか。思わず食っちまいたくなる」

突然のとんでもないカミングアウト。


「食べないで!」


「そう言われると余計にそそる」

女が俺に覆いかぶさるように体を近づけてくる。これはあれなのか!?俺に春が来た的なアレなのか!?

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