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悲劇の夜

その姿はさっきまで見ていたナヨナヨとしたメガネっ娘ではなく

1人の立派な女騎士だった。


「いいねぇ。カッコいいじゃねぇかその台詞」


「うぅ、思い出すと恥ずかしい」

あれ?またいつもの気の弱いモード入っちゃったか。結構中二心がくすぐられるアツい展開だったのに。


「よくわかんねえけど戦えるんだろ。じゃあさっさと倒そうぜ腹減ったよ」


「はい。では迅速に倒しましょう」

そこからはまさに形勢逆転だった。ルイズはさっきよりも動きにキレがあり次々とゴブリンを倒している。


俺もさっきよりペースを上げてちょっとだけ本気で戦っている。

敵がまるで俺の動きについて来れていない。いい機会だしたまには他の神器も試してみるか。


俺は剣をしまって別の剣を装備した。右手は炎属性の剣、左手は雷属性であろうビリビリしている剣を装備して二刀流で暴れる。灼熱の炎に稲妻の閃光、舞い上がる血しぶき。

そこはまさに地獄でありカオスであり戦場だった。


そしてこれがスーパー無双タイム!!




「ふぅ、これで全部か」

気がつけば辺りに自然の緑まったくなく赤黒い血とゴブリン達の死体が山積みになっていた。敵はもうどこにもいない。


「皆と合流しましょう」

眼鏡をかけたルイズの眼の色は気がつけば紅から青になっていた。あれは見間違いだったのか?そうだとすると俺はもう末期かもしれない。


そうじゃなかったとしたらそれはそれで何か秘密がありそうだが

まあそれは後でいい。今はとにかくみんなと合流することを優先しないと。


森の中を走り抜けると少し遠くの方に焚き火の光が見える。

やっと合流できそうだ。腹は減ったし、精神的に疲れたしでもう早く休みたい。


ルイズに合わせて走ると遅い。

「悪い、しっかり捕まってろ」


「えぇ!?」


早く休みたいという欲求が抑えられない俺は膝のあたりからすくい上げるようにルイズを持ち上げると肩に乗せて全力で走った。


野営地の光が一気に近づいて来て、そしてついに


「ゴール!!」

喜びのあまりつい大声を出してしまった。肩に乗っていたルイズを降ろすと早く走りすぎたのかちょっと髪の毛が乱れ、チーンと

死んだような顔をしていたがすぐに我に返り


「も、もう着いたんですか!?」

と辺りを見回していた。ごめんね、いきなり担いで走ったりして。


「団長!無事だったんですね!」


「良かったです!」


「心配しました」

と白百合騎士達がルイズの周りに集まってきた。

おー愛されてるねぇ団長。···ん?団長···?断腸?いやそれだとただの死刑宣告だし、団長?つまり団の(ちょう)


上手く回らない頭が少しずつ回り出した。

「団長!?」


「ごめんなさい。言い忘れてました」

正直そんな「私は戦えるんですよ」とかいいからそっちを先に教えて欲しかった。ナヨナヨとしたメガネっ娘の正体は下っ端ではなくボスでした。


ルイズは女騎士達に囲まれながらテントの中に入っていった。

俺の周りには男達が「お前よく帰ってきたな!」


「流石はなんかすごい冒険者だな!がっはっは!!」

と俺の帰還を喜んでくれた。ただ一人を除いて。


飯食って寝ようと思ったその時、後ろからがっしりと肩を掴まれた。それと同時に騒がしかった男達が消えてしまったかのように静かになった。


「もしかして今『飯食って寝よう』とか思った?」

その声を聞いたときスッと血の気が引いたのがわかった。

ダラダラと汗をかいてきた。鳥肌もヤバイ。


「私なんだか眠れないの。ちょっと、お話しましょうか」


「···はい」

俺は悪さした猫のように首根っこを掴まれ王女様専用のテントに連れて行かれた。

レイジ、ゴールやない。ここが(地獄の)スタートラインなんや。


「どうしてちょっと目を離した隙にいなくなってるのよ!」


「俺だって迷子になりたくてなったわけじゃないし、というかそういうのは事前に教えてくれないかな‼」


「神の森では常に気を抜かない!世界共通、万物万象、子供からお年寄りまで常識中の常識でしょう‼」

うーむそう言われると何も言えない。この何ヶ月かは近くの森でモンスター狩りしていただけで他は何もしてなかったからな。どうやらこの世界の常識をまだ完璧に把握していないらしい。


多少は勉強したほうがいいみたいだ。


そのあとも馬鹿だアホだと罵られ、挙句の果てには「心配だったのはルイズのほうよ。あなたの心配はしてないわ。どうせ迷子になったって森ごと吹き飛ばしたりして脱出するんでしょ?」などと言われるさまだ。


お前の中での俺は一体どんな風に写っているんだ。流石に森を吹き飛ばしたりはしねぇよ。せいぜい燃やしたりとかだよ多分。ここで反論すると絶対にお説教がヒートアップして『説教 the endless inferno』とかに進化するに決まっているので黙って怒られておく。


火に爆弾を入れる勇気は俺にはねぇよ。


なんとか長い説教に耐えてテントから出た。

「ご苦労な奴だな」

テントのそばに立っていたのはサディスだった。


「もう帰って寝たいよ。てか帰っていいよな」


「ははっ、まぁそう言うなこの作戦にはお前の力が不可欠だからな。そういえばスープ温めなおしたんだが飲むか?」


「・・・飲む」

この遠征隊の中で一番俺に優しいのはコイツなんじゃないだろうかとしみじみ思った。


温かいスープを飲みながら今日の出来事を思い返す。あの神の森とかいう場所。普通に考えて真ん中、しかもエリザベートがいる分厳重な警戒になっているにもかかわらず迷子になんてなるか?

まさに神隠しにあったということか。こんな調子じゃ命がいくつあっても足りない。


何かもっと勉強できそうなものがあればいいんだが、帰ったらエリアスにでも聞いてみるか。


「あの、隣いいですか?」

見ると器を持ったルイズがこちらを見下ろしていた。


「もちろん」

俺がそう言うとルイズは俺の隣に座った。二人とも喋ることもなければスープを飲むこともない。

気まずい空気が流れる。チラッとルイズのほうを見る。焚き火の炎に照らされて顔をオレンジ色に染めながらもながらもその目は青く透き通っていた。


あの時、森で見た時とは違う。

何度か考えたが戦いの時ルイズの目は確かに赤かった。元の世界にいた時はゲームばっかりやっていたが俺も赤と青を間違えるほど目は悪くない。俺の視力は生まれた時から変わらず2.0だ。

それにルイズは言っていた「私は戦えるんだ」って。それと何か関係あるのか。


その話を切り出したいところだが無闇に探らないほうがいい、よな。

そう思ったとき。


「あの、さっき森の中で私の眼を見ましたよね?」

はいキター。ちょうど俺が考えてたことを見事に言ってくれたな。探らないほうがいいよなって思ったばっかりなのに向こうは探らせる気だよこれ!


「いや、うん見たけど。まずかったか?」


「いえ!そういうわけじゃないんです。ただ」


「ただ?」


「気持ち悪くないんですか?」


「は?」


「いえ初めて見る人は大体私のことを気味悪がったり怖がったりするので」


「そもそも何で目の色が変わるんだ?」


「私は、魔眼持ちなんです」


「魔眼?敵を石に変えたりするのか?」


「私の能力はそんなすごい能力ではなくてシンプルに生き物を切り裂く能力です」


なるほどだから森の中で戦ったとき後ろに回り込んできたゴブリンを倒せたのか。ゴブリンとはいえ一撃で殺せる威力を持っている魔眼。確かに怖がられてもおかしくはないな。

攻撃する素振りを見せずに確実に相手を切りつけられる。そんなもので首や目を切りつけられたら一たまりもない。普通の人はもちろん俺でさえも。


「普段は何かの拍子に力を使わないように眼鏡をかけてるんです。私の魔眼の力は眼鏡を貫通できるほど強くないので」


「そうか」

そこで会話が途切れてしまった。何か声をかけてあげたいが何と声をかけるべきかわからない。

俺からすれば強いことは良いことだ。だがそれはお気楽な俺だから、力を持っているからこそそう考えているだけだ。もし俺に今みたいに戦える力がなくてただの村人だったならそうは考えなかったかもしれない。


強い力が必ず正義に使われるわけではない。もしかしたら私利私欲のために使われるかもしれないし

正義だったとしてもいつか裏切られるかもしれない。

そう思うとルイズを恐れていた人たちの気持ちもわからないでもない。だから何も言えない。


「騎士団のみんなはどうだったんだ?」


「みんなが眼のことを知った時、最初はやっぱり誰も近づいてきませんでした。でもそのうち皆も慣れたのか普通に接してくれました」


「そっか。でもきっとみんなが慣れたっていうよりお前が信頼を勝ち取ったんだと思うけどな」


「そうでしょうか?」


「だってそうじゃなきゃエリート達が気を許したりしないと思うぜ」


「なるほど」

心なしかルイズの顔が少し明るくなった気がする。さっきだってルイズの無事が分かってみんな喜んでいたようだしきっとそういうことだろう。人からちゃんとした信頼を得るのはそう簡単なことじゃない。

そこに努力があったのか何なのかは知らんがルイズに白百合騎士団のみんなが惹かれる何かがあったのだろう。


「レイジさんはどうだったんですか?」


「え?」


「レイジさんは異常なほどに強いので誰かから怖がられたりしたのかなと」


「あー」

言えない。近所から「あいつそこそこ強いらしいけど一文無しのアルバイトらしいぜ」とか

「もとからいい店だったけど、あの新人が入ってきてさらに良くなったな」とか悲しいような嬉しいような

もはや強さに関係ないところが目立ちすぎて俺の自慢である強さが埋もれてしまいただの

新人アルバイトになってしまったとは口にレモン果汁100%を突っ込まれても言えない(実際にやられたら多分すぐ言う)。


「いやぁドウカナー、ヒトニヨウルンジャナイカナー」

カタコトの外国人みたいになってしまった。

「そうですか」


ルイズは少し戸惑ったような納得していないような顔をした。ごめんな、信頼もなにもなくて。

だって俺に関するほとんどのことがみんなの勘違いと勝手な思い込みなんだもん。

それと同じでみんな俺に対するイメージが 役に立つ>強い みたいな感じだし。


少し気まずい空気が流れたところで兵士の1人が来た。

「レイジ、エリザベート様がお呼びだ」


「またお説教か?」


「いや、何か聞きたいことがあるらしい」

聞きたいこと?迷子になっている間一体何してたのかでも聞きたいのだろうか。

それとも謝罪でもしてほしいのだろうか。まあどのみち面倒なことであるのは間違いない。

俺はスープを掻き込むと「またいつか話そう」とルイズに声をかけて再びエリザベートのいるテントに向かった。


「あいつ、器持ったまま行きやがった」



テントの中に入った時自分がスープの器を持ったままだったことに気が付いたがまあそんなことで

怒られることはないだろう。それにいざとなったらこの器で攻撃をガードしよう物理的にも精神的にも。

次の瞬間ナイフが飛んできた。早速器で防ごうと思ったが「器に穴開くじゃん!」と思い

結局叩き落とした。


この間地味に0.5秒くらいだ。


「それがお前流の挨拶ならそのうちボッチになるぞ」


「心配しなくていいわあなたにだけよ」

良かったような知りたくなかったような、というかツンデレもいい加減にしろよコラ。行き過ぎたツンデレはそのうちスパルタかヤンデレになるぞ。


「そいで俺にナイフ投げつけるために読んだの?」


「いいえ、まずそれについては謝罪するわ。うまくできるか試してみたかったの」

俺に投げつけて試すとか何サラッと怖いこと言ってんのかな。そのうち「大砲の威力を見たいからあなた当たってみなさいよ」とか言われそうだな。いくら強くても死なないわけじゃないんだぜ?


自分のヤバさを自覚していないエリザベートが続けて言う。

「あなたここに来る前何かモンスターに出会わなかった?」


「妙に賢いゴブリンの群れに出会ったがどうかしたのか?」


「そう、あなたたちも・・・」


「『も』ってことはそっちも?」


「ええ、数匹だったけどちょっと苦戦したわ。あなたはこの妙な出来事どう考える?」

ゴブリンというモンスターは何も考えないほど馬鹿な生き物ではないが人間のように隊列を組んだり奇襲してくるほど頭は使わない。中にはゴブリンメイジとかいう魔法を使うちょっと頭のいい奴もいるらしいが

それでもあんなにすごいことはできない。詳しくはないがそのはずだ。


「考えられる可能性は群れのリーダーが変わったか、それとも勝つために勉強したのかのどちらかだと思う」


「ゴブリンメイジに続く新種という可能性は?」


「んー。その手のことはよくわかんないから否定はできないな」


「あの連携の取れた戦い方、かなり研究されてるわ。おそらくかなりの時間をかけているはずよ」


確かにあの動きは訓練されているように見えた。あの時群れの中には群れをまとめるリーダーらしき奴はいなかった。その代わり瞬時に仲間と相談して適した隊列に組み替えるという厄介なものを披露してくれた。

おそらくだがあそこにいたゴブリン全員が隊列を指示するリーダーであり、実際に戦う駒でもあるんだ。

『相手がAの行動をしてきたら自分たちはBの行動をとる』というようにマニュアルみたいなものがあるの可能性もあるが。


「今はとにかくゴブリンだからって油断するな、としか言えない」


「そうね、みんなにはどんな奴にも常に警戒するよう指示しておくわ」


「頼む」


俺はテントから出て夜空を見た。何というか面倒なことになってきたなぁ。もっと楽しくなるはずだったんだけど。嘆いたところでしょうがないか。にしてもゴブリンたちのあの戦い方どこかで見たことあるような気がするんだが気のせいだろうか。・・・嘘です。多分気のせいです。


何かフラグを立ててしまったような気がするがそれも気のせいだろう。


その夜、外で寝ていた時炎の中で誰かに怒られる夢を見た。本当に悲惨な目にあった。











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