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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
87/106

ながーい旅立ち

ゴーレムと戦ったり、遺跡の中を彷徨ったり、言霊使いの魔人と出会ったり色々あった俺だったが最終的には地上に出られてようやくホッと一息つける。と思いきや全然一息つかせてはもらえなかった。調査隊の面々に「遺跡の中で何をしていたのか」「中に生きている調査隊はいなかったか」「あの少女は何なのか」「どうして生きているのか」他にも色々と質問攻めにされ、何枚も書類を書かされ、本来の依頼である「ゴーレム退治」の報酬について話し合ったりなど何かと忙しい数日を過ごしていた。


最終的に報酬を受け取り、調査隊と別れたのは遺跡を出た3日後のことだった。補装もされていない土の道をとぼとぼ歩く俺の今の気分はやつれた浮浪者だ。色々あったがなんやかんやで残る依頼はあと1つ。

これが終われば俺はようやく家に帰ることができる。もう1週間ほどこうして依頼をこなしては歩いている。正直疲れた。本当ならもう少しスムーズに物事を進められるはずだったのだが行く先々でトラブルに見舞われるせいでかなり時間と体力を浪費させられている。だが最後の依頼は「荷物運び」だ。荷物を目的地まで運べば依頼はそれで終わり。面倒に巻き込まれるわけがないというか巻き込まれるはずがない。


「あと1件こなせば、あと1件こなせば」と心の中で唱え続けることで今の俺の精神は保たれている。

ちょっと暑い。季節的にはもうほぼ夏だ。日中はまあまあ暑いし、夜は寒いわけでもなくぬるい風が吹く。この暑さは夏休みの時の解放感とか自由過ぎて逆に虚無になる感覚を思い出す。小さかった頃はカブトムシ取りに行ったり、釣りに行ったり、いろいろ遊んで夏休み最終日に手付かずの宿題を焦ってやっていたものだ。そんな懐かしい感覚。あの頃に戻りたいなぁ。


暑さと疲れのせいで現実逃避が止まらない。そんな頭のおかしい状態のまま歩き続けていると

最後の依頼があった村が見えてきた。




「いやぁーこの暑い中わざわざ足を運んでいただきありがとうございます」

そう言って俺に水を出したのは眼鏡をかけた老人は村の村長だった。この依頼の依頼主は村長だったのだ。俺が出された水を口に持っていこうとすると木のコップの中で何かがカラカラと音を立てた見ると水の中に氷が浮いている。水を一口飲むと暑かった口内に目の覚めるような冷たさが広がる。


この水、キンキンに冷えてやがる‼


「あの、この氷は一体どうやって?」

この世界には冷蔵庫なんてものは当然存在しない。だから氷を人工的に作り出す方法はないはずだし、それを保存することもできないはずだ。ここに氷があるはずがないのだ。


「それは魔法で作ったものです。私が言うのもなんですが私の家内がまあまあ優秀な魔法使いでしてね。こうやって氷を作り出すこともできるんですよ。それに村には家内の弟子も何人かいますから。この村は冬でなくともこうして冷たいものをお出しできるのです」


「な、なるほど」

そうか。暑さのせいか俺としたことがすっかり忘れていた。この世界には魔法があったんだった。そう言われてみれば前にエリアスか誰かが「氷は水の上位だか派生だかの魔法」みたいなことを言っていたような気がする。なるほど確かにそれなら氷が作れても不思議ではないな。俺はコップの水を一気に飲んでしまう。うん、うまい‼


「それで依頼の荷物というのは?」


「こちらです」

村長はそう言うと俺を別室へ案内する。俺は氷をかみ砕くと村長に付いて行く。


「こちらのものを運んでいただきたい」

そこにあったのは大量の荷物が積まれロープでガッチリ固定されている木製の背負子(しょいこ)だった。ガチの荷物、ガチの荷物運び、めっちゃ重そうという感じが伝わってくる。二宮金次郎像のようにこの背負子(しょいこ)を背負い荷物を届けろと言うことらしい。


「なるほど。目的地は?」


「それはこちらになります」

村長は地図を指さして目的地を示す。


「このジャイアントダークオークの森に住むテルシャ族の方々にこの荷物を届けてほしいのです」


「テルシャ族?」

ここにきて聞きなれない言葉が入ってきた。


「ご存じありませんか?武神オノッサスの子孫と言われている戦闘民族です。その強さは女でさえ闘牛を蹴り殺すほどだとか」


んーすごいヤバい奴らだな。女が闘牛を蹴り殺せるなら男の力は一体どうなっているんだ。テルシャ族というのは本当に人間の集まりなのだろうか。話を聞いている限り超人の集まりなんだが。荷物を届けるのはいいが生きて帰ってこられる気がしない。。どおりで誰もこの依頼を受けないわけだ。道のりも険しそうだしこんなヤバい奴らのいる集落なんて怖くて行けるわけがない。


まあ俺はつらくても怖くても行くんですけどね(泣)


「わかりました。早速行きます」


「おお‼ありがとうございます!ではお願いします」

俺は背負子を背負うと地図を見ながら歩き始める。地図を見る限りルートはほぼ1つだが道のりは遠い。まずこの村を出て、しばらく歩いて森に入り、山を越えるか迂回して反対側へ、その次は谷を越え、また森を抜けてようやく目的地が見えてくるようだ。長いなぁ。思わずため息が出そうだがこれが1番安全な道のりらしい。


「1週間かからなければいいけど」


色々と不安はあるがそれを胸の奥に押し込んで俺は歩く。テルシャ族とやらが住む森を目指して。




道のりは順調、平和そのものだ。荷物は結構どっしりしていて重量を感じるが運ぶのに問題はない。強いて厄介な問題があるとするならやはり少し暑いということだろうか。次から麦わら帽子でも被ったほうがよさそうだ。転生者でも夏の暑さはそこそこ大変なようだ。森までの距離はまだ少しある。

わかってはいたが道のりはやはり遠い。かつてないほどの長距離移動だ。俺に馬を乗りこなす乗馬スキルがあればもっと楽だっただろうが残念なことに俺には自力で歩く以外の選択肢はない。


もし何かのアクシデントでも起これば1週間以上かかってしまうだろう。道中何も起こらないことを祈るしかない。


「ゴブリンだー!助けてくれー!」


「早いわ‼」

なんとなくそうなるんじゃないかと思っていたが相変わらず祈ってからトラブルが起きるまでが早すぎる。このトラブル巻き込まれ体質もいい加減にしてほしいものだ。こういう面倒事を相手にしていては全然進めない。だがこの状況を見過ごすわけにもいかない。なんてこういう時に限っていつも周りに俺しかいないんだ。


「もーしょうがねえなあ!」


俺は背負っている背負子をゆっさゆっさと揺らしながら声の聞こえた方へと走る。どうやら男が数匹のゴブリンに追われているようだ。俺はそのゴブリンたちを適当に倒す。暑かろうが荷物が重かろうが俺にとってたかが数匹ゴブリンは雑魚。何の苦戦もしない。


「ありがとう。助かったよ!」


麦わら帽子を被った農家のような格好をしている男はゲームのモブキャラ並みにありきたりな台詞を言う。


「次はもっと気を付けて行動しろ」

俺は大して言うこともないし、時間をあまり使いたくないのでそれだけ言ってまた歩き始めた。


「待ってくれ!アンタは命の恩人だ。何か礼がしたい」

だが男に引き留められる。


「いや、そういうの本当にいいんで」

俺は面倒くさくなって適当に答える。


「それじゃあ俺の気が収まらない!何かさせてくれ!」

何でこういう時だけめっちゃ食いついてくるの。この人多分いい人なんだろうけど今その良さを発揮しないでくれ。何かお礼をさせてくれない限り引き下がらないつもりか。なんてこったい。普段優しくされないのにたまに優しくされるとそれはそれで裏目に出てしまうとはなんと運がない。


「悪いが先を急がないと。テルシャ族のところまで荷物を届けに行かないといけないんだ」


「そ、そうか!それなら山の麓まで馬車で送ってやろう。俺も近場に用事があるんだ。ここで待っていてくれ!すぐ戻る!」


男はそう言うとどこかへ走って行ってしまった。俺はその場に取り残されてしまい男を待たないわけにもいかず、まあまあ暑い太陽の下で仕方なく立ち往生させられてしまう。やはり帽子を準備しておくべきだったか。少し後悔しながら俺は水筒の水を飲む。外の熱気と反する冷たい水が喉を通過して腹の方へと流れていくのを感じる。水はそれほど貴重ではない。神器のおかげで水だけは無限にあるからだ。


だから水分補給はもちろん、頭から被ればある程度暑さ対策としては使える。まあ問題点としてはこの水以外に暑さを乗り切る方法がないということなのだが。無限にあるとはいえ水だけでこの数日の暑さを乗り切れるか少々心配だ。俺は体力を温存するために荷物を降ろしてその場に座る。


暑い。我慢できないほどの暑さではないがじんわりと汗をかく程度には暑い。転生して超人的な能力を得ても初夏の暑さを涼しい顔で乗り切るのは難しそうだ。


「おーい!」


しばらく待ってようやく男が荷馬車に乗ってやって来た。いやこの荷馬車屋根ついてねーじゃん‼

このまあまあ暑い日差しをもろに浴びながら移動しろとか地獄か!焼けるよ?目的地に着くころには俺の白い肌が黒くなっちゃうよ?日焼け系主人公になっちゃうよ?


「これをやるよ。うちで使ってないのを持って来たんだ。少し変わった形をしているが」


男がそう言って俺に渡してきたのは夏にぴったりな麦わら帽子、ではなく。


「笠?」

時代劇で旅人とかが被っていそうな平たい三角形の笠だった。笠は広く、俺の肩幅と同じくらいの大きさだった。被ってみると明るかった視界がかなり暗くなった。肩の暑さも和らいだし日の光は遮れているようだが。


「なんか変じゃないか?」


「まあ少し変わった見た目だが麦わら帽子と大して変わらんだろう」


笠と背負子。傍から見れば昔話にでも出てくる薪売りの爺のようにも見えるだろう。あれ?ここ日本だったっけ?今の俺は思わず勘違いしてしまいそうなほどどこか見覚えのある格好をしている。雪でも降っていれば完璧な仕上がりだっただろうが現在は生憎の夏。農家の荷馬車に乗ってるしこれから田植えでもするのかな?


もうしばらく食べていない米のことを思い出しながら俺を乗せた荷馬車は暑さの中をガタゴトと進む。

さて、楽な移動手段を手に入れたのはいいがこの荷馬車の速度で目的地まで一体どのくらいあの時間がかかるのだろうか。楽であることは間違いないが残念なことに荷馬車自体はそこまで早いわけではない。農家の男の余裕そうな感じを見る限り山の麓までは今日中に辿り着けそうだが俺はそこから荷馬車を下りて山を越えなければならない。山登りの経験はあるがプロというわけではない。しかもこの世界の場合は道も大して開拓されていないのだろう。


雪がないだけまだマシではあるが山道は一苦労も二苦労もしそうだ。そして次に谷か。これもどれくらい時間がかかるか予想できない。わかっていたがこれはかなり厳しい道のりになりそうだ。


もってくれよ俺の体力とメンタル。

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