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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
82/106

暗闇の縄張り

道はまっすぐ続いていて横道などはない。ただ川沿いに進むだけで相変わらずモンスターなどの姿はなく、わかりやすく生き物が通ったような痕跡もない。だが俺の頭の中は「どこかに敵がいる」ということでいっぱいだ。隠れるような場所はないとはいえいつものように俺の行く先では何が起こるかわからない。だから絶対に油断はできない。


進んでいると途中で道が途切れた。だが川の向こう側の道はまだ先に続いているようだ。俺は川を飛び越えて向こう側へ渡り進む。進んでいくにつれて川は少しずつ深くなっているようでランタンの光では川底が見づらくなってきている。


魚のモンスターとか潜んでなければいいけど。とりあえず今のところは1度もモンスターに出会っていない。それはこのランタン、神器『悪魔祓いの火』のおかげだろう。この神器は火が灯っている間は低級のモンスターを寄せ付けない。だから今のところは襲われていないのかもしれない。だが俺からすれば一体どこからどこまで低級なのかよくわからないので正直あまり安心できない。


見えてないだけで実は川の中にモンスターがいて、それがそこそこ強い奴で今はたまたま襲われていないだけという可能性もないわけじゃない。だからこのランタンの効果は気休め程度であり、結局のところまったく気は抜けない。よくよく考えればなんて不便な神器なんだ。


俺はいろいろと余計なことを考えながらも長い長い道を進んでいく。


川沿いの道はしばらく続いた。ずっと同じような光景が続いている。川の音はうるさいが後ろから何かが付いてきているような音はしないし気配もない。今のところ変化はなく異常もない。変わっていくのは川の水深くらいのものだ。どんどん深くなっていて落差工はなく、緩やかな坂道を流れている。


同じような光景が続きすぎて退屈になってきた俺の心はそろそろ余計なことを考え始めそうだ。

心の中で歌でも歌おうか。そうだな、SkyHeart(俺一押しのアイドルグループ)の歌でも歌うか。

あ、いやどうせなら宣伝も兼ねて星ノ空学院女子アイドル部の歌にしよう。


Wake up! あs


ようやく差し掛かった曲道を曲がり、心の中で歌いだそうと思ったその時、目の前の景色が大きく変わった。遠くに小さくだが光が見えたのだ。かなり歩き続けたが何とか外にたどり着けたらしい。俺は光に向かって走り出す。もう歌なんてどうでもいい、外に出られればそれですべてオッケー問題解決、退屈することなんてない。駆け出して光に近付いていくと光が大きくなっていく。だが大きくなっていくと同時にその光があまり明るくないということに気が付き始める。まるで月明かりのように優しい光だ。


一瞬もう夜になってしまったのかとも思ったが先ほど時間を確認した時から何時間も過ぎたとは思えない。経過していてもせいぜい1時間程度のはずだ。たどり着いた場所を見て俺は言葉を失った。


結論から言えばそこは外ではなかった。俺はまだ洞窟の中だ。外への道も手掛かりらしきものもない。俺の目の前に広がっていたのは水の溜まり場、地底湖というのだろうか。広く明るい地底湖の水はとても透き通っている。道はそこで途絶えていて行ける場所があるとするなら湖のなかにポツリポツリと浮かぶ小さな平たい岩場だけ。


俺はその平たい岩場へと飛ぶ。とても不思議な光景だった。洞窟の中は薄い紫や緑色にライトアップされているのではないかと思えるくらい明るい。その理由は壁や天井、水中にまで様々な色の光を発する何かがあるからだ。


ニュージーランドには光る洞窟がある。天井がの所々が光っていて星空のような綺麗で幻想的な光景を見られるらしい。その光の正体は無数の土ボタルの光だ。だがこの洞窟で光っているのはホタルではない。光っているのは細い海藻のような草だ。こんな不思議な草は見たことがない。ニュージーランドの洞窟が星空の下ならば、この洞窟はまるで星空の中にいるような光景だ。


星空、下から見るか?中から見るか?そんなどこかが聞いたことのある言葉が頭をよぎった。1つくらい持って帰りたいところだが天井が少し高い。ジャンプすれば届くだろうが取りづらそうだ。それにこの洞窟を彷徨っている間に枯れてしまうかもしれない。この光景は普段頑張っている俺へのご褒美ということで今頭の中にだけ残しておこう。


俺は時間を確認する。かれこれ1時間程度歩いたようだ。次に改めて周囲を確認する。進める場所は1つ。まるで道のようにこの平たい岩場が続く先にある横穴だけだ。調査隊の存在が確認できるわかりやすい痕跡はない。彼らは俺とは違うもう一方の道を進んだのかもしれない。こちらの道は今のところ捕食の痕跡こそあったが実際には何にも遭遇していない。そう考えるともう一方の道はかなり危険なのでは?と思えてしまう。


いやいや、骨が転がっている時点でこちらも危険なのは同じ。そんなことを考えても仕方がない。戻るわけにもいかないし進もう。彼らの無事を祈るしかない。この先どこかでさっきの道と合流する場所があればいいが。


俺は岩場から岩場へと飛んで横穴に入る。まだまだ道のりは長い。




時は少し戻ってレイジがゴーレムにぶん投げられた後、地上では調査隊の面々がひっそりと茂みの陰から遺跡を見ていた。


「おいやべえぞ!助けに行かねえと‼」


「バカ!行けるわけないだろゴーレムがいるんだぞ!?それにあれじゃ生きてるわけない」


「いやゴーレムが片腕を失った今なら倒せるかもしれないよ」


各々から様々な意見が飛び交う。レイジなら今頃飛び出していただろう。だがそれは彼が転生者であり、バカであり、それら故に力と勇気を持っているからだ。彼ならもしかしたらあの強靭なゴーレムを倒せるかもしれない。だが調査隊の中にはゴーレムの片腕を斬り落せるだけの力を持っている者も、考えなしにあのゴーレムに立ち向かっていくバカもいない。


彼らは憶病ではない。むしろここで死にかけのレイジを見捨てたとしてもそれは1人でも多く生存させるという意味では正しい判断なのかもしれない。立ち向かわないのは憶病ではない。彼らは自身の戦力を理解し立ち回っているだけだ。転生者たちのせいで考え方が狂いそうだがそれがこの世界に生きる()()()()()の生き残り方なのだ。


「馬を飛ばして本部に知らせろ。本任務の難易度を1段階引きあげる。現状の戦力では調査は無理だ」


「わかったすぐ向かおう」

男はそう言うと荷物を準備する。


「待て‼ゴーレムの様子がおかしい」

遺跡を見ていた調査員の1人が言う。全員が茂みから遺跡を見るとゴーレムが斬り落された自分の腕を拾い上げているところだった。そして辺りを見回す。まるで何かを探しているようだった。調査隊の全員が咄嗟に頭を下げて隠れる。しばらくするとゴーレムは大きく足音を立てながら歩き出した。

遺跡の入り口を通り過ぎて、岩の地面を降りて、そのまま森の中に消えてしまう。


「ゴーレムが移動したぞ」


「どこへ行く気だ?」


「どうするこの隙に侵入するか?」


「いや危険であることに変わりはない。やはり本部に知らせて増援を呼ぶ。ホップ、ジャクソン頼む。俺はゴーレムを追う。ジャン、テュレネついてこい」


「「了解」」

男2人は荷物をまとめ、他の隊員も準備を始める。調査隊の隊長は遺跡を見て苦い表情を浮かべる。

ゴーレムが遺跡の入り口周辺から離れるのは初めてのことだった。この遺跡はここ以外の出入り口は見つかっていない。どこかに隠された出入り口があるというのは遺跡ならばよくあることだがそれが見つかる様子もない。ここが唯一の入り口であり、敵が最も寄り付きやすく、守護しなければならない唯一の場所だというのにゴーレムはそれを放棄した。


自分の命が惜しくなった。なんてことはないだろう。所詮は魔法によってつくられた鉄の人形、感情などあるはずもない。この行動はおそらくかつて与えられた命令に沿ったものだろう。だが遺跡への侵入を阻止するという唯一の役目を放棄してまで優先しなければならないこととは一体何なのだろうか。それを知るためには危険であってもあのゴーレムを追うしかない。


調査隊員たちは急いでゴーレムについていく。その先の答えを求めて。




時は現在に戻り、坂下レイジは未だ洞窟の中にいた。


進んだ道は先ほどよりも天井が低く思い切りジャンプすれば頭がぶつかりそうだった。そこそこ進んだがまだモンスターの姿は見えない。また静かな洞窟の中を俺は進み続けるのかと思っていたが今度はそうでもなかった。変化が起きたのだ。水にぬれた岩の独特な臭いから生ごみよりも強烈な臭いが鼻を突いた。

俺は思わず服の内側、肘の部分で鼻と口を塞ぐ。


ひどい臭いだ。俺は1度足を止めるが覚悟を決めて進む。この腐ったような臭いを嗅いで思い当たったことはたった1つ。それも最低最悪の可能性だ。そして考えの答えは進んでいくとすぐに出てきた。

ぐったりと壁に寄りかかって座る人間の姿があった。それが何なのか近づかずともわかる。


死体だ。


悪臭の原因は間違いなくこの人間の死体だ。おそらく3日前に遺跡に入ったという調査隊員だろう。


俺は調査員の男の死体に両手を合わせる。そしてその死体をじっくりと見る。死因はすぐにわかった。胸に大きく深い切り傷と全身にべったりと血の付いていたからだ。当然だが自分で付けたわけじゃない。刺し傷ではなく切り傷、こう言っては何だがかなり切り口が綺麗だ。例え精神的に不安定な状態だったとしても自分で付けられるものじゃないだろう。しかもこの傷の大きさと深さ、肋骨が一部折れているのが見えることから短剣ではなく長剣、かなりの力がで斬りつけられたようだ。


おそらくやったのは人間じゃない。


俺はもう1度だけ手を合わせるとその場を離れた。間違いなく長居したい場所ではない。


あの死体を見てわかったことは他にもいくつかある。まず荷物がなかった。調査隊が手ぶらでこの遺跡に入るとは思えない。どれだけ身軽であってもモンスターが住み着いていることを考慮して剣の1本くらいは装備しているはずだ。つまり装備を奪われたということ。かなり賢いモンスターのようだ。


次に食い荒らされた跡がなかった。あの死体にあったのは見た限りでは胸の切り傷のみ。噛みついた跡、手足を斬り落とした跡もない。つまり捕食目的の殺害じゃない。縄張りに侵入したから、もしくは装備の強奪が目的か。どちらにせよ食欲とは関係がない。そうなるとモンスターの種類は限られてくる。


俺はわずかに腐敗臭漂う空間で足を止める。この先がそのモンスターの縄張りだというのならまだ進むわけにはいかない。せめて相手がどんなモンスターなのか予想を立てなければ。


考えられるのはオークだろうか。奴らは人を食うことはないし、武器を使う。力も人間より普通の人間よりは多少強い。一応現状に当てはまっていると思う。だがオークがこんなところにいるというのが少し妙だ。普通こんな地中の暗く深いところにオークはいない。地上が近いのか?


俺は再び歩を進める。引き返すことはできない。今ここで引き返しても労力の無駄。最初の分かれ道に戻るまで体力とかなりの時間を消費することになる。危険は承知の上だ。俺は短剣を握り直して進む。進んでいくと道はだんだんと天井は高く、横幅は広くなっていった。これならば敵と遭遇してもある程度は自由に動ける。


道が広くなっていくと同時に再び、パキリと足元で軽い音が鳴る。それは先ほどと変わらず何かの骨だった。小さなその骨は乾いていて捨てられたのはかなり前のものだとわかる。そして先ほどの死体が形を保っていたことから人間の骨ではない。調査隊を襲ったモンスターは人間と食べない。おそらくこの骨は魚の骨だ。水辺は沢山あった。それに骨の大きさからしてこんなに小さなモンスターはいない。


モンスターはここを徘徊している。近いぞ。


他の調査隊員は一体どこへ行ったのだろうか。道に血の跡はない。この先に逃げたのだろうか。だがこの先はモンスターの縄張りのはず、逃げて無事だとは思えない。特にオークの縄張りならば悲惨なことになっているはずだ。俺も実際に見たことはないがどこかで聞いたことがあるようにオークやゴブリンによる女冒険者の誘拐は多いらしい。捕まって巣に連れ込まれてしまえばとても生きては帰れない。生きていたとしても肉体的、精神的に廃人同然だと聞く。


想像するだけでも恐ろしいことだ。俺はおぞましい妄想を振り払って歩を速める。パキリと骨を踏む足音が静かな空洞に響く




生存者している可能性がある者 残り9人






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