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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
81/106

吹っ飛ばされた先に

最初の一撃を放ったのはゴーレムだった。大きく振りかぶった拳が地面へと突き刺さる。

俺はそれをジャンプすることで避け、そのままゴーレムの頭上から頭目掛けて剣を振り下ろす。ゴーレムの

光る1つ目がギョロリと上を向く。そして俺の一撃を左腕で受け止める。高い金属音が鳴り響き、火花を散らした。ゴーレムは攻撃を受け止めた腕で俺を弾き飛ばす。


俺は空中で一回転して着地する。


動きが良い。普通のゴーレムよりも反応も動きも速く、それでいて攻撃の狙いもかなり正確だ。ただのゴーレムとは違って頭までカチカチの岩や金属でできているというわけではなさそうだ。


剣の状態を確認する。刃こぼれなどはしていない。だが普通の剣とはいえ神器で強化された剣を受け止めるとなると少し厄介だ。腕や足などは考えなしに剣を振るっても斬ることはできない。ずっと装甲部分に攻撃していれば、むしろこちらの剣の耐久力の方が先に限界を迎えるだろう。ならば狙うべきは腕や足などの硬い装甲に覆われた部分ではなく、脇や膝の裏など動く都合上絶対に装甲がない関節部分だ。


うまくいけば例え倒せなくても動きは止められる。


だがこれを狙うのも決して楽ではない。脇は相手の脇の下に潜りこまなければ剣を突き刺すのは無理だし、膝裏はそもそもこのゴーレムが背後を取らせてくれるとは思えない。1番楽に狙いやすいのは肘の部分。ただしこれも相手が肘の内側をこちらに見せてくれている時以外は狙うのが難しい。タイミングを選ばずに飛び込むことも出来るがその場合は相手の内側にかなり入り込まなければならず、反撃を喰らうのは覚悟しなければならない。


だがこのゴーレムの攻撃は出来るだけ喰らいたくない。何せ圧倒的に情報不足。決定的な一撃、そこで何をされるかわからない。防げる物理的な攻撃ならばまだどうにかできるかもしれないが魔法的な攻撃だった場合は生身では防ぎきれない可能性が高い。


ならば狙うのは一番リスクが低い膝裏。背後を取るのは困難だろうが上半身の関節を狙うよりは可能性があると見た。俺は手汗でぬれた剣を握り直す。そしてゴーレムへと向かっていく。何度も言うようにこのゴーレムの背後を取るのは難しいだろう。反応速度が良い。俺のやりたいことを悟られればすぐに振り払われる。


油断させるんだ。できるだけ下半身に注意がいかないように上半身を狙う。相手に上半身の防御に力を入れさせる。脇や肘などのいわゆる弱点部分を狙っているように見せる。「コイツの狙いは上半身の関節部分なんだ」と思わせたときがこちらが仕掛けるタイミングだ。


ゴーレムの鉄拳を躱す。動きは他のゴーレムよりは速いが見えないわけじゃない。一撃の質量は見ての通り大きいが躱せないことはない。問題は一撃の範囲が広いためかなり大きな回避が必要とされていることだ。攻撃が来るたびにこちらは大きな回避行動が発生するため近づくまでに隙ができる。故に行動は読まれやすい。的は大きく攻撃は当てやすいがいちいち微妙にこちらのテンポを崩されるせいでとても戦いづらい。


下手に近づけない。タイミングを間違えてゴーレムの内側に入れば文字通りぺしゃんこにされる。

近づくときは常に外回りに近づかなければ攻撃をよけきれない可能性がある。だが外回りでは関節部の破壊は難しい。唯一突けるとすれば脇の部分。側面もしくは背後から取りつければ片手で対処するのは不可能。必ずもう一本の腕を使う。そこで隙が生まれるはずだ。


俺は側面へと回る。もちろんゴーレムがそれを黙って許してくれるわけはない。体全体で俺のことを追って常に俺の正面を向こうとする。


ゴーレムが薙ぎ払うように腕を横に振る。避けなければ背骨が砕けるだろう。だがその一撃は俺にとって最大のチャンスだった。俺はそれを躱さない。むしろ正面から受け止めそのまま腕に張り付く。遊園地の絶叫アトラクションのような速さに振りほどかれそうになるが俺は必死にしがみつく。そして勢いが収まったところですぐに肩に飛び移る。いつまでも腕にしがみついていれば地面に叩きつけられるからだ。


どうにか片手だけでぶら下がる。そして装甲のない部分に剣を突き立てた。金属のぶつかる音がする。装甲が付いていないとはいえその部位が柔らかいわけではない。ただ壊しやすいというだけ、結局必要なのは力だ。深く突き刺そうと力を入れようとするがこのぶら下がった体制ではうまく力が入らない。そのうえゴーレムが体を揺さぶって俺を落とそうとしている。


「っ!!!」

剣を引き抜いて再び勢いよく突き刺す。だがその勢いに剣は耐えきれなかった。バキンという聞きなれない音がしたと思えばそれまで手に伝わっていた感触が消えた。見ると神器で強化した剣の先端が折れていたのだ。


どんだけ硬い金属なんだよ‼


神器ほどではないがヘファイストスハンマーで強化された剣は普通の剣よりも丈夫だ。そう簡単に折れるようなことは絶対にない。だがその剣が折れた。つまりこのゴーレムは神器で強化された剣よりも硬い金属で作られている。今までそんな金属に出会ったことはない。一体何で作られているのかはわからないがとりあえずこのゴーレムはやはり普通ではない。


俺は仕方なく神器を装備する。そして三度ゴーレムの脇に突き刺すとさっきとは違いゆっくりと刃が刺さっていく。


神器ですら突き刺すのに少しばかり抵抗がある。間違いなくそこらへんの金属ではない。遺跡のゴーレムというだけあってこれがロストテクノロジーというやつなのかもしれない。


「腕1本いただくぞ‼」


俺が突き刺さった剣を勢いよく下に下げるとバコッという音とともにゴーレムの腕が切断された。腕は大きな音を立てて地面に落ちる。ゴーレムが痛みを感じているかのように膝をつく。


このまま膝を斬り落として機動力を奪う。そうすればこのゴーレムは完全に無力化できる。すぐに手を放して膝を破壊しようとしたが斬り落とされてなくなった肩の先からもう一方腕が勢いよく伸びてきて俺を鷲掴みにする。


腕を斬り落とすのに時間をかけすぎた。石ころのように俺を掴んだ腕が振り上げられる。


まずいっ‼このまま地面に叩きつけられたら間違いなく‼死ぬ‼


急いでこの手の中から抜け出そうとするが俺の力では時間がかかりすぎる。もがいている間に叩きつけられる。完全に拘束されて手足が動かせないためこの状況を打開できる手段はない。


ゴーレムは腕を振る。そして直後からを締め付けていた拘束が解ける。俺はぶん投げられたのだ。それも絶叫アトラクションや車なんて比べ物にならないほどの速度で。叩きつけられなかったのは良いがこの状況はこれでとてもまずい。空中であるため体が自由に動かせない。着地できない。あっという間にゴーレムが小さくなっていく。咄嗟に神器を地面に突き刺すが吹き飛ぶ勢いをまったく抑えられず、すぐに神器から手が離れてしまう。少しだけ勢いは落ちたがどうにもならない。俺はそのまま岩の柱を破壊し、遺跡の入口へと投げ込まれてしまう。岩の壁に亀裂が入るほどの勢いで衝突し、落下して入口の階段を転がり落ちる。


吐血した。背中にかつてないほどの痛い。意識がはっきりせず右腕と両足が動かない。背骨を完全にやられ、勢いを減速させようと神器を地面に突き刺したときに肩を痛めた。恐らく脱臼だろう。他にも数か所の骨折。ひどい状況だ。普通の人間なら死んでいる。まだ生きていられるのは奇跡か、それとも転生者だからか。


どうにか体を起こそうとするが直後床が抜ける。いや穴が開いた。遺跡の罠だ。重症の俺はそのまま暗い穴の中へと落ちていく。穴は深く、かなり下まで落ちていく暗くて何も見えない。突如地面と衝突する。衝撃が全身を駆け巡り激痛を起こす。また1つ、骨が折れたのがわかった。激痛の中で消えそうになる意識を必死に引き留める。目を開けて、何でもいいから考えることを止めない。今ここで意識を手放せばおそらくそのまま死ぬ。こんな暗くてどこかもわからないようなところで無残な姿で誰にも見つけてもらえず、朽ちてしまう。


そんなのはごめんだ。死にたくない。死ぬとしてもここじゃなくてせめて地上に帰りたい。

体中からジュゥーという肉が焼けるような音がする。必死に意識を保とうとしている間に体が全身の修復を始めたのだ。切り裂かれて中の赤色が見えていた肉は裂け目を閉じ、折れた骨は骨同士を引き付け合い元のあるべき形へと戻っていく。ゴキゴキという気味の悪い音を立てあり得ない方向を向いていた部位は本来の姿へと戻っていく。出血し地面に吐き出された血は蒸発して消える。


1分程度の短い時間だった。あれだけボロボロで今にも死にそうだった俺の体はいつも通りの状態へと戻っていた。俺は立ち上がって体の状態を確認するが体に異常はない。完全に負傷する前と同じ状態だ。先ほどまで負傷していたのが嘘のようだ。


俺は自分自身の体に驚きつつも周囲を確認する。ランタンに火を入れて周囲を照らす。わかるのはそこが岩に囲まれているということ。あと自分以外にもすでにたくさんの先客がいたということだ。先客はすでに骨になっている。骨について詳しいことはわからないが俺から見てもかなり昔のものだということはわかる。


さらに周囲を照らすと人1人がギリギリ通れるほどの狭い道があった。他に進める道もなかったので俺はその狭い道を進む。閉所恐怖症の人なら泣き出しそうなほどに狭いその通路は俺が本当にギリギリ通れる程度で時々背中や腹が壁に擦れるほど狭くなり今にも動き出して潰されそうで怖かった。


そこそこ長い通路を抜けると今度は広い空間に出た。特別何かあるわけでもないただ広いだけの空間には3つの別れ分かれ道があった。どの道もどこに続いているのか、暗闇が続いているだけで先がどうなっているのかはわからない。迷っていても仕方がないのでとりあえず真ん中の道を進んでみる。


しばらく何もない1本道を歩き続けるが待っていたのは行き止まりだった。来た道を引き返す。

そうなると行く道は左か右のどちらかだ。少し考えてから右に行くことにした。どちらが正解かなんて考えたところでわからない。いくら考えたところでどちらの方が助かる確率が高いのかなんて数値にできるわけでもない。


それにそもそもどちらの道も行き止まりである可能性だってある。ガンガン進んでいくしかない。とりあえず1番嫌なのは道が長いくせに進んで行ったら行き止まり、というパターンだ。それは時間と体力の無駄でしかなくてなにより面倒くさい。


その道は長かった。そして何もなかった。行き止まりも何かトラブルが起きるわけでもなくずっと一本道が続いている。どのくらいの距離を歩いたのか目印になるようなものもない洞窟ではわからない。ポケットの懐中時計を見るとかれこれ20分はこの広い空洞を彷徨っていることがわかる。てっきり1時間ほど歩いたのだと思っていたのだがまだ30分も経っていなかったことに驚く。時計の少ないこの世界で普段時間の経過を実感するのは太陽の位置や空の色など自然の変化だ。そのせいで日のないこの暗闇では感覚が狂う。


俺は進み続ける。まだ20分しか経っていない。まだ20分しかこの暗闇を彷徨っていない。それでもまだこの空洞の終わりは見えていない。つまりまだ進むことができる。助かる可能性は十分にあるということだ。そんなポジティブなことを考えながら暗闇の先へ先へと進んでいく。


状況に変化が訪れた瞬間は明確だった。進む暗闇の中でパキリと枝を踏むような音がした。俺自身が何かを踏んだのだ。足元をよく見るとそれは白く細い、まさに枝のようなものだった。俺はそれを拾い上げる。枝とは違うザラザラとした感触、だが所々磨かれたようにツルツルとしている部分もある。拾い上げたそれが何なのか結論を出すのは少し時間がかかった。


骨だ。何の骨なのかまでは分からないがそれを踏みつけた。


先を照らすといくつもの白い骨がランタンの光を反射する。相変わらず何の骨なのかはわからないがこれから俺が進まなければならない道の先に大量の骨が散乱していた。何かがここで獲物を食い荒らした。その何かがまだここにいるのかわからないが落ちている骨は乾いているので少なくともつい先ほど食われたようなものではない。


俺は短剣とランタンを手にゆっくりと進む。パキリ、パキリと骨を踏み潰す音が静かな空洞に響き渡る。

沢山の骨を見て調査隊のメンバーが遺跡の中に入ってそのまま戻ってこなかったという話が頭をよぎる。彼らも俺と同じようにこの穴に落ちたのだろうか。俺の感覚が正しければあの穴の高さは10メートルはあった。受け身を取らずに落ちれば骨折は免れないだろう。


落下したところにあったのは彼らの骨なのだろうか。可能性は否定できない。


これまで落ちている骨の数や火を使ったような痕跡がないことからこの先にいるのが人間とは考えにくい。おそらくこの先にいるのは肉食のモンスターだ。それならば火を使った痕跡がないのも、食欲の荒さから骨がたくさん落ちていることにも納得がいく。この先は危険だ。


調査隊の人間が生きているとも言いにくくなってきた。せめてここに散らばっている骨が調査隊のものでないことを祈る。


進んでいくと徐々に暗闇の先から水の音が聞こえるようになってきた。川の流れは激しいのか骨を踏みつける音をかき消すほどに洞窟の中に大きく響き渡っている。


長居1本道が終わり、広い空間に出た。出た先には川があった。流れはそれほど激しくはなく、深さも見る限りではひざ下程度で深くはないので渡ることは出来そうだ。ただすごくうるさい。このうるささの原因はほとんど落差工の水の落下のようだ。


周囲を照らすがモンスターの影はない。俺はそのまま川沿いに進んでいく。



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