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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
80/106

次なる場所は

記憶が飛んだ。


確証はない。だが飛んだとしか思えない現象が起きていた。セイレーンのクエストを終えた翌日、次の目的地である遺跡へと向かうため俺は馬車に揺られていた。揺られていたはずなのだが一体俺に何があったのだろうか。気が付けば何もない真っ白な空間にいた。かつて潜ったダンジョンの第5層『虚無の白域』を思わせるほど何もない真っ白な空間だ。


夢でも見ているのだろうか。だがそれにしても不気味すぎやしないか?意識も割とはっきりしているし感覚もある。一体ここは何なんだ?ずっとこのままここにいたら頭おかしくなりそうだな。早く目を覚まさないと。

・・・・・全然起きれない。これが本当の悪夢ってやつか。熱出たときの不気味な夢も嫌だけど目覚めない悪夢も普通に嫌だな。


【レディーとの密会で急くのはみっともないわよ?】


誰かの声がした。女の声だ。


「誰だ・・・?」


見るとそこには女がいた。その女はこの真っ白な空間に溶け込む雪のように真っ白な女だった。白く長い髪、白く透き通った肌に白いドレス。一切の異色がないまさに汚れ無き存在と言ってもいい。目の前の女はとても不思議な気配がした。初めて会う緊張感のようなものがない。だが会ったことのないはずなのにどこかで会ったことのあるような、既視感のようなものも感じる。


【私が何者なのか。それはあなたにとって重要なことではなくてよ?でもそうね、私のことはサンドリヨンと呼びなさい】


灰かぶり(サンドリヨン)。シンデレラのフランス語表記だったか。そんなことを知っているということはやはり只者ではない。転生者の気配は感じない。メルキムスと同じ魔人の類か。ダンジョンでメルキムスが突っかかってきたことを考えればあり得ない話ではないが敵意も感じない。


歩き出す女の後に付いていく。不用心かもしれないがこの何もない白紙の空間で置き去りにされるよりはいいと思った。


【セイレーンの件、かなり闇の深そうな一件だったわね】


「どうしてそれを」


サンドリヨンは無視して話を続ける。

【本来海にいるはずのセイレーンたちが小さな村の泉に現れるなんて普通ではありえないことなのよ?だって海にいた方が獲物は多く、領土も広いんだからわざわざ狭い場所に移動する必要なんてないわよね】


「裏には何かがいる何かはわからないけど大きな奴らがいる」


【ええ、その通り。あなたの知らないところで大きな力が動いている。表立ったことはしていないけどあらゆるところに影響が出ていたりするのよ。物価の変動、昨日まで営業していた店の突然の閉店、日常のちょっとした変化、あらゆる自然なところの裏に何かしらの力が働いている】


「何者なんだ?それは」


【詳しいことはまだ言えないわ。物語には順序がある。王子様がガラスの靴も使わずにお姫様を見つけてしまったら不自然でしょ?】


サンドリヨンの言っていることはよくわからないがとりあえず教えてはくれないようだ。


【これだけ覚えておきなさい。赤、白、狐。この3つの色よ】


「?」

赤色、白色、狐色。この3つの色が裏で動いている力のヒントということか。ここから推測できることは3つの組織が動いているということ、もしくはフランス国旗のように赤、白、狐の3色が組織のシンボルなのかということくらいだな。ともかくこれではヒントが少ない。知りたければ独自にもっと調べなければならないだろう。


【いずれあなたもこの世界の闇の部分を見ることになる。そのときに理解できるはずよ】


サンドリヨンはこちらを向く。そして微笑む。とても綺麗な笑顔だと思った。モナ・リザの微笑は美しいなどと言われているがそんなものとは天と地の差がある。サンドリヨンの笑った顔を見ると不思議と安心する。幸せそうで安心したようで、でも心なしかどこか悲しそうで、守りたいと思える表情だった。これが本当の美人の力なのだろうか。


【今回は少し様子を見に来ただけだからこれで帰るわ。あなたもそろそろ目を覚ましなさい】


「おい、ちょっと‼」

まだ聞きたいことはあった。呼び止めようとしたが一瞬にして意識も世界もすべてが無に還った。



【大した変化はなしといったところね】




俺は目を覚ました。目の前には樽があった。何が入っているのかはわからない。よく見るこういう樽の中には一体何が入っているのだろうか。やはりワインとか酒の類が入っているのが普通なのだろうか。と寝ぼけた頭で思う。


俺が目を覚ましたのは馬車の荷台の中だった。眠る前と目の前の光景は変わっていない。屋根付きの荷台から身を乗り出して空を見るとまだ日は高かった。かなり眠ったと思っていたが大して時間は経っていないようだ。なんだか休めた気がしない。夢の内容は覚えていないが何か気の休まらないような内容だったのだろうか、それとも馬車の寝心地が悪かったのか、どちらにせよ謎の疲労感がある。


これから遺跡のゴーレム退治だというのにこんな調子で大丈夫だろうか。


ゴーレム退治。よくよく考えてみればそんなに苦労するものだろうか。確かに楽ではない。大きいし、力は強いし、頑丈だ。だが動きは速くないし、巨大だから攻撃はあてやすいし、攻撃方法のほとんどが近接攻撃だ。ある程度魔法使いの人数をそろえれば決して倒せない相手ではないはず。一体何に苦労しているのか少し気になるところではある。




遺跡の近くの森まで来たので馬車を降りてあとは徒歩で歩く。クエストの情報ではこの森の中に調査隊の野営地があるという話だ。これまでの人生で本当の遺跡の調査はもちろん観光ツアーなんてものにすら参加したことはないのでなんだかワクワクしてきた。本物の遺跡を本物の調査隊と見れる機会なんてこれからの人生でも多くはないはずだ。壁画とか、未知のオーバーテクノロジーみたいなものがあったりとか、財宝があったりするのだろうか。俺の中で男のロマン的なものが燃えてくる。スマホの電池があれば写真とか取って家に帰ったときに皆に自慢できたのになぁ。それはちょっと残念。


いろいろと妄想を膨らませながら歩いていると前方から爆発音が聞こえた。距離は遠い。もしかしたら調査隊がゴーレムと戦っているのかもしれない。冒険者に頼らなければならないほど手を焼く強いゴーレムなら全滅してしまう可能性だってある。俺は走って爆発音が聞こえた方へと走る。木々の隙間から空を見ると青い空に向かって黒煙が上がっていくのが見える。かなり激しい戦いのようだ。野営地が襲われたのかもしれない。急がなければ。


向かっていく俺とは反対に野生の生き物たちが逃げ出していく。それほどひどい状態なのだろうか。

森を進んでいくと草木や土の匂いをかき消して焼けるような焦げた臭いが広がり始めた。


遅かったか‼


茂みを飛び越えた先で目にした光景は衝撃的なものだった。


「もうっ‼最悪!」


「だからコイツに料理させるのは嫌だったんだ」


「料理で爆発って何があったそうなるの?」


なんだ・・・これは・・・・・。爆発音もしていたし黒煙が上がっていた。どう考えても良くないことが起きていると思っていた。てっきり遺跡のゴーレムにでも襲われて火事が起きているのだと思っていた。

だが実際はゴーレムどころか野生の生物にすら襲われていなかった。現場はまさに平和そのものだった。

俺は危機的状況だと思って飛び出したわけだがスベってしまったみたいで何だか恥ずかしい。


フライパンを持った少女がポカンとしている俺を見て言う。

「え?誰?」


・・・俺が聞きたいよ。




「いやー悪かった!テュレネは料理が壊滅的に下手でなんでも爆発させちまうんだよ」

調査隊のリーダーらしき男が事情を説明してくれる。すでにいろいろツッコミたいところがあるが黙って話を聞こう。


「本人がどうしても料理したいっていうからやらせてみたんだがやっぱり駄目だった」


「ああ、うん、そうか」

シンプルに反応に困る。ピンチだと思って駆けつけてみれば料理に失敗しただけかよ。そもそも料理してるだけなのになぜ爆発が起きるんだ。一体料理の中に火薬でも入れたのかな?火事になる程度だったらありえることだが爆発なんて普通に考えて起こらないから。


「それでお前は一体何者なんだ?」


「ああ、今回の遺跡調査を手伝いに来たんだ。ゴーレム退治の依頼出しただろ?」


「それなら確かに出した。だがそれなら仲間はどうした?まさかお前1人じゃないだろうな?」


「俺1人だけど」

俺がそう言うとリーダーは「冗談だろ」とため息をついて頭を抱える。少し腹は立つがそういう反応になっても仕方ないとは思う。ゴーレム相手に戦力が1人増えたところで状況はほとんど変わらない。1人にできることなんて限られているしな。だが小さな戦力の参戦が必ずしも無意味とは限らない。「おおきなかぶ」の話でも最後にネズミが加わったおかげでカブが抜けるからな。(実はネズミが像と同じくらい力強いという可能性もあるが)


「そう心配すんな。俺が来たからには文字通り百人力だからさ」

なんか俺がイキってるみたいで嫌だな。一応言っておくけど俺まあまあ強いから!今までだっていろいろ頑張ってきたし、ダンジョンではひどい目にあわされたけど最終的には生きて帰って来られた。元の世界でもかけっことか、かくれんぼとかで同年代に負けたことはない。とりあえず頭を使う戦いじゃない限り簡単に負けるようなことはないはずだ。


「それで問題のゴーレムは?」


「・・・こっちだ」

調査隊のリーダーについていく。遺跡の場所は野営地から歩いて3分ほどでとても近かった。


「あれだ」

調査隊のリーダーが指さす方にそのゴーレムはいた。碁盤のようなマス目のある岩の床にピクリとも動かず佇んでいた。大きさは4、5メートルほど。ゴーレムとしては珍しくもない普通のサイズだ。だがその見た目は他のゴーレムとは違う。普通のゴーレムは全身が岩と岩を繋ぎ合わせた不格好な見た目をしている。岩を素材に作っているのだからそれが当然で普通のことだ。だが遺跡に佇むゴーレムはそんな不格好な見た目とはかけ離れたもっとまともな姿をしていた。


まず見ただけで作られている素材が岩ではないことがわかる。おそらく何かしらの金属だ。まとも、というのは見た目が歪ではないということだ。通常のただ岩を用いただけのゴーレムの形は岩本来の形のままで歪だ。だが目の前のゴーレムは金属であるうえに加工されたように整えられた造形をしている。まるでロボットだ。カッコいい。


普通とは違うゴーレム。おそらく遺跡を守ることを目的に作られた専用のゴーレムだ。何百年前の遺跡か知らないが未だ止まることなくこの遺跡を守り続けているということか。それほどに守りたい何かが遺跡の中にあるようだ。


「調査隊の人数は?」


「動けるのは10人だ。元は30人いたがゴーレムとの戦いで負傷したのが10人、どうにか遺跡に入った10人はそれっきり帰ってきていない。」


「10人が中に入ったのはいつだ?」


「3日前だ。中が迷宮にでもなっていて迷っているのか、それとも中の罠で全滅したか、中に入らなければ状況はわからない」


あまりいい状況ではないな。話を聞く限りあのゴーレムは調査隊30人を相手にしていまだ健在ということになる。動けない10人は神器である『天使の寵愛』を使えば治すことはできるが30人で止められない者が20人で止められるわけがない。俺がゴーレムの相手をしている間に調査隊が遺跡の中に侵入という手段が一番可能性がありそうだが果たしてうまくいくかどうか。


「あのゴーレムは遺跡の領域内に入ると動き出すが領域の外に出ると止まる。近づく相手だけを排除するように作られている」


「それなら領域外から魔法とかで攻撃すれば倒せるんじゃないか?」


「それで倒せるなら苦労しない。アイツの装甲は魔法をはじく」


防弾ならぬ防魔装甲のゴーレムということか。他のゴーレムよりも遥かに頑丈なようだ。

ゴーレムに勝てるという確証はない。だが俺はゴーレムへと向かっていく。他とは明らかに違うゴーレム。一体どんな動きをするのか想像もつかない。碁盤のような地面に足を踏み入れると同時にピクリとゴーレムが動きこちらを見る。その眼は黄色く光るモノアイ。1つ目の光る眼がまさにロボットっぽい。


ゆっくりと互いに近づいていく。そして向かい合う。見上げる俺と見下ろすゴーレム。


一体どのくらいそうしていたのかわからない。一瞬だったのかもしれないし1分くらいの時間だったのかもしれない。だが気が付いた時には互いに弾かれたように動き出した。


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