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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
77/106

セイレーン討伐クエスト その1

さて、クエストをこなすための旅が始まったわけだが俺は未だ馬車に揺られていた。普段だったら旅番組のように目的地へとすでに到着していてササっとクエストをクリアして次の目的地へと向かっていただろう。だが実は目的地に到着するまであと3日はかかる。今回行くところはそれほどに遠い。それ故に馬車での移動時間は長い。気長に待つしかないのだ。


とりあえず今のうちにやっておくことがあるとするなら武器の手入れくらいだろうか。俺は普段使っている剣を取り出すとそれを磨く。


そうだ。せっかくだし、俺の装備品やらについて少し説明しておこう。


神器は錆びるようなこともないし、そもそも血とかが付いたところで払えば簡単にとれるから手入れする必要もなくて楽だが普通の剣はそうはいかない。


定期的にしっかり手入れをしないとすぐダメになってしまう。他の冒険者の話を聞く限り剣は日用品だからすぐにダメになってしまうらしく、自分での手入れはもちろん、ひどいときは鍛冶屋で鍛えなおしてもらわなければいけないそうだ。そしてその料金もバカにならないとも言っていた。


ちなみに俺の場合は剣自体を『ヘファイストスハンマー』(武器とかを改造できる神器)で改造してあるため簡単に切れ味が落ちるようなことはないし市販の剣に比べて頑丈だ。だから鍛冶屋に行くようなことはないし手入れだってそんなに苦労はしない。やることといえばこんな感じでちょっとした汚れを拭く程度だ。


俺が神器ではなくそこらへんの店で売っているような剣を使うのは目立ちたくないからだ。神器は見た目やその切れ味、能力のせいで良くも悪くもとにかく目立つ。そのせいで泥棒とか商人とかに目を付けられそうで怖かったし、なにより俺自身が疑われるからという理由でこうして普通の剣を使っている。神の武具である神器を持っているなんて人間ではありえないからな。転生者であることも喋れないようになっているし、面倒なことになるのはわかりきっている。


だからピンチの時以外はできる限り普通の剣を使うことにしている。おかげで装備にはそれほど金を掛けずに済んでいる。装備で金を使うことがあるとするのなら、せいぜい味方が負傷したとき用のポーションを常に3つ携帯することと、手軽に使えるナイフを常に10本持つことくらいだ。


ちなみに小道具とかポーションはウエストポーチに入っていて、武器関係はすべてキビシスっていう目には見えない倉庫みたいな神器から取り出している。まあ傍から見ると何もないところから取り出しているようにしか見えないから、武器に関してはいつでもどこでも装備できると思ってもらえればいい。


数分後


・・・・・・・・・・やることなくなったんだけど。武器の手入れなんてそもそも必要ないからちょっと拭いて終わりなんだけど。ウエストポーチの中身は整理してあるし、もう準備は万端だ。まだ到着まで3日はあるのに、もうやることないよ。やっぱりこの異世界では手軽に暇を潰せるものがあれば便利だよな。

本は持ってるけど正直飽きる。もっと別のことをしたいものだ。異世界に来るとスマホやゲーム機がどれほど便利な道具だったのか思い知らされる。


俺のスマホはとっくの前に電池切れで高性能技術が詰め込まれた硬めの板になっているから当然使い物にはならない。今は自室の机の中で古代の遺産として眠っている。ヘファイストスハンマーで改造とかできたりしないかな。電波はないだろうけどメモ帳程度には使えるだろう。まあメモ帳機能を使うような状況になることなんてほとんどないけど。


スマホについて思うところは多々あれど、それは帰ってから考えるとして今はこの退屈をどうやって潰していくかだ。普段は本を読むことで時間を潰すか、そもそも何かしらのアクシデントが起こるので暇になることがないかのどちらかだ。ちなみに最近はアクシデントの方が多いぞ。


その時、馬車が止まった。ほら、こんな感じで。


この世界には信号機なんてものは当然ない。あるのは無駄に長い道だけだ。馬車は移動の速度はそこまで速くないので急ブレーキをかけるようなことはない。だから基本的に止まることはないはずなのだ。俺は不思議に思って運転手のところに行く。


すると馬車の前方に人が集まっていて何やら騒がしい。


「どうかしたのか?」


「橋が崩れたんだとよ。これじゃかなり遠回りになっちまう」


「どのくらいかかるんだ?」


「アンタの村までは5日はかかるだろうな」

それは困る。この後もまだ仕事が立て込んでいるのだ。こんなことで2日も時間を取られるわけにはいかない。


「どうする?乗せてやってもいいがその場合追加で運賃払ってくれ」

くそう、こういう時だけちゃっかりしやがって。仕方ない、ここで馬車を降りるしかないようだ。

時間も金もとられるくらいなら自分で歩いて走った方が早くて安い。川幅もそこまで長くなさそうだし、俺なら走って飛び越えられるはずだ。


「ヤレヤレだ」

俺は馬車を降りて橋の様子を見る。橋は木橋だったらしくいくつもの木材が川に落ちているのが見える。最近は雨こそ時々降っていたような気はするが嵐というほど荒れていたわけではなかったし、風だって強くなかったはずだから老朽化もしくは誰かが重量オーバーしたせいで落ちたのだろうか。

橋のことについて詳しくないのでその辺はわからない。


うん、やっぱりこの川幅なら飛び越えられる。俺はそう確信して後ろの方に下がる。

そして助走をつけて思いっきりジャンプする。そして難なく反対側に着地した。後ろの方から驚きの声が上がっているような気がするがあまり目立ちたくはないので無視して進むとしよう。


さてこうして俺は目的の村まで歩くことになってしまったのだった。追加の運賃を払って馬車に乗った方が楽だったのかもしれないが俺が全力で走った方が早く到着できるだろう。大丈夫、俺は1500メートルくらいなら全力疾走できる程度の体力はある。力と体力だけが取り柄だしな。それに今の俺は普通の人間じゃない。身体能力も高いし、それ以上に遠くまで長く走れるはずだ。


俺は足首をしっかりとほぐすと地面に手をついてクラウチングスタートの姿勢をとる。こうして本気で走るのは久しぶりだ。昔よりも遅くなってないといいが。


よーいドン!


心の中の合図とともに俺は地面を蹴って走り出す。久しぶりに全力で走って思ったことはとにかく速いということだ。自転車に負けないくらい速い。周りの景色があっという間に変わる。あと向かい風がまあまあ強い。こうして全力で走っていると何となく懐かしい気がする。戦っているわけでもなくただ真っすぐ目的という目的もなくただ走っている、強いて言うなら走ることが目的というのだろうか。難しいことを考えずに頭を空っぽにして走るのは本当に久しぶりだ。


学校に遅刻しそうになって走るような、体育の授業で100メートルを走るような平穏なあの日々が懐かしく思えたのかもしれない。今の生活は全力で走るようなことなんてほとんどない。だって学校に行くようなこともなければ、走らされるような行事もない。ただどこかに足を運んで仕事をこなして帰るだけの日々。人の多いこの王都で全力で走れるような機会なんてない。だから今はこうして走っていることが何となく楽しい。この風を切る速さも、体を動かす充実感も、少しずつ荒くなってくる息遣いですらどこか楽しいと感じてしまう。


俺は走り続けた。自分が走れなくなるその限界まで。どれくらい走ったのかはわからない。けど全力で走った。走り切った時すでに空は日が沈み始めていて青かった空は赤く染まっていた。そんな空の下で俺は膝に手をついて息を切らしていた。体がじんわりと熱くて少しだけ汗をかいた。すべてが懐かしい感覚だ。俺は全力で走ったという充実感に満たされていた。これこそが走るという感覚だと思えた。一息ついて前を見ると遠くの方に明かりが見えた。目的地の村だ。どんだけ走ってんだよ俺は。すぐに夜になる。速く村に行かなくては。


はあ、もう疲れたし走りたくない。ついさっきまで「走ったという充実感に満たされていた」とかほざいてたのにもう走りたくなくなってる。もう休ませてくれ。俺が村に行くんじゃなくて村が俺の方に来てくれ。


走って疲れた後にまた走る。それもまた走るという懐かしい感覚なのであった。




「わッつ?」


「わッ?えっ今なんと?」


「マジで言ってます?」


「すみません」

走って疲れてだるんだるんな俺は宿屋に向かい今日のところは休むことにした。が、そこに新たな試練が立ちふさがった。(自称)帰国子女顔負けな流暢な英語が思わず出てしまうくらいには衝撃的な試練だ。


「満室?なんでぇ?」


「今回のセイレーンの討伐の依頼を出した結果予想以上に冒険者の方々が集まりましてね。うちも他の宿屋もすぐに満室、ギリギリどうにかなったと思いきやお客さんが来たもので」


つまり俺が悪いと?この受付の人はそう言っているのだろうか。3日かかるところを全力疾走して数時間で到着したのにもかかわらず?(自分の都合)全力疾走してここまで疲れたのに?(これも自分の都合)


ここで受付に当たり散らしても仕方ないので俺は宿屋を出た。タイミングが悪かったってことにしておくしかないな。それにして運が悪い。この後どうしたものか。寝る場所を確保しなければいけないのは間違いないが場所がない。他の宿屋ももう満室っぽいし野宿することになりそうだな。村に来たっていうのに野宿か。家があって明かりがあって人もいるのに俺は野宿か。それなら村を抜けた少し先で火起こしするか。




季節は夏になろうとしている。まだ夏ではない。夏よりの春といったところだ。ハイデンは基本的に暖かい。少なくとも春は過ごしやすかった。風は優しく、暖かい。最近では太陽が少し強く照り付けるようになってきて風も前より熱くなってきている。もう少しすれば完全に夏になるだろう。


そして夏の野宿というのはできることなら避けたいものだ。まあ季節にかかわらず野宿は一定の危険があるからできるだけ避けたいのだが夏の野宿は俺的に特に避けたい。気温は問題ではない。夏の夜、外は大変なことになるのだ。夏という季節を過ごしたことがある人なら、特にキャンプに行ったことのある人ならわかるだろう。夏の面倒な出来事の1つ。


虫である。


蚊、ハエ、足がいっぱいある気持ち悪いやつ、他いろいろ。夏は虫たちがカーニバル状態なわけだ。

この世界に虫よけなんてものは・・・あるのかどうか知らないが少なくとも今の俺は持っていない。

虫刺され、とにかく面倒くさい。そして何より、実は俺は虫が大の苦手なのだ。カブトムシ程度ならどうにか掴めないこともないが、バッタとか、蝶々とか他の『虫です‼』って感じのは絶対に無理だ。キモ過ぎる。何かの拍子に顔に向かって飛んでこようものなら間違いなく失神する。


寝てる間に虫が顔に、なんて考えたら野宿なんてまともにできない。春の間は虫を全然見かけなかったが最近少しずつ飛んでる虫とか歩いてる虫を見かけるようになってきた。そのせいで安心して寝られない。下手なホラー映画よりも虫の方がよっぽど恐ろしい。


おかげで俺は今横になることもできず、焚火を消すこともできず、ただその場で体育座りをしている始末だ。周囲を見ていてくれる人もいないし今日は眠れないかもしれない。



そう思って瞬きをした瞬間、目を開くと朝になっていた。



焚火は消えていて煙さえ出ていない。空は白んで薄く雲がかかった綺麗な水色の空が見える。不思議なものだ。俺はただ瞬きをしただけなのに気がついたら朝になっていた。何を言っているのかわからねえと思うが俺も何が起こったのかわからなかった、そう誰かに説明したい気分だ。もしかしたら俺は瞬きすると時間を朝にできる能力でも持っているのかもしれない。そうでもなければ俺は体育座りの状態でずっと寝ていたことになる。


妙に目がさっぱりしているし、眠くもないし体育座りのせいで若干体が痛いけど寝ていたとは思えない。虫がなんだの野宿は危険がなんだの言っておきながら寝ていたなんてことあるはずがない。だから俺が何かしらの能力を持っているかタイムスリップに巻き込まれたかの2つしかないと思うわけだ。


俺は軽く体を動かして体をほぐす。やはり無理な体勢で寝て、じゃなくて()()()()()から体が固まってしまっている。さて今回の仕事は泉に住み着いているセイレーンの討伐だ。泉の場所はクエストを受けた時に説明されたので大体わかっているし、地図だって持っている。そんなに遠い場所ではないし、ささっと追い払って次の仕事に向かうとしよう。


村を通ると何人もの人はすでに起きていて村人は店の準備をしたり、狩りにでも行くのか弓を持っていたり、冒険者たちはクエストに向かう準備でもしているのだろうか。かなりの数の冒険者がいるな。こいつら全員セイレーンの討伐を受けて来た冒険者なのか?それなら先を越されるわけにはいかない。先を急ごう。俺は小走りで泉へと向かった。




泉は思っていたよりも大きく学校のグラウンドの2、3倍はありそうだった。泉にはポツンとまるでセイレーンが歌うためにあるかのような岩が1つ頭を出していた。泉にセイレーンはいない。冒険者もいない。どうやら1番乗りだったようだ。泉に潜るわけにもいかないし、とりあえず隠れてセイレーンが出てくるのを待ってみるか。


俺は近くの茂みに身を潜めてセイレーンが現れるのを待つ。出てくる間に今回のクエストのことについて考える。今回のクエストは泉に住み着いたセイレーンの討伐、つまりもともとセイレーンは泉に住み着いてはいなかったということになる。広い海にセイレーンがいるのは何の違和感もないがなぜこんなところに住み着いているのかが謎だ。ここも広いがここでなくてもいいのではないかと考えてしまう。


そもそもどうやってこんな森の中の泉に住み着いたのだろうか。セイレーンって足あったっけ?俺の

ゲーム知識からすれば足は人魚みたいに魚だったはずだ。もしかして尾びれモードと足モードみたいなものがあったりするのか?変形(トランスフォーム)しちゃう感じなのか?うーむ、でもそれは少し考えづらいな。


俺が色々考えこんでいると泉の方で水が跳ねる音がした。こっそり茂みから覗いてみるとそこには確かに髪の長い女がいた。上半身は人間、下半身は魚、まるで人魚のような生き物が泉の岩に腰かけていた。確かに美人、船乗りが惹きつけられてしまうのも仕方ないと思える。そして何より


服を着ていないから青少年には刺激が強すぎる‼


長い髪のおかげで胸とか大事なところは隠れているがそれが逆にアカン。男としては「も、もう少しでみ、見え・・・」というやましい心もあるが同時にちゃんと隠れていてほっとした俺もいる。あのセイレーンは髪が長いから隠れてるけど短い子だったら大変なことになってるよ!?(布地とかもので隠すという発想がないアホ)


セイレーンは岩の上で髪の毛を絞って水気を抜く仕草をする。確かに美人だ。美人なんだが私、

坂下レイジははっきり言わせてもらおう。


「うちの妹の方が可愛いな」

思わずボソッと声に出ていたが正直なところよく見たら俺の妹の方が10、いや1000倍は可愛いのではないだろうかと思えてきた。まあうちの妹と比べたらこの世のあらゆる女が見劣りするから比べるだけバカらしいのだが。


そんな俺の考えていることをよそにセイレーンが声を発する。


「あ、ああ、あー、ハァー」

どうやら発声練習をしているようだ。セイレーンって歌う前に発声練習とかするんだ。なんか知りたくなかったな。綺麗な歌声で船乗りを誘うって聞いてたけどちゃんと準備とか必要なんだな。もっといつでもきれいな歌が歌えるのかと思ってたよ。


練習の邪魔をするのも何となく気が引けたのでしばらくセイレーンが発声練習を終えるのを待つことにした。しばらくしてようやく調子が出てきたのかようやく発声練習が終わった。そしてセイレーンが深く息を吸い込む。そこから発せられた声は一言で表すなら透き通っていた。うん、多分透き通っているんだと思う。それでまあまあ上手なんだと思う。うん。


ただ


「うちの妹の方が上手じゃね?」


思っていたほどセイレーンの歌は上手じゃなかった。原曲がどんな曲なのか知らないが音程の若干のずれ、テンポ、強弱がところどころ間違っているような気がする。カラオケで70点くらいの点数が出そうなレベルだ。思っていたのと違う。俺が調子を狂わされているとセイレーンに変化があった。


「なんだいその歌は、ヘタクソすぎて聞いちゃいられないねぇ」


そう言って岩に腰かけたのは2体目のセイレーンだ。今度のセイレーンは若い女ではなく貝殻ビキニのおばちゃんだった。おばちゃんのセイレーンは最初に腰かけていたセイレーンを突き飛ばして泉に落とすと今度はおばちゃんセイレーンが歌いだした。するとこっちは紅白歌合戦に出場できるレベルで上手かった。


見た目は俺の好みの年齢層じゃないけど歌は文句なしに上手かった。

「歌ってのはね、こうやるのよ。アンタのその歌じゃ誰も惹きつけらんないよ。あたしみたいに歌も上手くてナイスバディなセイレーンじゃないと獲物が逃げちまう」


いや、お前のその体系はナイスバディというよりもご飯いっぱい食べてるライスボディだよね。

ボンキュッボンじゃなくてボンボンボンだよね。出るところ全部出ちゃってるからね。あとその外見年齢でそのビキニはいろいろ無理があるぞ。


「私だって必死に練習してるわよ‼今日はその・・・調子が悪かっただけ!それにあなたより私の方が若いし、体系だって私の方が引き締まってる。あなたみたいに、太ってないわ‼」


「なーに言ってんだい‼これはグラマラスだよ‼女はちょっとぽっちゃりしてる方が持てるんだよ‼だいたいアンタのそれは引き締まり過ぎてるんだよ‼なんだいその貧相な胸は」


「こ、これはそのうち育つわよ‼それに小さくたって需要はあるんだから!」


うーむ何か醜い争いが始まってしまったぞ。セイレーンって普段こんな感じなのか?こんなアイドル嫌いの大物歌手と新人アイドルの喧嘩みたいなことやっているのか?この一連のやり取りを見ているとだんだん追い払う気も失せてきた。放っておいても実害ないんじゃないだろうか。何人か被害に遭っていると聞いていたがその報告も怪しくなってきたな。


何だか出づらくなってきた。今行くべきなのか?いや出て行ってもどうすればいいんだ。セイレーンは泉の中心にいる。直接斬りかかることはできないし、俺の魔力弾で倒せるか?そもそも足元さえ見なければ姿はほぼ人間、俺に倒す勇気があるだろうか。心を鬼にすれば倒せるかもしれないが後々の精神的ダメージは大きいだろう。ここにきて悩む。相変わらず精神的に不安定だな俺は。


「セイレーンだ‼準備しろ!」


俺が出られずに困っていると声が聞こえた。他の冒険者たちだ。10人ほどの中規模なパーティーだ。見たところ攻める役割の奴が3人、盾持ちが2人、弓を持っている奴らが2人、魔法使いらしき奴らが3人。なかなか良いバランスのパーティーじゃないだろうか。


「撃て‼」

リーダーらしき男が指示を出すと2人の弓からそれぞれ1本ずつ、計2本の矢が放たれる。矢はそれぞれまっすぐにそして正確にセイレーンへと向かっていく。矢の速度は速い。元の世界の弓矢は時速200キロを超えると聞くが魔力で強化されているのか、この世界の弓は最新の技術なしでもそれくらいの速度が出ているような気がする。人間では避けるどころか目で追うことさえ難しいだろう。獲物を殺すために作られたその道具は確実にセイレーンを貫くはずだった。


だが矢は突風に吹かれた木の葉のようにでたらめに飛んでいってしまう。


すべて一瞬の出来事だった。


「何が!?」

どうやら他の冒険者には何が起こったのか見えていなかったらしいが俺はしっかりと見ていた。

何が起こったのか具体的にはわからない。だが見えた。矢が当たる瞬間、セイレーンたちはどこからともなくライアーハープを手に持ち減を軽くはじくと矢が逸れた。風じゃない。眼に見えない何かしらの力、魔法の一種なのかもしれない。ともかくあのライアーハープに何か仕掛けがあるようだ。


「ならこれはどうだ‼」


今度は魔法使いが魔力弾を発射。それに対してセイレーンはまたライアーハープを弾く。すると今度は泉の水の一部が浮き上がりドッジボールほどの大きさの球を作り出し、それを放たれた魔力弾にぶつけて相殺する。遠距離攻撃の対処は出来ているようだ。魔法が未熟な俺の魔力弾では無理かもしれない。弓も下手だから使えないし無茶だがどうにか接近して倒すしかないか。



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