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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
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ある冒険者の日常

その日、俺はいつものようにギルドのクエスト掲示板に貼られた大量の張り紙を見ていた。日常の中でいろいろと問題は起こるがそれとは別に仕事は毎日しなくてはならない。いつも起こってるトラブルを解決したって金は手に入らないからな。例えるなら子どもの運動会とか、コンクールとか、どれだけ大きなイベントが起ころうと会社は普通にある全国のお父さんの日常みたいな感じだ。俺もこの異世界に来てから全国のお父さんは大変だなと身をもって知った。


受けるクエストを選ぶのには俺なりの基準がある。まずは報酬。これを最優先に考える。当然少なすぎてはいけない。特にうちのような大人数を養わなければいけない場合は生活を維持できるだけの十分な資金が必要だ。それを考慮して稼げて労力に見合っている自分が得できるものを探す。次にそこまで難しくないもの。できることなら遠出はしたくないし、荷物をたくさん持つのも面倒くさい。だからできるだけ近場で荷物がかさばらなくていいものを探す。


そうして条件を絞って探していくどうだろうか。驚くことに全く見つからないのである。


楽に稼げる仕事がないというよりも労力と報酬があまり合っていないものが多い。冒険者と言えば聞こえは良いが結局のところ俺たちはただの雑用係みたいな存在だ。

クエストのほとんどは「専門の業者に頼むの高いなぁ、そうだ!冒険者に頼もう。あいつら専門家じゃないけど安く済むしそこそこ仕事してくれるから任せよう!」みたいなノリのものだ。冒険者にくるちゃんとした仕事は大体危険な仕事ばかり。「ゴブリン討伐」などというものは生ぬるく見えてしまうほど危険なものだ。


「ゴブリン討伐」や「スライム討伐」は簡単と思われがちだが実際のところそんなに簡単ではない。命を落とす冒険者も多いと聞く。それでも冒険者の間で簡単と呼ばれるのはそれらとは比べ物にならないレベルのクエストが存在しているからだ。「ゴブリン討伐は簡単」はそのままの意味ではなく、

「他のクエストに比べればゴブリン討伐は簡単」という意味だ。


俺たち冒険者はそんな無理難題クエストを積極的にまわされているわけだがそれでも冒険者の数が減るようなことはない。その理由は他の仕事と違って廃業しないこと、そして一攫千金を狙えるロマンがあるからだ。地道に仕事をこなしていくもよし、大胆に大物を狙うもよし、そんな自由なロマンが人々を動かしているわけだ。


まあ俺は見ての通りロマンを追いかけているというか、現実に追いかけられているというか。少し悲しい状態だが。


「んー」

どうする?大変だけど一発大きな奴を狙いに行くか?そうだとすると「遺跡の調査」「三つ首龍の宝石の入手」「ラムダ王国近辺の砂漠に出没するモンスターの討伐」か。調査系は面倒だな。実際に受けたことはないが前に大量の書類を渡されている冒険者を見たことがある。おそらく見てきたものを色々詳しく書かされるのだろう。三つ首龍は名前からヤバそうなのがわかるし、最後の奴に関してはもうこの国のことじゃないな。なんでここに貼ってあるんだよ、ラムダ王国のギルドに貼れよ。


見ての通りロクなものがない。では簡単なものはというと「花壇の手入れの手伝い」「ゴミ拾い」「留守番」、小学生のボランティアか!なんだこの舐め腐った依頼は。留守番ってなんだよ。誰も家にいないならそれでいいじゃん。しっかり戸締りして出かけろよ。


とまあひどいものはこんな具合である。俺が仕事1つ受けるのに悩むのもわかるだろ?また2、3日家を空けなくちゃいけないな。もうこの際この高難易度のクエスト全部受けてしまおうか。そしたら向こうでまとめて仕事できる。どうせ定期的に家を空けるのならまとめてやっちゃえばいいのでは?

でもそんなことしたら「日常編」じゃなくて「クエスト攻略旅編」になってしまう。そんな余計な考えが判断を鈍らせている。


悩む俺の足は気がつけばギルドを出ていつもの人気の多い通りを通ってゴマ豆腐のような自分の家の目の前へと運ばれ、気がつけば高級ソファに座ってお茶を飲んでいた。


「で、結局仕事もせずに帰ってきたと」

お茶は温かいがその温かさを消してしまうくらい冷ややかな視線が正面から突き刺すように向けられている。


「これがなかなか職に就けない奴らの気持ちか。つい最近全国の父親の気持ちを知ったと思ったらこれだよ」

今まで定職に就かない人間が不思議でしょうがなかったがきっと全国の無職もこんな感じで受けるクエストが決まらなかったんだろうな。今ならわかる。クエストが見つからないんじゃない、ロクなクエストがないんだ。本当は仕事がしたい、でもまともな仕事がない。そう、彼らは被害者なんだ。それなら仕方ないな。そう・・・なんだよな?そうであると祈ろう。


「そんなもの知らなくていいから早く働きなさいよ」


「じゃ、じゃあいいんですか!?荒稼ぎするために遠出しちゃいますよ!?」


「どうぞ?」

ワオ、お湯が一瞬で凍るくらいすごい冷たい。冷たすぎやしないか?俺ってこれでも数々の問題を解決してきた実績ある男だよ?キメラ事件解決したり、君の命助けたり、双子の魔導人形助けたり、いろいろやってんのよ?もう少し優しくしてくれてもいいんじゃないかな。この前は手伝ってくれる優しさを見せてくれたのにまるで夢でも見ていたかな、って感覚だよ。


「えーそんなのつまんない」

俺とユウナの会話に割り込んできたのはアイミスだった。相変わらずのゴスロリファッションで左目には包帯が巻かれている。家に来てからは完全にただの騒がしい子どもと化している。


「私まだ左目直してもらってないもん。早く治してよ!」


「それについては準備してるからまだ待ってくれ」

実はアイミスとは顔の半分、包帯の巻かれた部分を直す約束をしていた。神器『ヘファイストスハンマー』を使えば直すことはできるし、眼の部分のパーツも実はすでに持っている。俺が南区の教会で拾った赤いビー玉のような小さな玉、それがアイミスの目のパーツの一部だったらしい。捨てずに持っていてよかった。準備はある程度できているが直すのは簡単ではない。何しろ顔だ。失敗はできない。だからいつも以上に慎重に作業を進めている。


「そればっかり!」


「ごめんって。でも可愛い顔に失敗の跡残すわけにはいかないんだよ」


「僕の妹の顔に少しでも違和感があったら君の顔を歪むことになるよレイジ」

いつの間にか隣に本を持ったティスタが座っていた。ティスタも格好も性格も相変わらずで少年探偵みたいな茶色っぽいチェックの柄の短パンと上着を着ている。家に来てからはよくミーティのいるヘルテーカ大図書館にいることが多いようだ。そのおかげでミーティも友達が増えて楽しそうだった。


「2人は夫婦なんでしょ?人間の夫婦はこんなに仲が悪いの?」


「アイミス、これは俗に言う慣れ。マンネリとも言うのかな。互いにいることが当たり前だから新鮮さがないんだ」


「どうすればいいの?」


「そうだな・・・普段と違うところにデートしてみるとか、あとは何かしら環境を変えるとかかな」


「カンキョーって例えば?」


「・・・子どもとか?」


「なるほど‼そうだよね!夫婦なんだし子供がいるよね!」


「アイミス、夫婦だからと言って必ずしも子どもがいるわけじゃない。互いの体質とか、普段の忙しさによって子どもがいない場合もあるんだ」


だんだん重たい話になってきたな。そろそろ止めるか。これ以上色々言及されたくはない。そもそも俺とユウナは結婚どころか付き合ってすらいないし、そもそも両思いでもなんでもない。夫婦というのはこの屋敷を安く買うためについた嘘であって事実とは遠く離れている。家はもう完全に手に入ったしその設定を続ける必要はない。え?「嘘ついて家を安く購入するのは犯罪じゃね?」って?


・・・・・いろんなところで頑張ってるから甘く見てくれ。それにもとはボロ屋敷だったし多少安く買ったっていいじゃん。とりあえず許してください。(※虚言はやめよう!)


「実は俺らは夫婦ってわけじゃ」


「そういえば子どもはどうやって生まれるの?」


俺の言葉を遮ったその言葉にその場の全員が明らかに凍り付いた。止めるには少し遅かったようだ。

この「子どもは一体どうやって作るの&生まれるの」問題の正しい回答は何なのだろうか。アニメやら漫画やらでは気まずい空気になってもいい感じに何かが起こって誤魔化せているが実際こう聞かれたらどう答えるべきなのだろうか。コウノトリか、コウノトリが正しい答えなのか!?でもコウノトリって絶滅危惧種だったはずだ。それを働かせているなんて教えるわけにもいかないだろう。


「わからん☆」


「僕もその手の事情に詳しくない」

俺とティスタは速攻でこの問題から離脱した。この問題はきっと答えてはいけない。こういうのは自分で自然と知るのが1番良い。だから誤魔化さずシンプルに知らないふりをする。それがおそらく正解だ。ああ、初めて自分がバカでよかったと思った。こういう時に何も知らないバカなふりができるのは便利だな。これからも困ったら活用していこうかな。


「えーじゃあユウナは?ユウナは頭良いんでしょ?」


「え、あーそのー」

あのユウナが珍しく困惑している。若干顔を赤くしながら言葉を選んでいるのが見ていてわかる。そして向こうからも時々「助けて」と目配せしてくるが今回ばかりは助けられない。だってもうわからないって言っちゃったもん。


「さーて俺は仕事行こうかな。しばらく家空けるわ」


「僕も図書館に行く」


「ちょ、ちょっと」

俺とティスタは親指を立てて頑張れと合図してその場から退散する。そうこれが正しい選択肢、他人に擦り付ける。この手の質問はいかに他人に擦り付けるかが重要だと何も知らないバカな俺は1つ学んだのだった。




さて、そんなわけのわからない茶番を挟みつつ再びギルドのクエスト掲示板の前に来た俺は今度こそ受けるクエストを決めようとしていた。別に時間稼ぎ的な文字稼ぎ的なものじゃないからな。それにしてもしばらく家を空けるとしてどれを受けようか。あまり面倒なのとか、遠すぎるのはできれば避けたいと思うがいつもとは違う景色を見たい感じもするし、迷いどころだ。


たまには羽を伸ばすという意味で自分の好きなところにでも行ってみるか。俺は何となく気になった場所のクエストの張り紙を3枚ほど取る。受付で手続きを済ませ途中まで行き先が同じの行商人の馬車に乗せてもらうことにした。ダンジョンから帰ったときとは違い行商人は快く乗せてくれた。


俺が受けたクエストは3つ。「遺跡の巨兵の排除」「泉のセイレーンの討伐」「荷物運搬」だ。


「遺跡の巨兵の排除」はある遺跡の調査のために調査隊が送り込まれたがそこを守る巨大なゴーレムのせいで遺跡を調べることができないらしく排除してほしいというものだ。ゴーレムが守っているならわざわざ調査しなくてもいいんじゃないだろうか。そういう遺跡って昔の人の大事なものか、とんでもない呪いとかが封印されているイメージがある。映画とかでよく見るぞ、先に来た発掘隊が呪いを解いちゃって主人公たちが大変なことになるの。


「泉のセイレーンの討伐」は森の泉に住み着いたセイレーンを討伐してほしいとのことだ。すでに被害も出ていて何人かが泉に引きずり込まれたらしい。セイレーンのことなら俺もゲームの知識で少しは知っている。半鳥だったり半魚だったり設定はいろいろあるが共通しているのは綺麗な歌で船乗りを誘惑して殺してしまうというものだったような気がする。半鳥の場合は食い殺され、半魚の場合は海に引きずり込まれるとかなんとか。


この世界では半魚、人魚的なもののようだ。


「荷物運搬」は言葉通りで村から村にいろいろものを運ぶ仕事だ。馬車が通れないくらい狭い道だったり、険しい場所を通らなければいけないらしくかなり危険であるためギルドの方に仕事が回ってきたらしい。荷物量と道の過酷さによっては一番大変な仕事になるかもしれないな。


それぞれの場所は離れているため全部のクエストを終わらせるにはそこそこの日数がかかるだろう。またしばらく家に帰れそうにない。日常からかけ離れているように見えるだろう?でも冒険者の日常ってだいたいこんな感じなんだぜ。まさに社畜バンザイ!


順番は距離が近いものからセイレーン、ゴーレム、荷物運び。この順番なら途中で引き返すようなこともないし、比較的スムーズに依頼をこなしていけるはずだ。馬車の荷台で揺られながら遠ざかる王都を見ている。別に珍しいことでもない。普段だって王都の外に出ていろいろやっているのだから。ただこうして王都から遥か遠くへと行くことはあまりない。ダンジョンに行った時のような何の重たい空気もない気楽な遠出。


そんな普段とは違う気分のせいなのか、遠くの知らないところに行くことに少しワクワクしている。気のせいか空もいつもより澄んだ青のような気がする。何のトラブルもない平穏な時間、とにかく気楽だ。何も心配することはないし、特別急ぐようなこともない。


いつものパターンからして到着した先で何かしらの問題に巻き込まれるような気もするが。

まあ、今回は気楽にいこう。


こうして珍しく気楽だがすごく長いクエストの旅が始まったのだった。




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