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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
73/106

ドールズロンド その4

いつまでも眠っていていいの?そろそろ起きなさい。あの子たちに教えてあげなきゃ。あなたの失敗を、あなたの経験を、もう遅いかもしれないけれどそのままにしたくはないでしょう?ここがあの子たちにとって最後のチャンス、きっとこのままあの子たちは死ぬ。でももしかしたら落ちていくあの子らの手を掴めるかもしれない。できるのはあなただけ。さあ、起きて。後悔はしたくないでしょう?




俺は目を覚ました。どうやらいつの間にか気を失っていたらしい。えっと確か俺は2人を追いかけていたときに顔に何かぶつけられて・・・。そうだ!顔のところで何かが爆発したんだ!爆弾でも投げつけられたのか。自分の顔に触れるが特に異常はない。よかった。どうやらお見せできないようなグロテスクな状態にはなっていないようだ。


とりあえず現状の確認をしよう。どんなときも困ったらまずは現状の確認が大事だ。ここは南区、俺はティスタとアイミスを屋根伝いに追いかけていたが爆弾を顔面で受け止めたせいで気絶して屋根から落っこちた。体は問題ないようでいつも通りに動く。どのくらい寝ていたのかはわからない。当然ティスタとアイミスは近くにいない。逃げられた。


良いところが1つもないじゃないか。というか顔面に爆弾投げつけられてよく生きてるな俺。いくら転生者としての頑丈さはあるとはいえ自分のしぶとさに我ながら感服するぞ。立ち上がって服の汚れを払い落とす。これからどうしようか。ようやく2人を見つけたというのにまた逃げられてしまった。手掛かりもない。もう南区にはいないだろうし追いかけるのはほとんど不可能に近い。奴らが行動を起こせば大体の位置はわかるだろうが、その時にはすでに誰かが死んでいるだろう。


そうなってからでは遅い、いやそれよりも他人を餌にするつもりはない。休んでいる暇はない、か。

残念だがまたしばらく家には帰れないようだ。被害を最小限に抑えたいなら痕跡がなくても自分の推測で追跡し続けるしかない。空回りしたとしてもじっと待っているよりはその方がマシのはずだ。


コトリ、と木の上を歩く足音が聞こえた。見ると背の低い木造りの家の屋根の上に誰かが立っていた。さっきまでティスタたちと一緒にいたフードを被っている誰か。顔は見えない、身体的特徴もなし、ポンチョのようなものを羽織っているため上半身は完全に隠れてしまっている。男か女かもわかりづらい。すべての点において正確な判断ができない。そいつは屋根から降りると俺の前に立つ。


敵か味方か。


そんな今やありきたりになってしまった言葉が脳裏によぎる。


「おかしいな。僕の記憶が正しければ君は顔に爆弾を投げつけられていたはずだが、なぜ無傷なのかな?」


とても落ち着いた中性的な声。声を発しても1つの判断もできない。


「運と身体能力には昔から自信があってな。そんなことよりもお前誰だ。あの2人の仲間か?」


「仲間?まさか。僕も君と同じだよ。彼らを追っているんだ」

そう言ってそいつはフードを取った。その顔は美少年・・・なのか?とても整っていて女に見えないこともない。声と同じで判別しづらい中性的な顔つきだ。その髪は短くてほんのり赤い黒色。容姿だけでは性別を判断するのは難しそうだ。


「とにかく無事でよかった。君は彼らが何者か知っているかい?」

俺はそいつを怪しんでいたが向こうは俺を怪しむようなそぶりは見せていない。探るようなこともしてこない。知り合いにでも出会ったかのように淡々と話しを進める。


「詳しいことは何も。ただ通り魔みたいなものだと」


「その認識は正しい。君も聞いたことがあるだろう?『双子の通り魔』その伝承、あるいは噂というべきか。彼らはそんな昔から伝えられてきた朧な存在そのものさ」


「どういうことだ?まさか何百年も生きてるなんて言わないだろうな?2人はまだ子どもだぞ?」


「そのまさかさ。あの2人はまだ、いや永遠に子どもだ。姿はね」

コイツの言っている言葉の意味が分からない。どういうことだ。あの2人が永遠に子ども?その姿が?また話のスケールが大きくなってきたぞ。あの2人は人間じゃないっていうのか?じゃあなんだっていうんだ。幽霊か?妖精か?非現実的なことが当たり前のように起こるこの世界では何が目の前に現れたとしても

不思議なことではない。俺は一体何を追いかけているんだ?一体何を救おうとしているんだ・・・?


「彼らは人間じゃない。そして僕も人間じゃない」

そいつはそう言うと自分のしていた手袋を外した。その手を見ただけでそいつが人間ではないということがすぐに分かった。明らかに人間の手ではない。指は円柱、関節は球。円柱と球の1つ1つのパーツを組み合わせたような手。それはまるでマネキンのような手だった。


「僕らは魔動人形(ドール)。失われた魔法技術の結晶さ」


魔動人形(ドール)・・・?」


「今でいうゴーレムみたいなものさ。ゴーレムと違うところは外見は人間と大差ないところとまともに喋れること、そして何よりも違うのは()()()()()()()()()


失われた技術、ロストテクノロジーってやつか。どうりで聞いたことないはずだ。ティスタとアイミス、あの2人もこのドールってやつなのか。なるほど、この話を聞いてようやく色々わかってきたぞ。初めて2人と出会ったとき、ティスタを掴んだあの時の違和感、子供とはいえあまりにも軽るい。だがそれにしては掴めばわかるほど骨格が硬すぎた。おそらくだが人間と違って体いっぱいに内臓、部品のようなものが入っていない、そして骨が金属などの明らかに硬いものでできている。といったところだろう。


そしてここまでわかってしまったなら信じるしかない。あの2人は伝承の通り魔の模倣犯などではない。

正真正銘、本物の『双子の通り魔』だ。






??? ある場所にて

『首尾は?』


「もう少しかかりそうです。複雑な内部構造で、少しでも間違えれば自壊する可能性があります」

そう答えた女の前には大きな透明な水晶が立っていた。それは天然のものではなく魔力で作られたもの、魔力を凝縮してつくられた視覚化した魔力の塊。だが目の前のこれはそんな単純なものではない。見るだけなら美しい水晶だがその正体は強力な防衛魔法の一種、ドラゴンの牙ですら受け付けないほどの自己防衛用バリアだ。優れた魔人なら解くことはできる。だがその構造は難解複雑だ。


『やはりか。本来私が直接やればいいものだが・・・今のうちに謝罪しておこう』


「構いません。多忙なのは知っていますから。それよりも本当にこれを解凍する必要が?」

目の前の水晶はダンジョン内でアーティファクトに回収させたものだった。あそこにあってはいけないもの、というよりも放置してはおけないものだった。だからこそ多少のリスクを負ってでも回収せざるを得なかった。


『物事を進めるのに必要だ』

この水晶自体には大した価値はない。人間の学者たちなら欲しがるかもしれないが真に価値があるのはその中身。水晶の中には1人の少女が閉じ込められていた。何か特別なわけでもないその普通の少女はどの学術的観点から見ても何の価値もないものだろう。だがある者にとっては価値のあるものだ。だからこそ慎重な作業が求められていた。


「それにしてもこんな複雑な回路を生成するなんてこの子は何者なのですか?」


『ただの人間だ。防御魔法を構築したのはベルベリットだ』


「ベルベリット、確か灰の魔女の」


『ヤツの落とし物。この者が拾ったのは不幸中の幸いだ』


「?」

魔人王の言葉に女は少しの疑問を覚えたが特に詮索することはない。このただの少女が魔人王にとってどう必要なのか、女には理解できなかった。だがそこに疑問を持つことはない。自分の王が、魔法の神がそう望んでいるのだ。ならば従わない理由はない。


『しくじるな。傷ひとつつけるなよ』


「お任せください」

女はそう言って深々と頭を下げた。魔人王はその言葉を聞くとその場から姿を消した。王の目的を知る者はいない。かの者が何を望み、何を示すのか、誰にも理解することはできず、誰も知ることはない。だがそれでも時は少しずつ進む。すべては神の手の中。






場面は戻ってハイデン、南区

俺は現状をよく理解できていなかったが魔動人形(ドール)と自称するそいつと南区を歩いていた。


「ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕はフォン、さっきも言った通り魔動人形(ドール)だ」


「俺はレイジ、一応冒険者だ」

そう、俺の本業は冒険者だ。何かしらの事件に巻き込まれてはいるが毎日「これ内容と見返りが合ってなくね?」みたいなクエストを受けて、どうにかメイド2人とニート天使1人を養っている冒険者・・・のはずだ。ユウナも働いてくれるからある程度負担は軽減されているがそれでも家具とか食費とか必要経費の約7割は俺が出していたりする。


なぜここまで苦労していることを主張してくるのかって?


こうやって隙あらば苦労をアピールしていかないと「転生者だからどうせ女に囲まれて裕福に暮らしてるんだろ」と誤解を生みかねない。忘れるな、俺は金持ちではない。あと女に囲まれているのは別に楽園じゃない。むしろ時々女子しか共感できないトークを振られて困っているし、何かやらかそうものなら追い出される可能性すらある。あそこは楽園じゃない。地上74メートルに設置された鉄骨の橋の上と同じだ。


「遠い目をしてどうかしたのかい?」


「いや、なんでもない・・・」

俺の苦労話はこの辺にして本題に戻ろう。


「君は何故2人を追っているんだい?」


「単に野放しにしとくわけにもいかないからだな。お前は?」

嘘は言っていない。だが本音は隠す。ここで正直に「あの2人に手を差し伸べたい」などと戯言を出そうものならこの場で切り殺されたっておかしくはない。俺は通り魔を助けようなんてイカれたことをしようとしているのだから。


「僕も似たようなものさこれ以上犠牲者が出る前に奴らを止めたい」


「アイツらはこれまでにも誰かを?」


「ああ。遡れば200年ほど前だ」

フォンそう言って昔話を話し始めた。



まず僕たち魔動人形(ドール)がどうして生まれたのか話しておこう。今から200年ほど前、当時世間では『魂』についての研究が熱狂的に行われていた。まあ研究者や魔法使いの間だけの流行みたいなものさ。皆ゴーレムや魔道具に魂を定着させようとしたり、魂を切り分けようとしたりとか色々研究していたよ。


先に結論から話すとこの研究はある程度成果は出た。魔動人形(ドール)のようにね。けどこの題材は

永久的に闇に葬られた。理由は3つ。危険だから、倫理観に反しているから、そして何よりまったく上手くいかなかったからだ。


実験だなんだと議論するよりもまず、そもそも誰も『魂』の存在を証明できなかった。見ることはできないし、感じることもない。そんなものの存在をどうやって証明し、表現して魔法式に当てはめればいいのか誰もわからなかった。


「それでその題材はなきものになったと」


そう。難しすぎて仮説にもならない研究者たちの妄想止まり、絶対に解けない問題として終わってしまったんだ。


「でもそれじゃあ」

ああ、僕たち魔動人形(ドール)は生まれない。『魂』というのは解明不可能な問題として終わった。でもそれで終わらなかった者たちがいたんだ。それが成果を出した者たちだ。この不可能と呼ばれた問題に答えを出したのは魔人王と一握りの魔人たち、そしてホーエンハイムという1人の人間だけ。僕ら魔動人形(ドール)はそのホーエンハイムに作られたのさ。


「僕らってことはティスタとアイミスも?」


ああ、僕らはホーエンハイムに作られたキョウダイだ。




「さて長ったらしく話したが理解してもらえたかな?」


「まあなんとなく。けどホーエンハイムは『魂』の問題を解いたんだろ?なのに何で葬られた状態なんだ?」


「ホーエンハイムはその成果を秘密にしていたのさ。知識を独占するためにね。けどティスタとアイミスに殺されてしまった。そこから彼らの非行が始まった。彼らが何故ホーエンハイムを殺したのかはわからない。その意図を聞くのも僕の目的だ」


「殺人の理由は?」


「それも詳しくはわからない。だが「復讐」とだけ。ホーエンハイムの殺害と何か関係があるのかもしれない」


よし、内容はなんとなくわかった。一言でまとめると「まぁたスケールの大きい話」だ。ついに200年前の話が出てきちゃったよ。俺は200年も続いている都市伝説みたいなものを目の当たりにして、それを解決するために動こうとしているわけだ。ついに歴史を変えるかもしれないくらい大きな話がぶつかってきた。


えっとティスタたちはホーエンハイムって奴に作られて。動機はわからないけどそのホーエンハイムを殺して、200年間通り魔をやっていると。はあ。


帰りてぇ。もう今すぐ帰って寝て今日起こったこと、というか今日にいたるまでの出来事忘れたいわ。いやぁすごい面倒なことになってきてるじゃん。結局今回もスケールの大きいタイプの話だったじゃん。平凡はどこへ行った?長期休暇中だろうか、それとも既に退職済みか。これまでの出来事と比べて話の規模があまりインフレしていないからまだいいがこれ以上大きくなるようならさすがに自分の限界を感じる。


だがまあ残念だがいつもの例に漏れず「やるしかない」。関わると決めたのは自分だし、ここまで深く踏み込んでおいて「嫌なんで忘れます」で済ませたところで俺はきっと後悔するだろう。今ティスタとアイミスに手を差し伸べられるのは俺だけ。やらないで後悔するよりやって後悔する?

いいや、違う。後悔しないためにやるのさ。自分のやったことに後悔はない。


歩き続けていた南区を抜け、俺たちは西区に入ろうとしていた。荒れ果て崩壊した建物はどこにでもある形を保った石造りのものへと変わっていく。こう見ると南区が他の区と比べてどれだけひどいところで環境が悪いのかがわかる。


「さてと、君はもう帰るといい。今日は探したところで見つからないだろう」


「見つからないって、そんな呑気にやってていいのかよ」


「今更焦ったところで彼らがどこにいるのかなんてわからないさ。人形の僕はともかく人間の君は

取れるときに休息をとるべきだ。先人からの助言というやつさ」


「わかった」

俺は体力だけのバカだから難しいこととか、賢い行動なんてものはよくわからない。だからここは

頭のいい奴の意見を素直に聞くとしよう。フォンとはそこで別れ、俺は家へと向かった。もうすっかり夜だがまだ夕食には間に合うはずだ。しばらく帰れないと思っていたが今回に関してはそんなことはなさそうだ。自分のベッドで寝れるなんてそれだけでもありがたいことだ。慣れたとはいえ硬い床で寝るのは好きではない。


家に帰ると丁度夕食の準備が終わったところだった。思っていたより時間は経っていなかったようだ。何も言わずにあまり帰りが遅いと皆が心配するのでちょうどいい時間に帰ってこれて良かった。


「え、旦那様の分ありませんよ?」


「は?」


「てっきり今日は帰ってこないとばかり」


「申し訳ありません。いつもよりお帰りが遅いご様子でしたので」

何も言わずに・・・帰りが、遅いとし、心配・・・心配、しんぱいするから(泣)


「この非常な世の中を変えてみせる」

俺はそれだけ言うといつもの飯屋、『黄金の鹿』へと走り出した。別に泣いてないし!なんか俺の顔の周辺にキラキラしたものが見えるかもしれないけどそれ涙じゃないから。ただのあふれ出した感情だから。泣いてるわけじゃないから‼


なお、その後食べた安い魚定食はいつもよりしょっぱく感じたとさ。


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