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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
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ドールズロンド その2

地下の自室に戻ってきた俺は手に握られた切断ワイヤーを見た。鋼鉄のワイヤーか。長さも十分あるし使えるな。このまま捨てるのはもったいないしこちらで有効利用させてもらおう。俺は部屋の明かりをつけるとそこにはベッドや机以外にも鉄くず同然の鎧が置かれていた。メルキムスにやられて以降左の籠手以外は全く使い物にならない状態だったので直している途中だった。


このワイヤーは鎧に、待てよ考えてみれば・・・よしそっちに使ってみよう。鎧を完全に直すにはまだまだ時間がかかりそうだ。


俺はベッドに座ってあの2人のことを考える。あの2人はきっとまた殺人を繰り返すだろう。それは止めなければならない。警備にあたっている騎士団たちもさっきの現場に落ちているナイフを見つけるだろうから警備はより一層強くなるだろう。だが子どもの容姿をしていることもあってそう簡単に捕まるとは思えない。次の被害者が出る前に俺も俺で動いたほうがよさそうだ。


あの2人は一体なぜ通り魔なんかやっているのだろうか。まだ子どもなのに、いったいなぜ道を間違えてしまったのだろうか。それが気になる。何か訳があるのだろう。というよりも何か訳があってほしい。意味もなくただ通り魔になってしまったというのなら俺は情けをかけられなくなる。俺はできるならあの子たちを助けたい。戻せるのなら元の道に戻してあげたい。


何をするにもあの2人を探さなければ。




俺は昨日ティスタ、アイミスと出会った場所に向かった。そこは昨日までと変わらず狭い路地だったがその路地の周辺の建物には「通り魔注意」の張り紙が張られていた。昨日の一連の出来事は誰にも知られていないようだが通り魔がいたということだけはわかっているらしい。さて、2人を探すとは言ったもののどうやって探そうか。王都は広い。闇雲に探していては何日かかるのかわかったもんじゃない。聞き込みもしづらいな。子どもの通り魔の話なんて信じてくれるかわからないし、どう見ても子どもを探している俺の方が怪しい。


人探しをしてくれる神器なんて・・・あるかもしれない。俺は手を額に当てて「頭痛い」のポーズをとる。こうすることで膨大な数ある神器を探しているのだ。傍から見たら頭痛い人で実際、頭が痛い。数は多いし、1つ1つどんな能力を持っているのか確認しなければいけない。酸欠のときのように頭がくらくらする。ふらついて壁に寄りかかる。


「お母さん、あの人ずっとふらついてるよ?」


「お酒を飲みすぎるとああなるのよ」


いくら探しても役に立ちそうな神器が全く見つからない。やかん、筒状の何か、カロリーメイト、一体

どこの神だライフガードを入れたのは。好きだけど、確かに好きだけど殺した侘びとして入れるには絶対にふさわしくないと思うの。異世界行くって言ってんだからもう少し役立つもの選んでくれよ。

そこからさらに神器を漁るに漁った。そしてついに!


「見つけた!」


「お母さん、あの人h」


「見ちゃダメ‼」

俺が取り出したそれは鎖の先端に紫色の八面体の水晶がついた一目見ただけではアクセサリーに間違えられそうな見た目の神器だった。ところで皆はダウジングというものを知っているだろうか。一応説明しておくとダウジングは地下水とか鉱脈を見つける時に使う手法のことだ。曲がったストローみたいな棒を持って歩き回る人の図とかをなんとなく見たことがあるだろう。これはそのダウジングっぽいことができる神器だ。


正確には自分の欲するものへと案内してくれる神器、その名も『切望の鎖』。この紫色の水晶については一切触れないのか。もしかして水晶じゃなくてこっちの鎖が本体だったりするか?水晶飾り説が本当なのか少し気になるがそれは一旦置いておこう。本来は宝物とかを見つける神器であって人探しをしてくれる神器ではないが上手く使えばあの2人を見つけられるかもしれない。


俺はさっそく『切望の鎖』を使ってみる。使い方は簡単。欲しいものを念じて水晶の付いた方を垂らすだけ。するとどうだろうか、何も起こらないのである。特に反応もなし。ただ水晶をぶら下げた鎖が小さく円を描くように振れるだけ。おかしいな。使い方はこれで合っているはずだ。なのに何も教えてくれないぞ。ティスタとアイミスがどこにいるのか教えてくれよ。


円を描いていた振れがピタリと止まった。何だこの神器、不良品か?水晶だけじゃなくこの神器自体がただのアクセサリーの可能性も出てきたぞ。探している者がどっちにあるのか方向指してくれたりするんじゃないのか。とりあえず歩き回ってみようか。もしかしたら何か反応を示すかもしれない。俺は不安を感じながらもまっすぐ歩き始めた。


止まっていてもしょうがない。神器は気持ち程度に考えておこう。


「ちょっと君、止まりなさい」

歩き出したのにすぐに鎧を着た警備の人に止められた。


「何か?」


「何か?じゃないよ。さっきから見てたけど明らかに怪しいよ。ふらついたと思ったらいきなり大きな声出して。しかも鼻血出しながら奇妙な道具持ってるし」


「鼻血?」

自分の鼻を触ってと確かに鼻と口の間に垂れて固まった何かがある。手で軽く拭うと確かに赤い。どうやら神器を探していたときに体にかなり負担がかかっていたらしい。全く気が付かなかった。


「親切にどうも、それじゃ」


「そのまま見過ごすと思うか?」


「ですよねぇ・・・」

そうして俺は人生で初めての職務質問を受けることになった。職務質問というのは面倒なもので時間が長いうえになかなか答えづらいことを色々聞かれた。本当はその時の状況も細かく教えたいのだが何をいくら言っても警備の人が信じてくれなかったのが原因で解放されるのにかなり時間がかかった。


「職業は冒険者だって言ってんだろ!証拠のメタルタグ見せてるんだから信じろや‼」


「えぇ?偽物なんじゃないのぉ?」


「偽造なんてしてないってば‼」


こんな感じのやり取りが10回ぐらい繰り返されている。どんだけ疑われてるんだよ。この警備の人は極度の人間不信か何かなのだろうか。『切望の鎖』をごまかすのもそこそこ大変だったが職業の証明に比べれば楽なものだった。まったく職質というのは面倒なものなんだな。かなり時間を取られてしまった。あれは警備の人というよりは時間泥棒の一種なんじゃないかと思えてきた。


俺はぐったりしながらも『切望の鎖』で再びティスタとアイミスを探す。鎖は小さく円を描くように振れている。相変わらず役立たずのアクセサリーと化しているな。こんな調子で果たして見つけられるのだろうか。今のところ不安要素の方が多い。




しばらく歩き回ったが2人を見つけることはできなかった。もしかしたらこの周辺、西区にはいないのかもしれない。北、南、東。可能性が高いのは西区からすぐに行ける北区と南区。北区は貴族街。貴族たちの集まる華やかな場所だ。見回りで1度だけ行ったことがあるからどんなところかはわかる。

南区は治安があまり良くないという噂だ。行ったことがないのでどんなところかはわからないができることなら行きたくはない。困ったことになったぞ。これじゃ王都全体を探す羽目になってしまう。

最悪の場合すでに王都にはいなくて空回り、なんてことになるかもしれない。それだけにはなってほしくないな。


何をするにも2人についての情報が少なすぎるな。俺が悩んでいるとどこからか楽しそうな声が聞こえてきた。俺が目を向けた先にあったのは街の住宅に紛れ込むように建っている小さめの教会。その小さな教会は昔はきっと白くておしゃれな教会だったのだろう。年季が入っているのか白かった壁は黒ずんで純白さは消えかけている。


「シスター!早く早く!」


「今行きますよ」

楽しそうな声の正体はそこにいた子どもたちと子どもたちに囲まれ手を引かれる1人のシスターだった。

シスターは困ったように、でもそれでいて嬉しそうに子どもたちに引っ張られていた。うむ、なんとも

微笑ましい光景だ。俺は普段から問題にばかり巻き込まれていた。だからこんな平和な光景なんて見たこともなかった。俺が問題に巻き込まれている裏ではこうやって何も知らずに平和に過ごしている人たちがいるなんて考えたこともなかった。


今回の件もキメラ事件のときも解決したならきっとあの子たちの笑顔は続いていく。きっと笑っていられるだろう。そう思うとどんな面倒な事件もまだまだ諦めるわけにはいかないと思える。俺は気合を入れなおす。ティスタ、アイミスの2人もきっとあの子たちみたいに幸せに暮らせるはずだ。そのためには誰かが早期に動かなければ。


「そこの方、顔色が優れませんね。少し休んでいかれてはどうですか?」

いつの間にか先ほどまで子どもたちに手を引かれていたはずのシスターが隣に立っていた。俺は少し驚いたが冷静に対処する。


「そうですか?いつも通りなんですが」

一応ダンジョンから帰ってきて1週間ほど休んでいたはずだから体調は悪くないし、顔色も悪くないはずだ。まさか1週間では俺の疲れは取れなかったか、もしかして俺って自覚がないだけですごい疲れた顔してるのか?そんなはずはない。というかそれ以前に少し妙じゃないか?もし俺の顔色が悪いとしても知らない人間に「休んでいけ」とは言わないだろう。怪しい、最近誰に何を言われても怪しいと感じてしまう。


「いえいえ休んでいってください」

そう言ってシスターは両手の指で輪っかを作ると両眼にそれを当てた。まるでメガネを表現するように。


「あれ?アンタどこかで・・・」


「お久しぶりです。隊長」

そう言ってシスターは「静かに」と人差し指を口に当てる。隊長、俺をそんな言葉で呼んでくれる人間を俺は5人しか知らない。キメラ事件での際に俺が配属された暗殺専門の秘密部隊。そこのメンバーでメガネをかけていたのはただ1人。まさかこんなところで出会うとは思わなかった。


「本当に久しぶりだな。アリシア」




教会の中に案内され沢山並ぶ長椅子の1つに2人で座る。

「最近はどうだ?やっぱり忙しいのか?」


「私は最近は子どもたちに付きっ切りです。他のみんなも最近は夜の見回りがほとんどで退屈だそうです」


「そうか・・・」

退屈ということは最近は暗殺の任務はないってことか。暗殺が彼らの本来の任務なのだからよかったというのは変な話ではあるが例え暗殺部隊であったとしても殺し合いはやってほしくない。ここのところは比較的平和というわけか。


「隊長は最近はいかがですか?」


「ようやくいつも通りの生活に戻ったと思ったらまた面倒なことに巻き込まれちゃってさ、いろいろ困ってるところ」


「そうですか。何か力になれることがあったら言ってください。出来るだけ尽力します」


「ありがとう」

相変わらずアリシアは優しい。だからこそシスターという仕事は彼女に似合っていると思う。だがそれと同時に暗殺部隊なんてやっているのが不自然に思える。何故そんなことをやっているのか疑問に思ったがそれは今聞くべきことではないだろう。


「アリシア、お前の仕事柄の意見を参考にしたいんだが、もし殺人鬼がこの王都内に身を隠すとしたらどこに逃げると思う?」


「そうですねぇ、私が犯人なら事件現場の近くには隠れません。もっと遠く、南区にでも隠れるでしょうね」

俺の突然の質問にもアリシアは戸惑い1つ見せず答える。南区、治安が悪いと噂の地区か。


「理由は?」


「事件現場の近くは動きづらく潜伏していても悟られやすい。葉を隠すなら葉の中というように悪人を隠すなら悪人の中に隠せば見つかりづらい。さらに南区の外壁付近は騎士団ですら侵入に躊躇するほどの地域。人目にはつきづらいです。屋根か地下、最悪目立たない路地裏の経由でも他の区に移動して目標を殺害、その後は闇に紛れてまた南区に潜伏。追手がかかっても王都の構造を利用すれば十分撒くことは可能です。南区の構造はよそ者にはわかりづらいですしね。手間はかかりますが圧倒的に安全です」


長々と説明されたが要するに南区は隠れるには絶好の場所ということだな。それだけはわかった。あの2人があそこにいるのかどうかはわからない。だがどうせ当てもないのだから行ってみるしかない。


「助かったありがとう」

俺は立ち上がる。日が暮れる前に行かなければ。不良のたまり場みたいなところに夜に行く勇気はない。


「あの!」

教会を出ていこうとする俺をアリシアが呼び止める。


「教会への支援ありがとうございました。おかげで子どもたちを保護できました。そのお礼が言いたくて声をかけたんです」


「そうか、ならよかった」

俺はそれだけ言うと教会を出た。どれだけ力を持っていたって俺にできることなんて限られている。俺は強くない。国のためだと言われ、それに反論できなくて奴隷たちさえまともに助けられない弱者だ。

だが今、目の前に伸ばした手で掴めるかもしれない奴らがいる。俺は力足らずの人間かもしれないがそれでも掴めるように必死に手を伸ばしてみようじゃないか。


俺はそう強く決心した。






「ねえティスタ」


「なに?アイミス」


「昨日の男の人、もしかしたら私たちの救世主なのかなぁ」


「彼はただの人だ。ただの人が僕らを救えるわけがないよ」


「でもナイフで刺しても死ななくてワイヤーでも切れないんだよ?もしかしたら天からの使いなのかも」


「神なんていないよ。天使もね。あるのは哀れみの言葉だけさ」


2人は寄り添う。互いの傷を慰め合うように。

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