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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
ダンジョン探索編
67/106

消耗する帰路 その5

状況は最悪の方へと転がってしまった。現状の打開策はない。正確にはフィリアを助けながら黒騎士を倒す方法がない。何も考えなければ逆に何か見えてくるものがあるかもしれないが当然フィリアを見捨てる気はない。俺はこれだけ世話になった相手を簡単に切り捨てるようなクズではない。ただ人質を取られているだけならまだ何とかできたかもしれない。本来なら人質を取っている場合人質の身動きを封じている分戦える状況ではないはずなのだ。だが今回はフィリアが小さいことと鎧の内側に取り込まれてしまっていることによって相手の動きに一切影響が出ていない。


つまり人質を取っているというよりも、いざという時の保険。こちらが手を出しづらくする要因のような相手にとって都合のいいものと言った方が適切かもしれない。水戸黄門の印籠や警察手帳みたいなものだ。そしてそういう敵はかなり厄介だ。手を出してしまうとリスクがあるが手を出さなければこちらが徐々に危険に追い込まれていく。だから取り返しのつかない事態になる前に解決策を見つけなければならない。


ガシャリと音を立てて黒騎士が動く。当然解決を思いつくまで敵が待ってくれるわけもない。大きく振り下ろされた剣を避けると地面が砕ける。横降りの攻撃を避けると空気が裂ける。先ほどから攻撃が強くなっている。ようやく本気を出し始めたのか、人質がいるせいで大胆になっているのか。どちらにせよ大振りな攻撃が少し多くなった分隙はできている。手足を斬り落として身動きが取れなくなったところをどうにか助ける。隙を生かす方法がこんなシンプルな方法しか思いつかないのが残念だが何の案も思いつかない中どうにか引き出した案なのだから仕方ない。


ただこの作戦もスピードが命だ。黒騎士の修復速度は速い。もたもたしていれば大きな反撃を喰らうことだろう。また無茶苦茶ではあるがいつも通り『やるしかない。』手汗を軽く拭って剣を握りなおす。黒騎士の動きを封じる方法は手足を斬り落す、というよりも斬り飛ばすこと。相手を拘束する魔法であるバインドは黒騎士が液体状に変身できるため意味を成さない。とにかく行動手段を減らす。

それしかないだろう。


黒騎士が一歩重く踏み込んで剣を振り下ろす。これも受け止めなくてもわかる重たい攻撃。避けて払うように黒騎士の足に剣を振る。剣は僅かにかすっただけで切断には遠く及ばない。すぐに追撃するが黒騎士は防ぐこともなく後ろに飛んで躱す。剣で防御しないのはおそらく神器の切れ味を警戒しているからだ。今黒騎士が持っているあの靄のようなものでできた剣も最初に持っていた剣と同じで

神器を受け止めることができないのだろう。


その後も攻め続けたがやはり黒騎士は一度も攻撃を防ぐことなくすべて避ける。これではただ少しずつ体力を消費しているだけだ。今度の攻撃もことごとく躱される。だがさっきまでとは違い後ろには下がらない。むしろ前に踏み込むそして横振りの攻撃。俺は躱しきれないことをすぐに察して急いで剣で防ごうとした。だが剣と剣がぶつかる感覚がない。一瞬だけ見えたのは黒騎士の剣が俺の神器をすり抜けたところだ。そのまま俺の横腹を切り裂く。その一撃は深いなんてものじゃない。間違いなく致命傷。内臓がいくつか斬られ血と肉の一部が飛び出て、脊髄から脳に電撃が伝わるのを感じる。


運がいいというべきか不幸中の幸いというやつか、全力で振られなかったおかげで剣は背骨を断ち切るまでには至っていない。だがこのまま力を入れられれば絶対に斬られる。全身を駆け抜ける痛みの中に紛れている足のすくむような脱力感。それは不安という今まで抱いていたものとは違う。不安の遥か上をいく最上級。他のどんなものとも違う明確な1つの感情だった。


恐怖。死への恐怖だった。


恐怖で埋まった思考と心だったが体は何故か誰かに操られているように、冷静に、そして適切に動いてくれた。深々と体を切り裂いた剣を力いっぱい押し返し、すぐに後ろに下がった。黒騎士がすぐに追撃してくるが体は心と無関係に勝手に動く。振り下ろされる剣を受け流し、打ち返し、黒騎士の腕を斬り落す。どうしてだろうか、深手を負う前より体が動いている。聴覚も触覚も斬られた痛みさえ感じもない。まるで画面越しに消音の映像を見ているような感覚だ。


黒騎士のもう片方の腕を遠くに斬り飛ばし、体勢を崩すと馬乗りになって首元の甲冑の隙間に手を突っ込む。そのまま甲冑を引き裂くように力を入れる。かなり硬いらしく引き裂くのは難しそうだ。だがそれでも筋肉の疲れも何も感じない。少しずつ紙を破るように硬い甲冑が裂け始める。そしてその奥に手足を拘束されたあフィリアの姿が見えた。手を突っ込んでフィリアを救い出すと後ろに飛んで距離を取る。地面に着地した衝撃とともに全ての感覚が戻ってきた。腹部からとてつもない激痛、

黒騎士からガガガと金属の軋む音、手の中の小さな存在。押し寄せる疲労に膝をつく。


体験したことのない空気が腹部を通り抜けるような奇妙な感覚に吐き気がするがいつも通り傷はすぐに塞がり奇妙な感覚も消える。激痛がぱったりと止んでいつも通りに体が動く。1分どころか30秒にも満たない僅かな時間であったが普通ではありえないようなとても奇妙な体験をしたような気がする。神器の効果だったのか?なんにせよ神器がなければとっくに死んでいたのは間違いない。


だが神器があるとはいえ体の半分を切り裂かれていたのに我ながらよく生きているものだ。下手を

すれば即死だっただろう。運が良いというべきか、それとも俺の知らない俺の何かがあるのか、どちらにせよ状況は改善した。


手の中の妖精を見る。外傷はない。気絶しているだけだろう。フィリアが気絶している以上片手が塞がる。そして黒騎士を片手で倒せるほど今の俺は強くはない。それに倒す手段も思いつかない。残念だが撤退するしかない。俺はすぐに地面に置いていた魔導書を拾ってその場を離れた。黒騎士は絶対にまた追ってくる。だがここは逃げざるを得ない。誰かを庇いながら戦うのは絶対に無理だ。それになにより少しでも考える時間が欲しい。


あてもなく森の中を必死に走っていると爆音とともにすぐ隣の木が倒れた。耳のすぐ横をブゥン‼と何かが通り過ぎたと思ったら奥の木がきれいに切断され倒れる。黒騎士の魔法攻撃だ。


もう追いついてきやがったのか!?俺はかなり全力で走っていたはずだ。それに木や茂みがたくさんあるのに俺を見失わずにここまで来たってのか?いくら何でも速すぎやしないか。そういえば最初に逃げた時も隠れていたのに正確に場所を把握していたな。あの時俺たちの後ろに黒騎士の姿はなかった。なのにどうして追ってこられた?この森の土は足跡が付くほど湿ってはいない。痕跡の類のものは残っていないはずだ。


急な坂道を滑り降りて走り続けると大きな川が行く手を塞いでいた。向こう側までは20メートル以上あり、流れも急で深いように見える。飛び越えていける距離ではないし、当然渡れるわけもない。

仕方ない、川沿いに進むか。方向を変えてまた走り出そうとしたとき右足に激痛を感じその場に膝をつく。見ると地面から黒い触手のような鎖鎌が生えておりそれが、目にも留まらぬ速さで俺の右足を切り刻んだのだ。


見たところ生き物ではない。おそらく黒騎士の魔法攻撃だ。先回りされていたのか!?ここまでくるといくら強敵とはいえおかしい。どこかで見られているか、何か俺たちを追う手段があるとしか思えない。だがそんなことを考えていられる場合ではない。速くここを離れなければ。だがいつの間にか黒騎士がすぐ隣まで接近しており、剣を振り下ろされる。咄嗟に籠手で攻撃を防ぐ。運の良いことに先ほどのように剣がすり抜けるということはなかった。だが足をやられ、強い攻撃を受けてしまった俺は僅かによろめく。黒騎士はそのよろめきを見逃さずなかった。力強い蹴りを入れられ俺は吹っ飛んでしまった。


そしてそのまま大きく水しぶきを立てて川に落ちた。


「ぷはっ‼」


すぐに水面からフィリアの乗る手と顔を出し、状況の確認と空気の確保をする。今わかるのは先ほどの位置から数秒でかなり流されているということ。そしてこの状況は非常にピンチだということだ。黒騎士はさすがに追ってきていないようだが身動きが取れない。川の底にギリギリ足が届かない。掴まれるような物もない。


しかもこんな危機的な状況だというのにフィリアは未だに目を覚まさない。この状況で起きないってお前すげえよまぢ。ってそんなことを冷静に突っ込んでる場合じゃない!とにかく川から出る方法を、と思ったがうるさかった川の流れの音がさらにうるさくなった。いやな予感がして前を見ると流れがプッツリ途切れていた。


まあ、要するに滝である。


「嘘だろぉぉぉ‼」

俺の叫びはうるさい水の音に完全にかき消されたのであった。




滝から落ちた俺はどうにか岸に上がりその場に寝転がった。手の中にいたフィリアは無事だが落ちた時に岩か何かに腰を強打したらしく下半身がうまく動かない。しばらくすれば動くようになるだろうがとにかく疲れた。だがゆっくりはしていられない。黒騎士がすぐに追ってくるだろう。服を乾かす時間すらもらえないのは残念だが贅沢は言っていられない。すぐにここを離れなければ。


「いい加減起きろ」

フィリアを指先でつつくとピクリと反応する。良かった。川の流れは激しかったし、黒騎士の攻撃も激しかったせいであまり構っている余裕もなかったから互いに死んでしまっていてもおかしくなかった。


「んん、あれ?私どうなったんだっけ?」


「お前を助けた後逃げようとして滝から落ちた」


「意味わかんない」

仰向けに寝ても本来あるはずの青空はそこにはない。あるのは岩で蓋をされた天井とそこから今にも落ちてきそうな光を発している巨大な結晶の塊だ。なんというか改めてみると不思議な光景だ。もし、状況が違っていたならもっと景色を楽しむこともできたかもしれない。そう思うと少し残念だ。ああ、疲れた。

もう動きたくない。せめてもう少し休んでいたい。気が付けば全身ボロボロだ。服は土や血で汚れ、切り裂かれてひどい有様、俺自身も疲れが溜まっている。


どこにも痛みはない。だが無理やり起こす体はどこか苦痛を感じるような気がする。動かなければと思えば思うほど心が重たくなる。だがそれでもそんな重さを無理やり忘れて立ち上がる。川辺で寝転がっていたのが原因で死ぬなんていうダサい死に方はごめんだ。死ぬならせめてかっこよく死んでやるさ。


「フィリア、あいつについて何かわかったことあるか?」


「ええ、1つわかったわ。アイツが何なのかね」


「なら早速聞こうか」

俺は濡れた服を絞る。乾かせないとはいえ水を吸ったままでは動きは遅くなる。あと気持ち悪い。


「アイツの正体はアマルガムよ」

フィリアや羽を高速で動かして乾かしながら言う。


「アマルガム?」

虫歯の詰め物もそんな名前だったような気がする。


「魔法使いが使う液体状の金属のことよ。魔力での遠隔操作が可能で一般的には魔法初心者の魔力操作の修行に使われる魔道具ね」


「その話の通りだとするとアマルガムを操作できる初心者は最強ということになるんだが」

初心者があんな怪物級のものを作れるんだったら俺にだって作れる可能性があるぞ。というかキメラ事件すら簡単に解決できたのではないだろうか。初心者であのレベルだったら上級者はもう支配者にでも何でもなれそうなものだ。


「そんなわけないでしょ。あの黒い騎士は完璧な形態フォルム、本来銀色であるアマルガムの正確な着色、そして生き物のように隙の無い動き、間接的な魔法の使用。相手は大魔法使い・・・それとも魔人級の使い手?それならあの追跡も・・・」


フィリアは何かぶつぶつ1人で喋っているが小難しい言葉を並べられたところでバカな俺には全くと言っていいほど理解出来ない。よくわからないがとりあえず俺は何か()()()()に目を付けられたらしい。魔人という単語には聞き覚えがある。魔法を作ったこの世界の神、魔人王。そしてその配下の魔人たち。キメラとの戦闘の最後、連中はキメラをいとも簡単にどこかに連れ去ったと聞いている。つまりかなりの実力があるということだ。油断はできない。


俺は濡れた服の上からいつもの白く、所々に赤いラインの入ったゴツイ魔改造鎧を装着する。先ほどまでは素早さを重視して手足と胸の最低限の部位しか守っていなかったが今度は違う。あの黒騎士相手にはそんな悠長なことは言っていられない。服が濡れているせいでどうにも気持ち悪いが我慢するしよう。

俺が兜を被ると肌を露出している部分は完全になくなり、ロボットのような外見になる。動きの確認としてその場で軽くジャンプするとガシャガシャと金属音が鳴る。


よし、服が濡れていること以外は問題ないな。


「それで、これからどうすればいい?」


「アマルガムを遠隔操作している奴がどこかにいるはず。それを倒せれば解決よ」


「どこかって、どうやって探すつもりだ?森は広いぞ」


「アンタねぇ私を誰だか忘れたの?導くことにかけては右に出るものなしの妖精族よ!アマルガムから延びてる魔力の流れを辿っていけばそのくらい見つけられるっての!」


「そういえばそうだったな。じゃあ早速探してくれ」


ガサリと茂みが揺れて、数枚の葉が散る。そこにいるのは当然、黒騎士、アマルガムである。もう少しゆっくりしていて欲しかった、なんなら死んだと思って来ないで欲しかったがやはり念には念を入れてということか。残念なことに操作している奴はあまりガサツな性格ではないらしい。だが、こちらも準備万端だ。先ほどまでとは違い、打開策もある。もう逃げるつもりはない。


「大体の場所が分かったわ」

耳元でフィリアがささやく。


「早いな」


「魔力はアマルガムから後ろにずっと延びてる。多分突っ走っていけばそのうち出会うはず」


俺は黒騎士に向かって歩き出す。進みだした歩は徐々に速まり、全力疾走へと変わる。黒騎士は剣を構えて俺を迎え撃つ準備をする。間合いを見切った横降りの攻撃が来る。が俺はそれをジャンプして避ける。常人ではこのジャンプは不可能な動きだが俺ならできる。俺は黒騎士の肩を踏み台にしてそのまま進み続ける。目指すは無論1つ、黒騎士を操作している何者かのところだ。黒騎士は不意を突かれたようですぐに振り返り走る俺を見る。当然すぐに追いかけてくるが構うつもりはない。


鎧のせいで若干走りづらいが黒騎士が遠距離の魔法攻撃を放つことが分かっている以上外すことはできない。それにさっきみたいによくわからん罠にかかってもある程度被害を軽減してくれる役割もある。

「フィリア‼本当にこっちで、あってるのか!?」


「魔力はこっちに流れてる!間違いなく近づいてるわ‼」


すぐ横の木が倒れ下敷きになりそうになるが剣で斬ってそのまま走り抜ける。だがその一瞬のスピードダウンのせいだろう。斬った木のさらに上から黒騎士が下の俺に向かって剣を突き立てる。横転するようにそれを避ける。黒騎士がすぐに剣を振り下ろすがそれを迷いなく籠手で受け止める。先ほどから何故か黒騎士の攻撃は剣をすり抜けるが鎧をすり抜けない。おそらくあの剣には何かしらの法則がある。


具体的にはわからないが鎧をすり抜けられないのだろう。


「レイジ!目標が遠ざかってる!移動してるわ!」

やはり気が付いたか。まあこれだけ全力疾走しているのだから気が付かない方がおかしな話だな。

逃げられては困る。無理やりにでも追いかける!俺は手に魔力を集めて特大の魔力弾を黒騎士に雑に

打ち込む。急激な魔力の集束に手が痺れているが構っている余裕はない。残りの力を振り絞って走る。


「『フェザーダッシュ』‼」


その言葉とともに俺自身の行動速度が上昇する。神器、『フェザーダッシュ』は使用者のあらゆるスピードを上昇してくれる足甲だがその分力を大きく消費する。今の残りの力では速度上昇は2倍が限界だろう。『フェザーダッシュ』を使ったのは初めてだが何とも不思議な感覚だ。呼吸が乱れている

わけでもないでもないのに普通に走っている時よりも全身に疲労感が溜まる。相手を見つけるまでに体が限界を迎えないか心配だがそこは気合でカバーするしかないだろう。


それからかなり走った。手足の感覚麻痺から体の疲労感が限界に近付いているのがわかる。ふと後ろを見るが黒騎士は近くにいない。『フェザーダッシュ』を使った俺の速度には付いてこられなかったらしい。ありがたい話だ。だが黒騎士の脅威は一時的に去ったとはいえ疲労している状態でアマルガムを操っている魔法使いと戦えるのかは不安だ。できることならどこかで一度休息を取りたい。


「動きが止まった!迎え撃つつもりだわ」


「そいつぁ、好都合!」

木々と茂みを抜けた先、そこには広い空間があった。周囲の木が乱雑に倒れ、まるでコロシアムのような円形の、戦うために作られたような人為的な広い空間。そしてその中心に切り株に腰かけて煙管を吸う老人の姿があった。老人は顔に白く長い髭を蓄え、灰色の薄汚いローブと魔法使いらしく頭頂部が折れ曲がったつばの広い三角帽子、俗にいう魔女帽子を被るという想像に難くない魔法使いらしいの姿をしていた。老人は煙を吹かす。


「昔、おぬしのような英雄がおったわ」


「?」


「妖精とともに地を駆け、未知なる力で敵を払う。おぬしはそれに似ておる」

この老人の言いたいことのがよくわからない。そもそも彼の英雄だのなんだの言われてもそんなものは知らない。俺は本題に切り出した。


「アマルガムを操作してたのはアンタか?」

知りたいことはそれだけだ。


「いかにも。あのアマルガムは儂のもの」

老人がそう言うと俺の後ろからガシャリと金属音がする。すぐに振り返るとそこにはアマルガム、

黒騎士が立っていた。身構えるが黒騎士は何もせずその場でドロリと銀色に溶けて老人の方へと向かっていった。そのまま老人の足元からローブの中へと入りこむ。


「アンタ何者だ?」

今間違いなくわかるのはこの老人はただの人間ではないということ。魔力も強く感じないし気配は

人間と大差ないように思える。だが明らかに普通ではない。黒騎士のような強力なアマルガムを操っていたのだ。ただの人間に転生者の俺が死にかける程のものを作れるはずがない。それに忘れてはいけないがここはダンジョンだ。7層あるうちの3層、そんなところに老人が1人でいるなんて少し考えづらい。


「儂が何者か、儂を見つけた褒美として教えてやるかの」

老人はそう言うと煙管の中の灰を捨てて立ち上がった。それと同時に気配が、魔力の量が桁外れに上がった。かなりでかい、今まで感じたことのないような大きな力、この力は人でも転生者でもない。


「メルキムス、と言えばわかるかのぉ」


「・・・・・?」

いや、わからん。少し考えたけどさっぱりわからんわ。そんな名前は聞いたことがないし、知り合いにも当然いない。フィリアの方を見ると目を見開いてとても驚いていた。俺が知らないだけでそんなに有名な名前なのか?


「誰なんだ?」

フィリアに耳打ちするとフィリアはまた驚いた表情でこちらを見た。

「アンタ知らないの!?メルキムスって言ったら超超超チョー有名な大大大魔法使いでめっちゃすごい魔人よ!?魔人王に続くケリドウェン、メルキムス、ミラの三大!魔人‼こんなの常識でしょ!?」

フィリアが息切れしながら教えてくれた。


「は、はぁすいません」

なんだかよくわからないがとりあえず常識レベルで有名な魔人らしい。でも全く聞いたことないよ。

ケリなんとかとメルキムス、ミラの三大、魔人。冒険者の間で1回も話題になったことないわ。話題にならないくらい常識的な知識ってことか。うーむ常識的なことはあらかた勉強したと思っていたが

まだまだ知らないことがたくさんあるようだ。


「それで、そんな魔人があんなことしてまで俺に何か用か?」


「いやなに、ちぃとした戯れじゃよ。ダンジョンから逃げるとばかり思っていたがまさか挑んできた挙句見つかるとは一本取られたわい」


「こちとらその戯れで死にかけたんだが?」


「おぬしに超人的な治癒能力があることはわかっていたからのぉ」

ふざけた爺さんだ。こいつ絶対ヤバいやつだよ。治癒能力あるのわかってて遊び感覚で俺のこと殺そうとしてきたし。こいつ絶対笑顔で人のこと殴ってくるタイプだよ。


「さて、やることもやった。儂はもう行くとしよう」


「待て‼せめて一発殴らせろ!」

いなくなるのはいいけど、こんだけやられてただ帰すというのはどこか腑に落ちない。

せめて

一発ぶん殴んないと気が済まないぞ。


「はっはっはっ威勢が良いのぉ。ならば試してみるか?拳ではなく殺す気でかかってくるがよい」

かなり舐められてる。それほど自分の実力に自信があるのか?いや相手は大魔法使い。むしろそのくらいの余裕があって当然か。ならば俺の実力でどこまで届くのか試してやる。


俺は神器SF剣を装備し、すぐに斬りかかる。が、その刃は全くと言っていいほど届いていなかった。

メルキムスはその場から動くことはなかった。ただ右手の人差し指と中指を立てるとその2本の指だけで剣を挟んで受け止めた。押しても引いても剣が全く動かない。とんでもない指の力だ。だが俺もこのまま終わるほど甘くはない。そのまま蹴りを入れる。だがその攻撃も当たらない。足元のアマルガムが俺の蹴りを受け止めていた。剣を手放して籠手に()()()()されている装備であるブレードで突き刺そうとするが見えない障壁によって攻撃が当たらない。


「ふむ、滅茶苦茶な戦い方じゃが生まれ持った才能がそれを補助しておる」


メルキムスは全く持って余裕らしく冷静に俺の戦い方を分析している。俺は足元に落ちているSF剣を蹴り上げて回収すると一旦後ろに下がる。


「悪くはなかったが所詮はその程度。儂には届かんよ」


「くっ‼」

俺はもう一度剣を構えて向かっていったが今度は攻撃すらさせてもらえなかった。気が付くと俺はバランスを崩しており転倒する一歩手前だった。何とか踏みとどまったが大きく隙ができてしまう。そして次の瞬間、背中に強い衝撃。鎧を着ているとは思えないほどの強い衝撃に耐えきれず倒れてしまう。攻撃が来ることを直感で感じてすぐに転がって逃げる。すぐに立ち上がるが目の前にメルキムスがいた。


「おぬしも奇妙な剣を使っておるが儂も奇妙な剣を使える」

その手には光り輝く一本の剣が握られていた。神器!?いや、魔剣か‼


剣を認識した時には鎧は紙のように裂け、体にはあちこちに傷がつき赤く線が描かれる。何が起こっているのかわからない。メルキムスは剣を一切振っていない。それにもかかわらず鎧は砕け、俺の体は傷だらけになっていく。気が付いてた時には俺の前身はボロボロだった。痛みに体包まれてまともに動けない。いつもの治癒能力が働かない。俺の治癒能力は魔剣や神器の攻撃で受けた傷はまともに

治せない。


「ま、こんなものかの。これで自分がどれだけちっぽけな存在か分かったじゃろう。数日その傷と痛みを抱いていくことじゃ」


そう言ってメルキムスは俺に背を向けて歩き出した。だがふと思い出したかのように立ち止まると

「その本は大切に持っておくことじゃ。いずれおぬしの役に立つじゃろう」とだけ言い残してその場を去った。


俺は全身の痛みに苦しみながらもどうにか立ち上がる。メルキムスの攻撃は理解できない物だった。鎧は砕けた、体には無数の傷ができて出血している。だが服には斬撃の跡がない。どこも切り裂かれていないのだ。


「じっとしてて今治してあげるから‼」


「この傷は治癒魔法じゃ治らねえよ。早く地上に出て止血しないとだ」


「でもそんな状態じゃ上まで行くのはっ!」


「大丈夫さ。傷はそこまで深くないただ痛いだけだ」

まったくバカみたいな話だ。調子に乗って挑んだは良いものの結局何もできずにボコボコにされるなんてな。この傷も自業自得ってやつだ。だがおかげで当分の目標ができた。それは強くなることだ。

今回のことで身に染みた。「俺はまだまだ」だと。この世界での知らないこと、できないことが多すぎる。もっと力をつけていつかまたあのジジイに出会ったらその時はリベンジしてやる。


「イテテテ」



レイジとフィリアがダンジョンを出たのはそれから2日後のことであった。

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