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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
ダンジョン探索編
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消耗する帰路 その4

じりじりと距離が縮まり、射程内に入る。先に仕掛けたのは黒騎士。右の強烈なパンチだがそれを左手の掌で受けて流す。もろに受けすぎてはいけない。あくまでパンチをずらすための手段でありまともに受けてしまえば手が使い物にならなくなる。触れた直前に流すのだ。籠手と籠手が擦れ合い金属音が鳴り、火花が散る。流した黒騎士の右手首を掴んで動きを封じ、今度は俺が右手で黒騎士の腹狙う。だがいとも簡単に左手で受け止められそのまま拳を潰すように握られる。互いに手にはかなりの力が入っている。


始まって早々に膠着状態に陥る。この場合俺は左手で掴んでいる黒騎士の右手を放してはいけない。使っていいのは右手だけ。黒騎士が受け止めた俺の右手は俺がそのまま右手を引けば黒騎士はおそらく放すだろう。膠着状態のままなのは嫌だろうからな。


だがここから抜け出す手段はない。蹴りを入れることができればどうにか優勢に持ち込むこともできただろうが蹴りが入れづらい体勢であるためにむしろ俺自身を劣勢にしてしまうだろう。俺は掴んでいた黒騎士の腕を放し距離を取る。


互いに十分に攻めることができないせいかどうにもやりづらい。握っていた自分の右手がゆっくりと開く。かなりしっかり受け止められていたせいで手が開きにくい。関節技を決められれば確実に逃げられないだろうし、まともに殴られればそれだけでKOされる可能性すらある。黒騎士には格闘家と同じぐらいの力強さがある。


一方黒騎士はやはり何か言うわけでもなく俺の握力に変形させられた籠手を見て冷静に俺の強さを分析しているようだった。


再び拳を構える。未だに闘志は消えていない。今度は俺から黒騎士の顔面に向かって右ストレートを仕掛ける。黒騎士は大きく体を動かして体勢を低くしてそれを躱す。そして反撃としてボクサーのようにボディーブローを放つ。ボディーブローの衝撃が俺の体を突き抜ける。生きているうちに経験することのないような激痛とバキバキと骨の砕ける感覚と音が全身に伝わる。


おそらく肋骨の大部分がやられた。


激痛、いや『大激痛』のせいで左上半身の感覚がほとんどない。だがこれはこちらも大きな一撃を叩きこむ絶好のチャンスだった。両手でで黒騎士の頭をしっかり掴むとそのまま顔面に膝蹴りを喰らわせる。


ガーンッ!!!!!


と大きく金属音が響き、べコリとその兜が陥没する。黒騎士はその一撃に怯み体勢を崩す。


その隙を見逃さなかった俺はもう一撃とその陥没した顔面に回し蹴りを喰らわせる。蹴られた頭はポーンと飛んでいく。無くなった頭の部分から見える黒騎士の中身は空っぽだった。黒騎士の攻撃を受け流した時点で中身が空っぽなのはわかっていた。実際に黒騎士と戦っていない人には伝わりにくいが黒騎士の一撃は確かに強力だった。だがその攻撃に人間特有の「重み」のような、中身が詰まっているという感じがしなかったからだ。


中身が空っぽだということは確認したがそれでも黒騎士は動いている。頭を吹っ飛ばしてもいまだに動いている。


どうやって動いているのかはわからないがおそらく魔力的な何かだろう。俺は奇跡を砕く碧銀の槌(シルバーブルー)を装備するとそれで軽く黒騎士を叩いた。するとさっきまで生き物のように動いていた黒騎士はガシャンと音を立ててバラバラになってしまった。


「ふう」

危ないところだった。勝因はほとんど運と言ってもいい。もし、あそこで黒騎士が怯まなければいくら高い治癒能力があるとはいえかなり危険なところまで追いつめられていたはずだ。もし、剣が神器じゃなくて普通の剣だったならあっけなく斬られていたかもしれない。一旦の終戦にその場に座り込んでしまう。粉砕された肋骨は表面上ではわからないが触ると時間を巻き戻しているかのように元通りになっていくのを感じる。痛みはもうない。本当にこの能力が備わっていてよかったと思う。


これがなければ今頃地面に伏せていたのは俺だっただろう。


それにしてもこの黒騎士は一体何なのだろうか。モンスターの部類、ではないと思う。ゴーレムみたいに誰かが作って捨てていったものだろうか。


まったく誰だポイ捨てした奴は。空き缶、ペットボトルとゴーレムは責任もって家で捨てなさいって言われてんだろうが。少なくとも俺はそう習って生きてきたぞ。

ポイ捨てダメ絶対。あのポイ捨てしたゴミってあとでボランティアの学生とか清掃業者のおじさんとかが拾う(拾わされる)んだぞ。それと一緒で捨てられたゴーレムは俺たちが排除する羽目になっているんだ。まったく清掃業の人に感謝しなきゃなぁ。


まあいい。とりあえずこれでみんなのところに向かえそうだ。


だが1歩踏み出したとき肩を掴まれた。驚いて振り返るとそこには魔力の生成と流れを阻害されバラバラになったはずの黒騎士がいた。頭はない。だが手も、外れたはずの膝も元通りになっていた。瞬時に距離を取る。ありえないことが起きている。一時的とはいえ奇跡を砕く碧銀の槌(シルバーブルー)は魔力の生成と流れを完全に止める。だから魔力で動くゴーレムとかは一撃で倒せる。魔力の生成を阻害している間は核である魔石を修復することはもちろん、体を元通りにすることができない。


奇跡を砕く碧銀の槌(シルバーブルー)で殴られたゴーレムは人間でいえば血の流れが止まった状態になっているのと変わりない。だから放っておいてもそのうち息絶える。


だが目の前の黒騎士は違う。立ち上がり、また変わらぬ状態でそこにいる。普通ではありえないことだ。さっきも言った通り奇跡を砕く碧銀の槌(シルバーブルー)は魔力の生成と流れを完全にシャットアウトすることができる。今流れている魔力は全くのゼロ、あるはずがないのだ。


「・・・・・」

黒騎士は何も言わない。ただ沈黙し、変わらずそこにいる。その沈黙からは変わらぬ闘志を感じる。「本番はここからだ」と。黒騎士の手に黒い靄のようなものが集まり始める。靄は黒騎士の手の中で蠢きゆっくりと形を変え1本の剣になった。全く理解できない俺のことなどお構いなしに黒騎士は剣を構える。


だが俺も気持ちを切り替えてSF剣を構える。今度は睨み合いにはならなかった。というよりも勝負にならなかった。一瞬の決着だった。俺は本気も本気、全力で黒騎士に向かって地面を蹴って向かっていった。その速度は人間では絶対に出せない速さ、捉えることのできないほどの一瞬。その一瞬で距離を詰めた俺は黒騎士の鋼の体を切り裂いた。すぐに決着をつけて方が良いと思ったからだ。

黒騎士はその場に崩れまた動かなくなった。


だがしばらくすると斬られたはずの鎧が何ごともなかったかのように接着し、傷ひとつない元通りの状態に戻る。少し前に戦ったどこぞのキメラぐらい再生能力、修復能力が高い。あの鎧、ただの金属でできた鎧じゃない。まるで生きているかのようだ。黒騎士はまた立ち上がる。


まったく状況が理解できない。奇跡を砕く碧銀の槌(シルバーブルー)で相手は魔力を利用したことはできないはず。なのに靄は剣を作り、鎧は再生する。こんなこと魔力なしでは不可能なはず。いったい何が起きている?まさかと思うがこういう生き物ってわけじゃないだろうな。完全には存在を否定できないが少なくとも俺はこんなモンスターがいるなんて聞いたことない。


こんなものの殺し方、知らねえぞ。俺には思いつかない。生き物でないものを殺す方法なんてそう簡単に思いつくもんか。せめて魔法に関する知識でもあれば別だったのかもしれないが。地面の本を見るが例えこれがあったとしても今はどうにもならない。


「ねえちょっとどうすんのよ」

突然耳元でフィリアが話しかけてくる。


「何かいい方法ないか?魔法でどうにかするとか」


「どうにかってあんなの見たことも聞いたこともないし」


「何でもいい、何か知恵貸してくれ」


「何でもって、うーんそうねぇ」


「フィリアっ!」

のんびり話す暇ももらえないらしく黒騎士は攻撃してくる。フィリアを手で庇いつつ間一髪で避けるが剣がわずかにかすり手に軽傷を負う。まずい、このままでは完全に消耗戦だ。こっちの体力は無限じゃない。当然永久に相手をしていられるわけない。早く打開策を見つけないと消耗したところをやられてしまう。敵を惹きつけてくれる仲間もいないしいつも通り魔力弾で欠片も残さないように消し飛ばすこともできない。そもそもこいつにそんな単純な方法が通用するとも思えないが。


否定的な考えはいくらでも出てくるが肯定できそうなものは全く出てこない。


「もしかしたら鎧の内側に何かあるかも」


「内側ってそんなものどうやって・・・いや、手はあるか」


「ええ、私が中に入って見てくる。レイジはその間奴の身動きを止めて」


「簡単に言うなよ」

素手での戦闘ならともかく剣での戦いで身動きを封じるをのはなかなか難しい。仕方ないが少々無茶をするしかないようだ。剣をその場に突き立て再び拳を構える。身動きを止めなければいけない以上こちらは剣を使えない。むしろ剣は邪魔になる。直接奴の腕を掴んで身動きを封じる。拘束魔法であるバインドで動きを封じてもいいがそんな単純な攻撃などコイツが相手では発動しても簡単に避けられてしまうだろう。この捨て身のバカみたいな戦法が一番確実だ。


こいついつもバカみたいな戦法立ててんなと思うだろ?でもな、こんな追い詰められた状況で冷静にまともな作戦を立てる頭の回る高校生なんているわけねえよ。もしいたならそいつは多分普通の高校生じゃない。軍人の家系とか前世が戦術家とかそんな奴だ。少なくとも普通の(?)高校生である俺にはできない。


それに気の利いた作戦が思いつかないなら作戦なんてシンプルなものでいいんだ。それでできるのかできないのか決めればいい。あとはアドリブだ。臨機応変に、そんな便利な言葉が大活躍するわけだ。


俺はただいつも通りに正面から黒騎士目掛けて走る。斬られればとりあえず重症、もしくは即死。黒騎士は両手で剣を振り上げる。斜めか、右か左か、それとも縦か。相手がどこから攻撃してくるのかだけしっかり見ておく。読み間違えれば死。だが俺ならできると自分自身を信じている。黒騎士がそのまま剣を振り下ろす。


縦!


黒騎士が剣を完全に振り下ろす前、つまり斬られる直前に籠手で攻撃を防ぐ。ものすごい衝撃が腕全体に響く。どうにも普通の剣とは違って靄でできた剣だったから防げるか心配だったが金属のように固く、俺の籠手が斬られることもなかった。剣と籠手が擦れて火花が散る。剣をはじき返して黒騎士の左腕をがっちりと掴んだ。そのまま足をかけて黒騎士の体勢を崩す。強引に黒騎士をうつ伏せの状態で地面に押さえつけて合気道の固め技のような形で黒騎士の動きを封じた。


「今だ!」

フィリアが鎧の中へと入っていく。暴れる黒木氏を無理やり押さえつける。今はどうにか押さえつけているがあまり長くはもたないだろう。すぐに抜けられてしまいそうだ。黒騎士は力だけでは抜けづらいと判断したのか右手に握っていた剣の持ち方を素早く変えると右手を腰の方に回して剣先で俺の胸を刺す。体勢が良くないこともあり深くは刺さってはいない。けど痛いし、あと少し深かったら心臓に刺さっていてもおかしくない。かなり無茶苦茶というか、生きているうちで絶対に見ることがないような変な体勢だ。


「まだか!?そろそろヤバいんだけど!」

黒騎士の剣がぐりぐりと傷口をえぐりそこから血が噴き出す。傷は自動的に治癒しているがそれと同時に破壊されているためただただ痛い。黒騎士の抵抗具合からあと10秒くらい稼げれば上出来だ。フィリアからの返事はない。今ここでこいつを解放すれば中にいるフィリアはどうなってしまうかわかったものではない。もう少し、もう少しだ。


だがそんな意気込みもむなしく黒騎士は掴まれていた自分の左腕をガシャリと取り外して拘束から逃れる。俺は取り外された黒騎士の腕を持ったまますぐに距離を取る。


「フィリア!早く出ろ!」

持っていた黒騎士の腕がドロリと溶けて水銀のような液体となって黒騎士のところへと戻っていく。黒騎士はいつの間にか頭が戻っていた。さっき蹴り飛ばした頭が戻ってきたらしい。


「レイジ‼」

左肩の腕の接合部の穴からフィリアがわずかに見えたがすぐに黒い鎧が穴を塞ぐ。頭も腕も完全に修復された黒騎士はこちらを見る。胸の部分がドロリと溶けて鎧の中が見える。


「うぅー放しなさいよ‼」

そこには液体金属に手足を拘束されたフィリアがいた。黒騎士はそれだけ見せると胸の穴を閉じる。最悪の事態になってしまった。フィリアを人質に取られたのだ。フィリアに当たってしまう可能性があるためとても攻撃しづらい。


黒騎士は静かに剣を持ち直し剣先をこちらに向ける。俺はどうするか悩みつつ突き刺さった神器を抜く。

形勢はさらに悪化してしまった。普段とは違う。一方的な戦い、今度は俺が不利な一方的な戦いだ。

その焦りに剣を握る手がわずかに汗ばんだ。














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