表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
ダンジョン探索編
65/106

消耗する帰路 その3

その戦いは今までと変わりはない。向かってくる奴を斬って、斬って、斬って。血が飛び散って地面は赤く染まる。ただの鉄の塊である剣は少しずつ刃こぼれし、切れ味が悪くなってくる。使えなくなった剣を捨てて神器であるSF剣を装備する。普段クエストを受けるときには神器はあまり使わない。他の冒険者に神器を見られると目を付けられて面倒なことになるからだ。神器で斬ったモンスターが灰になって消える。すべての神器がそうなるわけではない。だが少なくともSF剣で斬ったモンスターはこんな風に消えてしまう。消えたモンスターの陰からまた別のモンスターがこちらを攻撃しようとする。それを殴って顔を潰す。モンスターの歯が折れ、拳に血がつく。


ドシンっと地面が揺れ木々がざわつく。また地面が揺れる。この感覚、ゴーレムか。予想は大当たり、

奥の方から剣を持ったゴーレムが向かってくるのが見える。あのゴーレム、確か4層にも同じようなのがいた気がする。ちょっと待てよ、もしかして。辺りをよく見回すとゴブリンの中にいる少数の他のモンスターたち、そのモンスターの中に4層で見たような奴らがいる。


下の層から流れてきたのか?そういえば受付で4層からモンスターが流れてきているって言ってたっけか。どおりで敵が多いわけだよ。ただでさえゴブリンがたくさんゴブゴブしているのにそこに4層のモンスターも混じっているのか。面倒事だらけだな。などと思っている間にゴーレムはすぐ近くまで来ていた。大振りな剣を避ける。SF剣を地面に突き刺し、武器を持ち替える。


奇跡を砕く碧銀の槌(シルバーブルー)!」

前にも1度説明しているような気がするが皆忘れているだろうからもう1度説明しておこう。奇跡を砕く碧銀の槌(シルバーブルー)は銀色だが本体の縁は青く光るスレッジハンマー型の神器だ。前にエンシェント・オーバーロードを討伐しに行ったときゴーレムと戦った時に使ったことがある。奇跡を砕く碧銀の槌(シルバーブルー)は簡単に言うと攻撃した相手の魔力の生成と流れを一時的に遮断する能力を持っている。そしてゴーレムは魔力によって自身の体が崩壊しないように保っている。


つまり、ゴーレム退治にもってこいの武器と言える。覚えづらいならゴーレム退治専用の武器だと思ってもらっていい。


「オラアッ‼」


奇跡を砕く碧銀の槌(シルバーブルー)をゴーレムの足目掛けて力いっぱい振るう。ハンマーがゴーレムの岩肌に食い込みそれから一瞬の間があってゴーレムの体はただの岩になって崩れる。見ての通り魔力の流れが断ち切られたゴーレムは一撃で倒せる。神器は本当に便利だなぁ。

ゴーレムが一撃でやられたのを見てゴブリンの大群も他のモンスターたちも全体的にたじろぎ、一歩下がる。


よし、この調子で怖がってくれれば相手から逃げ出すはずだ。奇跡を砕く碧銀の槌(シルバーブルー)を手放すとすぐにそのまま消える。剣を引き抜いて戦う姿勢を見せる。すると大群はまた1歩後ろに下がる。ゴブリンのほとんどは物怖じしているがそんな中をかき分けて1体のオークが俺の前に立つ。そのオークは他とは違い片目が潰れていて、体も傷だらけだった。見たところかなりの修羅場をくぐってきた歴戦の猛者、大将のような雰囲気を感じる。


片目のオークは腰の剣を抜いて鍋蓋のような丸い盾を構える。俺と一騎打ちで戦うつもりか?

問題はない。こいつを倒せば他の奴らはビビッて逃げてくれるだろう。そうすればようやく俺も移動できる。俺も両手で剣を握って構える。


互いに踏み出す。オークが剣を横に振る。俺はそれを低姿勢で躱す。他のオークよりも剣を振る速度は速いが俺を斬るには遅すぎる。オークは攻撃が外れたのがわかるとすぐに盾を構えて俺の攻撃を防ぐ体勢に切り替える。いい反応速度だ。敵ながら思わず評価してしまった。このオークは確かに強いのかもしれない。この防御も普通の冒険者が相手ならオーク次の一撃で死んでいただろう。だが、

その防御は俺の攻撃を防ぐには()()()()()()()()()


俺が振るった剣はオークの体を容赦なく盾ごと切り裂いた。血は出ない。オークはただ灰になって消える。ただの防御ではこの剣の攻撃は防げない。この剣の前では剣も盾もその身も等しく紙同然だ。

防御したければ神器クラスの強力な武具を用意するしかない。


「まだやるか?」


ゴブリンたちの中に俺に向かってくる奴はもはやいない。完全に戦意喪失、したのだろうか。向かってくる奴もいないが逃げ出す奴もいない。俺は少し疲れて剣を地面に突き刺す。それと同時にそれが引き金になってゴブリンたちも他のモンスターもほとんどが逃げ出す。残ったモンスターも威嚇はしてくるが攻撃してはこない。わざわざ俺から攻撃する理由はない。俺は大きく息を吸い込んでただ一言、


「ワッ‼‼」

とだけ叫んだ。すると残りの数体も驚いて逃げていった。素直な奴らでよかった。よし、これで俺もみんなの後を追えそうだな。かなり時間を食ってしまったがそれでも思っていたより時間はかからなかった。


「お疲れ」


「フィリアいたのか」


「アンタが道に迷わないよう一応ね」

上を見るとフィリアがゆっくりと降りてきていた。一連の流れを枝にでも座ってずっと見ていたのか。複雑な構造でもないしここからなら1人でも道に迷うことはないと思うがガイドがいるに越したことはない。降りてきた小さなガイドを手のひらで受け止めた。またしっかり導いてもらうとしよう。

「アンタ、本当に良かったの?さっきまであんなに迷ってたのに」


「良かったのかはわからない。でも俺は俺に必要なことをしようと思った」


「それがアンタにとって正しい・・・と?」


「んー正しいかどうかは判断つかないな。冒険者としては正しいかもしれないけど別の観点からすれば間違っているかも。臨機応変って言うと何か安っぽく感じるかもだけど、この世界で冒険者をやっていくなら今回みたいに避けられない戦いもたくさんあると思うんだ。だから今は必要なことをしようって思ったよ。まあだからってこの問題が解決したわけじゃないんだけどさ」


そんな俺の真剣な話を聞いていたフィリアは目を丸くして驚いたような顔をしていた。

「アンタってただのバカかと思ってたけど色々考えてんのね。いいんじゃない?エリアスもゆっくり考えろって言ってたし」


「オイオイちょっと待て俺がバカっぽさを出した場面なんてないぞ」


「顔というか雰囲気というか」

ひどい偏見だ。デブ=オタクと同じくらいひどい偏見だ。人は見かけによらず、って小さいころに習わなかったのか。


「スパイスの入った瓶に突っ込んでやろうか!」


「ぴぃっ!」

まったく最近の若いもんはマナーがなっとらん。(お前もな)

まあともあれ問題はほとんど解決。あとは帰るだけ。そんならこんな怖いところからはさっさとおさらばだ。本来ならばさっさと帰るところだが、そんな簡単に事が運ぶほど俺の周りで起こる出来事は単純ではない。一筋縄ではいかないのが坂下レイジの冒険である。


ガシャ、ガシャと金属同士がぶつかる音がする。そこにいたのは身長が180メートルはありそうな大柄の何か。その容姿は全身を黒い鎧で覆った騎士のような何か。人かモンスターかもわからない暗黒騎士とかそんな名前が合っていそうな完全に謎の存在だった。もちろんこんな知り合いはいない。もし知り合いだったならこんなインパクトのある奴を忘れるはずがない。


黒騎士、と仮に呼ぶとしよう。黒騎士はゆっくりと腰の剣を抜いて構える。俺と戦う気だ。こいつは他とは明らかに違う。見た目はもちろん、雰囲気というか体から出ているオーラが他のモンスターや人間から感じるものとは全く違う。殺気がない、外見は戦う意思は見せているが戦うという内面的な意思を感じない。


フィリアを遠ざけて俺も剣を握る。互いににらみ合いはするが攻撃はしない。仕掛けるべきかとも思うがこいつが何をしてくるのかわからない以上下手に動くべきではない。だがこいつもこいつで攻撃してくる気配が一向にない。むしろ俺が仕掛けてくるのを待っているように感じる。おそらくさっきの俺とオークの一騎打ちを見ていたのだろう。盾をも切り裂く剣を持つ相手に自分から攻撃を仕掛けるのは得策ではない。剣を失ってしまえば無力同然だ。


むしろ俺に攻撃させて外したところに一撃加える。リスクはあるがその方が勝つ可能性はある。そういう魂胆だろう。確かにそれは俺が困る。どんな動きをしようが攻撃後の隙は大小絶対に生まれる。頭をガラ空きにするような隙を作れば一撃でやられるだろう。仕掛けるのも仕掛けないのも結局はあまり良くない状況に持ち込まれる。ならば答えはただ1つ。


剣をしまって背中を向けて逃げる。それが最善の行動だ。おそらく本気で走る俺に追いつくことはできないだろう。敵に背中を見せるなどというのは戦いにおいては愚行、だがそんな常識は俺の前では通用しない。俺がもし普通の人間だったならきっとどう足掻いてもここで死んでいただろう。剣を構えた敵を前に背中を向けて逃げるなんてバカみたいなことも絶対にしない。この状況を打開できるのは俺が転生者という稀有な存在だからだ。もし黒騎士の足が速かったとしても武器が神器でないなら重い攻撃でも絶対に一撃は耐えられる。


空中のフィリアを両手で包むようにして回収しそのまま走っていく。足音もしないし黒騎士は追ってきてはいない。このままおさらばさせてもらおう。




少し走ったところで道をはずれ茂みを乗り越え木の裏に隠れる。あれから追ってきていないとも限らない。だが念のため隠れてやり過ごすようにする。


「大丈夫そう、ね」


「ああ。まあわざわざ追って来ないだろうしな」

木を背にしてその場に座り込む。たまたまあそこで俺が暴れていたというだけ(だけ?)でたまたま遭遇したわけだしこっちから逃げたなら向こうに害はない。わざわざ追ってきてまで戦う理由はないだろう。それにしても不思議な相手だった。殺気はなかったし、大きな力を感じるようなこともなかったがそれとは違う何か独特な雰囲気もようなものを持っていた。まるで空っぽの鎧の相手をさせられていたような、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、うまく言葉にできない何かがあの黒騎士だ。


4層のモンスターが流れてきているとはいえあれが4層のモンスターとは思えない。というかそもそもモンスターではない可能性もあるが。人間だとしても一体何が目的なのか見当つかないな。


「っ!?」

フィリアを潰さないように再びしっかり抱えると前転するように木から離れる。直後、メキメキと音を立てて先ほどの木が倒れる。無論突然折れたわけではない。斬り倒されたのだ。斬りかかってきたのが誰なのかは考えるまでもない。倒れた木の先にはあの黒騎士がいた。かなり遠くまで走って逃げてきたはずだがわざわざ追いかけてくるとはご苦労な話だ。


「アンタこいつに何かしたの!?」


「何も!」

思い当たることがあるとすればこいつもナナのコショウ爆弾の被害者だということくらいだ。

まったく面倒なことをしてくれる。こうなっては仕方ない。ここで戦うしかない。また逃げてもどうせ追いかけてくるだろうし、次は逃がしてくれないだろう。再びフィリアを遠ざける。剣を握り黒騎士と向かい合う。互いにまた睨み合う。だがその睨み合いも今度は長く続かない。黒騎士は一歩踏み出す。それが始まりの合図だった。


黒騎士は剣を振り下ろし、俺は剣を振り上げた。剣と剣がぶつかる重たい感覚はない。俺のSF剣が黒騎士の剣をいとも簡単に切り裂いたからだ。落とされた刀身が地面に突き刺さる。剣をダメにされた黒騎士はすぐに後ろに下がる。そうして斬られた剣をじっと見つめると使い物にならない剣を茂みに投げ捨てた。


「剣を失った時点でお前の負けだ」

言葉が通じているのかわからないが忠告はしておく。もし中身が人間なら当然斬るわけにはいかない。剣を失った今力の差は明らかだ。このままどこかへ行ってくれるならそれが1番いい。


だが黒騎士は逃げようとはしない。今度は拳を握り格闘技のように構える。剣と拳、勝てると思っているのだろうか。いや、勝てるだけの算段があるのか。確かに拳での戦いは剣よりも隙が無く素早い立ち回りができる。だがそうだとしても攻撃できる範囲は剣の方が圧倒的に有利であり、与えるダメージも当然大きい。


それにも関わらず素手で挑んでくるのか。警戒するべきか?俺は一瞬考えて剣をしまった。肩から下げていた本を端の方に投げ、そして手足だけいつもの白い鎧を装着すると拳を構える。剣と拳、有利なのは剣。それは間違いない。だが同時に拳もまた剣に対して有利に立ち回ることができる。無論それには高い技術が要求される。そのうえ攻撃範囲は狭く一撃が致命傷になることも少ない。だがもし一度でもペースを掴ませればもはや剣に勝ち目はない。剣と拳では埋めきれないほど速さの違いがある。剣を振り上げて下ろすまでに拳は2回殴れる。


その差が勝敗を分ける。拳に強い近接武器は剣ではない。同じ拳である。


「骨の1、2本は覚悟してもらうぞ」


俺は格闘のプロじゃない。せいぜいチンピラとの喧嘩で圧勝できる程度の技量しか持ってはいない。

未知の敵を相手にどこまで優位に立ち回れるのかはわからない。だが拳には拳で対抗する。

それが一番やりやすいやり方だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ