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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
ダンジョン探索編
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消耗する帰路 その2

3層はとても平穏な場所だった。鳥が普通に鳴いているし、キレイな色の草原は広がっているし、川も流れている。まさに平穏、絵に描いたようなキレイな景色だった。これまでの層があまりにも危険な場所だったからどんな場所かと危険視していたがすんごい平和な場所だったわ。


これで青空が広がっていて穏やかな風でも吹いていればもう完璧、ドラマのワンシーンでも撮れそうだ。ここは休憩所なのだろうか。「汝の眠りがナンカト彼らの眠りがコントカ」とかヤバそうなことを言っていたが冒険者をビビらせるための嘘なんじゃないだろうか。どう見ても争いごととは無縁に見えるぞ。


「エリアス、ここはどんなところなんだ?」


「油断したら駄目なところかなぁ」


「それはすべての層に当てはまるのでは?」


「うーんそれはそうなんだけどそうだなぁ。1つ1つの行動が死に直結しているっていうのはどう?」

どう?と聞かれても何も知らない俺からすれば「は、はぁそうっすか」としか言えない。それに1つ1つが死に直結してるってそれ4層もそうなのでは?どうにも説明が曖昧というか適当というか理解しにくいな。


「キノコは絶対毒キノコ、モンスターと戦えば9割は死に際に自爆する。みたいな感じなんだけど」


「おっふ」

争いと無縁とは何だったのだろうか。平和そうに見えて今までの階層の中で1番殺しにかかってきてるじゃないですかヤダー。そういえば言ってたな惑わされることなかれ、って見た目は穏やかに見えても実際はすべてが高い殺意の塊ってことか。となると他の層と同様ここを抜けて上に行くのは一筋縄ではいかなそうだ。できることなら1日、いや半日でこの階層を抜けたい。


「さっさと行こう。あまり時間をかけたくない」

ここは普通の平原や森があるだけの層だし迷子になるようなことはないはずだ。好戦的なモンスターとかに出会わない限り時間が大きく取られることはないはずだ。


これまでと同じようにフィリアに出口の方向を教えてもらおう。


「あっち・・・ね」


「それ大丈夫?信用していい?」

声色がこれまでと違う。今までは自信を持って方向を教えてくれていたが今回は

「多分こっちだよね?」と自信なさげだ。フィリアが方向を間違え始めたら最悪帰れなくなる。

頼りっきりで申し訳ないとは思うがそれでも頑張ってもらわないと困るのだ。


「大丈夫よ!ちょっと迷っただけ!」

フィリアが指差す方に見えるのは森だ。ああ、また森だ。もういいよ森は。ついさっき嫌な思いしたばっかりじゃないか。正直なところもうしばらく森には入りたくないのだがフィリアがそっちだと言うのなら従うしかない。ぐぬぬ、でも4層と違って迷子にさせられたり変なモンスターが生息しているような変な森じゃないはず、そう考えればまだ楽か。


あまり気は進まない状態だが森へと歩を進める。森の中は4層とは違いある程度人の手が加わっているおかげで道がしっかりと作られていて歩きやすかった。この歩いている道もおそらく冒険者が作ったものだ。ここは割と安全なのかもしれない。


モンスターも近くにいないみたいだしこれならさっさと上に行けそうだ。


森を進んで行くと平地は少しずつ坂道へと変わり地面に高低差が出来始める。天井の光は木々の葉に遮られどんどん弱くなり明確な影が地面を薄黒く覆う。


すぐ上の背の高い茂みがガサガサと揺れた。なんか俺の近くにある茂みってすごいよく揺れるよね。もうこれで何回目だ?何かが俺がすぐ横に来るまで茂みの中でスタンバっている可能性すらあるぞ。でもそんな疑問を持つ余裕すら与えてくれず茂みから何かが俺に飛び掛かってきた。


何かが俺の顔に覆いかぶさり目の前が真っ暗になったと思ったら体の重心が崩れ、俺は頭を思いっきり地面にぶつけてその場に倒れた。


モンスターか!?そうなら今の俺の顔にはすごいグロテスクなエイリアンみたいなモンスターが張り付いているんじゃないだろうか。しかも顔が潰されそうになるくらい重たいしか頭がすっぷり覆われるくらいでかいぞ。一体どんなモンスターが俺の顔に張り付いているんだ!?


「ぐふっ‼」


顔に張り付いている巨大なモンスターを引き剥がそうとしたとき腹に強い衝撃を受けた。何か落ちてきたのか!?何が起こっているのか全く分からん。とにかくこいつをどけないと。手を伸ばして触れたそれは俺が思っていた形とだいぶ違った。俺の顔を覆っている部分は二股に分かれているが元を辿っていくと一つになっている。


「ふひっ」


くすぐったそうな声、この形、この感触、もしかして人間か?ということは俺の顔を覆っているこれは足、そこから延びるこれは腰ということになる。しかもこの全体的に柔らかく小さく筋肉があんまりついていない感じ、まさか女じゃないだろうな。小柄な男、女っぽい男いわゆる男の娘という可能性もあるが。女だったら今頃大問題だぞ。男だったとしても問題なのに変わりはないけど。


とりあえず今俺は限りなく女に近い何かの尻に顔を潰されているのは間違いない。


「ぷはっ!いつまで乗ってんだ!お退き!」


「ぼふっ!」

顔に乗っかっている誰かを適当に投げ捨てて腹に乗っかっている何かも退けようとする。


「ん?あれ?お前もしかして」

腹に乗っかっていたのは魔法使いを思わせるとんがり帽子を被った小柄な少女であった。言葉にしていた通り「もしかして」ととんがり帽子を上げて隠れていた顔を見させてもらうとその顔には見覚えがあった。キメラ発生以降完全にご無沙汰だった冒険者仲間、魔法使いのリリだ。ということはこっちの俺の顔に座っていたのは


「ナナか?」


「あれ、レイジじゃん」

やっぱりそうだった。皆覚えていないかもしれないがナナもリリと同じで前は一緒にクエストをこなしていた冒険者仲間だ。前に身長だか体格だかの話で最終的に牛乳を飲めとか話していた少女なのだが、まあもう57話くらい前のことだし、それ以降登場してないから覚えていなくても無理はない。


え?57話とか登場とか何言ってるかわからないって?安心してくれ、俺もよくわからん。


とにかくだ。キメラのせいで俺は王国軍の暗殺部隊の仕事に全力を注いでいたし今回もダンジョンに潜る羽目になったため2人とは最近はまったく絡みがなかった。だから久しぶりに顔を見れたのは嬉しいがこんなラブコメ主人公のラッキースケベシーンみたいな形で再開したくはなかった。ちなみにそんななかなか経験できないものを実際に体験したわけだが別に変な気分になったりはしない。全国の少年の夢を壊して申し訳ないがスケベなのは構図だけで実際は苦しいし重たい。俺じゃなかったら歯の1本くらい折れているんじゃないだろうか。


「ごめんねレイジ君。お腹に思いっきり頭突きする形になっちゃって」


「大丈夫だ。むしろそっちに怪我がなくて良かった」

立ち上がって服の汚れを払う。リリは頭は良いが天性のドジっ子だ。だから走るのはもちろん運動は得意ではないし何もないところで転んだりもする。俺の妹も運動が苦手でよくドジを踏むことがある。そのせいかリリは見ていて放っておけない。守ってあげたくなる子、と言ってもいい。


「アタシの心配は?」


「お前は丈夫だろうが」

もう1人の方。ナナは運動神経は抜群だ。だが同時にアホの子だ。作戦を立てて失敗するとき、もしくは計画が意味を成さなくなるのは9割方ナナが原因と言っても過言ではない。ひどい時では右と左を間違えたこともある。だから時々すごい心配になる。別の意味で放っておけない子、ある意味守ってあげたい子だ。


このように2人とも致命的な欠陥を持っているというのと俺より5歳くらい歳下ということもあり、何をするにも心配でしょうがない。


「2人ともこんなところで何してるんだ?」


「モンスターに追われて逃げてたんだけどうまく撒けたみたい」


などと言っているがガサゴソ、とナナたちが飛び出してきた茂みが揺れている。

「ギィヤアアア‼」


そして案の定茂みからゴブリンが飛び出してくる。飛び掛かってきたゴブリンを回し蹴りで吹っ飛ばす。茂みからさらにモンスターが大量に出てくる。全然撒けてねえじゃねえか‼それにしてもこのゴブリンたちはいつも以上に興奮しているような気がする。


「お前ら何でゴブリンに追われているんだ?」


「奴らの巣にコショウ爆弾落としちゃって」


「何をやっとるんじゃ!?」

何もしてないのにいきなりコショウ爆弾くらったらそりゃゴブリンも怒るよね。まったく、こっちは急いでるっていうのに面倒なことに巻き込むんじゃない。本当だったら無視して先に進みたいのだがさすがに数が多すぎる。この辺一帯のゴブリン全部引き連れてきたんじゃないだろうか。倒すしかないんだろうが俺はついさっきまで殺す殺さんで迷っていたんだぞ。いくら何でも決断迫るの早すぎやしないか?


ゆっくり考える暇すら与えてくれないのか。ため息をついて諦めていつものように剣を握る。リリとナナ

2人を担いで逃げるという手もないわけじゃない。自分で言うのもなんだが俺は足が速い。全力で走ればゴブリンくらいからは逃げ切れるはずだ。だがエリアスは自力で逃げ切れないかもしれない。そうなっては困る。置いて行くわけにもいかないし、ブラッドチェリーが入ったリュックもエリアスが背負っている。この戦いは避けられなさそうだ。


そういえば前にもこんな風にゴブリンだかオークだかの軍団と戦ったような気がするなぁ。あの時はその場に死体の山を作っていたような気がする。今はあまり血を見たい気分ではないが毎度のように敵の数が多すぎる。今回は森を埋め尽くすくらい、全世界のゴブリン集めたんじゃないかってくらいの量がいる。なんならゴブリンじゃないモンスターもそこそこいる。殺さずに乗り切るのは難しいだろう。


「エリアス、みんなを連れて地上に行ってくれ」


「こんなときに格好つける気?それなら場面間違えてるよ」


「そうじゃねえよ。でももう時間がない。こんなところで時間をかけたくないんだ。このくらいの敵なら俺1人でどうにかできる。この階層なら迷子になることもないだろうしな。頼むから行ってくれ」


「・・・本当にいいの?」


「ああ」


「わかった。行くよ皆」


エリアスはリリとナナの手を引いて歩いていく。声が遠ざかっていく。


「お、おい離せ!レイジを置き去りになんてできないぞ‼」

ナナが必死に抵抗しているようだ。


「あの人は大丈夫。むしろあなたたちの方が危険。それに」

エリアスは一息おいてから言った。


「1人の方がいろいろ気軽だろうしね」


そうして皆の声は聞こえなくなってしまった。ようやく1人になった。今の俺にはもう時間の制限も何もない。何体かのモンスターが俺を横切ってエリアスたちを追おうとするがそれらをすべて剣で斬った。剣にべったり着いた血を振り払う。血はもうごめんだ。だが俺はこいつらを倒す意味をたった今見つけた。いや、気が付いたとか思い出したと言ってもいい。遠征で死体の山を作ったのも、強力なモンスターを倒したのも、キメラを倒したのも。俺がこれまで剣を振るってきたのは俺自身が生きるため、そして仲間を守るためだった。


だから俺は生きるために、仲間のために剣を振るう。


間違っているのかもしれない。仲間を言い訳にしているのかもしれない。ヤバい考えのサイコ野郎なのかもしれない。だがそれでも俺はそれが正しいと信じて剣を握ろう。死んだ後に地獄に落とそうが魔界に放り投げようが好きなようにしてくれていい。だが生きているうちは俺は俺に必要なことをしよう。


「俺は全力でお前らを倒す」


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