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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
ダンジョン探索編
63/106

消耗する帰路 その1

ブラッドチェリーをゲットし、キメラも謎の忍者っぽいのに倒された俺たちは地上に戻ることにした。長かったがようやくゴールが目の前まで見えてきた。半月近く地下にいたわけだが物事が何だかいろいろあったせいでそんなに長くいたという自覚はない。長く苦しい困難にぶつかったはずだが喉元過ぎればなんとやら、あっという間の出来事だったような気がしてしまう。あとは帰るだけ、それもできるだけ早く。これで地上に戻ったら地上には何にもなくて実は100年経ってました、なんてことになっていたらどうしようか。とりあえず最悪荒廃しててもモヒカンで今にも汚物を消毒しそうな見た目でもいいから人がいればいいな。


ようやく終わりが見えてふざけた妄想を膨らませる余裕も少しはできた。さて地上に戻ったら何をしようか。現状を考えればおそらく今の俺たちの貯金は底をつきかけているはずだ。そうなると、え?俺またすぐに働くの?戻ってきたばっかりよ?また野草とか取ってこさせられたり、モンスター倒す、かはわからないけど色々雑務を押し付けられる生活になるの?そろそろ自動で銭が入ってくるような仕組みを作りたいものだ。(生意気)


俺は先のことを考えて気分を沈めながらフィリアの指示に従って川沿いに歩いていた。どうやら川沿いに歩いていけば上層に続く道があるらしい。川にいるとまた何か厄介なことが起こるんじゃないかと考えてしまう。おそらく今日という日の出来事を俺が忘れることはない。キメラの言葉、自分の選択。

どちらも俺の人生を考えるものだったと思うからだ。英雄だの勇者だのになりたいわけじゃない。

俺は俺として生きたい。正しいかどうかなんてわからない。

俺はやりたいこと、必要なことをやるだけ。今日はそう思えた日だ。


「ん?」

水辺に何か落ちている。半分水に浸かったそれを拾い上げるとそれが辞書ぐらい分厚い本だとわかった。本は全体的に黒く、所々金色の刺繍があしらわれていた。中の紙も黄ばんでいて見た目は古そうな本だが外側の状態は新品のようにきれいな本だった。しかも本には肩に掛けるためにでもあるのか金色の金具でベルトがつけられていた。とても奇妙な本だ。


この本、濡れてない・・・?本は確かに川の水に浸かっていたはずだがどこも濡れていない。触ってもどこにも防水加工がされているようには感じはしない。紙も普通の紙だ。本を開いてみると何か色々小難しいことが書かれている。少し読んでも内容はまったく理解できないがどうやら薬の作り方や魔法の発動の条件について書かれているようだ。


「なんでずっと白紙のページ見てるの?」

エリアスは不思議そうに言う。


「いや、何か色々書いてあるだろ」

妙なことを言うやつだな。例えボケでもこの文字量を白紙と言うのは無理がある。エリアスは首をひねりながら目を凝らして本を見ているがよくわかっていないらしい。


本の内容はなんとなくわかった。きっと魔導書というやつなのだろう。ただ何故こんなものがこんなところにあるのだろうか。誰かの落とし物なのだろうか。もしそうなら持ち主を探したいが街の中ならともかくこのダンジョンでは叶わないだろうな。少し気は引けるがこのままここに置いていくのももったいないというか、良い解決手段とは言えないし持ち主には悪いがこの本は貰ってしまおう。

(※ダンジョン以外の場所で拾った落し物は交番に届けましょう)


俺も魔法については勉強したかったし丁度いい。悪いが有効活用させてもらおう。


「悪いやつね」


「うっ、でもこのまま置いていくよりはいいじゃん?」

フィリアに言われて良心が痛むがこの本は持っていった方が良いような気がするのだ。なんとなくここに置いて行ってはいけないという気がしてならない。放っておけないというか貰いたいという感情とは別に俺が持っていた方が良いというか、危険物を置き去りにするような危機感がある。うまく説明できないが持っていかないと駄目だと強く思う。


「ま、いいんじゃない?どうせこのまま置いといたってボロボロになるだけだろうし」

フィリアはどうでもよさそうに言った。


本を肩から掛ける。さていつまでもこの本のことを話しているわけにもいかない。そんなことは帰ってからやればいい。今はとにかく地上にレッツゴーしなければ。時間はあまりない。とりあえず数時間でダンジョンから出て2、3日で王都に戻れれば最高だ。急がないと。






同時刻 ハイデン城、地下牢にて


地下牢はいつも静かだ。看守は基本的にしゃべることはないし、1人の囚人と数人の看守の数を合わせてもせいぜい3、4人と少数だからだ。地下牢には朝も夜もない。窓なんてものはないので当然だ。ここは外界との情報は一切遮断されている。あるのは鉄格子と暗く狭く汚い空間、後はせいぜい拷問用の道具一式といったところだ。だが今まで尋問されたことは何度もあるが拷問されたことはない。

ここの責任者、確かエリザベートとかいう女だったか。お姫様はずいぶんとお優しいようだ。


さて、死刑まで残り2週間程度か。どうしたものか。ネズミでもいれば捕まえて猛獣使い(ビーストテイマー)の能力で適当に改造して脱出できるんだがまさかネズミ一匹いないとはな。看守を利用しても同じことができたんだが。どういうわけか看守は牢屋から離れたところで監視してやがる。

レイジが俺の能力を話したのか。俺に生き物を近づけないように完璧な対策がされている。脱獄は不可能に近いな。万事休す。ここまでか。死刑もおそらく俺と接触しないようにこの牢屋の中で行われるだろう。


物思いにふけっていると急に地下牢の明かりが消えた。壁のランタンも看守のランタンもすべての火が吹き消されたかのように一瞬で消えたのだ。


「なんだ!」

何も見えない暗闇の中から看守の声が聞こえる。


「ぐあっ!」

看守が苦しそうな声を上げた。ドサッと重たい何かが地面に落ちる音がする。状況が全く理解できない。誰かの足音が近づいてくる。暗闇という不安と状況の整理ができていないということから思わず身構える。


「あーあ超だるいんですけど」

この女の声には聞き覚えがある。いつもけだるそうにしていて化粧だのおしゃれだのどうでもいいことにしか乗り気じゃない俺の嫌いな女。


「助けに来てやったわよ加賀」

錠前が地面に落ちる。


「お前が助けに来るとは意外だな」


「ボスに言われて仕方なく来ただけだっつーの」


「俺はまだ必要とされているということか」


「残念なことにね」


俺を助け出したその女、夏鈴は組織の仲間だ。こいつが進んで俺を助けに来るとは思えないからおそらくリーダーの命令で渋々助けに来たのだろう。夏鈴は大した装備は持っていない。服装は下着が見えそうなほど短いスカートと緩めたリボンが目立つ着崩した学校制服という戦いには向かないであろう格好だ。

(ついでに言うと校則に引っかかりそうだ)武器と呼べるものはたったの1つ、防犯用のスタンガンのみ。普通ならこんな装備では警備の厳重な牢屋まで来られるはずがない。ここまで何事もなく来られたのは彼女の能力のおかげか。


「外の状況は?」


「別に。いつも通りの平和な世界だし」


「特に変わったことはないのか」


「あ、そういえば最後のキメラの反応が消えたってさ」

やられたか。1匹だけ逃げ延びていたからどうにか回収したかったのだが。最後の1匹がどこにいたのかはわからないがやったのは魔人か、それとも転生者か。まさか自然の生物ではあるまい。生き残っていたのは確かU-012だったか。究極人工生命体(アルティメットキメラ)の余ったパーツで創ったせいで全体的にバランスの悪かった個体だ。特に消費するエネルギーの多さから普通の個体の倍以上のエネルギーを摂取しなければいけないといういわゆる燃費の悪さ、異常な食欲という問題を抱えていた。


まさかあれが最後まで生き延びるとは思っていなかった。外部に変化がないとするとハイデンの外に逃げたのか?それとも目立たない場所が食い荒らされたのか?まあどうであれ、これでキメラは全滅だ。俺も当分はキメラを造るつもりはない。


「坂下レイジはどうした?」


「さあね。キメラもいなくなって情報網はなくなったし」

現状わかることはなしか。使えん女だ。まあだが情報の収集をキメラに頼り切っていたというのは事実だ。仕方ない、まともな情報網が出来上がるまではまたキメラに情報を集めさせるか。今度はもっと小さい目立たないものにしないと駄目だな。やれやれ休みはお預けか。


何の躊躇もなく、何の警戒もせず、大胆に地上への階段を上る。外は夜で辺りのろうそくや魔法の光よりも赤と白の2つの月明りの方が明るかった。赤き月と白き月、それぞれ悪魔と天使の象徴だったか。この異世界の夜空は星は袋からこぼしたように夜空全体にばらまかれ輝き、月は2つある。

元の世界では考えられないような光景だ。夜空が怖くて光を手に入れたのに夜空に照らされるとは

皮肉、いや、そのことに気が付かない奴らに呆れるべきか。まあ俺も力を示そうとして逆に力を示されたんだがな。


怪物たちの生みの親は夜空に向かって小馬鹿にするように少し笑った。






場面は戻ってダンジョン4層


かなり歩いて俺たちはようやく上へと続く道を見つけた。洞窟の中ではあるが道は確かに階段状になっていて上へと進める。階段にはモンスターなど生き物はおらず、ただ長い階段を何事もなくずっと

上るだけというまた気の狂いそうな地味な場面が続いた。そうしてげんなりしながらも階段を歩き続け、途中歩くのに疲れ面倒くさくなった結果駄々っ子みたいになったエリアスを背負い、飛ぶのが面倒くさくなったフィリアは勝手に人の頭に座るという「犠牲になるのは俺1人だけでいい・・・」と言わされそうな疲労困憊イベントが発生したがそれでも()()歩き続けた。


そうしてようやく第3層と思しき所に到着したのである。


「ようやく着いたー」


「長かったわねぇ」

ん?おかしいな。まともにこの長い階段を上ったのは俺なのに。こいつら俺の背中と頭に乗って呑気にしりとりしてたはずなのに。しかも内容がめちゃくちゃすぎてもはやしりとりとして成り立っていない意味不明なしりとりだったのに。なんだ?カレーをライスにかける奴を抹殺するエルフの剣士って。そのエルフはナン過激派なのか?ていうかフィリアがカレーに首をかしげてる時点でこの世界にカレーという料理が存在してねえだろ。


と、まあそんな頭のおかしいイカサマしりとりを永遠と聞かされたりと俺の精神は崩壊寸前、心身ともにそろそろ限界が来ている。


3層は4層とは違い草原が広がっていた。森も遠くの方にあるが規模は大きくなさそうだ。3層は確か草原の揺り籠とかいう名前だっただろうか。どういう場所なのかよくわからないがあまり危険な場所には見えない。警戒すべきなのは変わらないが層も上だし道に迷うようなこともないだろうし4層の時ほど苦戦を強いられることはないだろう。




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