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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
ダンジョン探索編
62/106

何が正しいのか

誰も知らないある場所にある6人の男女が集まっていた。彼らが何者なのかはわからない。傍から見ればただの若者の集まりにしか見えないのだろう。ただし場所がこの薄暗い会議室のような部屋でなければの話だが。ただの肝試しや百物語などのオカルト好きの集まりならばそれは青春の1ページなのかもしれない。ただし正常な日常の中の正常な人間ならばの話だが。


「で?加賀の野郎はどこにいるって?」

数本のナイフを手で回したりジャグリングしたりと遊ばせている男が言う。


「王都、城の中の地下牢獄。2週間後に処刑の予定」

マスクをつけた少女が冷静に答える。


「もー助けなくて良くない?あたしアイツ好きじゃないんだけどぉ」

ネイルを塗りながら女がどうでもよさそうに言う。


「僕は嫌いじゃないですよ。なかなか面白い人ですから」

トランプをシャッフルしてカードを一枚引く。それを繰り返しながら男が笑って答える。


「できるなら助けたい、です。加賀、さんは大切な仲間、だから」

落ち着かない様子で少女は言う。


そしてそれを聞いていたリーダーのような男は1つ結論を出した。

「加賀は助ける。奴の戦力が必要だ」


「はぁ、メンドくさ。そんなことよりさっ!加賀を倒した坂下レイジって奴仲間にしない?!

あたしああいうのちょータイプなんですけど‼」

ネイルを塗っていた女はテーブルに身を乗り出してリーダーのような男に言う。リーダーの男は考えるそぶりもなく少し笑い楽しそうに言った。


「確かに仲間にしたいがあいつは仲間にはならないさ。俺たちが加賀の仲間だと知れば尚更な」


「そこまでそいつに執着する必要あんのかよ。キメラ倒すのにだって苦戦してたって話じゃねえか」


「それは前々から僕も気になっていました。我々が彼にそこまで注目する理由はないと思いますが」

ナイフで遊んでいた男とトランプをシャッフルしていた男が聞く。それに対してリーダーのような男はわかってないなと言うように目を手で覆って笑う。


「お前らはあれがどんな人間か知らないだけだ。あれは」


「あの人は、不思議な人。なんていうか()()()()()()()()()()、そんな人」

男に続けるようにマスクをつけた少女が静かに言う。


「なんだそりゃ」

ナイフで遊んでいた男はあまり理解できていないようだった。


「とにかくだ。加賀は助け出す。夏鈴(かりん)、行ってくれるな?」


「はぁ!?なんであたしが!?」


「お前の能力が1番適しているからだ」

夏鈴と呼ばれたマニキュアの女は何か言い返そうとしたが諦めて「わーったわよ」と投げやりに言うとその場を後にした。


誰も知らない何か大きな力がうごめき始めていた。






ダンジョン第4層にて


喋った。目の前のキメラが喋った。カタコトの不慣れな喋り方だったが確実に人間と同じ言葉を発した。キメラが言葉を出したのと対極に俺は驚きで言葉が出なかった。ただでさえ見た目が不気味だというのにが突然明確な言葉を発しているという違和感は体に多足類がまとわりついているくらいゾッとする。


「オまえ ト ハなし、まァッテエいた。ずっとおマえ見てた。チイサイのDEア、デアッた時から」


小さいのと出会ったとき?フィリアと出会った時のことか。あそこからずっとどこからか見られていたっていうのかよ。全く見られているのに気が付かなかった。ということは今の状況から俺はまんまとコイツに嵌められたということか。あのガサゴソしてた茂みの正体ってまさかコイツってオチじゃないよな。そうだとしたら実は相当危ない場面だったのか。


俺が色々考えを巡らせているのをよそにキメラはしゃべり続ける。


「オマエ知る、知ッテる。ナカマたくさンこロすた。コロシタ。オれ、イガイ全部シンダ。WAかるナいわカるない。なぜコロシタア?なカマ生きタいのにこロシタなゼ」


キメラが発する言葉の一つ一つが俺の動機を速めていく。


「きMEラ、た、チ、ただイキてイたかっタ。ナのにこロすァレた。なゼタァ?」


「お前らは人間にとって、すべての生き物にとって害を及ぼす生き物だからだ。お前らのせいでどれだけの人間がやられたのか忘れたとは言わせねえぞ」


「ガイ?ニンゲンの?ニンゲン、キMEらツクッたに?カっテニいのち与えたクせにかってにコロス?」


キメラは納得いかないのかとぼけたように繰り返す。急に静かになったと思ったらまた語り始めた。


「人間、ガイ。ならニンげンもガイ」


「なに?」


「ニンゲんイキモノころす。ころしてクウ。ころしてイキル。たくさんンコろス。木キル、たくさんキる。イワ砕く、たくさん砕く。たくさんナくNAル。でもニンげんやめない。にンげん弱いくせに。すべてニンゲンのモノじャなイ。ニンげん多い。きMEら少ない。なら、ニんゲんの方がガイ。ミの丈シラあナぃ、お、ロカのイきもノ」


なかなか痛いところを突かれている。このキメラの言っていることは間違っていない。ニンゲンは数が多い。それゆえに自然から搾取する量も多くなる。そうすると当然すべてが変わっていく。だが人間はそのことを気にすることはない。生きるためにただ搾取し続けるそれは自然に対する傲慢、もしくは少しでも楽に生きたいという強欲というやつなのではないだろうか。自然界の頂点にいるわけでもないのに身の程を知らない生きモノ。


「オまえ、話わかルにんゲん。知ッてる。コノハなし、たDAしいとオもうならキMEらコろすリゆゥない」




クソッこんなこと考えたくなかった。こんなもの考えたところで俺に何ができるわけでもない。自分たちの小さな搾取が積もって大きくなっているなんてそんなもの実感できるわけがない。だがこうやって目を背けてきたからこうなってしまったのかもしれない。


キメラは間違いなく環境を荒らしている。だがそれは人間ほど大規模じゃない。例え森の生き物が消えようが、川に何もいなかろうが人間はそれ以上の搾取をしている。搾取するエリアが限定されていないから大して変化がないように見えるだけだ。もし、1か所に限定すれば1か月も経たず王都の人間だけでそこのものを取りつくしてしまうだろう。


考えれば考えるほど何が正しかったのかわからなくなってくる。頭の中に泥でも詰まっているかと思えるくらい頭が重たい。人間がなんだと言われてもそんなこと俺にはわからない。なんで俺がそんなことを考えなきゃいけないんだ!?俺は学者でもなければ人類の代表でもない。ただの17歳の高校生だ。


別に人類の未来が決まるような重要な選択じゃない。坂下レイジという男が何を選択するのか、というだけの話だ。何を選択したところで世界が変わるわけじゃない。でも問われているのだ。お前は正しさに目を向け1つの命を救うのか、目を背け1つの命を奪うのか、と。大した選択じゃない。でもその問いはただの17歳にはあまりにも重たい。


逃避、正しい答えの出ない解、疑心、不安。どう答えを出せばいい?どうするのが俺は何を選択すればいい?俺は欲しい。目の前の『怪物』を殺す明確な理由が、目の前の『動物』を生かす明確な理由が。



生かすか?



殺すか?



正しさか?



正義か?



    さあ選べ


剣を握る手に力が入る。だが振り上げようとしても剣が持ち上がらない。ただ手が少し震えているだけで何もできない。決められない。こいつらだって生きていたいと思っていた。だが俺はそんなことはお構いなしに目の前に見えたキメラを片っ端から殺した。もういいんじゃないか。こいつを殺したところで世界は何も変わりはしない。それなら生かしてやってもいいんじゃないか?


でもまたいつか大きな障害になるかもしれない。今この瞬間が世界を変える大きな選択だ。これを逃せばキメラを絶滅させるチャンスはない。


正しき怪物か、人類への忠義か。



「くどい」

その時一言何かの声が聞こえた。そして次の瞬間目の前にいたキメラが突然真っ二つに切断された。

赤くグロテスクな切断面が見えるがその断面からは黒い煙があがっていた。明らかに普通の攻撃ではない。魔法の類を利用した攻撃だ。急展開過ぎて理解が追い付かない。


「イイイぃぃぃあああアアアアァァぁぁぁアアアア‼‼‼‼‼‼‼」


真っ二つになったはずなのにキメラが叫び声を発する。その声がどこか人間の断末魔を感じさせたので俺は見ていられず顔を背けた。初めて恐怖で泣きそうになった。だがそれでも耳はふさがなかった。というよりもふさげなかった。何が起きているかわからないこの状況で音を聞かないわけにはいかなかったのだ。


キメラの痛がるような叫び声はしばらく聞こえていたがだんだんと弱まり聞こえなくなった。

場が静かになって俺はただ何も言えず、何もできずただその場に膝をついた。


「自分たちより人間の方が害だと?くだらん」

声の方を見るとそこには忍者のような格好の男がいた。男は体が頭も体も真っ二つのグロテスクなキメラの死体を見つめながら言った。


「迷うな。一瞬の心の曇りが己を殺す。殺した後の利害だけ考え、余計な考えは捨てろ」

男は静かに語る。その一方でキメラの死体は肉体が少しずつ灰に変わっていきどこかへ消えていた。そしてついに最後の灰も目に見えなくなってしまった。


「人は奪うだけの生き物じゃない。何かを生み出すこともできる。だがキメラは何も生まない。生み出すことを知らないただ奪うだけの愚かな怪物だ」


「アンタは一体・・・?」

そう聞いたが男は何も言わず背を向けてただ「じゃあな」と手を挙げただけだった。そしていきなり突風が起こったかと思えば男はいなくなっていた。もう何が何だかわからない。静かになったという安心感だけが俺の心を落ち着けていた。そして俺は1粒、涙を流した。情けない話だ。怖かったんだ、俺は。前は返り血でびしょ濡れになるほどキメラを殺していたというのに今になって怖くなった。自分が何をやってきたのか、自分が何を背負っているのかに気が付いて気分が悪くなった。いろいろあり過ぎて何かを殺すという感覚が麻痺していたんだ。


ここは現実だ。漫画やアニメとは違う。主人公みたいにかっこよく敵を倒せるわけじゃない。

俺は背負っているんだ。今まで倒してきたモンスター、キメラたちの命を。殺害という罪を。


「なんかすごい音なってたけど何事!?ってどうしたの!?」

キメラの断末魔を聞いたエリアスたちが駆けつけてきた。エリアスは半べその俺を見て一瞬驚いたがやさしい表情で「もう大丈夫だよ」と抱きしめてくれた。




「情けねえところを見せちまった」

3人で輪になるように座って休憩することにした。


「気にしないで。それより何があったの?」

俺は目の前で起こったことをエリアスたちに話した。吐露したって言った方がいいのかもしれない。


「そっか、選べなかったんだ」


「ホント情けない話だ」

勇者だのなんだのと皆に認められて良い気になっていたのかもしれない。キメラ戦で戦果を挙げた男も蓋を開ければ所詮はただの17歳だ。俺は何も考えちゃいなかった。ただ自分が生き残りたいがために必死に殺しまわってただけだ。


「アンタってそこら辺の人間より人間くさいっていうか、意外と感傷的よね。普通の人間なんてそんなこといちいち考えないわよ」


「俺だって嫌いな奴ぶん殴ったところで罪悪感はないさ。何かが死んだり、失うことに敏感なだけだ」

今までずっとそこにあった人が、ものが無くなるのが怖いわけじゃない。それらが永久に戻ってこないのが悲しくて、怖い。心に大きく開いて全然塞がらない、何をしても全然満たされない大きな穴が苦しい。どうにも誤魔化せなくて時間が経っても穴は塞がらないけど穴が開いていることを忘れる。でもある日その穴を見返すと空白があることに気が付く。そんな自覚が怖い。


「悪魔との戦争で初めて悪魔を殺したとき、私は震えたよ。でも「すぐに慣れる」って言われた。実際すぐに慣れた」

エリアスはどこか遠い目をしながら話し始めた。


「初めて殺したときはいくら手を洗っても返り血のヌルヌルとした感触と独特の鉄臭さが消えなかった。一晩中怖くて眠れなかった。次の日にまた1人殺した。やっぱり怖かった。でも1週間後には何も感じなくなってた。自分が強くなったんだと思った。だからたくさん殺した。負けたくなくて、死にたくなくてね。その結果異名はシンプルに『悪魔殺し』。でも終戦直後に私を恨んだ悪魔たちにやられて体が爆散。そしてどうにか生き延びて今になるね。まあ何が言いたいかっていうとさ」


エリアスは一息おいて口を尖らせながら言った。


「いいんじゃない?今のままで」


「でも」

エリアスはムッと頬を膨らませると両手で俺の顔を挟んで言った。


「お姉さんがいいって言ってるんだからいいの!いいんだよ迷って。どんなことにも初めから慣れてる人間なんていないんだから。みんな迷って苦しんでどうにか乗り越えてるの!克服してもいい、逃げてもいい、別の解決法を見つけてもいい、それで望んだ未来が手に入るならそれでいいんだよ。急ぐ必要なんかないんだからじっくりゆっくりねっとり考えて」


「じっくりゆっくりねっとり考える、か」

エリアスなりに励ましてくれた、のか。そうだな。急いで結論を出す必要なんてない。どうするのか、どうしたいのか、か。本当にそれでいいのか、そうやって先延ばしにしてきたのではないかとも思える。だが急いだところで何もわからないのかもしれない。殺すのか生かすのか。きっと正しい選択肢はない、自分が後悔しない方を選べばいい。


「生かすか殺すか、その選択で私は失敗した。だから焦って決めないで。私みたいにならないでほしいの」


そう語る表情はいつもの楽しそうな笑顔ではなく苦い記憶を思い出したときの悲しそうな、懐かしんでいるような普段とは違うものだ。話したくないことだったのだろうか。それに対してどう言葉をかけるべきなのか俺にはわからなかった。小難しい言葉なんてわからないし、気の利いたセリフなんて知っているわけもない。だから一言だけ適切だと思った言葉を発することにした。


「ありがとな」

正しいのかは知らん。俺の知識の中でこいつが一番適切な言葉だと思っただけだ。


「それでよし!」

エリアスはいつも通りの笑顔を見せた。


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