遠回りの終わり
ガサゴソ茂みを通り過ぎて俺たちは何事もなく歩いていた。そう、つい2分23秒前までは何事もなく歩いていたはずなのだ。だがどうしてだろう。くどいようだがもう一度言わせてもらおう、俺たちはさっきまで何事もなく歩いていた、目の前にはなんの脅威もなく危機に陥るようなことなどあるはずもなかった。なのにどうして俺たちはリスみたいなモンスターに囲まれているんだろう。
誰かスマホのAIに聞いてみてくれ「なんで俺らは囲まれているの?」と、そしてその後で「リス 包囲 突破の仕方」と検索してくれないだろうか。広いネットの世界だからきっとどこかに答えがあるんじゃないだろうか。というかあって欲しい。まあ俺のスマホはとっくに電池が切れてるし、ここは電波ないから調べることさえできないんだけどね。
「どうすんのよお。これ」
「なんかお前狙ってない?」
「ぴぃっっ!!!!」
フィリアは小さいから仕留めやすそうな餌として認識されているのだろう。フィリアを乗せた手を動かすとモンスターたちが目でその動きを追っている。一方俺のことは・・・・・全然見てねえな。俺のことは眼中になし、狙っているのはフィリアだけか。
まあ、なんていうか
「ドンマイ」
「慰めなくていいから助けてよ!!」
「ガイドを続けろ。吹っ飛ばされるなよ」
フィリアを両手でしっかりと握る。いや、言葉にすると変な感じがするし正しい表現なのかもわからないがとにかく走ってる途中で手放さないようにしているということだ。地面を蹴って前へと進む。地面スレスレの高さを跳躍しているのにも等しいスキップのような走り。それを走りと言えるのかは定かではない。
「右!」
単調な指示だけが時折飛んでくる。そしてそれに従って俺は旋回し進み、また旋回し進む。後ろを見るとモンスターたちは当然のように追いかけてきていた。思ったより足が速いらしい。戦ってもよかったのかもしれない。だがフィリアを守れるという保証はない。相手は小さいうえに多いから1匹1匹の動きを完全に把握することはできない。だから逃げたのだがこれじゃきりがない。
それにこのままではエリアスにこのリスたちをぶつけることになってしまう。
「あの人じゃない?!」
見ると目の前には彷徨い歩くエリアスの姿があった。
「エリアス!!」
「おーレイジじゃん。よかった〜」
「後ろの頼む!!」
ほんわかしているところ申し訳ないがリスをエリアスにぶつけることになってしまった。
「うわっリスだ!でもこれだけたくさんいると可愛くないなぁ」
そう言いながらエリアスは後ろを付いてきたリスをすべて氷漬けにした。押し付けた分際で言うのもなんだが可愛くないと言われた挙げ句に生きたまま氷漬けにされたのはリスがちょっと可愛そうな気がしないでもない。そこまでやらなくても、とは思うが俺たちが助かるためには仕方ないか。恨まないでくれよ。
「助かった」
「レイジは少し紳士の嗜みを覚えた方がいいね」
「悪い、押し付ける気はなかったんだが」
「それはいいよ。それよりも合流できて良かった」
少し騒がしい再開ではあったが無事にエリアスと合流することができた。目的の1つはとりあえず達成したわけだしようやく本題に戻ることができる。俺たちはブラッドチェリーを探しに来たのであってただ冒険に来たわけじゃない。残り少ない時間の間にブラッドチェリーを確保し、帰るのが目的なのだ。
「ちょっとぉおお!!」
「うわっ!びっくりしたぁ。なんだよ急に」
「その手に乗ってるのは何!?」
「え、ああ、紹介してなかったな。妖精のフィリアだ。ここまで俺を案内してくれたんだ」
「はあーまた女の子連れて来て、どんだけ私のライバル増やせば気が済むの!?というか自分の周りが不自然なほど女の子だらけって自覚ある!?」
「は、はぁ一応は」
周りが女だらけという自覚はある。だが別に俺が男女を選別しているわけではない。だが何故か周りに女が多いのだ。むしろ俺は平等に、もっと男の知り合いというか、仲間みたいなのが欲しい。そろそろ男が俺だけなのが寂しくなってきている。
「このままだと際限なく女の子出てくるよ!?無限の湧き水だよ!?」
「それは俺のせいじゃないけどな」
私たち一同はまともな男の人を募集してます。
「でも妖精族と出会うなんて運が良いね。なかなか出会えないマニアで言うところのレアな種族だよ」
「そうなのか」
童話とかでも妖精って出てくるけど人前に姿を見せないけど助けてくれるっていうイメージがある。それに街中の冒険者たちから妖精の話なんてそんなに聞かない。そう考えれば確かにレアな種族というのも少しわかる気がする。それなら写真でも撮って・・・電池ないんだった。必要な時に限って
ものがない、よくある出来事ですね。
「よしブラッドチェリーを探そう」
ようやくブラッドチェリーを探すことができることができる。5層まで落とされて彷徨う羽目になったり、4層に着いたは良いもののバラバラに引き離されてしまったりと苦難は多くあったがようやく俺たちは本来の目的を達成するための一歩を踏み出すことができる。ここまでにかなり時間を使ってしまった。もう、ゆっくり進む時間も何かに足を引っ張られているような時間もない。
「じゃあ川を目指そう」
「川か、どっちの方にあるのかわかるのか?」
「わかんない。けどこういう時に役立つ優秀なガイド役がいるでしょ?」
ガイド役、そう言われて手のひらに座る小さな生き物を見る。
「フィリア、もう1回案内してもらっていいか?」
「しょうがないわねぇ」
フィリアは指先で髪の毛をいじりながら言う。断られたら一切の手がかりなくまた森を歩き回らなければいけなかっただろう。フィリアにはただただ感謝するしかない。
「川は・・・あっちね」
フィリアが指差す方へと俺たちは歩き出す。まだまだ代わり映えしない木々の光景が続きそうだ。
それからしばらく歩いているがやはり木々が生えているだけの光景は変わらない。そして相変わらずのフィリアからの突然の指示も健在である。今のところ信じて従っているがさっき笑っていたところを見ると本当にこの指示に意味があるのか少し怪しい。
「いやぁ妖精族の案内は適格だなぁ」
エリアスが感心しながら言う。
「そうなのか?」
「うん。この意味なさそうな突然の指示にもちゃんと意味があって、この通りに進まないと道に迷っちゃうからね」
「少しくらい無視しても大丈夫なように見えるけど・・・」
正直今少し右に曲がろうが後で少し右に曲がろうが方向さえ合っていれば目的地に着けると思うんだが。そんな突然曲がったりする必要が本当にあるのだろうか。
「まあまあ、妖精族のガイドは世界で1番安心できるから従っておいたほうがいいよ」
うーむ、さっきの1回転させられたことを考えると納得できない部分があるような気がするが世界で1番安心できるというならおとなしく従っておいたほうがいいのか。気のせいか騙されているような気がしないこともないがここは大人の対応ということで納得するということにしておこう。
「そこ右」
「あ、はい」
会話だけ見れば車でも運転してるのかと誤解されそうだが俺たちは徒歩である。一応のために言っておくが決して右折だの左折だのウィンカーつけ忘れただのという会話はしていない。
「あとどのくらいで川だ?」
「10分も歩けば見えてくると思う」
ようやくだ。欲していたものがもうすぐそこにある。これで帰れる、ユウナを救える。長かったこの探索も終わる。そう思うと少しだけ気分が軽くなった。
そうして歩き続けているとちょろちょろと水の流れる音が聞こえ始めた。土が小さな砂利に変わり足音を明確なものへと変える。木々の間から差し込んでいる光が川を流れる水を煌めかせ、水の純粋さを明確にしていた。ようやく俺たちはブラッドチェリーがある川辺に到着したのだ。だが辺りを見回してもそれらしき実は発見できない。
「どこにあるんだ?」
「そこら辺にあると思うんだけどなぁ」
どうやらエリアスも見つけられていないらしい。
「もう少し歩いてみましょ」
川沿いに歩いていくがやはりそれらしきものは何もない。ブラッドチェリーとは見つけるのがここまで難しいのか。そんなに数が少ないものなのだろうか。だがエリアスの反応を見る限り何か思っていた状況とは違うことがわかる。何か、おかしいのか?
「おっかしいなぁ。こんなに見つからないなんて」
やはり、何か普通とは違うことが起きているらしい。本来であればもう少し簡単に見つけることができるのだろうが今回はそうではないらしい。ブラッドチェリーは川辺に生息している低木にその赤黒い果実を実らせている、らしい。だがどれだけ再確認して見てもないものはない。
「幻覚を見せられてる?」
「「それはないね/わね」」
エリアスとフィリア、両方から否定されてしまった。
「森がそこまで細かい幻覚を見せるとは思えないし」
「幻覚を見せられているのかくらいはわかる。これは現実よ」
どうなっているのかはわからないが一旦俺たちは休憩とこれからどうするかの相談も兼ねて腰を下ろしていた。状況は良くない。時間はもとより少ないし、ここもあまり安全とは言えない。そして何より肝心の目的物が全く見つからない。危惧すべきことは多い。
「どうしてどこにもないんだろう」
「そんなに見つけやすいものなのか?」
「一目で見てわかるくらいにはね」
だとしたらやはり俺たちを巻き込んでいるこの現状はおかしい。あるはずのものがない。これほど異常なことがあるだろうか。一目でわかるほど見つけやすいものが全く見つからないという謎の答えをいくら考えても答えと言えるもの、納得できるものが出ない。消えた、もしくは元から存在していない。
俺の頭ではそんな現実離れした考えしか思いつかない。いや、むしろそう考えたほうが自然なようにも感じる。消えた、というのはともかく元からここにはないというのはあり得る話だと思う。
「そもそもここにはないってことは?」
「考えにくいわね。ブラッドチェリーは川辺を歩けば絶対に見つけられるくらい生息してるのにここ一帯だけないなんて」
そんなにたくさんあるのか。ん?ちょっと待てよ。
「そんなにあるのになんで市場には出回ってないんだ?」
川辺を歩けば絶対に見つかるくらい数が多いのになんでどこの店にも出回ってないんだ?確かにこの森を生きて出るのは難しいかもしれない。だが生きてここを行き来している冒険者だって多くいるはずだ。それならこの果実に大した価値はつかないはずだ。
「アンタ本当にブラッドチェリー取りに来たのよね?」
「あ、そういえば言ってなかったっけ?」
「?」
二人に呆れられたような顔をされているが俺今変なこと言ったか?
「ブラッドチェリーは採取がすごく難しくてね、例え採取できても普通に地上に持っていこうとするとその前にダメになっちゃうんだよ」
そんな話は無論初耳だ。本にもそんなことは書いていなかった。
「じゃあどうするんだ?」
「簡単な話だよ。ブラッドチェリーは熱に弱い。枝から切り離せば人の体温はもちろん、気温が1度
以上でも簡単にダメになる。なら凍らせちゃえばいいんだよ」
熱に弱いというのは本にも書いてあった。だがそこまで敏感だとはやはりどこにも書いていなかった。なるほど。だから数はあるがどこにも出回っていないのか。いやちょっと待て、でもそれだったら
「氷の魔法を使えば簡単に持ち帰れるじゃんか」
エリアスも頻繁に使っているから氷の魔法があるのは知っている。常温で持ち帰れないなら氷の魔法で凍らせて持ち帰ればいい。なんで誰もやらないんだ?
「氷は水の派生、上級魔法だから使える人間は少ないのよ。そんなことも知らないの?」
「面目ない」
そうか、氷は難しい魔法ってことか。全然魔法を使っていない俺自身を見ればわかるが確かに魔法は難しい。使っている冒険者は多いが皆魔力弾や火球を飛ばす程度の簡単なものばかり。俺も前はソニックだったか?自分自身の速度を上げる魔法を覚えていたが全然使わないせいでもはやどうやって発動するのか覚えていない。
「エリアスお前実はすごいんだな」
「もっと褒めて、崇めて、貢いでもいいんだよ?」
とりあえず褒めてはおくが崇めて貢いだら調子に乗るに決まっているので遠慮させてもらおう。
というかエリアスは人間っぽいが実際は天使なのだからこれくらい普通なのか。間違って褒めちゃったよ。
「じゃあ持ち帰るときの心配はないな。じゃあ問題はやっぱり」
「見つからないことね」
こればっかりは俺の緩い脳みそでは解決しようがない。
「エリアス、俺たちがダンジョンに入ってどのくらい経つかわかるか?」
まあせいぜい1、2日といったところだろう。ダンジョンには当然太陽も月もそもそも空がない。そのせいで今が朝なのか、夜なのか全くわからない。時計を持っていたとしても針3本では日付なんかわからない。
「うーんどうだろう。1、2日くらいだと思うけど。てかデジタル時計持ってなかったっけ?」
「あ、そうだった」
俺はポケットをあさってデジタル時計を取り出す。こういうときに元の世界のアイテムは役に立つ。
時間と日付はすでにこの世界の時間に合わせてある。元の世界に合わせても意味がないからな。
「俺たちが来たのは何日だった?」
「5かな」
時計の日付を見る。
「・・・本当に5日か?」
「そのはずだけど」
12。それが無慈悲にも俺に突き付けられた数字だった。
「う、そだろ・・・?」
「?」
「俺たち、もう一週間もここで過ごしたのか・・・!?」




