導きは基本
突然だが諸君、こんな言葉を知っているだろうか。「知らない人に付いて行ってはいけない」言葉通り知らない人には付いて行ってはいけないという小学生くらいのときに教えられそうな常識だ。だが人間、特に大人になると教えられていた常識が当然であるが故に忘れてしまったり、不思議と守れなかったりすることもあったりなかったり。つまり俺が何を言いたいのかというと「これ、本当に付いて行って大丈夫だろうか」ということだ。もっと簡単に言うとこの妖精に付いて行くことが不安になってきた。一応さっきの場所に戻れるように印は残しているが不安は拭えない。
「知らない人に付いて行ってはいけない」バカな俺でさえ小さい頃に習った常識で「当たり前で草」とか鼻で笑っていたのだがなんでだろうなぁ。何で何の疑いもなく付いて行ったんだろうな。「当たり前で草」と笑い散らかしていたのが今になって恥ずかしい限りだ。いい歳してこんな常識忘れている俺って・・・。とりあえず「知らない人に付いて行ってはいけない」ということを学校とかはしっかり生徒たちに教えてあげてほしいと思いました。
そんな常識の再確認はさておき、俺はどうしたものか。このまま付いて行ってもこの妖精が襲ってこないという保証はない。このままどこかモンスターだらけの場所に連れて行かれるのはゴメンだ。だがこのまま勝手にどこかへ行くわけにもいかない。ここがどこなのか余計にわからなくなるし、もしこの妖精が嘘を言っていなかったら後味が悪い。ただでさえストレスまみれなのにこれ以上気分を害されたくはない。
どうにかしてコイツの腹の内を探りたいところだが何か良い手段は・・・ない、な。かまをかけようにも知らないことが多すぎてかまをかけられない。どんなメチャクチャなことを言われても俺の方が簡単に騙されてしまいそうだ。もっとまともに勉強したほうがいいかもしれないな。企みのようなものはわからないかもしれないが情報ぐらいは引き出せるだけ引き出したほうがいいな。
運が良ければそこから推測できることもあるかもしれない。
「香水作るって言ってたがわざわざダンジョンに来る必要あるのか?地上に生えてる花でもいいんじゃ」
わざわざこのダンジョン来るというのは怪しい。人間の冒険者が来るならともかく小さな妖精が来るのはあまりにもリスクが大きいように思える。こんなサイズならモンスターに一口でパクリといかれてもおかしくない。なのに地上ではなくダンジョン、怪しさしかない。
「どうせ作るなら珍しい花で作ったほうが良いと思ってね。それでここまで来たんだけど本当に後悔してるわ。ここに来るまで野良猫だのモンスターだのに食べられそうになるし、なにより遠いし」
「無計画過ぎでは?」
「反省してるわ」
そう言ってフィリアは羽を羽ばたかせながらもため息をつく。
今のところわかったのはこの妖精は意外と後先考えず勢いで動いていて危ない目に会いながらもここまで来て現在は後悔中ということだ。ありそうな話ではあるが即興で作れてもおかしくないレベルの話ではある。もう少し探ってみるか。
「最近ハイデンで起きた事件について何か知ってるか?俺このところダンジョンに潜りっぱなしで地上のことよくわからないんだが」
もし本当に地上から来たならハイデンで騒がれていたキメラ事件のことは知っているはずだ。フィリアがダンジョンからの刺客か妖精か判断基準の1つになるはずだ。
「んー私もよく知らないけどキメラが出たらしいわよ。そしてそれをどこかの冒険者が解決したって。名前は確か・・・れ、れー、れい」
あと少しあと少し、頑張って思い出して。
「レイトン?レイギ?みたいな名前だったような気がする」
「へ、へぇ」
そっちかー。レイトンかぁ。よりによってナゾトキ・ファンタジーアドベンチャーゲームの主人公かぁ。おかしいな、ここ異世界だから某教授が主役のナゾトキゲームはないはずなんだけどなぁ。なぜレイジがレイトンになってしまったんだろうかね。てかあんなわかりやすく紹介されてたのに名前覚えてもらえてないのか俺。
名前がうろ覚えだったのは残念な気もするがキメラ事件のこととうろ覚えではあったが俺の名前を知っていたことからフィリアはダンジョンに生息している悪質なモンスターの類ではなく地上から来たと考えていいだろう。
わざわざ俺をモンスターに襲わせる、なんてことはないだろう。
「ここよ」
茂みをかき分けて進むとそこには地面の緑や茶色を埋め尽くすほどの花が一面に咲いていた。ここまでたくさんの花が生えているという光景を見たのは初めて見たかもしれない。ここだけ森とは切り離されたかのようなまったく別の空間に見える。花畑に入ると数本の花がつぶれてしまった。思ったよりも足場がない。いたいけな少女が踏み込むならまだしも俺みたいな男子高校生が花畑に踏み込むのはどこか抵抗があるな。だが花畑の外、茂みの外にいるわけにもいかない。今回は花を摘むのが目的なので花には申し訳ないが踏み込ませてもらおう。
「必要な花はどれだ?」
「その赤いやつと黄色と白、あとピンクも3本ずつくらい」
「赤と黄色と白とピンク、っと」
言われた通りそれぞれの花を3本ずつくらい採る。小さい頃は道端のタンポポとかよく採ってたけど年を重ねるごとに虫と同じでどうにも汚いと思えて採れない。そう考えればこうして花を採るのは懐かしい感じがして少し童心に帰れる。
「お前俺がいなかったらこの花どうやって持って帰るつもりだったんだ?」
俺からすればポケットに入れる、そうじゃなくても片手で十分持って帰れる大きさの花ではあるが妖精であるフィリアからすればこの花のサイズは本人と同じくらいでかなり大きい。これを持って帰るとなればかなり苦労するはずだ。
「一応これに入れて運ぼうかと思ってたんだけど」
フィリアはそう言ってどこからか自分の身長と同じくらいの瓶を取り出した。
「んーちょっと待て。怒らないからその瓶どこから出したのか言ってみろ?」
たまにあるよな。それどこから出した、それどこにしまった、と思うやつ。よく四次元ポケットって呼ばれてる奇妙な現象。俺も実際に見たのは初めてだが本当にどこにしまってあって出したのかまったくわからんかったぞ。
「どこってそりゃ」
フィリアが答えようとしたときグルルルと獣の唸る声が聞こえた。見ると茂みを分けて熊が出てきた。俺の思考が一瞬止まる。
昔母親に言われたよ。「いい?レイジ、親熊と飛行機と戦艦大和に立ち向かってはだめよ。危ないから」と。当時は小さかったから何も考えずその言葉を鵜呑みにしていたけど今思えばなんだその変な忠告は。もっと身近でわかりやすい言葉を選べよ母さん。
だが確かに熊というのは危ない。それは異世界転生しようが変わらない。ダンジョンならば尚更だ。とりあえず熊に出会ったときの対処法は死んだフリだったか、ゆっくり後ずさりだったか?
対処法がわかってない時点で俺は文字通り終わりだな。
熊がゆっくり2本足で立ち上がって腹にある丸い模様を見せると大きさは俺の身長の倍以上になる。フィリアからすればもう家くらいの大きさなのではないだろうか。熊は腕を上げると自分の胸を数回叩いた。その動きはどこか「おら、かかってこいよ」という挑発にも見えた。
「なんだ、パンチングマじゃない」
「え、何それ」
「知らないの?パンチングマっていうのはあの丸模様を殴られることに生きがいを感じてるの。別名森の殴られ屋、マゾグマとも言われてるわね。もし相手を強者と認めたらその証として何かくれるらしいわよ」
なんだその独特な生態の熊は。殴られることに生きがいを感じているって一体何があったらそんな生態の生き物が生まれるんだろうか。
「とりあえず殴ってみたら?」
「あ、うん」
なんだか理解が追いつかないが熊の方も準備万端みたいだし、殴られることに生きがいを感じてるらしいから殴っても大丈夫だろう・・・動物虐待とかにならないよね?まあ熊だし大丈夫か。
俺は熊の前に立つ。そして右手の拳を握りしめる。今こそ溜まるに溜まってきたストレスやらなんやらを吐き出す時なのだ。
思い出せ、今までの仕打ちを。地下室で寝させられたり、家の家具代押し付けられたり、扱いが雑だったり。
「もう、やってられるかーー!!!!」
俺の放った右ストレートはパンチングマの腹へと深く突き刺さり
パンチングマの体が宙に浮いたと思うと後方へと吹っ飛んでいった。
「ふぅ、ちょっとスッキリ」
スッキリしている俺とは違いパンチングマはヨロヨロと歩きながらも余裕を装っているがどう見ても苦しそうで今にも死にそうである。フィリアは目を見開いて驚いた顔の状態で固まっていた。普通の人間かと思っていた男が熊をも吹っ飛ばす力を持っていたのだから驚くのも無理はない。
「あ、アンタその力」
「まあちょっと力が強くてな、それよりも今度は俺を助けてくれ」
あまり深く探られたくないのでササっと終わらせて別の話に切り替える。
「えっと仲間とはぐれたんだっけ?まずはそこからね。両手を出して」
俺が両手を出すとフィリアが手の上にぺたりと座り込む。
「じゃあ目を瞑ってその人のことを出来るだけ細かく思い浮かべて。そのイメージが私に送られてくるから」
俺は言われた通り目を瞑ってエリアスを思い浮かべる。えっとエリアスは髪の毛が水色で、顔は可愛いけどどこかムカつく感じで、いつもぐーたらしてるし、ときどきエロ親父みたいなことしてくるし。他には・・・・・。
「も、もういいから」
フィリアは少し気まずそうにそう言った。確かにいい情報はなかったかもな。途中からただの悪口というか、俺自身の不満のようになってしまったが事実それがエリアスだ。
「これでエリアスの場所が分かるのか?」
「まあね」
血だまりの中で私は本を片手に立っていた。どれだけ激しく戦おうとも私には傷どころか返り血の1つありはしない。この状況を見たら、あの人はどう思うだろうか。嫌われてしまうだろうか、それでもまだ愛してくれるだろうか。いや、例え嫌われても、私はもう一度あの人に会いたい。だから邪魔するならどんな敵も倒す。その決意を間違いとは思わないし、後悔することもない。
「これは穏やかではないのぉ」
背後からの声がして振り返る。そこにいたのは薄汚いローブを着てとんがり帽子を被り、杖をつき、白い髭を蓄えた魔法使いのような老人だった。ここに来て初めての人間、いや人間じゃない?見た目は人と変わらないが人とは違う。ここは異世界であるがそれでも明らかに人間が有していない規模の魔力量だ。
「あなたは誰?」
「儂はただの暇な老いぼれじゃよ」
老人は自分の髭を撫でながら言う。
「それにしてもその本、ただの魔導書ではないのぉ。隠しているようじゃがとてつもなく強い魔力を秘めているのを感じるわい」
私は本を守るように腕に抱く。この本を失うわけにはいかない。これを失えば私は完全に無力な少女になってしまう。戦うことも、何かを導き出すことも、生きることさえもできなくなるだろう。そして奪われてしまえば私の壊滅的な運動神経では取り返すことは不可能だ。
「あなたもこの本が目的なの?」
「ほっほっほっ。確かに興味深いが儂には無用じゃよ」
「じゃあ何が目的なの」
「まあそう身構えるでない。元より争う気はない。ちょっとした暇つぶしじゃ」
老人はそう言って倒木に座ると懐からパイプを取り出して火をつけた。戦う気はないと言っているが正直信用できない。だがこれは情報を引き出すチャンスだ。知りたいことは山のようにある。
変に行動して怪しまれるよりここでこの世界の情報を集めた方がおそらく効率は良い。
そう考えた私はその場にあった倒木から椅子を作り出してそれに座る。
「ほぉ物体の加工を容易く行うか」
「突然だけど教えてほしいことがあるの」
「この儂から知識を引き出そうとは貪欲な小娘じゃわい」
この怪しい老人にいろいろ聞いていろいろわかったことがある。
まず、ここはダンジョンと呼ばれる場所らしい。そしてここはその4階層目の混沌の森という場所で地上に出るのは私ならば容易
とのことだった。他にもこの世界で起こった出来事、ある程度の常識など必要最低限のことはわかった。
「それにしても奇妙じゃのう」
「奇妙?」
「おぬしにからは一切の魔力を感じぬが本からは凶悪なほど、魔人と同等の力を感じる。おぬしの魔法が本によるものだというのはわかる。だが何故それほどまで不釣り合いな力を手に入れられたのか。それがわからん。人間の寿命ではそれほどの魔導書は作れん、ましてや魔法の才がない者なら尚更じゃ。おぬし一体どこでそれを手に入れた?」
私は答えるべきか迷ったがいろいろ教えてくれたお礼と思うことにして教えることにした。
「本が私を選んだ。そして私は応えた。それだけ」
「本が選ぶ・・・・・?」
老人はしばらく考えてから何か思い当たる節があったのか髭を撫でながら笑った。
「なるほどのう。おぬしが。」
「?」
「いずれわかる時が来る。さて儂はそろそろ行こうかのぉ」
老人はそう言ってパイプの中の灰を落とすと立ち上がった。
「もし地上に出たなら王都を目指すがよい」
それだけ言い残すと老人は森の奥へと消えていった。不思議な老人だった。魔力の規模からして危険な人物かと思って警戒していたが何かと親切な人物だったのかもしれない。少し悪いことをしてしまったと思う。
とりあえず私の今やることが決まった。まず地上を目指す。そして王都に向かう。まずはここまでやるとしよう。後のことは行ってみないとわからない。私が立ち上がると座っていた木の椅子はみるみるうちに腐っていき最終的にただの木片になってしまった。証拠隠滅、する必要もないのだがこの場に不似合いなものを置いておくのもいけない気がしたので壊しておいた。
そうして私の冒険の始まった。
俺はひたすら森の中を歩いていた。正直さっきから同じ場所を歩いているとしか思えない。
「そこ右よ」
俺の手のひらに乗っているフィリアが進む道を指示する。俺は今フィリアを両手の手のひらに乗せ、フィリアの指示に従ってずっと森を歩いている。そしてこの指示は本当に必要なのか少し疑問を持ち始めている。「あっちの方」とか「こっちの方」とか大雑把な進み方では駄目なんだろうか。だがここは口を出さずわかる妖精におまかせするしかない。きっと俺にはわからない何かがあるのだろう。
「そこ12歩進んだ後に左47度の方角に2歩進んで立ち止まって1回転して」
「それ本当に必要な指示か!?俺で遊んでない!?」
「遊んでないわよ!いいから指示通りにして」
なんだか信じられなくなってきたが指示通りに12歩進んで大体左斜め47度に2歩進んでその場で回った。
「ぷっ」
気のせいだろうか、手のひらから小さな笑い声が聞こえたような気がする。「胡椒の瓶の中に突っ込んでやろうか!(今は胡椒持ってないけど)」と叫んでやりたいが俺は一応大人なので落ち着いてあえて聞かなかったことにしておく。本当にこの妖精を頼っていいのか心配になってきたな。
「胡椒の瓶の中に突っ込んでやろうかな」
「ひっ!」
おっと声に出てしまっていた。フィリアが怯えながらこちらを見てくる。
「嘘だよ」
不安にさせてはいけないので嘘ということをはっきりと言っておく。そう嘘である。今のところは。これが本当にならなければいいなと俺も心の奥底から思っている。妖精を胡椒の瓶の中に突っ込むなんてグロテスクなことは俺だって嫌だ。せめて胡椒じゃなくて砂糖とかにしておきたいものだ。
ガサガサゴソゴソ
すぐ目の前の茂みが動いている。だが何も姿を見せない。何も出てこないならばこのままスルーしたいのだが何かに茂みから飛び掛かられるのも厄介だ。とりあえず少し様子を見るか。
ガサ、ガサガサッ!ゴソゴソ、ゴソゴソ、ガサガサガサ、ガサッ!
うぜぇ。はよ出てこいや。もしくは早くどっか行けよ。なんでそこでずっとガサゴソしてんだよ。その茂みにはそんなにガサゴソしなくちゃいけないものがあるのか?茂みフェチかおい。「この茂みいい音するわー」ってなってんのかな。
「うーむ困ったな」
「出てこないなら進んでもいいんじゃない?」
まあ確かにここのままここにいてもしょうがないし意を決して横切るか。よし行くぞ。1、2の3!
大きく一歩踏み出して溝を飛び越えるようにガサゴソしている茂みを横切る。横切った後も茂みはガサゴソと音を立てて揺れている。ここまでガサゴソしていると茂みの中で何が起こっているのか逆に気になるがさすがに何がいるのかわからない茂みを漁る勇気はない。今回は想像にお任せしよう。




