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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
ダンジョン探索編
53/106

混沌の目覚め

「エリアス起きろ。移動するぞ」


「むにゃあ?」

エリアスは僅かに目を開けると寝ぼけながらリュックを背負うとまた壁にもたれかかって眠ってしまった。どうやらまだ眠たいらしい。だがそんな理由でずっとここにいるわけにもいかない。ここは安全じゃないし、何よりゆっくりしている時間もない。俺は眠っているエリアスを背負って廃墟のような無機質な家を出る。やれやれ結局ずっとエリアスを背負う羽目になっている。まあ、背中のエリアスが割とおとなしいこととリュックが空っぽなだけまだマシか。


外は相変わらず呆れるほどの白。道は平坦にどこまでも伸びている。またこの気が狂いそうな道を歩かなければいけないのか。だるい、面倒くさい、誰かバイクとか自転車とか作ってくれないだろうか。きっとこの世界で自動車とかが開発されるのは100年後くらいなんだろうな。魔法が中心の世界なのだからそもそも自動車が発明されるのかも怪しいけど。


「せめて途中で階段があればなぁ」


それさえあれば万事解決なんだけどなぁ。後ろを振り向くとやはり白。俺達この真っ白な長い道をただひたすらにまっすぐに進んできたのか。本当によくここまで来れたものだと素直に思う。

アーティファクトに連れ去られて来たとはいえ、人類の限界である5層まで来たんだ。そして巨大なモンスターもどうにか倒して、寝て、こうして生きてる。あっという間の出来事のように感じるがとても長い時間だった。そしてその時間は少しずつ俺たちとユウナを苦しめている。


進まないと。俺はそう思いまた端に向かって歩き出す。だがすぐにその歩みが止まった。俺は何か大事なことを忘れているような気がする。このまま進んでもいいのだろうか。多分進んではいけない・・・?どうしてだろうか。進まないと行けないのに進んではいけない。進むと後悔する。まるで楽しみにしていた旅行先で大事な物を忘れたことに気がついたときの喪失感のようなとてつもない後悔に襲われる。なんだこの感覚は?


俺は今何を恐れている?何か忘れ物でもしたのか?小走りで先程いた廃墟のような家に戻る。だがそこには何もない。俺は忘れ物などしていない。じゃあ何だ!?俺は何に不安を感じ、恐れている!?

この白い空間のせいでついに精神がおかしくなったのか!?いや、自分がおかしくなったのか疑っている時点で俺はまだ冷静のはずだ。


辺りを見回す。どこか変な感じだ。俺はここを見たことがあるような気がする。ここまで歩いて来たのだからそれは当然なのだがなんというか、そう、前にも誰かと来たことがあるような気がする。そしてこの道で何かがあったような気がする。あの大きな豆腐のようなブロックにも見覚えがある。あそこを曲がった先には何があっただろうか。俺は来た道を少し戻りブロックのところまで来た。ここを曲がった先にどんな景色があるのか俺は知らない。知らないはずなのになぜか知っているような気がする。


ブロックを左に曲がるとそこには変わらず平坦な道が続いていた。だがしばらく進むとそこは。


「崖・・・?」


そういえばこんなだったなぁ、となぜか思ってしまった。ズレていた紙の角と角がようやくピッタリ合わさったような自分の知らない記憶と目の前の現状の合致。これがデジャヴってやつなのかもしれない。


すぐ横にあった不自然に整備されている階段を下る。この景色もどこかで見た。そのときは目の前を誰かが歩いていたはずだ。だがそれの容姿も名前も何も思い出せない。知らないのに知っている、妄想で作り出してしまった記憶なんじゃないかと疑いたくなるがこんなに想像力豊かではない。矛盾したあれこれに頭がどうにかなりそうだ。


「横穴か」

階段を下りていくとそこだけ切り取られたようにキレイな四角い横穴が空いていた。中は暗くて見えない。この横穴も当然どこかで見たような気がする。そしてこの横穴に関する何かが重要なことのような気がする。俺はランタンを取り出して火をつけるとランタンをベルトに引っ掛けて暗い横穴へと進む。どこにつながっているのかはわからないので不安ではあるが行かなくてはいけないと思った。


「モンスターの巣とかじゃなきゃいいけど」


横穴の中は暗いがやはり無機質な白い地面、壁、天井だった。

こんなところで閉じ込められたら絶対に泣く。道は右に行ったり左に行ったり下ったり上ったりとなかなか複雑ではあったが分かれ道などはなく一本道だったため無駄に時間を食ったりするようなことはなかった。


それにしても長い横穴だ。それに道がグニャグニャすぎて自分が今どの辺にいるのか全くと言っていいほどわからない。もうダンジョンの階層を跨いでいるんじゃないだろうかと思うほど歩いている。そろそろ不安になってきたぞ。暗いし、狭いし、静かだし、怖いし。不安を誤魔化すため歌でも歌おうかしらと本気で考える。よし、あと10分くらいこのままだったら歌おう。


しばらくして周囲の匂いが変わった。今まで無臭だったのに急に全く違うものに変わった。この匂いは・・・自然?わずかに植物っぽい匂いがする。進むに連れて植物の匂いも少しずつ強くなっている。足元になにかある。しゃがんでそれを見て、触って確認する。灯りがあまり強くないためか黒っぽく見えるがおそらくこれは


「苔、か?」


表面は乾いているが土の部分は少し湿っている。この苔が生きている証拠だ。出口に近づいているのかもしれない。さらに進んで行くと蔓のようなものが壁や床、さらには天井にまで這っていた。自然の匂いがどんどん濃くなってきている。進むと蔓に混じって樹木の根が姿を見せ始め、小さな草花が足元に現れ始めた。少し急な坂道を下りると遠くの方に光が見えた。


ようやくこの長いトンネルの出口が見えた。どうやら歌わずに済んだらしい。あと3分くらい遅かったら間違いなく歌っていた。一体どこにたどり着いたというのだろうか。せめて景色が変わっていてほしいな。これでまた真っ白な空間が広がっていたら俺は膝をついて泣くぞ。


そして俺は光の眩しさに目を細めながら長かったトンネルを出た。


トンネルを出たそこは樹海だった。地面も空も自然に覆い尽くされていて風景のほとんどが緑色、木々の間から射した光が全体を照らしていてテレビで見るような美しい樹海に見えた。俺たちが出てきたのは洞窟のようだ。ダンジョン内の森ということはここはおそらく第4層、混沌の森だろう。ようやくだ、ようやく目的の階層に到着したんだ。


「やっと景色が変わった」


俺はその嬉しさのあまり膝をついて泣いた。景色が変わらなくても変わっていても結局膝をついて泣いていた。人生で初めて景色が変わったことに感動したよ。


「むにゃ、あれっ!!いつの間にか景色が緑に!?てかなんで泣いてるの?」


「ようやく景色が変わったからだよ」


「そこまで感動する!?」


寝てただけのお前にはわからないだろうけどこっちはもう頭おかしくなるくらい真っ白な空間歩いたり、真っ暗な長いトンネルみたいなところ通ったりでなんとなく疲れたのよ。今まで狭いところに押し込められてたようなストレスを感じていたがようやく開放されたんだよ。ある程度泣き終えた俺は立ち上がって樹海を進んでいく。


樹海はやはり広く緑がない場所はない。景色こそ白から緑に変わったがそれでも似たような景色が続いていて第5層とあまり変わらない。だが5層とは違いときどき生き物の鳴き声がする。混沌の森というにはあまりにも静かな場所だ。鳥のさえずりが聞こえるものの姿は見えない。俺たちは今どこにいるんだ?近くには目印になるようなものもなければ土と木と岩以外はなにもない。とりあえず目的の階層に来られたのは良いが俺たちはこれからどっちの方へ向かえばいいのだろうか。


「ちょっと上から見てみるわ」

俺はそう言ってその場で思いっきりジャンプした。多少枝にぶつかりながらも葉を突き抜けて木より高いところまで到達した。


一番上の枝に着地して周りを見てみる。見渡す限りの木、木、木、そしてわずかに見える川。この階層はどこまでも森が続いているようだ。ブラッドチェリーがどこに生息しているのかわからない以上歩き回るしかない・・・か。あまりにも効率が悪いが読んだ本にも生息地については詳しく書かれていなかった。というよりも生息地が定まっていなかったような気がする。木に実っていたということが書かれていた本もあれば川の近くの茂みに実っているというものもあった。おかげでどこを目指すべきなのかもわからない。


「どうだった?」


「どこまでも森だ。でも少し歩いたところに川がある。まずはそこまで行こう」


「ほいさー」

俺たちは川のある方へと歩き出した。






目覚めたそこは深い深い樹海であった。光が射しているため暗くはなくてテレビで見るような美しい緑だった。大切なことは焦らないこと。まずは状況を整理し、分析する。まずあたりに私以外の生物は確認できない。いきなり野生動物に襲われるということはなさそうだ。次に空だがどうやら本物の空ではないようだ。


太陽と思っていたものはシャンデリアのように巨大な植物の蔓で天井から吊り下げられた巨大な結晶の塊が光っていたのだった。

つまりここは普通の外というわけではないということになる。

植物園のような屋内施設なのか、そうでもなければ地下ということになる。だが植物園にしては人が手をつけたような痕跡はない。そうなるとここは地下ということになる。


「まるでアガルタか地底旅行ね」


さて施設であろうが地下であろうがここから出なければ。全く知らぬ土地を闇雲に歩くのは危険だがここにいたって問題は解決しない。とりあえずどっちの方向へ進むかだけ決めてしまおう。

すぐそこに落ちていた枝を1本拾って先端を人差し指で押さえながら地面に真っすぐ立てた。そして指を離すと枝は力なく倒れる。


枝は自分から見て右斜め上に倒れた。ではそっちの方に進もう。決め方は雑かもしれないがどうせどっちに進むのが正解なのかもわからないのだ。運に身を任せようがわからないものを考えて進もうが情報不足で先に何があるのかわからない以上そう変わらないだろう。むしろ運任せの方がスムーズに決まって時間を無駄にせずに進める。


そうしてすべてを運に任せて緑で溢れた地面を歩き始めた。


歩いている間やることもないので自分の置かれている現状についていろいろ考える。ここは異世界、そして地下に広がる樹海、この2つから考えられる可能性としてはここがダンジョンと呼ばれる場所、もしくは異世界では地下に樹海が広がっているのが普通のどちらか。自分の持っているアニメの知識と合わせ、最悪の場合を想定して一応ここをダンジョンということにしよう。


ここがもし攻略中、もしくは完全攻略した地下のダンジョンだとするとどこかに上へ向かう道があるはずだ。だがもし未発見のものなら道があるかどうかは怪しいところだ。そもそもここは何階層だ?ダンジョンならば階層で分かれていて、下に行くほど攻略の難易度が上がるはずだ。ここの雰囲気からするとそこまで下の階層ではなさそうだ。モンスターはどうだろうか。ダンジョンならばモンスターは必ずいるはずだ。


今のところ動物が近くにいるような気配はない。数が少ないのか、それともどこかに潜んでいるのか。少なくともいないということは絶対にないだろう。どのくらい凶悪なのかが特に心配だ。


階層不明、構造不明、敵不明。致命的な状況だ。考えるには情報が足りなすぎる。これらについては一旦放置しておいてもいいのかもしれない。


では次になぜこの異世界に飛ばされてしまったのかを考えるとしよう。これについては大体検討はついている。原因はワールドゲートの発生。この頃、頻繁にゲートが開かれていたから別世界との壁が安定せず空間が歪んだのだろう。例の事件は完全に解決したものとばかり思っていたがまさかこんなことになるとは予想外だった。


斜めがけにしている本に指先で触れる。

常にこの本を携帯していてよかったと心から思う。これさえあればほとんどの危機はどうにか乗り切れるはずだ。


本が小刻みに震え金具がカタカタと音をたてる。私が鳴らしたわけではない。本が自分で体を震わせて危機を知らせているのだ。この本は生きてる。命があるのだ。


気がつくと周囲にはモンスターと思しき動物たちが私を取り囲むように近寄ってきていた。本を開いて戦闘態勢を取る。運動は苦手だ。だからできることなら走ったり、木に登ったりしたくない。生きるための行為を生きるためにしたくない。運動は苦手だ。けど、だから戦う。


「いくよ、ベルべリット」


そうして()()()()私の戦いが始まった。





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