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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
ダンジョン探索編
52/106

第5層の悪夢 その4

「んん・・・」

俺は目を覚ました。そして直後にドレスの裾のようなものが家の外に出ていくのが見えた。寝ぼけたのだろうか、いや、今のははっきり見えた・・・と思う。あれからどのくらい寝ていたのか。どうやら膝枕されたまま眠ってしまったようだ。エリアスを見るとエリアスもそのまま寝ていた。「見張りは任せとけ」みたいなこと言っておきながら寝てんじゃねえか。まだ虫の腹の中にいないから良いものの、いつどこで何に襲われるかなんてわかったもんじゃない。


俺は起き上がってさっきのドレスの裾のようなものを追いかける。外を見るとそこには間違いなくドレスを着た女の人がいた。

どうしてこんなところにいるのだろうか。ただの冒険者ならともかくドレスを着た人がいるなんて絶対におかしい。俺は警戒しながらその女の人に近づいた。


女の人は俺が近づいてきたことに気が付き首だけでこちらに振り向く。その横顔はあまりにも綺麗だった。横顔だけでわかる、明らかに他の女の人とは違う圧倒的な美。俺はその美しさに目を奪われた。今までいろんな女の人に出会ってきたがここまで目を奪われ、言葉を失ったのは人生で初めてだったと思う。


白い肌に白い髪、ユウナを思わせるような見た目だがユウナとは違い、優しい表情をしている。そして白いウェディングドレスのような衣装。ユウナも美少女だがそれよりももっと大人じみていた。


もし100人に聞けば100人が美人と答え、もし元の世界にいたなら楊貴妃、クレオパトラ、小野小町の世界三大美女にも匹敵していただろう。もはや芸術と言ってもいいレベルの美女だった。


「どうかしたのかしら?」


「あ、いや、なんでもない」

思わず顔を逸らす。今の俺はどんな顔をしているのだろうか。今わかるのは緊張しているということ。無意識のうちに自分がニヤけてないか心配だ。


「ふーんこれが」

そう言いながら女の人は俺に近づいてくる。そして両手を伸ばし俺の頬に優しく触れる。そしてまた優しく微笑んだ。


「知ってはいたけど、可愛らしい顔をしているのね。いや、逞しいのかもしれないけど。それとも『私に刻まれたもの』がそう思わせるのかしら」


「あ、ぅぅ、どうも」

くそう、こういうときこそクールに格好良くしてなきゃいけないのに緊張しているせいでまともに喋れねぇ!


「ふふ、やはり可愛らしいのかしら」

からかわれているのだろうか。そうだとすれば悔しい気もするがこんな美女にからかわれて嬉しい変態な俺もいる。やりづらい、この女すごくやりづらいぞ。


「えっとお前、いや君はどうしてこんなところに?」


「あなたを助けに来たのよ」


「俺を?」


「魔人王には悪いけど私は飽きっぽいの。次へと進めさせてもらうわ」


「は、はぁ」


「行きましょう」

よくわからんが彼女は歩き始めてしまう。俺はエリアスが心配だったが女の人はそれでも待ってくれなさそうだったので仕方なく女の人についていった。モンスターもいないみたいだしエリアスはおそらく大丈夫だと思う。


彼女は俺たちが来た道を戻り左側の豆腐のような巨大なブロックの角を曲がった。角を曲がったそこはやはり白く、平坦な道が続く代わり映えしない景色ではあったがしばらく進むと道がスッパリ途切れて崖になっていた。崖の下も当然真っ白、おかげでどのくらいの高さなのかわかりづらい。


「こっちよ」

女の人はそう言って下に下りる階段のような坂道を下りていった。


「君は何者なんだ?」

武器のようなものは持っていないし、戦うような格好でもない。

一体どうやってこの階層まで来たのだろうか。それに俺を助けに来たというのも変な話だ。なぜ俺たちがダンジョンにいることを知っている?しかもこの第5層で足止めを食らっていることも。

そして最近よく出てくる魔人王という言葉、「魔人王には悪いけど」ということは俺らが足止めを食らっていることに魔人王が関係しているのか?


考えれば考えるほど謎が深まっていく。


「いくら考えたところで答えは出ないわ。私が何者なのか、なぜ魔人王という言葉が出てくるのか」


お見通しだったらしい。


「ええ、私にわからないことなどありはしない。どんな生物であろうと思考があるなら読むのは容易」


心を読まれてる!?しかもエリアスみたいな勘に近いものじゃない。喋っているのと同じ、完璧に心を読んでいる。


「私が何者なのか。今の私は瞬く間に消えゆく『火花』のような存在とでも言うべきかしら」

言葉の意味があまり理解できていなかった。自分が儚い存在とでも言いたいのだろうか。それとも何か別の意味があるのか。そんな俺の心を読んでいたのかはわからないが彼女は何も言わずに進んでいった。


「ここよ」

彼女が立ち止まったのは暗い横穴の前だった。横穴の中は見えずどのくらいの深さなのかもよくわからない。

「ここを進めばいずれ上に出られる道へと出る。さぁ、戻りましょうか」


そして気がつくと俺はまた白く平坦な道にいた。だがその道の真ん中には不自然に机と紅茶セットが置いてあり、彼女はすでに椅子に座って紅茶を飲んでいた。ついさっきまで崖のところにいたのに。一体何が起こった?俗に言うテレポートのような現象に巻き込まれたのか。戸惑う俺とは対照的に彼女は冷静だった。


「座りなさい。少しお喋りしましょう」


意図がわからないがとりあえず座る。この女は何かおかしい。最初はただの綺麗な女かと思っていたがそれだけではない。完璧な読心術、さらにダンジョンでこれだけの余裕など他にも怪しい点は多々ある。気は抜けない、警戒しなくては。


「私の正体を探っているようだけど今はまだ教えられない。でもいずれわかるわ。もし()()()()()()()()()()()()、ね」


「なに?」


「ふふ、理解できないでしょうね。そう今のあなたでは絶対に理解できない。そして理解できないついでにもう1つ教えてあげましょう。私の名は#0%Zz*!2@s」


名前の部分だけになぜかノイズのようなものが入って聞こえない。目の前にいるはずで機械があるわけでも、邪魔するものもないはずなのに。なにも聞こえなかった。まるでその部分だけ規制されているみたいに。彼女は困惑する俺を見て楽しそうに微笑む。


「そんなに困った顔をしないで。私のことはそうね・・・灰かぶり(サンドリヨン)とでも呼びなさい」

灰かぶり(サンドリヨン)と名乗った彼女は優しくそう言った。


灰かぶり(サンドリヨン)。シンデレラのフランスでの題名だったか。この女は元の世界の知識を持っているようだ。だが転生者ではない。転生者特有の気配を感じない。彼女はもっと別のものだ。説明はできないがもっと別の、転生者とは違う特別な何か。


「せっかく淹れたのだから冷める前に飲みなさい」


「悪いがのんびり茶を飲んでいる暇はない。道がわかったなら行かないと」

そうだ、のんびりしている暇などない。俺はダンジョンに遊びに来たわけでも、出会いを求めてきたわけでもない。ユウナを助けるためにここに来たんだ。時間は限られてる。1秒も無駄にしたくはない。


「そう、それは残念だわ。」

そう言う灰かぶり(サンドリヨン)の手のひらにはいつの間にか2つの赤黒い果実があった。それを見た瞬間心臓が大きく脈打つ。その小さな2つの果実は俺が探していたブラッドチェリーの特徴と一致していたからだ。


「それは・・・!?」


「あなたが探していたもの。もし私を楽しませてくれたなら譲ってあげてもいい」


俺は渋々座る。構う必要なんてなかったのかもしれない。自分で探した方が時間は掛かっても確実に手に入る。だがどれだけ時間を浪費しても灰かぶり(サンドリヨン)がブラッドチェリーを渡してくれるとは限らない。もし渡してくれなければこの時間は丸々無駄ということになる。でも俺はその僅かな希望にすがった。ここで手に入れば時間は大幅に短縮できるからだ。これはギャンブルみたいなものだ。手に入るのか否かを賭けた茶会。


名付けるなら賭博(ギャンブル・)茶会(ティータイム)。これからやることは単純。ただ会話を盛り上げるだけ。何も考えるな、相手は心を読んでくる。だから俺も普通に楽しめ。いつも通りに振る舞えばいいんだ。


俺は手元のティーカップを手に取る。紅茶は淹れたばかりなのか温かくていい香りがする。一口飲む。


「うまい」

驚いた。俺は紅茶の味なんて大してわからないけどその一口はなぜだか今まで飲んだ物の中で1番うまかったように思える。もう一口飲む。やはりうまい。こいつ、紅茶淹れる天才か?いやいや何を和んでいるんだ俺は。いつも通りとは言ったがこのままだと本当に素の俺が出るぞ。


「気に入ってもらえて嬉しいわ」

その笑った顔がまた綺麗だった。くそう!美人と2人で美味しいお茶、悔しいけど楽しいじゃねえか。これがリア充、アイツらはこんな極楽を味わっていたというのか!?くっ爆発しろ!

もういつもの俺になるのを止められない。だが俺は悪くない、俺の気を緩めた紅茶が悪い。それに今相手を不快にさせるのは得策とは言えない。まあ都合は良いだろう。だから俺はこのティータイムを楽しみに行くぞ‼



10分後。あれから灰かぶり(サンドリヨン)とのお茶会は盛り上がった。と言いたいところだが実際は俺の緊張がどうにも解けず結構静かなお茶会になっていた。ポジティブに考えば上品と言えるだろうが「話したいことがたくさんある子供とそれを聞く母親」みたいな状態が正しかっただろう。


「君と魔人王はどういう関係なんだ?」


ずっと引っかかっていたのでつい聞いてしまった。灰かぶり(サンドリヨン)はまるで魔人王と親しいかのような口ぶりだった。それに魔人王の意思に逆らって行動しているようにも感じる。そんなことをすれば魔人王も黙ってはいないと思うが。


「同類、協力者、敵対者。私たちを表す言葉は多いわ。アレが私をどう思っているのかはわからないけど」


「心が読めるのに?」


「アレが私の心を読めないように私もアレの心だけは読めない。それだけアレの存在は強大なの」


灰かぶり(サンドリヨン)はどこか昔を思い出して懐かしむような表情で息を吐いた。


この発言から察するに灰かぶり(サンドリヨン)も魔人王と同等の力を持っているということになる。それにしても先ほどから気分が乗ってきたのか妙に口が軽い。情報を引き抜くチャンスかもしれない。


「魔人王が好きなのか?」


「好き、とは違うの。確かに愛しているし、尊いものだと思う。けど同時にアレに対して殺意、破壊衝動のようなものがあるのも事実。複雑な感情とでも言っておくわ」


好きだけど殺したい、壊したい。確かに複雑な感情だ。

灰かぶり(サンドリヨン)が魔人王に向けているのは愛か、それとも憎悪か。たった16、7年しか生きていない俺には判断しかねる。だがなおさら灰かぶり(サンドリヨン)という存在がわからなくなった。

魔人王はなぜ俺たちの邪魔をしようとしているのか、灰かぶり(サンドリヨン)はなぜ俺たちを助けようとするのか。それを尋ねようとしたところで灰かぶり(サンドリヨン)は立ち上がった。


「どうやら時間切れのようね。またいつか会いましょう」


「待て!ブラッドチェリーは!?」

大事なのはそれだ。俺はブラッドチェリーのために茶に付き合ったのであって時間を無駄にするためでも灰かぶり(サンドリヨン)に魅了されたからでもない。


「今あなたに渡したところでぬか喜びするだけよ」


くっ!諦めてたまるか!




俺は目を覚ました。どうやらエリアスに膝枕されたまま眠ってしまったらしい。当の本人も寝ている。見張りはどうした見張りは。「見張りは任せとけ」みたいなこと言っておきながら寝てんじゃねえか。まだ虫の腹の中にいないから良いものの、いつどこで何に襲われるかなんてわかったもんじゃないってのに。やはり次からは俺がもっとちゃんとしよう。


俺は体を起こして軽く伸びる。どのくらい寝ていたのかわからないがどうにもあまり疲れが取れていない。気のせいかすごく疲れる夢を見たような気がする。体制が悪かったからかもしれないな。やれやれ、結局疲れたままだが目も覚めてしまったしそろそろ移動しよう。目的地は遠い、時間もあまり無駄にしたくはないしな。



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