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これがカオス・・・なのか?

扉が開いて目に入ったのは玉座に座る国王とその横にいる女王だった。

「アイリスその者がお前の言っていた男か?」


「はい、野盗に襲われた私たちを救うだけではなく傷ついた騎士たちの治療まですべてやってくれました」


「ほう。では貴殿がレイジか。娘と騎士を助けてくれたことに感謝する。」


「アアア、イエ、トウゼンノコトデスカラ」

俺カッチンコッチンじゃねぇか!

国王に話しかけられた瞬間ドクドクと早い鼓動を鳴らしていた心臓が次の瞬間ドンドンドドカッドカッドドドドドとどこかの太鼓のゲームのように音ゲーを始めてしまった。てかこのドの間にあるカッて音は一体心臓のどこからなっているんだ。


「当然か、今時お前のようなお人好しがまだいるとはな」

と国王は小さく笑った。この言葉からするにこの世界、この時代には親切な人は少ないのかもしれない。

今は一体どんな時代なのだろうか。今のところ俺はが出会った人の中で不親切な人はいなかった。

というよりむしろ親切な奴しかいなかったと思うんだけど運が良かっただけなのだろうか。


「聞けば貴殿は不思議な薬を使って騎士たちの傷を癒し、キャロリー何とかという菓子を分け与えたと

そして出身はニホンという国だとも聞いた。だが国王である私でさえそんな国は聞いたことがない。

真実を言え、貴殿は何者だ?」


「ただの冒険者ですよ。今は無一文ですけど」


「身元の知れないただの冒険者が傷を一瞬で直し、誰も聞いたことがない菓子を与えた、と」

その顔は明らかに俺を疑っていた。隠すこともしない。

別に隠す必要はない。ただ転生してきたと言えばいい。ただそもそも問題はそこじゃない。


俺は天使とある約束をしていた。と言っても直接言葉と言葉で交わしたわけじゃないけど。あの生と死の狭間にいた時、あの真っ白な空間でちらりと見た『異世界転生について』と書かれた紙。天使が横に竜巻書いてたやつな、俺は本当に一瞬だが見た。右下のところに太字の小さい文字で


「転生の件について天使がかかわっていることを他言してはならない。万が一他言したとしてもその言語は人間に理解することはできない。(転生者を除く)」と書かれているのを。


だから変に正体をバラすと話が噛み合わなくなる可能性がある。だから今はただこの世界の一人の冒険者として名乗るしかない。それが最善。


「世界は広いってことですよ」俺はただそう言った。


「・・・そうか。それほど世界は広いのか」

国王は頷きながら納得してくれたようだった。もしかしたら俺の思っていたことを酌んでくれたのかもしれないが。元から静かだった場がさらに喋り出しづらくなった。


「あのー」

だが静かなその雰囲気をぶち壊したヤツがいた。


「何だアイリス」


「お父様、私この人と結婚したい」

一番恐れていたことが起きてしまった。遠回しに言うならばまだマシだったかもしれない。もしかすると誤魔化すこともできたかもしれない。だがこの姫様は見事にやらかしてくれた。

ド直球。圧倒的ド直球である。


国王はそれを聞いてしばらく固まっていたが、今まで冷静さを保っていた顔が徐々に驚きの顔に変わっていった。そして


「えーー‼‼」

と驚きの声を上げた。さっきのかっこいい感じというか冷静な雰囲気はもう面影もない。ただのギャグキャラみたいになってきてる。


「いや、ちょ、お前何言ってるかわかってんの!?さっき出会った人と結婚とか父さん驚きだよ!?

確かにいい人っぽいけど流石に早すぎないか?私がロレンヌと出会ったときでさえ結婚するまで1年くらい猶予あったのに」

国王が段々アホっぽくなっている。


「いやーつい一目惚れしちゃったもので」

そんな感じでいいのだろうかこの王国は。俺が思っていたより国王と王女様のやり取りが軽いんだけど。

「いや、本当に許さないよ?そんなの。せめてじっくり時間かけろ?」


国王がそう言ったとき王妃が頬に手を当ててながら

「あらあら。『貴方に惚れました。結婚しましょう』って出会って早々私に求婚してきたのは誰だったかしら?」


お前もか!親子似た者同士じゃねえか。親子そろって出会って結婚しようとしてんじゃんか。

国王が「いや、でも結局1年待ったじゃないか」と弁解しアイリスがそれを茶化してた結果話し合いはヒートアップし騒がしくなり始めた。


王妃はあらあらと口に手を当てて、俺に「お互い大変ね」と静かに笑った。俺もそれにつられて少し笑った。謁見の間が賑やかになってきたところで扉が開いた。


入ってきたのは三人のドレスを着た女の人たちと護衛であろう騎士たち。

確かアイリスは第四王女って言ってたからあの人たちは多分、この国の第一から第三王女ってことか。

見る限りアイリスとは年は離れているようだ。


「随分と楽しそうですが何かありましたか?」

黄緑っぽいドレスを着た王女様が言った。


「アイリスが婚約者を連れてきたのよ」

と王妃が崩れぬ微笑で言った。いや、俺まだ結婚するって決めたわけじゃないんですけど。

あんまり余計なこと言わないでくれます!?女王陛下のせいで話が変な方向に進んじゃうから。

と言えない俺も俺だが。


「ア、アイリスちゃんこここ婚約者って、あの、結婚するの?」

と今度は薄青っぽいドレスの気の弱そうな姫様が静かな声で言った。


アイリスはススーッと俺の隣に来てささやいた。

「あの黄緑っぽいドレスを着ている気が強そうなのが第二王女のエリザベートお姉さまで、青っぽいドレスの気の弱そうなのがマリアお姉さま、それであの白いドレスの優しいのがアナスタシアお姉さまよ」


姉妹で全然性格違うのな。一人ほえーと心の中で思っていると第二王女と国王たちの間で話が進んでいたらしく気が付けば視線は俺のほうに向いていた。


「アイリス、あなた本気でそんな下民と結婚する気なのかしら?」


「むー自分が結婚できないからって悪く言わないでよね」


「それは関係ないでしょ!大体結婚するならこんな下民じゃなくて貴族にしなさいよ!」


それに対して女王陛下は

「あらあら、私も一応元は平民なのだけど」

と呟いたがスルーされた。


「どうしてもこの下民と結婚したいならその下民の実力見せてもらうわ!」

そう言うとドレスを脱ぎ捨てた。ドレスの下は無論下着などではなく姫様が着るには似合わない甲冑。

騎士みたいに大掛かりな装備ではなく胸と膝のところにだけ甲冑の着いた軽めの装備。


「いいわよ、レイジは負けないから」

いやいや何勝手なこと言ってんのお前ら。何で戦う流れになってんのさ。脳筋かお前らはマジで。そもそも俺まだ結婚するとは言ってないんだが。


ほらもう向こう剣構えちゃって戦う気満々だよ。どうすんのこれ。

「あの俺別にそんな(結婚する)つもり無いんですけど」


「あら、逃げるのかしら(戦いから)下民。それでも男なのかしら、それとも負けるのが怖い?」

なん···だと!?この国では申し込まれた結婚から逃げるような奴は男じゃないと。そういう事なのか。俺は今試されているのか。真の男かどうか。


※二人共会話が噛み合っていないことに気がついていません。


結婚する気はない、だがこの決闘からだけは逃げるわけにはいかない。それにこんな挑発されたらなおさらだ。

···馬鹿だな~俺。


「は?怖くねえしテメェこそ負けたからって泣くなよ」


「その気になったか。では貴様も剣を構えろ」

そう言われて一瞬迷ったがそれは駄目だ。そんなことしたら事がややこしくなるだろうし、第二王女に怪我させる可能性もある。


「真の強者に武具はいらない。だからかかってこいよ」


うわ、中二くせぇセリフだな。言ってから思ったがちょっと恥ずかしい。


静まり返った場に走る緊張。目の前には剣を構える第二王女、

エリザベート。あ、やべちょっとドキドキしてきたと思った瞬間

エリザベートが動いた。一瞬で俺との距離を詰め、正面から剣を振り下ろした。


それに対して俺がやることは腰を落とし、握り拳を作るとそのまま思いっきりアッパー。

狙うのは当然エリザベート、ではなく振り下ろされた剣の方だ。そしてその結果は当然俺の勝ち。


剣は粉々に砕けエリザベートも周りの人たちも驚きを隠さずにはいられない。

異世界チートものだからね。仕方ないね。ここで勝たないと詐欺もいいところだし。

そんな気まずい沈黙打ち破ったのは女王陛下だった。


「というかそもそもレイジさんに結婚の意思はあるのかしら?」

ナイス、女王陛下マジでチョベリグ。女王陛下のその言葉にその場にいた全員が俺を見る。

とても気まずいが言うしかない。言うしかないんだ。


「ぶっちゃけ第四王女に結婚の話は早いのではと思ってます。だって第二王女すら結婚できずに独身なんですよね?」

その言葉にみんなは

「エリザベートお姉さまは確かに独身」


「独身ね」


「ど、独身、だね」


「あらあらそういえばそうね」


「ちょっと‼なんで私だけ独身みたいになってんのよ!みんな独身でしょ!?」

うわ、何だこの面白い光景。というかみんな独身でござったか。

「なるほど、貴殿はアイリスの結婚は早いと」


「見たところ第二、三王女は俺と同じくらいの年ですけどアイリス・・・様はどう見ても俺より5歳くらい年下ですよね。普通早くても17、8歳なのでは、と」


まあ、知らねえけどな?この世界というかこの国の結婚制度に関してはまったくわかんないけど

多分アイリスは早いんじゃないかな。これどう見てもジャンル的にロリだよ、ペドだよ、幼女だよ。この人と結婚したらその男は確実にロリコンという烙印を押されるに決まってる。


「ふむ、確かに貴殿の言う通り早いのかもしれない。娘が騒ぎ立ててすまなかった」


「いえ、こちらこそすみませんでした」


「せめてもの礼だ受け取ってくれ」


国王がそう言うと使用人が貨幣の入った袋を俺に渡した。ずっしりとした重み。これだ、これこそ金の重み

元の世界にいた時味わったことないけど。うわー重たいわー。札という概念が多分ないんだろうなーでなきゃ嫌がらせとして1円玉100枚入れたとかかな。それなら昔似たようなの味わったことあるぞ。コンビニで

300円のお釣りに10円玉20枚と50円玉2枚っていう嫌がらせ。


財布が一瞬でパンパンになったよね。次の日に仕返しとしてそれぞれ違うお菓子5個ずつと

「肉まん1つ」


「以上でよろしかったですか?」


「あと肉まん1つ」というやり取りを繰り返す面倒な嫌がらせをしてやったの今でも覚えてるわ。

まあそんなどうでもことは置いてだな、何かいろいろ言われてたみたいだけどすべてを聞き流して

俺は城の外に出た。


外に出て早速中身を確認した。中身は金貨だった。とりあえず借金90ルドは絶対に返せるだろう。

さて帰ろうとした時俺は思った。あれ?この世界の貨幣の価値ってどうなんだろうか。この金貨一枚がどれくらいの価値なのか、と。


みんなはこういう困ったときどうする?基本的なことが分かっていない時何をする?

俺はこうする。俺は偶然あった本屋に入った。そして小説のコーナーを通り過ぎて教科書のコーナーを通り過ぎて幼稚園児コーナーの『おかねのかぞえかた』という本を読む。店員がこっちをガン見しているような気がするがきっと気のせいだろう。


そして次にたまたま目に入った『まほうがくしゅうちょう 3歳から5歳向け』を読む。きっと店員たちの目に俺は父親か頭のおかしい人として映っているのだろう。今すぐ逃げ出したい。だが耐えるしかない、生きるためには!そうして生き恥をかくこと20分。俺は店を出た。わかってる、「別に恥ずかしくないだろ」って思ってんだろ?でも俺はあえて言いたい。俺に幼稚園児の本を人前で堂々と読む耐性はないんだよ‼と。


だが恥をかいたおかげで分かったぞ。この世界のルールの一つが。どうやら銅貨10ルド、銀貨100ルド、金貨1000ルドでこの3種類の上にさらに聖銅貨、聖銀貨、聖金貨というのがあってそれぞれ1万、10万、100万らしい。つまり今の俺の所持金は・・・大体1万ちょいかな。これでしばらくは生活できるはずだ。安心のあまり口元が緩んでしまいそうになりながら俺は黄金の鹿に帰った。


借金90ルド返済。



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