地獄への大穴
「ここがダンジョンか」
馬車に揺られて4日と数時間。ようやくダンジョンへと着いた。ダンジョンの位置は王都から東の方へとかなり遠い。というか完全にハイデン領から出ている。ダンジョンというから洞窟がポツンとあるのかと思っていたが実際にはダンジョンを中心として街ができていた。エリアスの話によればダンジョンがあることを除けばどこにでもある普通の街で観光客とか冒険者が頻繁に来るから儲かっているらしい。
街の名前は
「・・・・・ヴェルダースオリジナル?」
私のおじいさんがくれた初めてのキャンディ。それはヴェルd
「確かに他とは違う特別な街だけどヴェルダルスオリジルね。長いからヴェルダスって呼ばれてるけど」
頭の中でヴェルダースオリジナルのcmが流れかけたところでエリアスがところで訂正してくれた。狙っているとしか思えないような街の名前だな。そんなミルキーな飴を連想させる町の中へと進む。町の中はハイデンと同じように冒険者や商人、住民たちで賑わっている。唯一違うところといえば建物の見た目くらいだろうか。ハイデンとは違い見た目にはこだわらず、飾りつけのようなものはない。簡易的というか気にせず補修できるという意味ではある意味機能的というか、打たれた釘はむき出しのままで手作り感がある。
うん。こういうのもアジがあって俺は結構好きだな。
さらに町の中心へ、ダンジョンの方へと歩いていく。そうして建物が急になくなったと思ったら目の前にドーム状の何かが目の前に現れた。
「これが、ダンジョン」
近くで見ると野球ドームにしか見えない。形としては東京ドームが一番近いだろうか。
「モンスターが出てきたら危険だから土の魔法で蓋をしたんだ。でも結局ダンジョンを探索したい研究者とか冒険者が穴開けちゃって今じゃただの飾りになってるんだけどね」
エリアスはいつの間に買ったのだろうか。袋いっぱいのから揚げを頬張りながら言う。
この世界に来て初めて唐揚げを見た。いや唐揚げどころか揚げ物自体初めて見たぞ。ハイデンには揚げ物という調理法がなかった。
「ん?あ、これ?ハイデンにはないよ。まだ揚げ物の文化はそんなに広まってないからね」
「なん、だと」
「そんなに驚くことじゃないって。私の記憶が正しければ日本だってまともに揚げ物が広まったのは江戸時代くらいだったよ。それまでは油が高くて揚げ物なんて食べられなかったんだから。まあこの世界の場合は揚げ物に関心がないだけだけど」
「へえ」
唐揚げを1つ拝借して口に入れる。なんだろう、少し油の臭いが強いような気がする。揚げ物に関心がないって話だし、最初はこんなものなのかもしれない。ここから揚げ物の文化がさらに進化していくのかと思うと普段料理する者として楽しみではある。
「エリアス、準備はできたか?」
揚げ物文化のことも気になるが今はダンジョン攻略が優先だ。あと1週間以内にとにかく第4層に到達してブラッドチェリーを回収しないとユウナが手遅れになってしまう。
「おうよ!行こうぜ相棒!」
やる気は十分なようだ。ならばさっさと潜ってさっさと帰ろう。
ダンジョンへと歩みを進める。入口のすぐ横に受付カウンターがあった。
「冒険者の方ですね。メタルタグのご提示をお願いします」
メタルタグというのは冒険者の階級を証明する認識票のことだ。メタルタグは色によってランクが分かれている。それも結構細かく。基本的に提示する必要はないのだが危険なクエストを受ける時などはメタルタグを提示してその冒険者が本当にそのクエストを受けるのにふさわしいのかをギルドが判断する。実力の低い冒険者が高難易度のクエストを受けるという事故を防ぐためのものだと思ってくれていい。
ちなみに俺は下から3番目のシルバーだが、それでも2つ上の階級であるアパタイトクラスからじゃないと受けられないはずの高難易度クエスト、エンシェントオーバーロード討伐のクエストを受けた。
本来なら受けられないクエストだったのだがそこは受付嬢に耳打ちして何とか頼み込んで受けさせてもらったのだ。受付嬢に感謝である。
「シルバーですね。シルバーは第2層までの侵入が認められます」
「わかりました」
無論、嘘である。まったくわかってなどいないしそのルールを守る気もない。当然だよな。
「最近ダンジョンの活動が活発なので十分注意してください」
「?」
「このところ第4層で植物が急激に成長、増殖しているんです。そのせいなのかモンスターの活動も活発になってて第4層のモンスターの一部が第3層に流れ込んできているそうです」
モンスターの活発化か。それもよりによって目的地である第4層でかよ。どうにも運がないな俺は。
だがこれはある意味ではラッキーかもしれない。植物の急速な成長と増殖が起こっているということは当然ブラッドチェリーもその影響を受けているはずだ。つまりブラッドチェリーが手に入りやすいということになる。モンスターとかに妨害されなければ早期に目的を達成できるはずだ。
ダンジョンの入り口に向かって一歩踏み出す。目の前には地下へと続く階段。この階段の先にはこの地上よりもさらに過酷な世界が広がっている。先に進めば待っているのは地獄のような場所。生きて帰ってくる保証はなし、ブラッドチェリーを入手できるかどうかも同様。逃げることはできず、前に進むこと以外は許されない。変な話だよな、仲間を助けるための希望を見つけたいのにそのためには絶望の中に飛び込まなきゃいけないなんてな。
「レッツゴー!」
から揚げを食べながらエリアスはいつも通りのテンションで言う。こんなときでもお前は気楽でいいよなぁ。俺は心配事だらけだよ。これまでの人生で階段を1段降りるたびにこんなに心配事が増えていくことなんてあっただろうか。この調子じゃダンジョンにたどり着いたときには俺のテンションはだだ下がりだろうな。
「そんな心配しなくて大丈夫だって。5層までなら苦労しないはずだよ・・・多分」
「うーん。最後の多分のせいで説得力がないなぁ」
元気づけてくれるのはありがたいけど「大丈夫」と断言してほしかった。多分がつくと不安になるだろ。そんなことを思っているうちに第1層の入り口と思われる場所に到着した。
「第1、2層は洞窟エリア。敵もザコしかいないよ」
「そういうことなら」
俺は神器の中から1つのランタンを取り出す。このランタンをつけておけばザコは寄ってこない。どのくらいザコなのかにもよるがおそらく出会わないか、もし出会ったとしてもある程度は怯んでくれるはずだ。
洞窟のダンジョンを進んでいく。中はとても広かった。あちこちに空洞があり、道がある。ただでさえ道に迷ってしまいそうな構造だ。それにとても静かだからそのせいで感覚が狂いそうになる。ぼんやりしていると本当に迷子になってしまいそうだ。
広いダンジョン内を歩いていると時々冒険者に出会う。巨大なモンスターを仕留めて運んでいる者、リュックいっぱいに何かを詰め込んでいる者。いろいろいたが圧倒的に多かったのはどこか
不満というか納得いかないというか困っているというか暗い表情の冒険者だった。
「何かあったのか?」
あまりに暗い表情の冒険者が多かったので岩に座っていた男に聞いてみる。
「ああ、ついさっきまでここのモンスターと戦っていたんだがいきなり逃げ出してな。くそっ!もう少しで仕留められたのに!!」
んーこれはどう考えても俺のせいなんじゃなかろうか。口が裂けても「あー俺のランタンのせいだわ」とは言えない。言ったが最後きっと俺はボコられる。
「そ、そりゃあた、大変だ、なー(棒)」
俺は顔をそらしつつできるだけ自然に応える。今の俺はきっと珍しく目が泳いでいるだろう。俺たちはそそくさとその場から去る。長居する理由はないし、バレてしまいそうな気がしたからだ。
「さっさと次の階層に行った方が良さそうだな」
「そうみたいだね」
その後は苛ついている冒険者たちと目を合わせないように下を向きつつすれ違いながら何事もなく第2層の入り口へと到着した。
「俺かつてこれほど危機を覚えたことないかもしれない」
「うん。私も」
今までキメラとかいろいろあったけどここまでドキドキしたことはなかったような気がする。バレたら鬼の形相で冒険者たちにボコられると思うと胃が痛い。結局のところ怖いのはモンスターじゃなくて人間なのかもしれない。第2層への階段を降りながら俺たちは人間の怖さを再認識した。
「さて到着。第2層、結晶回廊」
ぱっと見さっきと同じような洞窟だがところどころ壁やら天井やらに結晶が生成されている。
名前通り結晶がたくさんあるようだ。しばらく進むと第1層と同じように開けた場所へ出た。さっきと違うところといえばさっきから分かれ道が多い。さっき以上に道に迷いそうだ。
「看板がなかったら今頃死んでるな」
唯一の救いは看板があることだ。それも超ボロボロの腐りかけているような。これがなくなったら間違いなく人生終了だ。
ゴオオオオオォ
前方の3つの分かれ道のどれかから何かのヤベえ鳴き声が聞こえる。ズシズシと足音を立てて現れたのは顔と足が白熊で体と腕はゴリラというキメラのように動物と動物が混ざったようなデカいモンスターだった。
「なんか出た!」
「ゴリクマ!」
「なにその適当な名前!?」
エリアスにゴリクマと呼ばれたそのモンスターはゆっくりと一歩ずつこちらに向かってくる。
そして俺の目の前まで来るとそこで立ち止まった。俺の身長の2、3倍くらいはあるくらいに巨大。
目の前の視界はコイツの腹でいっぱいだ。俺はゴリクマを見上げ、ゴリクマは俺を見下ろす。まるでヤンキーが殴り合いを始める数秒前のガンの飛ばし合いみたいな雰囲気だ。
まさに今、戦いが始まる。そう思ったがそこで予想外のことが起きた。ゴリクマがそのまま倒れた。俺もエリアスも当然まだ何もしていない。何かがこの巨大なモンスターを倒した。
見るとゴリクマの背中には結晶のようなものがびっしりとついていた。どうやらこのモンスターに元からついているものではないようだ。
「一体何が」
この大量の結晶を見ているとなんだかフジツボを思い出す。そういえばフジツボで膝を切ったら膝の中でフジツボが繁殖してた。
なんて都市伝説もあったな。聞いたとことによると本当に膝の中でも育つとかなんとか。
「この結晶生きてないよな?」
フジツボの怖い話を思い出して不安になったのでエリアスに聞いてみる。体で結晶育てるなんてゴメンだ。
「結晶は基本生きてないよ。これは何かの攻撃だね」
「体に結晶生やすとか嫌な攻撃だな」
俺たちはゴリクマの死体をおいてゴリクマが来た道の先へと進む。何が起きているのかはわからない。危険だし怖いが止まってもいられない。俺たちにはあまり時間がないんだ。1歩でも前に進まないと。
分かれ道をしばらく進むとまたさっきと同じようにまた分かれ道があった。看板ではどうやら右が第3層への入り口へと続いているらしい。結局ゴリクマがを倒した何かには出会わなかった。
そいつの正体が気になるところだがわざわざ追求するようなことでもない。さっさと次の層へと向かうとしよう。
「次は第3層。草原の揺り籠だよ」
エリアスはそう言って歩き出す。
だがそのとき、俺の体の全細胞が何かを警告した。命に関わるほどの何かをだ。
「危ない!!」
俺はエリアスに覆いかぶさる形でエリアスと地面に倒れた。直後何かが頭上で風を切る音がした。すぐに起き上がって3層の入り口に向かって走る。状況が不利すぎた。運良く逃げられればそれはそれで良しだ。だが、そう思っていた俺の考えは甘かった。俺たちの頭上を超えて目の前に巨大な手が現れた。人ひとりすっぽり収まってしまいそうなほど巨大な手。
走りに急ブレーキをかけてその場に立ち止まる。その手は明らかに生き物のものではない。その理由は一目見れば明らかだった。
その手は結晶でできていたからだ。
「なんだこれ」
「この感じ、まさか!」
エリアスが後ろを振り向く。俺もそれに続いて振り向くとそこには明らかに今までとは違う。異常な存在がいた。
「アーティファクトだ!!」




