英雄の誕生
後書きもあるのでよかったら見ていってください
究極人工生命体は腕の形状を棘のように変化させるとそのままレイジへとその腕を振り下ろした。当然、誰かが助けてくれる奇跡など起こるはずもなく、無慈悲に、必然的にその腕は無防備なレイジの腹へと突き刺さった。その激痛に気絶していたレイジが口から血を吐くと同時に目を開ける。
「ごふっ」
腹には激痛、口から溢れた血で息ができない。苦しそうにレイジが突き刺さった腕を引き抜こうとするが自分の血で滑るうえに手に力が入らないのか引き抜けない。ただ苦しそうに口から血を吐くしかできなかった。そして他の全員もキメラに足止めされながらその光景を見ていることしかできなかった。
そして無力にもレイジはそのまま力尽きた。レイジが力尽きるのを誰もが見ることしかできなかった。
「このっ!!!」
どれだけ怒りをあらわにしてもキメラは減らない。むしろ追い詰められているのは自分たちだ。全員体力はすでに限界、今彼らを支えているのは怒りと生き延びたいという気力。それでも終わりというのは必ずやってくる。
「くっ!!」
「エルシア!!」
追い詰められたのは真正面からの戦闘にはあまり向いていない糸を使うエルシアだった。背中に大きな一撃をくらい、膝をついたところを取り囲まれた。
「私のことはいい!!お前らだけでもどうにか!!」
ジリジリとキメラが迫っていく。
(ここまでか。これは今まで殺してきた私への罰だな)
キメラとキメラの間から仲間が自分を助けようとしているのが見える。だがきっとレイジと同じで助けることはできないだろう。
(ありがとう。皆)
覚悟を決めた。
だがその時変化が起きた。天井からキメラではない何かが降りてきた。そしてそれが地面に着地すると同時にあれほど凶暴だったキメラたちの動きが止まる。いや、キメラだけではない。暗殺部隊を含むその場にいたすべてが動きを止めた。
その光景は時間を止めたような。そんな光景だっただろう。
それの容姿は人型だったが黒い炎のようなもので全身が包まれている。人の形こそしているが本当に人なのか。そもそも本当にこの世界の生物なのかさえ疑わしい。
その異分子を排除しようとする者は誰もいない。そこにいた全員の中にあった思考はただ1つ。
『動いたら死ぬ』
それだけだった。その黒い何かは辺りを見回すと1歩、究極人工生命体に近づく。すると究極人工生命体が1歩後ろへ下がった。転生者であるレイジと戦っているときでさえ一度も後ろに下がることをしなかったあの究極人工生命体が恐怖を感じ1歩下がったのだ。
そしてその黒い何かは死にかけのレイジを見下ろすとそばに落ちているドミネーターチェーンを拾う。そして究極人工生命体の目の前で歩みを止める。ゆっくりと黒い炎を纏った手を究極人工生命体の腹へと突き刺した。それから血の滴る手を引き抜くと今度はレイジの方に歩き出す。
それと同時にドミネーターチェーンがひとりでに動き出し、究極人工生命体の体に巻き付く。そしてその黄金の楔が体に突き刺さると究極人工生命体の体が瞬時に石へと変わった。すでに不可解な現象がいくつも起きているが誰も驚くことさえできない。
黒い何かはレイジの腹の大穴にその血を垂らした。すると腹の大穴がみるみるうちに塞がっていく。傷が完治したのを確認すると黒い何かは今度は他のキメラたちを見た。そしてどこからか小さな鈴を出すとそれを鳴らした。
「薔薇はここに」
黒い何かのすぐ横で何もないところから突然薔薇の花びらが舞ったかと思えばいつの間にかそこに片膝をつき左胸に手を当てる1人の女いた。まるで忠誠を誓うかのような姿勢だ。
『後は任せる』
黒い何かは男でも女でも、老いても幼くもない声で静かにそう言うといつの間にかいなくなっていた。
「御意に」
女はそう言って立ち上がると草笛を吹き始めた。今まで聞いたことのないとても美しく、いつまでも聞いていたいような穏やかな音色。女は草笛を吹きながら暗殺部隊が来た壁の大穴へと歩き出した。するとそこにいたキメラたちがそれに続いて歩き出す。そうして女も、キメラもどこかへ行ってしまった。
暗殺部隊の面々がハッと我に返ったとき、そこにいるのは自分たちと気絶しているレイジ、そして石になった究極人工生命体だけだった。
全員倒れているレイジの容態を見て生きていることを確認し傷を治療すると先ほどの出来事について話し始めた。
「さっきのは・・・・・一体」
「魔人王と七眷王・・・」
ルネのその言葉にその場の全員が心臓がドキリと大きく音を立てる。
「ルネ、それは本当なの?」
レネが恐る恐る聞く。
「うん。昔、森で迷子になったとき助けてもらったことある。その後村長が黒いのは魔神王だって教えてくれた。だから多分草笛を吹いていた方は七眷王。薔薇ってことは」
「七眷王の第4位。薔薇の女王、ですね」
寝ているレイジを膝枕しながらアリシアが言う。助かったことは喜ばしい。だが助けてもらった相手が相手なだけに素直に喜べない。
「あら、勝ったのに随分顔ね」
声の方を見ると気絶した加賀の襟を掴んで引きずりながらこちらに来るユウナがいた。腹部に1つ刺し傷があるもののすでに血は止まっている。他に怪我もなさそうだった。
「ああ実はな」
ウェイブはユウナに先ほどの出来事について話した。
「そう、そんなことが」
「ああ、だが一体なぜ魔神王は私たちを助けたんだろうな」
加賀を糸でぐるぐる巻にしながらエルシアが言う。それは全員にとっての疑問だった。魔人王とはこの世界の頂点に立つ者。そして七眷王は魔人王に仕える人智を超えた七人の王。魔人王はこの世界で『神』と呼ばれる存在だ。事実、魔人王を主神とした宗教まである。だからこそ、この世界の神が一体なぜ自分たちを助けたのかわからない。
「考えても仕方ないわ。地上に出ましょう」
そうして一同は地上へと出た。ほんの数時間の出来事なのにまるで何日もあのキメラの巣窟にいたような、そんな気がしてしまう。穴から出ると同時に外でキメラと戦っていた兵士たちと合流した。
「どうなってるの?キメラたちが急にどこかへ行ってしまったんだけど」
どうやら地上にいたエリザベートたちは状況をつかめていないらしい。
「詳細は、後で、説明!するんで!!誰か荷台持ってこい!!コイツ重すぎる!!」
気絶したレイジを背負っているウェイブは戦っているときよりも息が切れていた。
「今の状況を一言で言うなら私たちの勝利です」
アリシアのその流れるような言葉に兵士たちが喜びの声を上げる。ようやくキメラという重苦しい事件から開放されるのだ。そりゃあ騒ぎたくもなる。
「はいはい喜ぶのはいいけど撤収よ!」
撤収の準備は手早く行われた。この日、ハイデン王国軍は1000人編成で負傷者300人、死亡者0人という素晴らしい戦果を残し、キメラとの戦いに勝利した。
それから3日後。王宮医務室。
「ほーん、そんなことがねえ」
俺はベッドの上でウェイブから報告を受けていた。戦いに勝利したこと、俺たちが魔人王とかいうのに助けられたこと。俺はあれから3日の間眠り続けていたらしい。その間いろんな人たちが見舞いに来てくれたそうだ。その中でも泣きわめいていたのは第4王女のアイリスと『よくわからん派手な書物を持った女』だったらしい。恐らくエリアスのことだろう。
よくわからん派手な書物って多分漫画雑誌のことだよな。アイツいつも漫画雑誌携帯してんのか?
見舞いに来てくれるのはありがたいが漫画雑誌を手放せていないあたりこちらとしては何とも言えない心境だ。
「まあ、後の細かいことは報告書を書いておいたからそっちを読んでくれ」
そう言って書類の束を渡すと「まだ後処理が残ってるから」と手を振って行ってしまった。
報告書を書いておいてくれるのはすごくありがたい。正直書くのが面倒だからな。実際にあった出来事をそのまま書くだけだから簡単に見えるけどただ思い出して書くだけじゃダメだ。一体いつ誰が何をどうしたのか事細かに思い出して書かなければならない。雑に書くとエリザベートに怒られたり、最悪の場合作戦に影響が出る可能性があるので絶対に間違ったことは書けないのだ。
でもこの報告書、俺が書いているときよりも分かりやすくないか?何なら文字も俺よりちょっと綺麗なような気がする。なんやかんやでここまでやってきたが今思えばなぜ俺がこの部隊の隊長をやっているのだろう。そんな今さらな疑問が頭をよぎる。ウェイブとかがやれば良かったんじゃないか?
「起きたのね」
どこか懐かしい声の方に目を向けるとそこには裾の長い黒いパーカーに胸のせいで白いぴっちりとしているTシャツ。ホットパンツにヒールのブーツ。そして特徴的な軍帽。という相変わらずダサファッションのユウナがこちらに向かってきていた。
ユウナは椅子に座るとじっくりと俺を見た。
「なんだよ」
「別に。いつも通りで安心しただけよ」
普段ぞんざいに扱われているせいなのか、こう、ちゃんと心配されると嬉しいが少し恥ずかしい。俺も同じようにユウナをじっと見る。そして脇腹にそっと指先で触れる。
「ひゃっ!な、なに!?」
「あ、悪い。怪我したって聞いたからつい」
「かすり傷みたいなものよ。もう治った」
「ならよかった」
そうして沈黙に包まれる。き、気まずい。普段なら何も気にせずもっと馬鹿騒ぎしているだろうけど珍しくお互いを気遣っているせいで変な空気になってしまった。妙に意識してしまう。
「よかった目が覚めたのね」
その気まずい沈黙をぶち壊す声があった。エリザベートだ。
「もう少ししたら国王演説が始まるわ。準備して」
「レイジ先に行ってるわね」
それだけ言うとユウナはどこかへ行ってしまった。
「国王演説?」
俺は患者服みたいな白い服を脱いで着替えながらエリザベートに聞く。
「今回の事件のことを踏まえてあなたの功績を国民の前で讃えるっていうのと今後の方針を発表するの」
「功績って。俺だけの功績じゃないのに」
「仕方ないでしょ。暗殺部隊の存在を公にするわけにはいかないし、ユウナは「大したことしてないからいらない」って言うし」
「なら俺も」
「それはだめ」
遮られた。
「それじゃあ国王の気が収まらないの。だから代表として受け取りなさい」
納得いくような納得いかないような。だが国王がそうすると決めてしまった以上どうすることもできない。エリザベートの言う通り代表として受け取るとしよう。
いつもの赤い布地に金の刺繍がされた派手な制服を着て演説が行われるという場所へと向かう。
「ねえ、前にした約束覚えてる?」
「約束?」
はて、エリザベートと約束していたことなんてあっただろうか。
俺は残念な思考を巡らせて思い出す。何も出てこない。約束、約束かぁ。・・・・・あ、ラーメン奢る、か?いやこれは母親との約束だし、「今度、囲碁教えてよ」は中学校時代の友達だし(囲碁は俺もよく知らん)。
思い出せず俺が首をひねっているとエリザベートはこう言った。
「こういうことよ」
俺の肩に手を乗せて少し背伸びするとそのまま俺の頬に顔を近づけて、
チュッ
と軽く口づけをした。
俺の思考は一瞬飛んだがすぐに現実へと引き戻された。
「な、ななななな何をしているのかな!!?」
「だから約束。いつだったかキスしてあげるって言ったでしょ」
あーそういえば要塞奪還のときにそんなこと言ってたような気がするなー。ってそうじゃねえ!!
「冗談かと思ってたよ!!てか冗談にしてほしかった!!」
「嫌だった?」
「嫌とかそういうことじゃなくて、もっと自分を大切にして!?相手を選んで!!女の子にその気がなくても男の子はねぇ!!勘違いしちゃうもんなの!!」
「私だって誰でもいいわけじゃないのよ?」
はぁーまたそういうこと言うんだから。この子今俺が言ったこと聞いてたのかな。勘違いしちゃうって言ってるじゃん!一応申告するとわたくし坂下は今かつてないほどドキドキしてますからね!?もう少しで心臓大爆発よ!?マジで!さっきから語尾に「!」マークが必須だよ!
おお、おおお落ち着け俺。これから国王演説に立ち会うんだぞ。
今こんなにドキドキしてたら本当に大爆発する。
「お、ようやく来たか」
気がつけば目的地についたらしい。暗殺部隊の皆は表には出ないらしいが様子だけは見に来たらしい。
「緊張してますか?」
アリシアがいつもどおりの笑顔で聞いてくる。
「イイヤ、ゼンゼン。ダイジョウブサ。ハハハ」
「「ぜんぜん大丈夫じゃない」」
双子が声を合わせて言う。
「そう緊張するな。ただ国王の隣に立つだけだ」
「そうだよ。深呼吸、深呼吸」
「キメラとの戦いに比べれば大したことないさ」
エルシア、カーリー、ウェイブ。励ましてくれるのは嬉しいが俺がドキドキしているのはそれだけが理由じゃないんだ。その理由は絶対言えないけど。くっそう、エリザベートめ。なんてことをしてくれたんだ。
俺は1歩前へ出る。太陽の光が俺の視界を白く塗りつぶした。
正直に言おう。演説中の記憶がほとんどない。とりあえず褒められたことと俺のことを「竜から生まれし英雄よ!」と讃えるどこか聞き覚えのあるジジイの声が聞こえ、それが伝播していき最終的に「勇者!勇者!」と勇者コールが始まり、英雄の誕生だの何だのと騒がれたこと。そして「あのジジイ・・・」と表情には出さず心の中で若干ブチ切れたことはなんとなく覚えている。
「あぁぁぁぁぁぁぁ」
「なんて声出してるの」
両手を顔に当てて絶望している俺にユウナが気楽に声をかける。
「俺は、ただのんびり暮らしたかっただけなのに。それなのに事件に巻き込まれ、挙げ句国王から英雄の称号をもらうとか・・・絶望ですやん」
「まあ確かにあれだけ国民に騒がれたら恥ずかしいわね。出なくてよかった」
喧嘩売ってんのかこのやろう(泣)。城の中も王都全体もキメラ殲滅の成功と英雄の誕生でお祭り騒ぎ。もうお外出られないよぉ。
「がっはっはっはっなに落ち込んでんだよ英雄さんよぉ。こんなお祭り騒ぎに合わねえぞ」
すでに酔っ払っている騎士のオッサンがつるんでくる。
「目立って恥ずかしいんですって」
俺の代わりにユウナが応える。
「ははっそんなことか。おら飲め飲めっ飲んで大騒ぎすればそんなことどうでも良くなるさ!」
うう、もうどうにもできないし。慣れるしかない・・・よな。
「よっしゃあオレンジのシュワシュワ持ってこい!!」
吹っ切れた。
もうどうでもいいや。なってしまったものはしょうがない。いつまでも落ち込んでないで前に進むとしよう。
皆に混じってお祭り騒ぎを楽しむ。ユウナは途中で逃げようとしたが無論そんなことは俺が許さない。日頃の鬱憤を晴らすが如く容赦なく巻き込む。本人もお祭りの盛り上がりに当てられたのかあまり嫌がりはしなかった。食べて飲んでのドンチャン騒ぎを楽しんだ。
きっと俺はこれからも何かしら厄介なことに巻き込まれるだろう。今回はどうにかうまくいった。だが次もうまくいくとは限らない。この世界は元の世界とは違う。約束された安全も安定した暮らしも無い。名付けるならば不安定な世界。そんな過酷な世界なのかもしれない。
でも希望がないわけじゃない。人々は必死に生きようと互いを支え合っている。人と人との繋がりが消えた絶望の世界じゃない。この先きっと辛いこともたくさんあるだろう。だがそれでも俺は、いや俺たち
転生者は異世界を生きていく。絶望の先に希望を見るために。
なんてな。
はじめまして、春深喜です。読みづらい名前でしょうがご容赦くださいませ。
まずは私の処女作『それでも転生者は異世界を生きていくようです』をお読みいただきましてありがとうございます。
この作品はもともとよくあるチート能力で無双する異世界転生系の作品にしようと思っていたのですが「それだと大して変化がなくて面白くないかなぁ」とか「ありきたりかなぁ」などと私なりにいろいろ悩んだ結果、「少年漫画のように主人公がいろいろな
出来事を経験して成長していくものにしよう」という結論に至り、今のような感じになっています。
それっぽく書けていればいいのですが(笑)
なのでこの作品では主人公が悩んだりピンチに陥るということはよくあります。俗に言う俺TUEEE系の作品ではないのでご了承ください。
さて本当は他にもいろいろ書きたいのですがそれはまた次回にしましょう。
ブックマークしてくれた方々、ありがとうございます。見るたびに「頑張ろう」って思えます。
「良かった」「つまらん」など感想お待ちしております。
(できれば具体的なのがいいですが)←生意気
誤字報告なども見つけたらドンドンしてください。
間違えたままなのは恥ずかしいので(笑)
これからもよろしくお願いします。




