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開演

要塞に戻ってきたフニャフニャの俺を待っていたのは意外な人だった。


「お前、なんでこんなところに?」


「危機が迫っているんだから当然でしょ」


重力(グラビティ)操作(コントロール)の能力を持つ転生者。風見ユウナは相変わらず偉そうに脚と腕を組んで椅子に座っていた。ここでユウナという存在がいるのはありがたい。ユウナの能力は生き物、特にキメラみたいな骨格を持っている生き物相手ならば確実に大ダメージを与えられる。つまりキメラがどれだけ大群で向かってこようが倒せる。これでこちらの戦力は何倍にも大きくなった。この戦い、十分勝てるぞ。


グーと何かの音が聞こえる。


「それでお前は今は何中なの?」


またグーと何かが鳴っている。誰ださっきから変な音を鳴らしている奴は。


「ご飯待ち中ってところかしら。ここに来るまでにかなり力を使ったから空腹なのよ」

このグーってお前の腹の音かよ。どんだけ腹減ってんだよ。なんかさっきから顔赤くしてモジモジしてるなと思ったら腹が鳴ってるのが恥ずかしいのか。


グキュゥゥー


ちなみにこれは俺の腹の音。俺も俺で力を使いすぎたせいで腹が減った。

エリザベートの指示を待たないといけないし、俺も少しの休憩がてら飯を待つとするか。


(なあ、前に俺らのこと助けてくれた時にもいたけどこの美人誰なんだよ)

ウェイブが耳打ちしてくる。よくよく考えたら前にちょこっと会っただけで部隊のみんなはユウナのこと知らないんだっけ。


「嫁」


「誰の?」


「俺の」

ウェイブはかき氷を勢いよく食べすぎた時みたいに額に手を当てて「頭が痛いぜ」とでも言いたげだった。

コイツが何を考えているのかはなんとなくわかる。大方「おいおい冗談はよしてくれよ。お前に嫁がいるわけねえだろ」とかそんなところだろう。まったく失礼な奴だ。お、俺だって彼女ができないわけじゃないし!(大嘘)作んないだけだから(嘘)その気になれば俺だっていつでもリア充デビューできるし!?


「まあ表面上はな」


「表面上!?アンタらどんな関係だよ!?」

まあ俺らの関係を一言で表すと「複雑な関係」だよね。友だちとは違うし、恋人でもない。そして当然家族でもない。1番近いのは仲間なんだろうけど仲間と言うには少し距離があるような気がする。でも表面上は何もかもをすっ飛ばして夫婦なんでしょう?


そりゃあ「複雑な関係」としか言えないよな。


「俺らってどんな関係?」

ユウナは口元に手を当てて少し考えてから言った。


「ナイフとフォークみたいなものね」


「?」


「片方だけでも使えるけど両方あればさらに便利、で伝わるかしら?」


「えぇっっと、つまりは俺がいないと寂しいってこと?」


「・・・どうしてそうなったの」


「だってフォークは片方だけでも使えるけどナイフは片方だけじゃ飯は食えないだろ?それってナイフはフォークに依存しているわけだからお前は俺がいないと寂しいってことだろ?」


「私が・・・ナイフ?」

だってお前普段から人の心を切り込みに来てるじゃん。あ、でも突き刺しにも来てるからフォークかもしれないな。待てよ、そう考えると普段敵陣に切り込んでいるのは俺だからナイフは俺か?

それだと俺がユウナを必要としてるってことになるな。


・・・・・きゃっ♡恥ずかしい。


そんな俺たちの茶番を見てウェイブは

「結局のろけじゃねえか」

吐き捨てるようにそうつぶやいた。別にのろけ要素なかっただろ。


さて、そろそろ現実に戻ろう。実際はそんな茶番をやっている場合ではないのだ。今は敵との決戦前と言ってもいいような緊張感ある場面なのだ。こんな夫婦漫才みたいなことをやっている暇があったら次にどうするのかを考えないとな。


「今のところ『究極生(アルティメット)命卵(・シード)』の動きは止めているけどずっとこのままにしておくわけにもいかない。けど再生能力が高すぎてまともに傷をつけられない」


「倒せない、ということか」

俺は今部隊の皆とユウナを加えて『究極生(アルティメット)命卵(・シード)』の対処について話し合っている。あの肉塊の厄介なところはデカいということだけではない。何よりも厄介なのはやはり再生能力の高さ。どれだけ斬りつけてもまるで時間を巻き戻しているかのように瞬時に傷が塞がる。


不死身ではないはずだ。だがアレは死からあまりにも遠すぎる。


「あなたの持っているもの(神器)でどうにかできないの?」


「無くはないだろうけど今の俺じゃ力が足りない」


今『究極生(アルティメット)命卵(・シード)』を止めているドミネーターチェーンを使えば倒せるかもしれない。でもドミネーターチェーンを使ってアレを殺そうとすれば俺は死ぬだろう。生きているものをなんの要因もなく、強制的に殺すというのはただ殺すのとは訳が違う。


「私たちはどうすればいいのでしょう?」


「思いついた選択肢は3つ。ヤツから再生能力を奪う、再生できないように一撃で倒す、放置するだ。最後のはおすすめしないけど」


と、まあ偉そうに選択肢を用意してみたわけだが実際のところうまくいきそうなのは2つ。倒すか放置かのどちらかだ。再生能力は奪おうと思えばできなくはないがそれにもドミネーターチェーンが必要だ。そしてその代償は俺の命。本来の生態を無理矢理変えているのだから当然だ。生態を変えることは命の形を変えるのと同じだ。代償は大きい。


「一撃で倒すって、一体どうやって」

そこで全員が黙り込んだ。


問題はそこだ。あんなデカいのをどうやって一撃で倒すのか、それがわからない。俺の魔力弾ではいくら本気で撃ったところであの怪物を倒すことはできないだろう。神器を使えば命と引き換えに倒せるだろうが俺だって死にたくはない。できれば別の手段を探したい。だがそんなことができる人間がいるのだろうか。

ユウナだって魔法はあまり得意ではないはず。能力を使ったところで完全には倒せないだろう。


俺はまた立ち止まっている。例え力を手に入れても俺にはできないことがあるんだ。そう思うと情けない。


「私なら、なんとかできる・・・かも」

そう自信なく手を挙げたのは珍しく猫耳付きフードを脱いだカーリーだった。そういえば暗殺部隊に配属される前に渡されたメンバーの資料に1人だけ異様に文章量の少ないメンバーがいた。資料には部隊員としての功績、得意な戦法などが簡潔に書かれているのだが、カーリーだけが得意な戦法が書かれていなかった。よくよく思い出すと今までカーリーがどんな戦い方をしていたのか見たことがない。


「具体的にはどうするつもりですか?」

アリシアはカーリーの目をまっすぐ見ながら問う。


「超高火力魔力弾で吹き飛ばす。かな」


「それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「うん」

カーリーはその問いに迷わず答える。


「信じて大丈夫なのか?」

俺はただそう聞く。


「はい。私が保証します」

アリシアはいつものように体の前で礼儀正しく手を組むと微笑みながら自信ありげにそう言った。

今の2人の会話に一体どんな意味があったのかはよくわからない。だけどアリシアの表情を見て言葉を聞く限りアリシアはカーリーの言葉を信じ、安心したってことだろう。問題はない。ってことでいいよな。


「わかった。じゃあカーリーに任せるよ」

俺も仲間の言うことを信じるとするか。


その後は俺らなりにこれからどうするのか作戦を立てて、俺はエリザベートに「あのデカ物は俺たちに任せてほしい」とだけ伝えた。反対されるかと思ったが「いいわよ」の二つ返事で許可してくれた。俺たち暗殺部隊は戦力外通告を受けているが正直なところ戦力外というほど弱くはない。皆実力はある。エリザベートも薄々そう感じていたからOKしてくれたのかもしれない。


飯の準備ができたということなのである程度準備を終えた俺たちは広場にいた。


「さあ、どんどん食え!!」

要塞にいる全員がテーブルに並べられた大量の料理にかぶりつく。みんな食べることに集中しているのだがカチャカチャと食器と食器がぶつかる音、そして厨房で声を上げる料理長のせいで皆でレストランのバイキングにでも来たんじゃないかと思ってしまう。


「おかわり!!」


「おかわりをお願い」

そしてそんな中、周りの目を気にせず次々に器を空にしておかわりを要求する2人の日本人がいた。うんそうだね俺とユウナだね。

今の俺らはもはや掃除機の状態だ。皿に大量の料理を盛っては吸い込むように平らげる。漫画の主人公みたいに骨つき肉は一口、スープは飲んだ気がしないし、伊勢エビみたいな大きなエビは気がついたら殻だけになっている。


周りの目は「うわぁ・・・・・」とか「とんでもねえ」みたいな「ちょっと引くわー」感を物語っているがそんなもんは関係ねぇ。料理は食ったやつが勝ちなんだよ!それにこんなに美味しいもの作る奴らが悪い。これが定食屋で出てくるほっけ定食みたいなものだったら10回くらいおかわりして終わっていただろう。でもこんな豪華なもの出されたら無限におかわりしちゃうよ?これは仕方ないんだよ。


というかさっきから厨房がうるさいのは俺らのせいなんじゃないだろうか。いや、絶対間違いなく確実に俺らのせいだわ。厨房の皆さんには本当に申し訳ないと思ってもぐもぐ。


言い訳させてもらうとすごい腹が減ってた、それにこのあと強敵にぶつかるのは必然。だから俺とユウナはたくさん食って力つけておかないといけないんだ。仕方ないんだよ(2回目)。


一通りテーブルの飯を食って腹を膨らませた俺は部屋の隅で人形のように静かに座っていた。食べ過ぎで気分が悪いとかそういうわけじゃない。ただなんとなく疲れた。まあ一種の思考を整理する時間のようなものだ。今俺の頭の中ではキメラのこと、作戦のこと、周りの仲間のこと、そしてあの敵の転生者のこと。そのすべてが一斉に駆け巡っていた。


いくつものことを同時に考えていても混同することもなければ、うやむやになることもない。改めて自分の脳の作りが恐ろしい。

今はそれくらい落ち着いている。もうすぐ全てを決定づける戦いがあるっていうのに俺はどうしてこんなに冷静でいられるんだろうか。失敗すればここにいる全員が死に、王都にいる人たちはキメラの餌か加賀の奴隷にでもなるだろうか。


絶対に失敗できない。空気みたいな冷静さの上に文鎮みたいなプレッシャーだけが重くのしかかっている。なんというか複雑な気分だ。


「隊長?気分が優れないんですか?」

ぼんやりしている俺に声をかけてきたのは同じ暗殺部隊のアリシアだった。


「いや、そういうわけじゃないんだけど、さ。こんなに落ち着いているのに「失敗できない」ってプレッシャーのせいで複雑な感じで」


「そうでしたか」

アリシアはいつもみたいに微笑むと膝をついて目線を俺に合わせた。そして優しく俺の手を両手で包みながら言った。


「隊長は今でこそこんな役職ですけど本職は冒険者でしたね。

こんな大きな戦いに慣れていなくても無理はありません。私的には慣れてほしくもないのですが。隊長はすべてが終わったらやりたいことはありますか?」


やりたいこと、か。やりたいことはたくさんある。冒険していろんな所に行っていろんなことしたいし、奴隷だってできるだけ助けたい。そして家に帰って皆で飯だって食べたい。部隊の皆とだってもっと仲良くなりたい。これを一言でまとめるなら


「そうだな、()()()()()()()()()()()()()。っていうのは変かな?」


馬鹿な俺にはこんな言葉しか思いつかなかった。これはきっと正しい表現ではないだろう。でも俺は神様が嫉妬するくらい笑って楽しく過ごしたい。


俺のアホみたいな言葉にアリシアは一瞬呆気にとられたような顔をしたが、また微笑んだ。


「いいえ。ちっとも。ならそのことだけは頭の隅に置いていてください。失敗とかマイナスなことは考えなくていいんです。考えるのは常にプラスのこと。もしマイナスなことを考えそうになってもそのことを思い出してください。私はそうするようにしています」


その言葉にちょっとだけ安心した。きっと大したことは言っていないんだろう。でもそうやって安心させようとしてくれたことに俺の心は軽く、暖かくなった。


「ありがとう。おかげでスッキリした」


「お役に立てて何よりです」


眩しい!!何もないはずなのに気のせいか神々しい光が見える。

この人は正真正銘の天使か聖母、もしくは女神だ!悪い心が浄化されそう。


失礼だけどこの人就職先間違えてるよ。この人の性格、暗殺と真反対だもん。迷える子羊を導く仕事の方が絶対に向いていると思うんだが。


「お礼と言ってはなんだが俺からも君に1つアドバイスしよう」

だがこういういい人に限って事件というのは起こるものだ。

そう、彼女はたった今「いい人フラグ」を立ててしまった。

戦いの前に「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」とか

「生きて帰れたら一杯奢れよな!」とかそういうちょっといい人風のことを言うやつはだいたい大変なことになる。


まあ俗に言う死亡フラグだ。実際にそんなものがあるのかはわからないがもし実在するならこの台詞を最後にアリシアがいなくなってもおかしくはない。無論そんなことにはなってほしくはない。だからアドバイスしておこう。


「とにかく死ぬな。無茶はするな、ヤバくなったら逃げろ。もし何かあっても1人でなんとかしようとするな。わかったか?」


思わず包まれていた手に少しだけ力が入る。アリシアは変わらぬ微笑みで「はい。ご忠告感謝します」と答えた。こんなアドバイスで良いのかとも思ったが、俺が一番言いたいことは言えたしこれで良いとしよう。


「そろそろ時間だな。行こう」


「はい」

そうして時は止まることなく動いていく。この戦いが例えどんな結末になろうとも受け入れるしかない。時を巻き戻すことはできない。でも最良の結果へと向かうことはできる。というかそれしかできない。俺は全力で都合の良い結末にするとここで誓おう。


「皆、これが最後だ。生き残ることだけを考えろ」


「「「「「「了解!!」」」」」」

相変わらず部隊の皆は揃って返事をしてくれる。


「お前も死ぬなよ」

帽子を被り直しているユウナに一言そう言う。


「自分の心配をしなさい」

こちらを見ずに軍帽を深く被る。その目は本気の目。睨みつけるようなその目はまっすぐに『究極生(アルティメット)命卵(・シード)』をとらえていた。



物語はフィナーレへと進み始めた。

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