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赤い英雄

「転生者なのはわかったけど、それがなんでこんなことするんだよ」


「さぁね、世界征服でもする気なんじゃない?」

そうだとしたらこれは大変なことだぞ。敵が転生者なら可能性は十分にある。やりたい放題やる、それが転生者という生き物なのだから。この事件は俺が思っていたよりも規模が大きいのかもしれない。早めに対処しないと本当に手が付けられないようなことになってしまう。早く見つけないと。


「焦ったところで状況はそんなに変わらないよ。少しずつ進めることが大事かも」

エリアスの言う通りだ。焦ったところでヒントがないことに変わりはない。ならば見落としがないように慎重に物事を進めた方が

近道できるかもしれない。だがゆっくりしていられないのも事実だ。明日から少しだけ仕事の量を増やそう。


「ハァー。癒やし〜」

俺は深くため息をつく。ため息をつくと幸せが逃げるというが

そんなことに構っていられない。だいたい幸せが逃げるっておかしくないか?幸せは逃げるのになんで不幸は逃げないんだよ。

逃げろ(命令)。誰に言ってもどうしょうもない愚痴を心の中で吐露する。最近愚痴を言い過ぎて心が泥沼にでもなったのかと思えてくるほど心が重たく感じる。


駄目だな、こんなことばっかり考えてたら。よし、飯食って風呂入って寝よう!!相変わらず癒やしは無いけどこの一件が終わるまでは我慢しよう。そしてすべてが解決したら俺、自分を癒やしてくれる優しい奥さんと結婚するんだ(たぶん不可能)。


俺は不可能に近い妄想を楽しみながら食卓へと向かった。

俺に置いて行かれたエリアスは部屋を出るときに


「私ならいくらでも癒やしてあげるのに」

そうポツリと呟いたがその呟きが俺に届くことはなかった。


次の日


俺はいつもの城の会議室にいた。だがそこにいつもの仲間はいない。実は今日は非番なのだ。だから今日は部隊の皆は休み、今回俺は珍しくも自主的に働いているわけだ。キメラ事件の犯人が転生者だとわかった以上今までのようにのんびりはしていられない。少しでも早く黒幕への手がかりを手に入れないと。


俺は他の部隊の報告書を読みながら何か黒幕に近づけるような情報はないかと探していた。だが、どの報告書も似たような内容ばかり。ほとんどが『キメラと遭遇したが得られるものはなかった』そんな感じのことが書かれている。


「役に立ちそうなものはない、か」

思わず独り言が出てしまう。まあ期待していたわけじゃない。これはとても難しい問題だ。キメラがどこから来たのかがわかれば黒幕の居場所もわかるだろうけどキメラは神出鬼没、それにハイデンの領土は広い。黒幕を見つけるのは困難中の困難だな。


「あら、まだいたの?」

声の方を見るとエリザベートが書類の束を抱えながら入ってきた。どうやら向こうも書類の確認らしい。


「まあな。でも役立ちそうなものはなかったよ」


「でしょうね」

そう言ってエリザベートは俺の隣に座った。


「つい数日前まで「癒やしが欲しい」とか言ってたのにどういう風の吹き回し?」


「ちょっと事情が変わったというか、事の重大さに気がついたというか」


「?」

エリザベートたちには転生者の存在は伏せてある。言ったところで信じてもらえないだろうし、理解もできないだろう。話がこんがらがるのも面倒だしな。それに俺も同じ転生者だ。向こうの仲間だと疑われそうで怖い。


「はぁー」


「あなたっていつもため息ついてない?」


「そうなるくらい悩みが多いのさ」


言われてみれば最近俺ってため息ばかりついているような気がする。元の世界ではどんな事があっても大抵のことではため息はつかないのだが異世界は元の世界と違いすぎる。起こる事件の規模が大きすぎるし何より()()()()()()()()()()()


元の世界は科学の法則だけで物事を考えることができる。だが異世界はどうだ。そこにさらに魔法という新しい未知の法則が加わるのだ。それはつまり限られていた可能性が無限に広がるということ。ただの地獄だよ。何が起こっても不思議じゃないんだからな。もう元の世界に帰りたいっす。


妹・・・

おっと失礼。心の中とはいえまた独り言が出てしまった。俺に妹がいることは知っているよな。は?知らないって?まぢで?ここテストに出るよ?まあともかく妹がいるわけなんだがそいつが超優秀なんだ。


運動神経が壊滅的だけど頭は良いし、器用だし、可愛いし、可愛い。一人っ子の男子は一度くらい「お兄ちゃん思いの可愛い妹がいたらなぁ」なんて思ったことがあるんじゃないだろうか。そういう点ではうちの妹は完璧ですよ(唐突な妹自慢)。


アイツがいれば今頃問題解決しているんだろうなぁ。アイツの小学校時代のあだ名、天才軍師カンベーだったもん。


はあー、今頃何しているんだろうか。俺がいなくて泣いているのかな。いや、最悪の場合不登校、さらには病んじゃって大変なことに・・・・・。グレたり、手首切ったり、何かに溺れたりしていなければいいのだが。心配だ。


俺がもう二度と会えない妹のことを考えていると会議室のドアが勢いよく開いた。


「申し上げます!!北方向よりキメラの大群がこちらを目指して前進中ですっ!!」


「すぐに鐘を鳴らして!!市民には家から出ないようにと!!」


「はっ!!」

すぐに大きな鐘の音が国中に鳴り響いた。敵が本気で動き始めた

んだ。こんな時でも俺は冷静に考えていた。これは黒幕に辿り着くチャンスだ。この戦いをどこかで見ているキメラが必ずいる。

そしてそいつはある程度戦いが終わりに近づいたらどこかにそれを伝えに行くはずだ。後をつける事ができれば可能性はある。


数分後全ての舞台が召集され各部隊の隊長は会議室に集められていた。エリザベートがそれぞれの部隊の配置を説明している。この短時間でここまで考えるとは流石だなと俺は感心していた。


「いいか、これは国の、国民の命を懸けた戦いだ。帰る場所を失いたくないなら全力で戦え!!以上!!」


エリザベートの激励で集まりは解散した。配置に俺たちの部隊のことは書かれていない。どうしてか聞いたら「暗殺部隊では戦力不足だ」と言われた。少しイラッと来たがこれは寧ろ好都合だ。

大群は他の部隊に任せて俺たちは観察しているキメラを探せばいい。


「というわけでお前らはキメラを倒しつつ他とは違うキメラを探してくれ」


「本当にそんなのいるのか?」


「今までの俺らの行動が筒抜けだったってことは絶対にいる。いいか、お前らにすべてが懸かっている。ここで見つけられなければ被害はさらに広がる。絶対に見つけるんだ」


そうして人類対キメラの激しい戦いが始まった。獣の咆哮、鉄と爪がぶつかる音。誰かの悲鳴、何かの断末魔。すべてが入り混じり、そこはまさに本当の地獄だった。そんな血なまぐさい地獄の中に俺もいた。全身をロボットのようなアーマーで覆い、右手には剣、左手には神器である紐で結ばれ閉じた旗を持っていた。白かったアーマーも黒かった剣もすでに血まみれだ。


「うわぁぁ‼」

声の方を見ると今にも食い散らかされそうな兵士がキメラに乗られていた。俺はキメラを旗の先端の槍で刺して殺す。


「大丈夫か?」

手を差し出すと兵士は「すまない助かった」と手を取って立ち上がって剣を持つとそのままどこかに行ってしまった。まずい。今の兵士もそうだが全体的に押されている。まともに戦えているのはサディスなど騎士団を率いる団長たちと年老いたベテランたち、白百合騎士団とエリザベート。そして俺だけ。このままだと観察している個体を見つける前に俺たちが負けてしまう。敵側にあまり手口を晒したくはないのだが、こうなっては仕方ない使うしかないようだ。


俺は旗の紐をほどき旗を掲げた。

「我は希望、皆を導く一筋の光‼『聖なる(ライズ・ア・)希望の旗(ホーリーフラッグ)』!」


黄金に輝くその旗を掲げる。それが意味するのは導き。この旗は周囲にいる味方のパワー、自然治癒能力を上げてくれる神器だ。ゲームで言うところのバフ、味方をパワーアップさせる神器だと思えばいい。兵士たちの雄叫びとともに軍が前進する。戦況が少しずつこちらに有利に傾いている。先頭を走るのは俺、それに続いて兵士たちが走る。一体何体のキメラを切ったのだろうか。切っても切っても数がまるで減らない。それこそゲームのように無限に出現しているかのような感覚だ。俺はその場に旗を突き刺し仲間たちを置いてさらに奥へ奥へと進む。


いつの間にか俺の後ろには誰もいない。少し遠いところでみんなが戦っているのが見える。それでいい。

そばに誰もいないほうが好きなだけ暴れられる。俺は両手に剣を持つとただただ暴れた。敵を切って潰して

全てが赤く染まってもそれでも剣を振り続けた。返り血で手が滑り、剣を手放しても次の剣を装備する。

相手に噛みつかれたならば鎧の仕込み刃で敵を刺し、切り殺す。そして俺はいつの間にか考えずにただ無意識のうちにキメラを倒していた。


もはやどちらが怪物なのかわからなくなるくらい俺は暴れた。


気が付けば俺の周りは血の池と肉塊の山だった。地面のあちこちに手放した剣が刺さっていてまるで墓のような、どこか不気味な空間だっただろう。俺の鎧は最初は白だったのが今は元が何色だったのかわからなくなるくらい赤黒い。これは戦いだったのか、それとも一方的な虐殺だったのか、俺には判断つかなかった。周りの戦いもひと段落したらしく今は負傷した者や死亡した者の確認をしているようだった。俺は空を見上げる。日はまだ高く、空はこの戦場と違って綺麗な青だった。


「おっかしいな・・・俺はほのぼのとした楽しい異世界生活を送ろうと思ってたのに」


力を使い切った俺はそのまま意識を失って倒れた。遠くで兵士たちの声が聞こえる。少し、疲れちゃった・・・かな。




目を開けた俺の目に最初に映ったのは見知らぬ天井。どうやらどこかに運ばれたらしい。体を起こすと横に椅子に座ったウェイブが書類の束を見ていた。


「目が覚めたか」


「ここは?」


「北の要塞だ。アンタが前に取り戻したな」

なるほど。あれから軍を進めてここまで来たというわけか。


「ん?ちょっと待て、俺どれくらい寝てた?」

確か要塞まではそこそこ時間がかかるはず。それも1時間なんてもんじゃなかったと記憶している。


「2日。それとアンタの持ってた旗や剣だけどな持っていこうとしたんだが地面に刺さったまま抜けなかったから置いてきた」


「そうか。キメラの方はどうなった?」


「大群は片付けた。アンタの言ってた観察しているキメラも見つけた。既に敵の本拠地と思われる場所も見つけた」


優秀かよ。俺が眠っている間に物事は都合の良い方に大きく動いていたらしい。ウェイブは読んでいた書類の束を俺に渡した。俺はそれにざっと目を通す。なるほどなるほど、わかったことを簡潔にまとめよう。


まず敵の本拠地だがここからさらに北の方角にある洞窟にキメラが集結、また暗殺部隊が追っていた観察キメラも他と同様に洞窟に入っていったことからこの洞窟が本拠地と断定。


次に作戦の決行日は明日。洞窟へと軍を進める。そこで黒幕を捕らえキメラを一掃する、と。そして進軍前に暗殺部隊を偵察に行かせる。俺が目覚めない場合はウェイブを隊長として作戦を進める。


どうやら戦いは既に最終局面まで進んでいるようだ。


「もう少ししたら俺たちは偵察に行く。体調が悪いようならアンタは残っててもいいが、どうする?」


そんなの決まってるだろ。ここでのんびり寝ていられるほど俺もロクでなしじゃないからな。


「行くに決まってるさ」


「そう言うと思ってある程度の準備はしておいた。荷物を確認しておいてくれ」


「ほいさ」

俺はベッドから抜けると机の上に置いてあったベルトポーチの中身を確認した。中に入っているのはいろいろな小道具。ベルトに付いているのはナイフとバーベキューの串のような武器。投げナイフの一種だ。これ、なかなかいいな。俺もこういうの量産しておこう。ベルトポーチを腰につけて外に出る。外では兵士たちは忙しそうに作戦の準備をしていた。これが最後の戦いだからだろうか、皆いつもより気合を入れて準備しているように感じる。


そういえば何本くらい神器を置いてきたんだろうか。具体的な数はわからないが確認してみたところ、どうやらいつも使っているお気に入りの剣と槍を数本と旗を置いてきたらしい。まあ150本以上あるから数本置いてきたところで問題になるというわけでもないのだがこういうときだしやはり使い慣れたもの使いたかった。


今回は普段あまり使わないのを使うことになりそうだ。


「おーい隊長行くぞー」

遠くでウェイブが俺のことを呼んでいる。


「りょーかーい」

さて、それじゃあ最後のひと仕事に行くとしますかね。

俺は馬に乗った。無論一人乗りではない。おやおや今回はウェイブ君が前のようですねぇ。


「・・・・・」

ウェイブは何か言いたげだったが黙って馬を走らせた。そんな目で見ないでくれよ。言いたいことなんとなくわかるけど心の中で謝るから許してくれ。帰ってきたの昨日よ?そんなすぐに乗れるようになるわけないじゃないじゃんか。


心の中で一人で勝手に必死に言い訳しているうちに目的地についたらしい。最終決戦の場になるかもしれないというのに俺は一体

何をやっているんだろうか。緊張感なさすぎるだろ。ほら、こうやって急に冷静になって自分にツッコミ入れてるあたり普段の

テンションと大して変わってないぞ。


「あれが例の洞窟か」


「ああ、あそこにキメラが集結してる」

俺たちがいるのは洞窟の入り口が少し小さく見える程度に離れた大きな木の陰だ。今のところ見えているキメラは2体。洞窟の入り口を見張っているようだ。


「殺るか」

俺はそう言いながら既にナイフを数本投げていた。体が勝手に動いちゃっただけだから俺は悪くない。投げたナイフは真っ直ぐキメラに向かって飛んでいきそのまま次々と突き刺さった。だいぶ上手くなったんじゃないだろうか。

「まさか乗り込む気か?」


「だって偵察だろ?ならしっかり仕事しなきゃな」

ウェイブはため息をついたがそのため息はどこか楽しそうだった。少し笑って言う。


「アンタと出会ってまだ少ししか経ってないがアンタという人間がなんとなくわかったよ」


キメラが死んだのを確認して全員が入り口の目の前に集合する。

「俺はちょっとだけ中を見てくる。周りを頼む」


「いつものパターンですね」

そう、いつものパターンです。それに今回はあくまで偵察であり、戦闘は目的ではない。静かに、こっそりと洞窟の中を見てくるだけだ。バレないためにもここは俺一人で行ったほうがいい。


俺は狭い洞窟の中へと入っていく。



数分後。

俺は洞窟を飛び出した。


「撤収だ!!急げ!!」


「バレたのか!?」


「いいから走れ!!」

わけもわからず部隊の全員が走り出した。だがすぐに俺が焦っている理由が明らかになった。地面が揺れ始めたのだ。そして聞こえる耳をつんざくような何かの鳴き声。そして地面を突き破ってそれは姿を表した。


「何だありゃ!?」


「あれが何なのかはわかんねえけど俺が焦ってた理由はわかっただろ?」


それはとても、とても巨大な何か。肉塊のような()()だった。

手足が付いているわけでもなければ、生き物らしく顔があるわけでもない。まるで芋虫のような見た目だが色が肌色だからなのかそれ以上に不気味に見える。


「驚いたか?これが『究極生(アルティメット)命卵(・シード)』だ」


どこからか声がする。


「見ろ、あれの上だ」

指を刺された方を見ると巨大な肉塊の上にチャラそうな男が立っている。あいつが今回の事件を引き起こした張本人、黒幕にして転生者。僅かにだが確かに感じる転生者特有の気配。間違いない。


「誰だてめえ」

とりあえず名前でも聞いておくか。


「俺の名は加賀マチヒト。お前は?」


「坂下レイジだ」


「坂下・・・・・どっかで聞いた名前だな」

そりゃ坂下なんて星の数ほどいるから聞いたことくらいはあるだろ。いや、待てよ。これはもしかして超遠回しな挑発か?「坂下?どっかで聞いたことあるくらいの量産型じゃねえかw」という高度な挑発なのでは。くそう。お、俺だって加賀なんて何回も聞いたことあるし!(強がり)

ってそんな自意識過剰なことを言っている場合じゃない。


「出てきて早々に悪いがサヨナラだ」

そう言って加賀は肉塊から呼び降りると周辺のキメラが奴のところに集まる。そしてそのまま地面に開いた大きな穴へと飛び降りた。


「待てっ!!」

後に続いてアリシアとカーリーが穴に飛び降りようとする。

がその瞬間、穴を覆い隠すように薄い膜のようなものが貼られた。すぐにナイフで膜を切り裂こうとするが刃が突き刺さらない。


「なんだこれは!破れないぞ!?」


「任せて!」

カーリーは右手の指をピンと伸ばしてそのまま手を膜へと突き立てた。するとナイフでも刺さらなかった膜に穴が開く。


「よし、これで」

だが開いた穴はすぐに塞がってしまった。とてつもない再生能力、前に戦った泥人形とは違い、肉でできているようだが再生の速度が速すぎる。あの膜は一つの生き物なのか。


「クソっ、どうやっても入れないつもりか」


「とにかく一度退く、態勢を立て直すんだ」

だが一体どういう不幸なのだろうか。少しずつだが手も足も顔さえもないその大きな体を引きずり芋虫のように動き出した。そしてその方向の先に何があるのか、俺も皆も理解していた。その先にあるのは


「こいつ、要塞に行く気よ!」

もう面倒だな本当に。でも文句ばかり言っていてもしょうがないな。とにかくこいつを止めないと俺たちが負ける。こいつは恐らくまっすぐ進むだろう。要塞を目指して、そしてそのさらに先の王国を目指してただひたすらに。要塞にたどり着かれたら俺らの負け、もし倒すことができたならば俺らは勝利へと大きく前進できる。


「皆、離れてくれ。できるだけ遠くに」


俺は剣を構えるいつもよりも握る手に力が入るがそれと同時にいつもより手汗と震えが止まらない。怖いのか?俺は。今まで沢山倒してきたくせにこんなところで恐怖を感じているのか?ここに来る前だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて何度もしてきたじゃないか。


お前の消えない心と体の傷は一体何のために付いている?壁を乗り越えた勇気と覚悟の証じゃないのか。

自分に言い聞かせる。今までどんなことも乗り越えてきた。なら、今回も絶対に乗り越えられる。


だから、思いっきりやっちまえよ。それが俺じゃんか。

そして俺だからこそ最初に言っておくぞ。パクって本当にすみませんでした!!


「エクス」

剣に魔力が集まり剣が赤く光を放ち始める。


「カリバー!!!!!」

剣を下から上に振り上げると同時に剣の魔力が刃となって放出される。


ああ、怒られる。お前あれだけ真面目に自分を勇気づけてたのに技はパクリじゃねえかって怒られる。

結局ギャグなのかよって言われちゃうよ。さらに言わせてもらうけど、この剣エクスカリバーじゃないから。

本当にただ言ってみただけだ。後から黒服の人たちに連れていかれたりしないか心配だな。


それで肝心のパクリ技はどうなったのかというと『究極生(アルティメット)命卵(・シード)』に直撃はしたがダメージにはなっていなかった。肉を少し切っただけで、あの分厚い肉を完全に切るには力が足りないらしい。


『無駄だ、そんな程度の攻撃でこいつが止まるかよ』

どこからか加賀の声が聞こえる。


「ぐぬぬ、こうなったら」

出すか?例のアレを。別に出すのは構わない。俺が問題にしているのは俺がそれを使えるかどうかという事だ。ないとは思うが最悪の場合、俺はここで死ぬかもしれない。それほど俺への負担が大きいのだ。だからこそあまり使いたくない。


だがやるしかない。コイツを止めるにはそうする以外に方法はない。使うか、最強のチートアイテムを。俺は剣をしまって、『究極生(アルティメット)命卵(・シード)』の正面に立つとゆっくりと深呼吸する。そして召喚の詠唱を開始する。


「汝は願い、万物を救う光にして万物を殺す深き闇。それは神をも殺す絶対的黄金。空を堕とし、大地を裂く。生命は屈辱を忘れず、しかしてその怨みさえも汝の前では灰と化す。我は世界を手にした王。共に黄金であり続ける者。七神の輪より来たれ、万物支配の黄金の鎖!!」


足元に黄金の魔法陣が出現し、そこから先端に金色の楔がついた1つの鎖が飛び出した。

「ドミネーターチェーン!!」


俺はその鎖を掴み取る。見た目は金色の楔がついたただの鎖だ。

だがこんなときに出てきたということは無論ただの鎖ではないということだ。見せてやろう、この鎖がどれだけヤバイ神器なのかを。


「ドミネーターチェーン、コイツを拘束しろ」

そう言うと鎖はひとりでに動き出しあっという間に『究極生(アルティメット)命卵(・シード)』を縛り動けなくさせた。


『ありえねえ!!『究極生(アルティメット)命卵(・シード)』が止まりやがった!!』


へへっざまー見ろってんだ。


「はにゃ〜」


俺はその場に力なく倒れた。この鎖の性能は見てもらえばわかるとおりだ。俺のどんな命令にでも従う。そして真に恐ろしいのはどんな非現実的な命令でも実行できることだ。例えば「空を赤くしろ」と命令すればこの鎖は本当に空を赤くするし「不老不死にして」と言えば不老不死にしてくれる。「あいつを殺せ」と言えば確実に殺してくれるだろう。


ただし当然制限はある。それは使用者の力。ドミネーターチェーンはどんな命令でも実行できるがその命令が不可能に近ければ近いほど、この世の法則から外れているほど消費する力が大きくなる。もし何も考えずに命令した場合は命と引き換えになる可能性もあるのだ。だから使いたくなかった。


「てったいだ〜」


俺はだるんだるんの状態で馬に乗せられてそのままその場を後にした。ドミネーターチェーンに縛られた『究極生(アルティメット)命卵(・シード)』が遠ざかっていくのを俺はただぼんやりと見ていた。これでアイツが動くことは絶対にない。後はどうするかだ。


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