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強敵を討つ

先に変化があったのは左のドア。ドアが砕けると同時に数匹のキメラが飛び出してくる。奥にいる異形の怪物に比べれば楽ないつもどおりの敵だ。苦労はしない。4人が向かってくるキメラを迎え撃とうとしたそのとき、また状況が動いた。


もう片方のドアから無数の光の剣がドア越しに飛んできた。剣はそのままキメラを貫いてキメラを即死させた。そして次の瞬間だった。


「ハンバーーーーグ!!」

訳のわからないことを叫びながら穴だらけのドアを蹴り飛ばした男がいた。


「グッド、いや、ベストタイミングかな?」

姿を表したのはもちろん部隊の隊長にして転生者、そんでもっていつも不幸な目にあっている赤いコートみたいな制服を着たこの男である。そしてそれに続いて双子の姉妹もしっかりついてきている。


「皆無事か?って何だあのキモいやつ」

レイジは全身についている目玉をギョロギョロと動かす泥のような生き物を指さしながら言う。


「わからんがキメラと敵対していないあたり同類なんじゃないか」


「WOW!」

英語の教師もびっくりなほどの良い発音。レイジは驚いているというよりも単にふざけているようだった。

レイジはその異形の何かをじっと見た後にいつもの調子で言う。


「まあいいや、あいつは俺が相手をしよう」

そう言って一歩前に出る。


「奴には私の糸が効かない、斬り殺せないがどうする気だ?」


「いろいろ試してみるさ、それよりも他のは任せたぜ」



さてどうしたもんかね。斬り殺せない相手を相手に俺はどんな手段を使えばいいのだろうか。斬り殺せないということは物理攻撃は意味がない。潰すも刺すも当然使えないということだ。魔法攻撃なら効果はありそうだが、俺の使える魔法は限られている。

多少は魔法について勉強しているがそれでも俺の知識では実戦には使えない。


魔法は勉強科目で例えるならば数学。数学が何度も基本問題を解いて、慣れたあとに応用問題をやるように魔法も反復練習、そしてあらゆる事態に対して臨機応変に対応していく。要は呪文を暗記しても意味がない。基本を軸にいろいろと工夫をこらさなければいけないのだ。


俺は基本の「基」がなんとなくできている、そんなレベルだ。

ゲームやアニメに出てくる魔法使いのように派手な技は使えない。できることはせいぜい前に城の訓練場で見せた魔力弾と手のひらサイズの火の玉を作ることくらいだろうか。そんな陳腐な技でこの不気味な敵を倒すことなどできるのだろうか。いや、勝ちのビジョンが見えない。可能性があるとすれば魔力弾か。


何をするにもこの地下空間ではあまりにも危険。下手をすれば天井が落ちてきて生き埋めになる。まずはこいつと地上まで移動しなければならないわけだがそのための手段を考えているが妙案といえるものは思いつかない。階段で一緒に上まで行ってくれるとは思えないし手をつないで無理やり連れていくこともできない。1番いいのは天井をうまくぶち抜くことだがそんなことをすれば当然天井が崩れてしまう可能性もある。


どうする?俺がそう考えていると先に相手が動いた。触手のような両腕を上にあげて攻撃のような姿勢をとる。それを見て俺は咄嗟に身構える。一体どんな攻撃を繰り出す気なのかまったくわからない。そして次の瞬間であった。上にあげていた両腕が勢いよく伸びた。腕はそのまま天井を直撃、大きく物音を立てて天井を破壊した。天井が崩壊するかと思ったが天井は壊れることなく綺麗に丸い穴が開いていた。


お、お前がやるんかーい!天井崩れるの気にしてやらなかったのにお前がやるんかい!しかも超きれいな形の穴開けてるし。見た目に反して器用すぎやしないだろうか。


『泥人形』はその穴から地上へとジャンプした。天井をぶち抜けるだけあって身体能力も高いらしい。俺はぽっかりと空いた穴を真下から見上げる。天井だけをぶち抜いたのかと思っていたが研究所の屋根まで穴が開いていた。ちょうど雨が止み、雲から太陽が顔を出す。


天然のスポットライトに照らされながら俺もジャンプして穴から地上に出る。

地上では『泥人形』が俺のことを待ち構えていた。まるで決闘の相手が来るのを待っているかのような、そんな礼儀正しい仕草に見えた。雨の止んだ空の下、改めて俺とその『泥人形』は向かい合う。向こうは相変わらず全身の眼球をギョロギョロ動かしている。見る限り弱点らしきものは全身の眼球のみ、だが数が多い。そもそも目を潰したところで倒せるとは限らない。視力を奪うのと倒すことは当然直結しない。


さあ、どうやって倒そうか。俺は剣を握って走る。相手は動かない。俺はそのまま距離を詰め、横に剣を振るった。剣はそのまま泥人形に接触、本来なら真っ二つである。そう()()()()だ。その感覚はあまりにも手応えがない。奴の見た目の通りまるで泥を切っているかのようなそんな感覚だ。なるほど確かにこれじゃ切り倒すのは無理だ。


え?じゃあマジでどうすんの?これ「万事休す」なところあるよ?もしかしたらラスボスの可能性すらあるぞ。水が切っても切れないようにどれだけ攻撃しても意味がないぞ。眼球だっていくつか切ったはずだがあまりダメージを受けているようには見えないし。


別の武器に変えてみるか?だが体が泥でできている相手なんてどうやって倒せばいいんだ。電気系は意味がないし、炎系は火がつかないし、水もだめ。相手は体のほとんどが水でできてる。


だが考える時間をくれるほど敵は優しくない。攻撃は次々に繰り出される。横なぎ払い、強力な素早い突き、叩きつけ。武器は持っていないがそれでも、ハンマーを思いっきり叩きつけたかのような重たい攻撃だ。アイツ自身が壊れることのない武器なのか。


何より厄介なのはその攻撃範囲と移動の速度。腕が伸びるのだ。

まるでどこかのマンガのゴム人間のように腕を伸ばし攻撃してくる。攻撃の射程はこちらの方が圧倒的に短い。そのリーチの差がかなり苦しいのだがいくら逃げても驚異的な移動速度で距離を詰めてくる。


移動速度が速いのはおそらく地面のせいだ。今地面は俺たちが現地についた時の大雨と先程の雨のせいでかなり泥濘んでいる。あの『泥人形』と地面の相性がいいんだ。地面の泥と融合しているにも等しいがそれでもこいつが大きくなったりしないのは大きさ自体は変えることができないからだろう。不確かとはいえ今のところ安心できる唯一の情報だ。


俺は後ろに下がりつつ魔力弾を数発撃つ。だが『泥人形』は避けることもせず、魔力弾が当たって体に穴が開いてもお構いなしにこちらに向かってくる。横なぎを体を反らして躱す。ビュンッ!!と液体とは思えない音を立てて攻撃が目の前を通過する。これは当たったらただでは済まないだろう。俺はさらに後ろへと下がる。


まずい、見てわかる通りこの状況はとにかくまずい。逃げるのが精一杯で攻撃に転じることができない。

いや、転じたところで問題は解決しない。どうすればいい、もう何度心の中で思っただろうか。コイツには弱点がない。圧倒的な素早さ、パワー、何よりも不死身に近いその性質。乗り越える方法があるのだろうか。


何もわからない。それでも攻撃するしかない。今俺にできることはそれだけだ。俺はただ前へ前へと進む

。剣を振るっても『泥人形』は躱さない。俺の攻撃はただ右から左へと剣を振ったのと同じだ。すかさず来る相手の攻撃を躱しきれずに腹部からの軽く出血する。俺はまた後ろへと飛んで距離をとる。その時、足元の違和感に気がついた。そこにあったのは土、ただの土だ。だがそれはおかしい。確かに地面は土だ。だが水分を含んだ泥に近い土だ。だがそこにあったのは()()()()()()()()()()()()()


一体どこから出てきたんだ?太陽は出ているが泥が乾くほどの灼熱ではない。それにこの土の水分は多いので太陽の熱で乾くはずがない。この土を作ったのはもっと熱いものだ。俺は泥人形の足元を見る。そこで見えた。奴の泥でできた足についている乾いた土、それがボロボロと崩れてその下からまた新しい泥が体の一部となる。つまりは脱皮のようなものだろうか。


奴の体は時間とともに確実に乾燥している。その部分を剥がしてまた新しい泥を地面から吸い上げる。

そうすることで体が完全に乾くのを防いでいるのか。そういうことなら打開策はある。土を乾かすほどの、

水を蒸発させるほどの灼熱をあの『泥人形』にぶつければいい。俺は装備を切り替える。


装備するのは魔改造アーマー一式と炎をまとった赤い剣。全身を鎧で包み剣を両手で持つ。そして距離を一気に詰める。そのまま横振りにするとそこで初めて『泥人形』が攻撃を躱した。やっぱりこいつは乾くことを嫌っている。この剣にどれだけの火力があるのか気づいているのか。


敵も攻撃のペースを上げてくるがアーマーのおかげで衝撃こそ来るもののダメージは全くと言っていいほどない。問題があるとすればちょっとずつ形が歪んでいくため後で直すのが面倒、ということぐらいだ。

俺の振った剣の切っ先が泥に触れるとその部分だけ音を立てて水分が蒸発した。よし、効果はある。


じゃあ、まずは再生能力を奪うとしよう。俺は剣を地面に突き立てた。そしてそこに力を流し込む。すると剣を中心にして炎が波紋のように一瞬で広がった。炎は一瞬で地面の泥の水分を蒸発させ、あっという間に

周囲は荒れ地のように干乾びた。これであの『泥人形』は自分の体を修復することができなくなった。あとはあいつ自身の水分を蒸発させるだけだ。


「さあ、覚悟してもらうぞ泥人形。俺の言葉、理解できるか?」

すべてが決まる。そんな瞬間だっただろう。泥の怪物と人の怪物が命を懸けて互いに踏み込んで一気に加速する。『泥人形』は両腕を伸ばし俺の両腕を掴む。振りほどこうにもすごい力で掴まれているため完全に動けない。俺の動きが完全に止まった。


『泥人形』は体から新たに2本腕を生やすとそれで何度も何度も何度も何度も何度も何度も俺を殴った。どうすることもできず俺はサンドバッグのように殴られ続けた。鎧は少しずつだが確実に形を変え始めている。このままじゃいつかやられる。危険だがやるしかない!


「パージ!!」

俺のその言葉と共に装備していた鎧が弾け飛んだ。拘束は解けたが今の俺は無防備すぎる。攻撃を受ければ確実に重傷になるだろう。だがそれでも俺は『泥人形』に向かって走った。敵の攻撃をギリギリで躱し、躱しきれなかった攻撃によってあちこちから出血したがそれでも走る。


そしてついにあと一歩、半歩近づければ剣が届くところまで踏み入れた。それと同時に敵の拳が正面からこちらを捉えていた。

食らえば死ぬ、だが避ければようやく掴んだこのチャンスを手放すことになる。次も運良くここまで接近できる保証はない。

「おおぉらぁぁああああ!!!!」


俺は左手でその拳を外側へと流した。だが左手はベキッと嫌な音を立てながら1回転して変な方向を向いたまま動かなくなってしまった。左手を犠牲にして掴んだこのチャンスを絶対に無駄にできない。俺は剣を『泥人形』の体に突き刺した。


「死滅・終焉の業火!!」

ありったけの力を剣に込めると剣はまとっている炎の火力を上げてさらに加熱されていく。『レッド・デッド・ヘルファイア』それは全てを無慈悲に燃やす炎の剣。当然、敵が生き残ることは許さない。この炎に抱かれた者はその時点ですべてが終わる。

まさに終焉というわけだ。


そしてこの『泥人形』も例に漏れることなく終焉を迎えた。剣の刺さったところから体の水分が蒸発し、泥は乾燥した土となり、目は煮えきった。すべてが土になると『泥人形』だったものは風に吹かれて消えていった。


俺は乾いた地面に座り自分の左手を見た。力が抜けてぐったりとした左手はどう見ても重症に見えた。だがしばらくするメキメキメキと音を立てて元通りになった。治ったのはいいが見ていて気持ち悪いなと思う。俺もあの『泥人形』と同じかそれ以上の再生能力を持っている。見た目は違えど俺も『泥人形』も()()()()()()()という意味では大した違いはないのかもしれない。


人でありながら完全に人の域を出ているが怪物と呼ぶには人に近すぎる。俺たち転生者はそんな不確定な存在なのだ。転生者は人間だ。だがその超人的な能力を使って、敵を倒す時の俺たちはこの強力な怪物たちと何が違うのだろうか。そんな難しくて暗い考えがふと俺の頭をよぎった。




その後、俺たちは研究所を詳しく調べた。結果、さまざまな違法薬物、危険生物に関する資料が大量に見つかったがキメラに関する情報だけは手に入らなかった。これらの危険な資料を見逃すわけにはいかないと判断した俺たちは地下にあった資料をすべて燃やした。それから数日かけて俺たちは王都へと帰還した。


俺はエリザベートに一連の出来事について報告して久しぶりのわが家へと戻った。そして地下の俺の部屋で俺を待っていた奴がいた。しばらく出番のなかった奴が。


「久しぶりの登場‼メインヒロイン、エリアスちゃん!」


「ここまで出番がなかったってことはメインじゃないと思うが」

久しぶりに水の天使エリアスに出会ったのだ。思い出せそうにもない人たちは水の天使、ぐーたら、ギャグ枠。とりあえずこれだけ覚えておけば問題はないと思う。


「こんな地下室で暮らしてるなんていじめられてるの?」


「うん、多分な」

まあ、この問題に関してはいくら話題にしても解決しないので諦めている。だが最近「この部屋を拡張できるんじゃないだろうか」ということに気づいたので、いつしか巨大な地下基地みたいなのを作ろうと計画(妄想)している。

だからここでの生活もまあまあいいんじゃないかなと思い始めている。


「そういえばお前に聞きたいことがあるんだけどさ」


「んー?」

俺はポケットから半分溶けた水晶のようなものを出した。水晶の中には何なのかわからないが赤黒いインクのようなものが入っている。このよくわからん水晶はあの『泥人形』の中から出てきたものだ。奴を倒した後にたまたま見つけて何なのか調べるために持ってきた。


「これは水晶機関、コアって呼ぶ人の方が多いかな」


「コア、心臓みたいなもんか?」


「大体そんな認識でいいと思うよ。正確には電池って言う方が近いんだけどね。ゴーレム作るのに魔石が必要なのは知ってる?」


「前にユウナからちょっと聞いた」

確か石に魔法文字を刻んでそれを中心に岩やらなんやらをくっつけて作るんだっけか。


「少し長くなるけどコアについて説明しておくね。役にも立つと思うし」


「ああ、頼む」

俺とエリアスはベッドの上に胡坐をかいてお互いに向かい合った。


「まずコアには大きく分けて常に魔力を供給しないといけないタイプと発電機みたいに自分で魔力を生成するタイプの二種類があるの。魔力供給型は充電池みたいなもので一度魔力を供給したら魔力が切れるまで動き続ける。で、もう一つの自立稼働型は一度魔力を供給すれば後はコアの方で無限に魔力を生成してくれる。文字通り小さな発電機みたいなものなんだ」


むむっそれだと自立稼働型ってかなりすごくないか?一度充電すれば無限に魔力生成するとかすごい便利じゃん。もう魔力供給型の出番とかないんじゃないだろうか。俺の考えていることを察したのかエリアスが説明を続ける。


「こう聞くと自立稼働型がすごいみたいに聞こえるけどもちろんデメリットはあるよ。自立稼働型は魔力生成を繰り返すからコア事態に熱が籠っちゃうんだよね。それで熱が籠りすぎた結果がこれ」


そう言ってさっきの半分溶けている水晶のようなコアを指でコツコツと叩いた。


「それともう一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」


「何?」


「今起きてるキメラの騒ぎについては知ってるだろ?」


「もちろん」


「キメラってさ、どうやって作るの?」

前々から気になっていた。あの凶暴な怪物がどうやって作られているのか。1体作るのに一体どれだけの時間がかかるものなのか。もし1日でできるようならこちらに勝ち目はない。いくら倒したところで俺たちは数に押されて対処しきれなくなる。キメラの製造が早ければ早いほどこちらの完全敗北の色合いが強くなるのだ。


「大変だよ~キメラ作るのは。作り方に関しては説明したところで理解できないだろうし、時間も掛かる。賢者たちじゃ1体作るのに早くても1年半はかかるし、魔人たちなら半月、魔人王でも1週間はかかるんじゃないかな。私たち天使は3日くらいあれば作れるけどね」


なんかサラッと魔人とか魔人王とか不吉な単語が出てきているがそんなヤバそうな人たちも天使たちでさえ作るのにはそれなりに時間がかかるらしい。ということはまだ勝ち目がないってわけではないのか。

「今回の事件は誰が起こしたんだ・・・?」


キメラ製造には時間が掛かる。なのに黒幕はあんな無駄な使い方をしている。考えられるのは念入りに準備してきてようやく実行に移した、もしくはそこそこの製造スピードを持っているためある程度雑に使っても問題ない、その2つくらいだろうか。


「いやいや~何言ってんですかレイジさん」

俺が少し考えているとエリアスは「冗談はよしてくれよ」みたいな感じで手を挙げて首を横に振った。


「キメラを作るのはすごく難しいの。さっきも言った通り1体作るのに賢者で1年半、魔人で半月、魔人王で1週間、天使で3日。この世界の賢者なんて余裕でハーバード大学を首席で卒業できるくらい頭良いんだよ?そんな集団でさえ1年半、並行して何体も作るなんて脳がパンクしちゃうよ。魔人たちはそもそも人間に興味ないから作ったとしても襲わせたりしないし、魔人王からすれば低レベルの研究だからそもそも作らないし、この世界に天使は私しかいない。じゃあ、あと残っているのは?」


あと残っているのは・・・・・賢者でもない魔人でも、その王でも、天使でもない。なら一体誰なんだ?

誰ならそんな高度なことができる?不可能を可能にできるほどの力を持ったヤツなんてそう沢山はいないはずだが。そう考えたところで一つ思い当たることがある。不可能を可能にできるだけの力、世界を変えるほどの力を持っているヤツら。そうだ。確かにいる。対して気にしていなかったので忘れていたが。


ああ、なんということだろうか。そいつはきっと、()()()()()()()()


「ふっふっふ、ようやく気が付いたか。そう、敵は」


「俺らと同じ、転生者だ」

















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